負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第57話 異形種調査初日

 スタンフォードとポンデローザはルドエ領内の調査のため、森の中を歩いていた。

 

「まったく、人の気遣いを無駄にして……」

「まだ言ってるのかよ」

 

 ポンデローザは先程からずっとこんな調子である。

 彼女からしてみればマーガレットとのフラグ回りは最優先事項だった。

 スタンフォードもそのことには異論はないが、長期休暇の間に回収しなければならないイベントはないと聞いていた。

 それならば、もっと原作からの乖離点を考慮した上でしっかりとした打ち合わせを行う方が優先だと考えていたのだ。

 

「今回の異形種調査、本当におかしなことは起きないんだろうな」

 

 元々この異形種調査は、原作においてストーリーイベントが発生しない長期休暇を利用して全員の地力を鍛えるためのものだ。

 生徒会全体を巻き込んで行っているもののため、これがきっかけでコメリナのときのような歪みが生じることだってあり得る。スタンフォードはそれを危惧していた。

 

「あたしの予想じゃ、この領地に異形種が出る可能性は限りなくゼロに近いわ。他の二カ所は出たとしても問題にするほどじゃないわ」

「どうしてそう言えるんだよ」

「まず、異形種自体は戦い方が確立されて高い魔力がある実戦経験のある人間なら負けないわ」

 

 スタンフォードが最初に戦ったボアシディアンの異形種は、その特性も強さもわかっていない初見の状態だったからこそ、教師であるサーバンやスタンフォードも痛手を負わされた。

 調査が進んだ今ではその弱点なども解明され、異形種の強固な素材から作られる武器や魔道具も増えてきており、生徒達には試供品として支給されている。

 

 そういった理由で、現在の異形種は魔法学園の一年生でも注意して戦えばそこまでの脅威にはならないほどに危険度が下がっていた。

 むしろ、竜の特性を持つ素材を手軽に手に入れられる存在としてありがたがっている者もいる始末である。

 

「そもそもBESTIA BRAVEでは、この時期にはフィールドで稀に異形種が出るようになってるのよ。でも、異常に強い個体はいない。ストーリーイベントに出るクラスの奴が裏で出ることはないわ」

「そんなのが出ていればストーリー上必ず触れられるから、か?」

「そういうこと」

 

 スタンフォードの言葉に頷くと、ポンデローザは得意げに笑った。

 BESTIA BRAVEでは、ライザルクの一件以来フィールド上にランダムに異形種の魔物が出現する仕様となっている。

 そうなってくると、当然このルドエ領にも異形種が出現している可能性はあった。

 しかし、その可能性をポンデローザは否定する。

 

「それにこの領は安全性が段違いよ。ルドエ領はこの世界にとって重要な場所だもの」

「ルドエ領が?」

 

 ルドエ領は原作に登場しない土地であり、ステイシーという原作キャラ以外の人物の故郷だ。

 スタンフォードには、ポンデローザが言うように世界的に重要な場所だとは思えなかった。

 

「おかしいとは思っていたのよね。この世界にあるオムライスやナポリタンみたいな日本で生まれた料理や文化。それがどこで生まれてたのか」

「まさか……」

 

 ポンデローザの言わんとしていることを理解したスタンフォードは、衝撃の事実に冷や汗をかく。

 

「そう中世ヨーロッパ風の世界に存在しない文化の多くがこのルドエ領で生まれたの。あまり知られてないけどね」

「ルドエ家ってそんなにすごいことしてたのかよ……」

「それに日本発祥の料理じゃないけど、サンドウィッチもルドエ領発祥ね。調べたら土魔法の名家ミガール家の四女で、ルドエ家に嫁入りしてきたリーシャ・ルドエってご先祖様もいたの。彼女は砂を自在に操ることから〝砂の魔女(サンドウィッチ)〟って呼ばれてたらしいわ。そのリーシャが魔法研究の片手間に食事を取れるように考案したものがサンドウィッチってことになってるみたいね」

 

 ポンデローザがあげたもの以外にも、人々が当たり前に使っているものの起源を辿ると不自然なまでにルドエ領に行きつくことになる。

 スタンフォードは恐る恐る自分の中で導き出した答えを口にした。

 

「つまり、ルドエ家は世界観を構築するための重要な存在ってことか?」

「間違いないと思うわ。医療関係が発達しているのもルドエ領の貢献だしね」

「そういえば……」

 

 スタンフォードは以前、ステイシーからルドエ家が貴族になった経緯を聞いていた。

 ルドエ家は昔、疫病を止めるための薬を偶然発見して爵位をもらい貴族となった。

 それすらも偶然ではなく、この世界において文化の構成という重要な立ち位置にいる存在だったからだという見方もできるのだ。

 

「それにステイシーちゃんの見た目、どこかで見覚えがあると思ってたの」

「まさか原作登場キャラってことか?」

 

 スタンフォードの疑問に、ポンデローザはどう言ったものかと悩ましげな表情を浮かべた。

 

「そうとも言える、わね。原作登場キャラっていっても、モブの女子生徒なんだけど」

「モブってことは名前はないキャラってことか」

「ええ、あの子の見た目はモブの女子生徒の立ち絵とそっくりなのよ。こっそり見に行ったけど、妹さん達も揃って同じ見た目だったわ。並んで立ってるとこ見たらモブ女子生徒がわらわら集まったときのゲーム画面を思い出したくらいよ」

 

 BESTIA BRAVEでは、メインキャラクター以外にも立ち絵があり、モブキャラクターには、モブキャラクター用の立ち絵があった。

 モブキャラクターの立ち絵は、メインキャラクターを引き立たせるために地味な見た目に仕上げられており、前髪で目が隠れ、それ以外にこれといった特徴のない見た目をしていたのだ。

 

「ルドエ領はこの世界の文化の一部を構成する位置づけにある存在と見て間違いないわ。世界からそういう運命を背負わされた存在なら、ここにミドガルズの魔の手が伸びることは限りなく低いと見て良いわ」

「それはメタ的な視点が過ぎるだろ。確かに決められた運命にある程度左右されるのは僕も実感しているけどさ……」

 

 スタンフォード自身、自分がライザルクを倒すことができないといった世界の修正力を感じた身であるため、ポンデローザの言っていることは理解できた。

 しかし、ポンデローザの考えがあまりにも原作を基準にしすぎているものだということには、どうしても一抹の不安を感じてしまうのだった。

 

「大丈夫よ。ルドエ領に異形種が出たとしても人手はあるし、しらみつぶしに探せば被害は最小限に留められるわ。釈迦の鉄砲も数撃ちゃ当たるってね」

「下手な鉄砲な。お前の中でのお釈迦様トリガーハッピーすぎるだろ」

 

 そんなスタンフォードの内心を知ってか知らずか、ポンデローザは自信たっぷりに答え、いつものようにスタンフォードはため息をつくのであった。

 


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