負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第81話 だから信頼できる

「ちょっと待て! 何で血を吸う必要がある!」

「血液、体内で解析する。だから、新鮮な血液欲しい」

 

 様々な魔法器具で実験をしていたコメリナだったが、実験の果てに自分が直接体内に血液を取り込んで分析する方が正確だということに気がついたのだ。

 

「空気触れずに取り込む。だから、吸う」

「酸化するのを防ぎたいってわけか……でもなぁ」

 

 スタンフォードは女子との触れ合いに慣れていない。

 会話するくらいならまったく問題はないが、自分の血を直接吸われるとなるとさすがに抵抗があったのだ。

 

「手を貸す、言った。何でも言ってくれ、言った」

「それを言われると何も言えないな……」

 

 何でも言ってくれと言った手前、断ることはできない。

 スタンフォードは諦めたように、コメリナの言葉に従うことにした。

 ひとまずシャワーを借りて体を清めると、ベッドに寝転がった。

 

「さあ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「じゃあ、遠慮なく」

 

 コメリナは表情一つ変えることなくスタンフォードの上に覆い被さった。

 

「ちょっと、痛いかも」

「構わないよ。痛みには慣れている」

 

 触れあう肌の感覚にドギマギしながらも、スタンフォードは覚悟を決めた。

 

「いく」

 

 短くそう言うと、コメリナは尖った犬歯を立ててスタンフォードの首筋に噛みついた。

 

「い゛っ!?」

 

 痛みがあったのは一瞬のこと。

 コメリナは痛みを沈静化させる魔法をかけながらスタンフォードの新鮮な血液を吸い始めた。

 大量の血を吸い出される感覚に頭がくらくらする。

 貧血による目眩を堪えていると、今度は謎の快楽が襲いかかる。

 首筋に強く吸い付かれ、血を吸い出され続ける。

 その感覚が何故か気持ち良かったのだ。

 

「はぁ、はぁ……終わった。傷を塞ぐ」

 

 新たな扉を開きかけたとき、コメリナは淡々とそう告げて傷口に治癒魔法をかけた。

 口元から血を垂らしながら、顔を少しだけ赤らめているコメリナの表情は妖艶であり、一瞬だけスタンフォードは見とれてしまった。

 普段が無表情なだけに、その表情はとても魅力的に見えたのだ。

 

「どうだ、何か掴めそうか?」

 

 頭を振って邪念を追い出すと、スタンフォードはコメリナに尋ねる。

 コメリナは少しの間、目を瞑って考え込むと小さく笑顔を浮かべて答えた。

 

「純粋な血液、採れた。解析もしやすい」

「力になれたようで良かったよ」

 

 もし、これでコメリナの治癒魔法が進化して血液も回復できるようになれば、今まで以上に無茶ができる。

 仮に滅竜魔闘で実力者と当たっても、温存を意識して力を発揮できないということは避けられるのだ。

 

「コメリナ、滅竜魔闘までに治癒魔法を完成させてくれるかい?」

「問題ない。殿下、求めるなら応える」

 

 結構な無茶を言っているというのに、コメリナはスタンフォードの頼みを二つ返事で了承した。

 その迷いのなさに、スタンフォードは驚きを隠せなかった。

 

「どうして、そこまで僕に……」

「殿下、欲しいものたくさんくれた。だから、私もあげる。それだけ」

 

 笑顔を浮かべてコメリナは嘘偽りのない自分の胸中を明かした。

 

「私、目標なくしてた。殿下、目標くれた。知識くれた。欲しかった言葉くれた。どれも宝物」

 

 本当に嬉しそうに胸を押さえるコメリナを見て、スタンフォードの中に罪悪感が沸いてくる。

 自分はただコメリナを利用しているだけだ。

 彼女の気持ちに最低限の配慮はあるものの、やっていることは彼女の力を利用していることに変わりはないのだ。

 

「僕は君のために何かをしたわけじゃない。君の力を利用したいから協力しているだけなんだよ」

「だから信頼できる」

 

 申し訳なさそうにしているスタンフォードに、コメリナはしっかりとした口調で告げた。

 

「私、私の力を必要としている人が欲しかった。殿下、私の力を求めてる。だから、とても嬉しいこと」

「コメリナ……」

「大丈夫」

 

 スタンフォードを安心させるように、コメリナは勝ち気な笑みを浮かべて告げる。

 

「私、信じてる。殿下、絶対優勝できる。私、力になる」

 

 その言葉を聞いた途端、スタンフォードの中に勇気が沸いてくる。

 絶対に運命を覆す。不可能に限りなく近いこともやってやれないことはない。

 そんな風に思えたのだ。

 

「ありがとう、コメリナ。僕は絶対に優、勝……あれ」

 

 コメリナに礼を述べると、スタンフォードの体がふらついた。先程、大量の血を吸い取られたため、スタンフォードは貧血になっていたのだ。

 

「殿下、貧血。今日、安静にする」

「ああ、悪いね」

 

 言われるがまま、スタンフォードはコメリナのベッドに横になった。

 そして、次の日。

 慌てて滅竜荘に戻り、身支度を整えたスタンフォードは学園に登校した。

 

「おはようございます殿下……あら、首のところどうされたのですか?」

「えっ、首?」

「はい、痣のようなものができていますよ」

 

 セタリアは素早く手鏡を取り出すとスタンフォードの前に差し出す。

 それを見てみれば、確かに首筋には痣ができていた。心当たりは一つしかなかった。

 

「スゥ――…………」

 

 どう考えてもコメリナに吸い付かれたときの跡である。

 魔法の実験のためとはいえ、婚約者にそれを指摘されるのは浮気がバレそうになっている気分だった。

 

「顔色も優れませんし、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ。問題ない」

 

 スタンフォードは狼狽しながら首を激しく横に振る。

 様子がおかしなスタンフォードにセタリアが首を傾げていると、タイミング悪くコメリナがスタンフォードの元へとやってきた。

 

「殿下、おはよう。体、大丈夫?」

「あ、ああ、何ともないよ」

「昨日、ちょっとやり過ぎた。反省してる……」

 

 コメリナの申し訳なさそうなその一言で周囲の空気が凍り付く。

 

「で、殿下? いつの間にコメリナとそんなに仲良くなったのでしょうか」

 

 セタリアはスタンフォードがどんな女性と関係を持とうがそれを追求するつもりはなかった。

 しかし、その相手がコメリナとなれば話は別である。

 基本的に人と関わりを持ちたがらないコメリナが相手ならば、どうやって彼女と親密な関係になったか気になって仕方がなかったのだ。

 

「ご、誤解だよ」

「スタンフォード、おはよう! おっ、首のとこ痣になってるけどどうしたんだ!?」

 

 どう弁解したものかと狼狽えていると、今度はブレイブがやってきた。

 

「私のせい。昨日、ベッドの上で――」

「コメリナァァァ!」

「はぁ!? スタンフォード殿下! どういうことか説明してください!」

 

 さらにはブレイブに付いてきたアロエラまで加わり、教室の空気は混沌とし始めた。

 

「誤解だぁぁぁ!」

 

 結局、その日は丸一日使って周囲の誤解を解くためにスタンフォードは奔走することになるのであった。

 


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