負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
服を溶かされた半裸のステイシーがポンデローザを抱えて戻ってきたことで生徒会一同は騒然となっていた。
ルーファスはすぐに戦闘があった場所へリオネスを捕縛しに向かい、マーガレットはポンデローザに治癒魔法をかけ、メイドのビアンカはステイシーに着替えを持ってきた。
ルーファスが瀕死の状態で逃げようとしているリオネスを捕縛して帰ってきたことで、事態はやっと落ち着いた。
「それで、今後どうするかだ」
鎖と氷で厳重に拘束されたリオネスの前に生徒会一同は集まり、全員を代表してルーファスが口を開いた。
「この竜人は王都に連れ帰って幽閉するのは良いとして、問題は情報だ。こいつはミドガルズオルムの手下だろ。だったら、さっさとあることないこと吐かせた方がいい」
「ないことは吐かせちゃダメだと思いますけど……」
ルーファスの言葉にステイシーが呆れたようにツッコミを入れる。
ルーファスはリオネスに詰め寄ると、普段のおちゃらけた雰囲気を感じさせない気迫でリオネスを問いただした。
「てめぇらのやろうとしてることは割れてるんだ。とっとと吐け」
「ハッ、そんなに情報が知りたきゃ拷問でもしてみればいいさね。下等生物如きの拷問なんざたかが知れてると思うけどね」
人間ならば致命傷だった傷を負っても、リオネスは余裕の笑みを浮かべていた。
「リオネス……」
そんな彼女をどこか複雑そうな表情でスタンフォードは見ていた。
「おっ、どうしたクソ王子。いっちょ前に傷ついてんのか?」
「いや、確かにショックだけど、君がそんな風に感情むき出しで話してるところを見るのが新鮮だったから驚いちゃってね」
「……は?」
出来るだけ場を和ませようと苦笑しながら告げた言葉に、リオネスは呆気にとられたように間抜けな声を零した。
「くだんねぇな」
毒気を抜かれたように呟くリオネスへ、今度はポンデローザが詰め寄る。
「リオネス、あなたの目的はスタンフォード殿下暗殺ではありませんの?」
「さあな」
「殿下達が幼い頃から王家に仕えていたのは、ミドガルズオルムの復活の際に守護者の血を引く人間の戦力を削るため。違いますの?」
ポンデローザの問いに対して、リオネスは考え込むように俯いた。
「かー、ぺっ!」
黙り込んだと思ったら、リオネスはポンデローザの目に向かって唾を飛ばした。
当然、彼女の唾には毒が含まれている。
「ぎゃぁぁぁ! 目が! 目がぁぁぁ!」
「ポンちゃん!? 〝
目を押さえて床を転げ回るポンデローザに、慌ててマーガレットが治癒魔法をかける。
毒で焼かれた視力が戻ったポンデローザは涙目になってリオネスを睨みつける。
「やってくれましたわね……!」
「ひゃはは! 唾飛ばされたくなきゃ猿轡でも嵌めておくんだったな!」
「ったく、埒があかねぇな」
子供のようなやり取りをしているポンデローザとリオネスを見て、ルーファスは呆れたように肩を竦めた。
罪人の尋問中とは思えない空気の中、スタンフォードは静かにリオネスへと問いかける。
「リオネス、一つ聞かせてくれ」
「あぁん?」
「君から見た僕はどういう人間だった」
予想外の質問をされたリオネスは驚いたように目を見開いた後、素直にスタンフォードへの印象を語り出した。
「そうさねぇ……ガキの頃から無駄に頭は良かったし、天才だとは思ってたよ。だけど、生まれつき性格が捻れ曲がってたから堕とすのは簡単だったってとこかね」
「堕とす?」
「ああ、そうさ。あんたみたいな自分以外をゴミと思ってるようなクズは良い駒になるからねぇ」
歪んだ笑みを浮かべるリオネスの言葉に、スタンフォードはある可能性に思い至る。
「じゃあ、昔から僕が何かするたびに褒めていたのは……」
「ひゃっはっは! 本心な訳ないじゃないか! 煽てりゃ簡単に調子に乗ってくれるんだ。どんどん増長していくあんたを見てるのは笑いが止まらなかったよ!」
高笑いするリオネスを見ていると、スタンフォードは胸が痛むのを感じた。
自分はリオネスに良いように踊らされていたのだ。
それを理解したスタンフォードは何も言えずに俯いてしまう。
「とんだ外道ですわね」
「おいおい、人聞きが悪いねぇ! アタイは仕事熱心だっただけさね」
吐き捨てるようなポンデローザの言葉に、リオネスは笑いながら天を仰いだ。
「しっかし、アタイも焼きが回ったみたいだね。目隠れ嬢ちゃんみたいな半端者に倒されるなんてさ」
その瞳には諦めが浮かんでいた。
彼女はミドガルズオルムの命令で王家に使用人として潜入していた。
その任務が失敗した以上、ミドガルズオルムの元に戻ることもできないだろう。
「もし、仮に君を釈放すると言ったらどうする」
スタンフォードの言葉に、その場にいた全員がざわつく。
寛大を通り越して甘すぎるとも言えるスタンフォードの言葉に、リオネスは煽るように告げる。
「おっ、情でも沸いたか? 随分とお優しくなられたようで」
「違う、仮の話だ。釈放するつもりはない。僕は君が何を考えているか知りたいだけなんだ」
真剣なスタンフォードを小バカにするように笑うと、リオネスは答える。
「アタイが何を考えてる、か。そうさね、もし釈放されたら学園に戻って大暴れしてやるさ。堅物王子には負けるだろうが、学園を半壊させるくらいはできるだろうね」
「僕達に協力するつもりは?」
「これっぽっちもないね」
はっきりとリオネスは拒絶の意思を示した。
彼女は何があっても仲間になることはない。
それを理解したスタンフォードは苦しげにルーファスへと告げる。
「……わかった。ルーファス様、リオネスはルドエ領の牢に閉じ込めておくのが良いと思います。ここなら彼女も本来の力を発揮できないでしょうし、王都に連れ帰るのはリスクが高いと思います」
「それもそうだな。牢屋は俺様の魔法で強化しておく」
こうしてリオネスはルドエ領に幽閉することが決定した。
それに対して、ステイシーが慌てたように口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! ルドエ領にリオネスさんを幽閉するんですか!?」
「千年樹の力もあるし、その方がいいだろ」
「ああ、お父さん。負担を増やしてごめんなさい……」
とんでもない爆弾を抱えることになったステイシーは、胃薬が必須になるであろう父親の姿を思い描き、ガックリと項垂れた。
「ああ、そうだ。クソ聖剣」
「俺?」
ルーファスに連れられて連行される直前。
リオネスは完全に蚊帳の外にいたブレイブに向かって告げる。
「お前がさっさと覚醒しないと、たくさんの人間が死ぬことになるよ。ご主人様も待ってるんだ、とっとと覚醒することだね」
それだけ言い残すと、リオネスはルーファスに連行されていった。
残されたブレイブはリオネスの言葉の意味がわからずにため息をついた。
「覚醒って、何なんだ……」
「今よりもっと光魔法を使いこなせるようになれってことだろ」
思い悩むブレイブにそう言葉をかけると、スタンフォードは悲しげにリオネスの背中を見つめるのであった。