負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第78話 変わる評価

 スタンフォードが鍛練場へ着くと、そこには鍛錬中のブレイブとセタリアの姿があった。

 ブレイブとセタリアは目で追うのも難しいほどに高速で動き回り、剣を交える。

 光が溢れ、風が荒れ狂う。

 その美しい光景を見てスタンフォードは歯噛みする。

 

 これが主人公とメインヒロインか、と。

 

 自分やポンデローザとは違って未来が約束された二人は、今も順調に成長しながら仲を深めている。

 

「……いや、あいつらは悪くないよな」

 

 湧き上がる嫉妬心を深呼吸をすることで抑える。

 いくら自分達が運命に翻弄されているからといって、ブレイブとセタリアに当たるのは筋違いというものだ。

 

「おや、スタンフォード殿下ではありませんか」

「ヨハンか」

 

 心を落ち着けていると、前期以来会っていなかったヨハンが声をかけてきた。

 ヨハンはセタリアの分家に当たる家柄出身だが、

 

「実家には帰らなかったのか?」

「ええ、ルガンド家からもセルペンテ家からも特に呼び出しはありませんでしたからね。おかげで寂しい長期休暇でしたよ」

 

 肩を竦めると、ヨハンは苦笑しながら長期休暇中に暇だったことを告げる。

 

「それより、ブレイブはまた一段と強くなったみたいですね」

「ああ、あのルーファス様やポンデローザ様から直々に指導していただいたからな」

「なるほど。でも、まだ足りない」

 

 ヨハンはいつもの飄々とした表情を崩してそんなことを呟いた。

 

「ブレイブの力はあんなものじゃない。セタリア様が食らいついていけるのが証明です」

「セタリアだって守護者の家系で魔導士としては一流だとは思うけど……」

 

 初めてヨハンの言葉に熱を感じたスタンフォードは、怪訝な表情を浮かべる。

 ヨハンの言葉では、ブレイブとセタリアが本来渡り合うことも不可能な程に実力の差があることになる。

 スタンフォードは、魔導士として一流のはずのセタリアとブレイブにそこまで差があるとは思えなかった。

 

「ブレイブが本来の力を発揮できれば無敵なんですよ。それこそルーファスだって敵わないでしょう」

「随分とブレイブ贔屓だな。友人だから滅竜魔闘で優勝してほしいだけじゃないのか?」

 

 熱くブレイブの実力について語るヨハンに、さすがのスタンフォードも呆れたようにため息をつく。

 そんなスタンフォードに対して、ヨハンは当然のように告げる。

 

「いえいえ、彼が優勝するのは当然ですから。女子部門ではセタリア様が優勝する。どうです、お似合いの二人が揃って優勝なんて最高のシナリオでしょう?」

「それは僕に対する当てつけか?」

 

 別にセタリアに恋愛感情があるわけではなくとも、立場上婚約者ではあるのだ。

 ヨハンの発言はさすがに聞き逃せなかった。

 だが、ヨハンは王族に無礼を働くことなどまるで気にしていないように告げる。

 

「正直、殿下もそう思っているのではありませんか?」

 

 いつもは回りくどい言い方をしてくるヨハンが確信をついたように言う。

 何か心の変化でもあったのかとスタンフォードは勘ぐった。

 

「何だ、珍しく直球だな」

「殿下は変わられた。予防線を張る必要はないかと」

「そうか、僕としても無駄な会話が減ってありがたい限りだ」

 

 皮肉を込めてそう言うと、スタンフォードは本音を語った。

 

「セタリアは僕の傍若無人な振る舞いのフォローをいつもしてくれていた。感謝はしているが特別な感情はない。もし結婚するなら不満はないってだけだ」

「殿下にとってセタリア様は都合の良い女性だったということですね」

「さすがにそこは言葉を選べ」

 

 身も蓋もないヨハンの言葉に、スタンフォードは苦笑する。

 

「でも、ヨハンの言う通りだよ。セタリアだけじゃない、僕は周囲の人間を〝自分を引き立てる存在〟として見ていた」

「今は違うと?」

「ああ、僕は大勢の人達に助けられた。だから、今度は僕が助けたい。そう思ってる」

 

 スタンフォードの言葉に目を細めると、ヨハンは一人言を呟くように告げた。

 

「……なるほど、殿下ならばベスティアに覚醒することができるかもしれませんね」

「ベスティア、か。随分と話が飛躍したな」

 

 ベスティア、それはBESTIA HEARTでは固有ルートのキャラ、BESTIA BRAVEではブレイブのみが覚醒できる力だ。

 スタンフォードとポンデローザは原作において、敵によって無理矢理このベスティアを引き出された反動で死の運命を迎えることになる。

 

 しかし、ヨハンは今のスタンフォードならば正規の方法でベスティアに覚醒できるのではないかと告げた。

 

「ボクはレベリオン創世記が好きでしてね。守護者の血筋の者がベスティアに覚醒することは不可能ではないと思っています」

「レベリオン創世記ねぇ……」

 

 先日、ルドエ領でムジーナから正史について聞かされたばかりだったため、スタンフォードは複雑そうな表情を浮かべる。

 

「ベスティアは国を守るための特殊な力なんて言われていますが、ボクは違うと思っています」

「どういうことだ?」

「ベスティアは単純に〝守るための力〟だったのですよ。それが現代になって国を守るという都合の良い解釈をされた」

 

 ヨハンは確信めいた口調で続ける。

 

「国を守るためならもっと早い段階で覚醒するでしょう?」

「どうだかな。推測で語ったところで僕がベスティアに覚醒するとは思えない」

 

 バカバカしい、と一蹴しながらも、原作の流れをポンデローザから聞いていたスタンフォードは、その可能性もあると踏んでいた。

 乙女ゲームやギャルゲーで主人子やヒロインに対する愛情がきっかけとなり、守るための力に覚醒する。

 前世における王道ともいえる流れは、正確性にかけるレベリオン創世記よりも説得力があった。

 

「あれ、スタンフォードにヨハンじゃないか」

「お二人も滅竜魔闘に向けての調整ですか?」

 

 ヨハンと話をしている内に、鍛錬を終えたブレイブとセタリアが汗を拭いながらやってくる。

 

「たまたま一緒になっただけだよ。僕はライバルに手の内を明かすつもりはないからね」

「ご安心を。ボクは滅竜魔闘に参加しませんから」

「……お前、何しに鍛錬場に来てたんだよ」

 

 ヨハンはブレイブとセタリアの鍛錬を見に来ていただけという事実に気がつき、スタンフォードは呆れたようにため息をついた。

 

「せっかくですし、鍛錬ならボクがお相手しますよ」

 

 スタンフォードは、ヨハンの言葉にどこか挑発的な響きを感じた。

 ヨハンが相手をすると聞いて、ブレイブとセタリアは驚いたように目を見開く。

 

「ヨハンの本気って見たことないから羨ましいなぁ」

「聞いた話では、幼少期から魔力がもっとあれば本家の養子にしていたと言われているくらいの実力者と聞いております」

「ちょっと二人共、無駄にハードル上げないでくださいよ」

 

 スタンフォードもヨハンが本気を出しているところは見たことがない。

 いつも飄々とした態度で尻尾をつかませない曲者。

 そんな彼が心境の変化か、鍛練の相手をすると申し出てきた。

 

「さて、殿下。ヨハン・ルガンドがお相手させていただきます」

「受けて立つ。本気でこい、じゃないと鍛錬にならないからな!」

 

 おそらく相手にとって不足はない。

 そう判断したスタンフォードは、ブレイブとセタリアが鍛練を終えたことで空いた場所で剣を構えるのであった。

 


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