負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第51話 プライドの高い人間への接し方

 スタンフォードなりに考えた結果、コメリナを煽って焚きつけるという方法は真っ先に除外された。

 ポンデローザに叱咤された自分はそれでもう一度頑張ろうと活力が湧いたが、この方法はとにかく人を選ぶ。

 スタンフォードとコメリナには似たところがあるとしても、スタンフォードで通用した方法がそのまま通じるとは限らないのだ。

 スタンフォードの場合は努力していたといっても、表向きには周囲から褒め称えられ、血筋や環境にも恵まれていたこともあり、〝甘え〟があったことは否めない。

 死ぬ気で心血を注いで努力していたかと言われると肯定はできないのだ。

 

 それに対して、コメリナはスタンフォードと違って心血を注ぐほどの努力をしていた。

 建国の英雄である王と守護者の家系は総じて高い魔力を持って生まれる者が多い。

 そんな中で分家とはいえ、守護者の血筋の者としては他に劣る魔力を持ってコメリナは生まれた。もちろん、魔力の質も量もステイシーのような血が薄い者と比べれば圧倒的に多くはある。

 コメリナは質と量で劣るのならば希少性で勝負することにして、血の滲むような努力を重ねて治癒魔法を習得した。

 他にも自衛のための攻撃魔法なども磨き上げ、座学の成績も常にトップを取っていた。

 彼女が周囲を見下しているのは、限界まで努力もせずに現状に甘んじている者が多いからだった。

 

 つまるところ、彼女は自他共に認める努力で伸し上がった人間なのだ。

 そんな人間の努力を否定するような煽り方をしては、さらに弱った精神に追い打ちをかけることになりかねないとスタンフォードは考えていた。

 

「新たな魔法運用の提案――はダメだな。プライドを逆なですることになりかねない……」

 

 自分と似たところがあるならフォローもしやすいと高を括っていたスタンフォードだったが、実際に彼女へのフォローを考えてみると、自分と似た性格の人間のフォローがいかに難しいかを実感することになってしまった。

 

「……どんだけ面倒臭い性格してるんだか」

 

 自分の性格の面倒臭さを実感したスタンフォードは、改めてこんな自分に根気強く接してくれたポンデローザに感謝した。

 それからいくつか案が浮かんでは消え、最終的にスタンフォードは自分が思いつく最善の案を実行することにした。

 

「悪いなぼんじり。一働きしてくれないかい?」

「クルッ」

 

 肩に止まっていたぼんじりに指示を出すと、ぼんじりは素直にスタンフォードに従った。ポンデローザとはえらい違いである。

 スタンフォードとコメリナには同じクラスという以外に接点はない。

 ブレイブのことも劣等感から意識しているだけで、特別親しいというわけでもない。

 そんな孤高の存在であるコメリナに、学校が長期休暇に入ってしまった今どう接触するか。

 

「クルッポー!」

 

 答えは簡単だ。

 

「待って……!」

 

 自分の元へとおびき出せばいいのである。

 ぼんじりは勲章を咥えてスタンフォードの元へと戻ってきた。

 その勲章はコメリナにとって大切なものだった。

 学園の初等部に通っていた際にもらえる最優秀生徒である証。

 歴代でも王族か、守護者の直系の血筋の者しか授与されたことのない優秀な魔導士である証。

 この勲章はBESTIA BRAVEでもコメリナルートの重要アイテムだ。

 勲章をなくして必死に探すコメリナを主人公が手伝い、夜通し共に探して見つけることでコメリナが心を開くイベントがある。

 それだけこの勲章はコメリナにとって大切な物なのだ。

 それをぼんじりに盗んで持ってこさせたのだ。

 

「この勲章はコメリナ・ベルンハルト、君のものだね?」

「それ、大切な物。返して……」

「ああ、うちのぼんじりが迷惑をかけたようだね。すまなかった」

 

 スタンフォードは謝罪すると、素直にコメリナへ勲章を返した。

 それから畳みかけるように続ける。

 

「お詫びといってはなんだけど、一緒にお茶でもどうだい? 奢るよ」

「いらない。私、忙しい」

 

 口数の少ないコメリナはたどたどしくスタンフォードの誘いを断った。

 頑張って告げた慣れない誘いの言葉をすげなく断られて内心へこみつつも、スタンフォードはめげずに続けた。

 

「そう言わずにさ。面倒を見ている鳩が粗相を働いたというのに、詫びの一つもしなかったなんて知られたら、王家の面汚しなんて呼ばれてしまう。僕を助けると思ってさ?」

「心配いらない。殿下、もう呼ばれている」

「……結構言うねぇ」

 

 王族であるスタンフォードに対して、コメリナは歯に衣着せずに辛辣な言葉をかける。

 そこでスタンフォードは苦笑しながらも下手に出る。

 

「実際君の言う通りさ。僕は〝王家の面汚し〟と言われても仕方ない人間だよ。実はお詫びというのは方便でね。君と繋がりを作れるチャンスを逃したくないだけなんだ」

「繋がり?」

 

 コメリナはスタンフォードの言葉に怪訝な表情を浮かべる。

 どうやら取りつく島はあったようだ、とスタンフォードは内心ほくそ笑んだ。

 

「実はずっと君に教えを請いたいと思っていたんだ」

「教え、請う?」

「ああそうさ! あの治癒魔法を()()()()()に習得した()()()君に是非とも教えを請いたいんだ! 僕も後がなくてね。ブレイブを超えるくらいの実力を示さないと王位継承権を剥奪されかねないんだ! どうか、僕を助けると思って協力してくれないか? この通りだ!」

 

 コメリナを褒めつつも、スタンフォードはとにかく下手に出て自分に協力してほしいと頭を下げた。

 劣等感と承認欲求に苦しんでいる者が求めているものは、自分を認めてくれる存在だ。

 友人など、自分に気を遣っていると考えることもない赤の他人。それもプライドが高い王族が頭を下げ教えを請いたいと願ってきた。

 

「わかった。少しだけ、付き合う」

 

 他人に興味のないコメリナでも、スタンフォードの願いを無下にすることはなかった。

 第一段階は成功した。

 

「ありがとう! 本当に助かるよ!」

 

 スタンフォードは安堵したように胸を撫で下ろすと、笑顔を浮かべてコメリナに礼を述べた。

 


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