負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第58話 初日の調査を終えて

 調査日初日の夜。

 ルドエ領で採れた野菜や酪農品から作られた料理が食卓に並んでいる。

 貴族の食事として見ればラインナップは質素だが、取れたての野菜や新鮮や酪農品などが使われていることもあり、栄養バランスは普段の貴族の食事よりも良いものが揃っていた。

 

「じゅるっ……」

「ポンちゃん、涎垂れてるよ」

 

 並べられた食事を眺め、涎を垂らしているポンデローザにマーガレットが慌てて耳打ちする。

 

「はっ……いけないいけない。ちょっと浮かれてたわ」

 

 ポンデローザは改めて表情を引き締めると、手を叩いて全員に食事を取るように促した。

 

「では、皆さん。調査初日お疲れ様でした。まずは明日への英気を養うために食事を取りましょうか」

 

 ポンデローザの言葉に従って全員が席に着くと、メイドであるリオネスとビアンカの二人がすぐに料理を取り分けたり、飲み物を注いだり、テキパキ動き始める。

 

「スタンフォード様、本日は調査お疲れ様でした」

 

 リオネスは相変わらず無表情のままスタンフォードを労う。

 幼い頃から彼女はずっと事務的にスタンフォードに接してきた。

 ブレイブに嫉妬して拗らせていたときは、勝手に自分を内心バカにしていると思い込んでいたスタンフォードだったが、こうして見ると王家への忠誠心から仕事熱心なだけだという風にも見える。

 

「いや、君も荷物の整理から食事の準備までご苦労だった。いつもすまないね」

 

 スタンフォードは改めてリオネスへと感謝の気持ちを伝えた。

 

「っ……いえ、仕事ですので」

 

 その瞬間、スタンフォードは生まれて初めてリオネスの表情の変化を目の当たりにした。

 一瞬、ほんの一瞬だけ目が泳いだ。

 欠片も表情を動かさなかったリオネスがである。

 

「そんなに僕が素直に感謝するのっておかしいのか……いや、今までの行いを考えれば当然か」

「何ぶつぶつ言ってるんだ、スタンフォード? 食べないのか?」

「もう取り分けた分食べたのか。手品かよ」

「いやぁ、ここの飯うまくってさ」

 

 ブレイブは優雅とは程遠い勢いで食事をかき込んでいく。

 一応、彼も辺境伯という国内でも大きな力を持つ貴族の出だというのに、貴族らしさは欠片も見当たらない。

 

「ったく、君だって一応ドラゴニル辺境伯の息子だろう。少しは行儀よくしたらどうだい?」

「ドラゴニル領ではそういうのは教わらなかったんだよ」

 

 ブレイブは元々学園に通う予定ではなかった。

 ドラゴニル辺境伯もブレイブの存在を表に出すつもりはなく、それ故に彼は貴族教育を受けていなかった。

 

「あー、そうか。君の場合は事情が特殊だったな」

 

 ストーリー上、ブレイブが学園に通うことになったのは事故のようなものだった。

 そのことを思い出したスタンフォードは納得したように頷いていた。

 

「それに食い意地が張ってるのなら、アロエラの方がすごいぞ。あいつ、俺の倍以上食うからな」

「そういえば、ボーア家や本家のサングリエ家は高い魔力を有する代わりに大食い体質の者が多いんだったな」

「あっ、これ本人気にしてるみたいだから内緒な?」

「何が内緒だ。余裕で拡散しているじゃないか」

 

 慌てたように口元に人差し指を持っていくブレイブを見て、肩を竦めるとスタンフォードは自分の分の食事に手を付け始めた。

 スタンフォードが食事に手を付けたタイミングで、全員の注目を集めるようにポンデローザが発言する。

 

「皆さん。食事中ですが本日の調査結果からあるご提案があります」

 

 目の前の取り皿にある料理を全て平らげると、ポンデローザはそう切り出す。食い意地が張っていたのは一人だけではなかったようだ。

 

「本日、一日調査をしましたが異形種の発見どころか、ミドガルズの痕跡すら見つけられませんでした」

「そりゃ初日だからな」

「三組に分かれかなりの広範囲に渡っての調査を行いましたわ。今日だけでもかなりの範囲を捜索できましたの」

「ほほう、それで?」

 

 ルーファスはポンデローザの思惑を見抜いているため、楽しげに先を促した。

 

「このルドエ領は国内でも作物や酪農品の生産量が段違いですわ。生徒会としてもルドエ領は調査地であると同時に異形種から守るべき土地だと判断していますの」

「ルドエ領で異形種が暴れて畑や家畜が被害を受ければ、国内の食べ物が値上がりして大変ですもんね」

「ええ、護衛という目的もあるわたくし達は長期休暇の大半をこの領で過ごすことになります。そこで探索を午前のみに集中させ、午後からは魔法や戦闘の鍛錬の時間に回すことを提案しますわ」

 

 ポンデローザがそういうのと同時に、ルーファスとマーガレットも同調するように告げる。

 

「剣術や体術に関しては俺様が直々に稽古をつけてやる」

「回復は任せてね」

 

 先輩三人の言葉に、ブレイブもステイシーも目を輝かせた。

 

「最強の男に稽古をつけてもらえるのか……!」

「す、すごい! 是非、お願いします!」

 

 扇子を一振りするだけで数百を超える魔物を倒す魔導士であるポンデローザ。

 学園では最強と呼ばれ、剣豪一家リュコス家の歴代最高の才能を持って生まれたルーファス。

 世界樹の巫女の末裔であり、高度な治癒魔法が使えるマーガレット。

 この三人が付きっ切りで鍛えてくれるというのだから、実力不足を感じていた一年生組達からしたら願ったり叶ったりな状況であった。

 

「ブレイブ、ステイシー、やるぞ」

「おう! 負けないからな!」

「私も精一杯頑張ります!」

 

 二人と同様に、スタンフォードもまた静かに闘志を燃やしていたのであった。

 


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