負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第73話 猛毒の竜と堅牢な盾

 万事休すかと思われたその瞬間――

 

「〝硬化(ハドゥン)!!!〟」

 

 鈍い音が響き渡り、振るわれた竜の腕による一撃は受け止められた。

 

「良かった。間に合いました!」

「ステ、イシー……?」

 

 血を吐きながらも見上げてみれば、霞む視界には腕を硬化させているステイシーの姿があった。

 

「チッ、目隠れ嬢ちゃんか」

 

 あと一歩でポンデローザを仕留められたところで邪魔が入り、リオネスは舌打ちをする。

 

「どう、して……ここが?」

「ぼんじりさんが異変を知らせてくれたんです」

「クルッポー!」

「ぼんじりさんは危ないので下がっていてください」

 

 ぼんじりはステイシーの言葉に頷くと、心配そうにポンデローザの元に降り立った。

 普段は不遜な態度のぼんじりだったが、何だかんだでポンデローザのことは主人として心配していたのだ。

 

「近くにいたのは私だけでしたから救援としては心もとないかもしれませんが、全力で守らせていただきます!」

「ハッ、やれるもんならやってみな!」

 

 リオネスの顔は竜鱗で覆われ、瞳孔も爬虫類のように縦長のものへと変化していた。

 常に冷静で忠義に厚いメイドの姿はもうそこには存在していなかった。

 そこにいたのは王国に仇なす一人の竜人だった。

 

「雑魚が増えたところでアタイは止まらないよ。ここであんたらは消す。後は異形種騒ぎをでっち上げて、ただの使用人のリオネスに戻らなきゃならないんでね」

「私はルドエ家の血を受け継ぐ人間です。竜種であるあなたは手出しができないはずです」

「ったく、面倒臭いねぇ……まあ、目的はほぼほぼ達成してるからいいんだけど」

 

 リオネスは吐き捨てるようにそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ごっ、ふ……」

 

 ステイシーが怪訝な表情を浮かべていると、背後で再びポンデローザが吐血する。

 

「ポンデローザ様!?」

「咄嗟に傷口を凍らせて止血したのはさすがだけど、アタイの毒は徐々に体を蝕む。で、目隠れ嬢ちゃんはポンコツ令嬢が死ぬまでにアタイを倒せるのかい?」

 

 楽しくて仕方がないといった様子で、リオネスは両手を広げて無防備な体勢を取る。

 

「何だったら打ってくればいい。ほら、今ならノーガードさ」

「だったら遠慮なくいきます! 〝剛拳硬化(ナックルハドゥン)!!!〟」

 

 ステイシーは拳を集中的に硬化してリオネスの無防備な顔面を殴りつける。

 毎日のように行っていた鍛錬により、ステイシーの硬化魔法は各段に精度が上がっている。

 鋼鉄のように硬化した拳を正面から受ければ、常人ならばひとたまりもないだろう。

 

「へぇ、割と痛いもんだね」

 

 だが、目の前にいるのは硬き竜鱗で全身が覆われた竜人だ。

 リオネスはステイシーを嘲笑うように、無防備な状態を維持する。

 

「全然、効いてない……!?」

「そりゃそうさ。この土地のせいでアタイから攻撃できないだけで、目隠れ嬢ちゃんの攻撃が強くなったわけじゃない」

「くっ……まだまだァ!」

 

 ステイシーは自分の力不足を痛感しつつも、必死にリオネスを殴り続けた。

 

「ダメ、ステイシー……それじゃリオネスの思う壺よ……」

 

 息も絶え絶えのポンデローザは、ステイシーを止めようとするが掠れた声はステイシーの耳に届くことはない。

 

 ポンデローザには、リオネスの狙いがわかっていたのだ。

 千年樹の守りによって、リオネスは自分からステイシーに手を出すことはできない。

 そんな状況でも、ステイシーを倒すため方法はあった。

 

「そら、どうだい? アタイを殴りつけて飛び散った毒が効いてきたんじゃないかい」

「はぁ……はぁ……」

 

 ステイシーの体中から煙が立ち上る。

 それはリオネスの竜鱗から飛散した毒液が原因だった。

 

「冥土の土産に教えてやるよ。アタイの本当の名はヒュドラ。数多の毒竜の頂点に立つ存在さね!」

「……スタンフォード君の高熱はあなたの仕業だったんですね」

「ああ、そうさ。あの物臭剣士がバカやってくれたから自然な流れだったはずなんだけどねぇ」

 

 リオネスは忌々し気にステイシーの背後に倒れ伏すポンデローザを睨みつける。

 

「昔からアタイの潜入任務の邪魔だったんだよ。未来でも見えてるんじゃないかって思ったことも一度や二度じゃない」

「じゃあ、あなたが……!」

 

 リオネスは長年に渡って王家を欺き、ミドガルズオルムの命令通りに動いていた。

 その過程で、自分の運命を変えようとあがくポンデローザの行動が邪魔になることも少なくなかった。

 

「あんた自身お頭が足りてないのもあったけど、裏で手は回させてもらったよ。ま、そんなことしなくても、奇行ばかりのポンコツ令嬢の言葉なんて誰も聞きやしなかっただろうけどね!」

「くっ……」

 

 リオネスの言葉に言い返せず、ポンデローザは歯噛みする。

 そんなポンデローザの様子を見て、満足げな笑みを浮かべるとリオネスはようやく構えを取った。

 

「さて、そろそろ終わらせるかね」

 

 リオネスは千年樹の影響下では、ステイシーに対して攻撃しようとしても身体が金縛りにあったように動かなくなる。

 そのため、彼女は標的をポンデローザへと絞った。

 

「溶けて消えな!」

 

 リオネスは口から大量の毒液を吐き出し、ポンデローザの上空へと放った。

 

「ポンデローザ様! ぼんじりさん!」

「来ちゃダメ……!」

「クルルッ!」

 

 それはリオネスが意識的に攻撃することができないステイシーを倒すための策だった。

 瀕死のポンデローザを攻撃すれば、ステイシーは絶対に彼女を守るために身を挺して庇うだろう。

 あとは毒液を全身に浴びたステイシーが勝手に死んでいくという算段だった。

 

 しかし、毒液が落ちて辺りを包んでいた煙が晴れると、そこには砂鉄で覆われた球体があった。

 

「〝鉄砂球(くろがねさきゅう)〟……私だって成長しているんです」

「これって、スタンの技じゃ……」

「ええ、土属性の魔導士の私でも使えるように魔法運用を工夫したんです」

 

 ステイシーはルドエ領に帰郷してからというもの、自分の魔法の伸ばし方について属性が近いルーファスや、精密な魔法運用が得意なスタンフォードからアドバイスをもらっていた。

 

 そして、先日見つけた先祖であるリーシャ・ルドエの工房で見つけた魔導書に記されていた砂魔法の魔法運用を見て新たな魔法を思いついたのだ。

 先祖であるリーシャが得意としていた砂魔法。それは土属性の魔法を効率よく運用するためのものだった。

 砂は粒子が細かく魔力が染みわたりやすい。砂鉄も同様である。

 先祖と友人の魔法から着想を得たステイシーは、少ない魔力消費で今まで以上の規模の防御魔法を使うことに成功したのだ。

 

「限界まで硬化すれば毒液だって遮断できるんですよ。もちろん、私の肉体もです」

 

 ステイシーはそう言うと、ほとんど溶けて布切れになってしまった服を振り払う。

 服の下から出てきた彼女の引き締まった肉体には、毒液で溶かされた跡は一点もなかった。

 

「バカな!? アタイの毒液が効かないなんて!」

「あまり硬化魔法を舐めないでください!」

 

 ステイシーは再びリオネスへ向かって突進していく。

 

「だが、目隠れ嬢ちゃんの攻撃力じゃ、アタイの防御は破れない!」

「全魔力解放……〝造形砂鉄(ぞうけいさてつ)!!!〟」

「んなっ!?」

 

 ステイシーは制御下に置いた大量の砂鉄を、自身の右腕に纏わせてドリルを形成した。

 

「ありゃ、まず――っ!?」

 

 硬化魔法が掛かり回転しながら襲い掛かるドリルには身の危険を感じたのか、リオネスは慌ててよけようとしたが、足が動かなくなっていた。

 足元を見てみれば、足首から下が完全に凍り付いている。誰の仕業かは一目瞭然だった。

 

「舐めんじゃ、ないわよ……!」

「こぉんの、ポンコツ令嬢がァァァ!」

 

 最後の力を振り絞ったポンデローザに文字通り足止めされたリオネスは、余裕をなくして叫び散らした。

 

「あなたの竜鱗もこれなら貫けます……〝鉄螺旋(くろがねらせん)!!!〟」

「がっ、あァァァァァ!?」

 

 高速で回転するドリルはリオネス自慢の竜鱗をいとも容易く貫いた。

 リオネスを撃破したステイシーはポンデローザの元へと駆け寄ると、急いで彼女を抱え上げた。

 

「ステイシー、あなた強くなったわね……」

「皆さんのおかげです。それより、急いでラクーナ様の元へと連れていきますね」

 

 倒れ伏すリオネスには目もくれず、ポンデローザを抱えたステイシーは急いでマーガレットの元へと向かうのであった。

 


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