負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第7話 当て馬同盟結成!

 お互いに協力することを誓ってから、二人は即座に行動を起こした。

 スタンフォードもポンデローザも目立つ立場の人間だ。

 いくら婚約者の弟とはいえ、頻繁に接触していれば怪しまれてしまう。

 表立って接触ができないこともあり、二人は自分達の住む寮へと向かった。

 二人の住む滅竜荘には王族や公爵家の令嬢など、限られた人間しか入寮していない。

 密談をするにはもってこいの環境だった。

 

「いやぁ、これでやっと窮屈な貴族ムーブから解放される!」

「やっぱり、そっちが素なんですね」

 

 密室となったことでポンデローザは伸び伸びと本来の口調に戻る。

 

「使用人はどうしたの」

「リオネスなら買い出しに行かせました。兄上に報告される可能性もありますので」

「うん、それがいいと思う」

 

 スタンフォードの使用人であるリオネスは従順な存在だが、それは王家に対してだ。

 この密会を誤解してハルバードへ報告する可能性を危惧したスタンフォードは、密会をするにあたって彼女を遠ざけていた。

 

「ていうか、何でさっきから敬語なの?」

 

 同じ転生者だというのに、畏まった姿勢を崩さないスタンフォードにポンデローザは疑問の声を上げた。

 

「いや、そもそも先輩じゃないですか。それにポンデローザ様って年上感があって……ちなみに享年何歳だったんですか?」

「二十九歳よ」

「俺は二十六歳でした。四歳年上ですね」

「ねえ、何で一年足して計算してるのかな。別に鯖読んでるわけじゃないんだけど。何、喧嘩売ってるの? 殴るよ?」

 

 軽い冗談のつもりだったのだが、力いっぱいに握り拳を作るポンデローザを見て、スタンフォードは顔を蒼褪めさせて頭を下げた。

 

「す、すみません。もう言いません!」

「わかったなら、よし!」

 

 満足げに頷くポンデローザを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 会話に区切りがついたことで、スタンフォードは早速本題に入った。

 

「ところで、本当に僕達は死亡フラグを折ることができるのでしょうか?」

「心配ないわ! 乙女ゲームのBESTIA HEARTはスチル全回収してるし、移植版の方もやり込んでるから隠しキャラも特殊エンドも全部把握してるわ!」

「えっ、すご……バトルフェイズの敵強くてクリアするの大変なんじゃないですか? 俺の姉さんなんて、しょっちゅうキレながら戦闘パートプレイしてましたよ」

「……お姉さんとはいい酒が飲めそうね。前世で出会いたかったわ」

 

 ポンデローザは遠い目をして虚空を見つめる。

 趣味の話ができる友人はいたが、もう会えないことに寂しさを感じていたのだ。

 

「そうだ、スタンフォード殿下。楽にしてくれていいよ。もっとフランクにいこうぜい!」

 

 ふと、スタンフォードがいまだに敬語で話していることにむず痒さを感じ、もっとフランクに接するようにポンデローザが要求してくる。

 

「わかったよ、ポンデローザ様は――」

「ポンデローザでいいわ」

 

 同じ転生者にまで様付けで呼ばれることを嫌ったポンデローザは、呼び捨てを希望した。

 そこでスタンフォードは考えた。

 ポンデローザは明るい性格で、フランクな接し方を希望している。

 それならいっそのこと愛称で呼んだ方がいいのではないか、と。

 

「じゃあポン子で」

「ポン子!? ……いや、一周回ってありか?」

「ありなのかよ」

 

 冗談で言ったつもりがあっさりと承諾されてしまった。

 ポンデローザの感性に呆れながらも、こういった転生者らしいやり取りができたスタンフォードはどこか楽し気だった。

 

「だったら、あたしはスタン先生って呼ぶから」

「いや、それは勘弁してくれ」

「むぅ……じゃあ、スタンで」

 

 お互いの呼び名が決まったことで、スタンフォードは情報の擦り合わせを始めた。

 

「それでポン子はいつ転生を?」

「生まれたときから前世の意識があったわ」

「じゃあ、僕と同じか」

 

 転生時期は同じ。

 そうなってくると、自分達以外にも転生者がいる可能性がある。

 

「僕以外に転生者は?」

「スタンが初めて会った転生者よ」

「自分が転生者であることを黙っている可能性もあるな」

 

 スタンフォード自身、ポンデローザからカマをかけられた際は誤魔化そうとした。

 仮に転生者がいたとして、自分達のように温厚な人間とは限らない。

 極端な話、凶悪な殺人鬼が転生をしている可能性もあるのだ。

 

「僕も転生者に会ったのはポン子が初めてだった。今のところ転生者らしき人間もいない」

 

 つまり、これ以上の転生者同士の協力関係の輪を広げることはあまり現実的ではなかった。

 

「僕には主人公に近しい存在というアドバンテージがあるけど、原作は名前しか知らない。君の原作知識だけが頼りだ、ポン子」

「そうみたいね。幸い、現代知識を生かした魔法運用を見ている限り、頭はあたしの何倍も良いみたいだし、有効活用してね。頼りにしてるわ」

 

 小さく笑うと、ポンデローザは自分の持っている知識を語りだした。

 BESTIA HEARTでの大まかな物語の流れ。

 BESTIA BRAVEでの大まかな物語の流れ。

 そして、ポンデローザは自分達にとって活路とも言える〝移植版に追加されたルート〟について口を開いた。

 

「スタンには専用の隠しルートがあるの」

「どういうことだ? スタンフォードはBESTIA BRAVEの踏み台キャラじゃないのか」

 

 今まで黙ってポンデローザの話を聞いていたスタンフォードは怪訝な表情を浮かべた。

 スタンフォードはあくまでもBESTIA BRAVEの主人公ブレイブの踏み台となるための噛ませ犬。

 そんなキャラクターが攻略対象になることなどないと思っていたのだ。

 

「ベスティア・ハートの移植版の〝BESTIA HEART ~金色の英雄~〟だとスタンは隠しキャラなのよ。攻略難易度は最高クラスだけど、スタンのルートをやった多くの女子が彼に落とされたわ。もちろん、あたしもね!」

「えー……傍若無人でプライドだけは無駄に高い、劣等感の塊のような男のどこがいいんだよ」

「あー、わかってないなー……そこがいいんじゃない! スタンが全ての試練を乗り越えて主人公のためにベスティアに覚醒するシーンなんて涙なしでは見れないのよ!? あれ見たら、他のキャラの覚醒シーン霞むレベルよ!?」

「近い近い、近いって!」

 

 ポンデローザは悪役令嬢らしい気の強そうな顔つきをしているが、ゲームの主要キャラだからか美人ではある。そんな女の子に近距離で迫られたら心臓がもたない。

 女性に免疫のないスタンフォードは慌てて距離をとった。

 

「というか、僕ってベスティアに覚醒できるのか?」

「できなきゃ隠し攻略対象として出してないわ。まあ、隠しルートだけあって条件は激ムズなのよね」

 

 二人の口にしたベスティアという単語。

 それは国を立ち上げたレベリオン王家を含む守護者と呼ばれる存在が持つ、国を守るための特殊な力だ。

 BESTIA HEARTでは、各攻略対象が物語の終盤にこの力に目覚めることになる。

 当然、王家の血を引くスタンフォードにもその力は眠っている。

 しかし、スタンフォードには主人公の噛ませ犬として敵側から無理矢理ベスティアに覚醒され、その反動で肉体が崩れ落ちるという最後が待っている。

 国を守る守護者としてベスティアに覚醒する可能性は極めて低いと言っていいだろう。

 

「移植版にこのルートが増えた理由は単純。スタンフォードが人気キャラだったからよ」

「さっきの話を聞く限り嘘じゃないとは思うけど」

「で、悪い子じゃないのにポンデローザの扱いが悪いってユーザーの不満の声もあってね。移植版を作るにあたって、ポンデローザも生き残れるスタンのルートが追加されたってわけ」

 

 前世においてスタンフォードのルートが作られた経緯を話し終えると、ポンデローザは強い決意を瞳に宿して続ける。

 

「元々、あたしはこのルートに進むつもりだった」

「唯一の生存ルートだからか?」

「うん、正直スタンが転生者で助かったよ。傍から見たら原作と微妙に状況が違ってたし、うまくルートに進めてるのか半信半疑の状態だったんだよね。でも、フラグ管理は完璧だったと思うし、今からなら全然間に合うと思う」

 

 そう言ってポンデローザは安心したように笑った。

 

「で、具体的にはどうするんだ?」

「ハートの方の主人公マーガレットと恋愛してもらうわ!」

「よし、ちょっと待とうか」

 

 ポンデローザの提案にスタンフォードは待ったをかける。

 興が乗ってきたところに水を差されたことで、ポンデローザは不満そうに口を尖らせた。

 

「何よ、不満なの?」

「いや、無理だって。僕は前世では彼女いたことないんだぞ」

「大丈夫大丈夫、いけるって」

「その自信はどこから湧いてくるんだ……」

 

 能天気な笑みを浮かべるポンデローザを見て、スタンフォードはため息をついてこめかみを抑える。

 前世では成績こそ優秀だったものの、彼女ができたことは一度もなかった。

 典型的なガリ勉タイプだったスタンフォードは、根暗な性格故にモテなかったのだ。

 転生してからは立場上、社交界に出ざるを得なかったため、コミュニケーション能力はそれなりに磨かれた。

 見た目が端正な顔立ちになったこともあり、ある程度は自信を持って振る舞えるようにはなったが、恋愛というものに対して奥手なのは変わらない。

 乙女ゲームの主人公ともなれば、上っ面だけで男性を評価しないことは明白。

 内面の魅力で勝負することに関して、スタンフォードには欠片も自信がなかったのだ。

 

「腹括りなさい。ここが生きるか死ぬかの瀬戸際なのよ」

「それはそうだけど……」

 

 真剣な表情を浮かべ、ポンデローザは及び腰のスタンフォードを諫める。

 そして、乗り気ではないスタンフォードを捨て置き、ポンデローザは元気よく右腕を掲げて叫んだ。

 

「よーし! 当て馬同盟ファイト!」

「おー……」

 

 こうしてスタンフォードとポンデローザによる〝破滅回避作戦〟が実行されるのであった。

 




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