負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第87話 滅竜魔闘女子の部予選

 観客席は学園最強の魔導士の勇姿を見るために大勢の生徒達でごった返している。

 生徒達は出店で買った飲食物を片手に今か今かと滅竜魔闘が開始されるのを待っている。

 

「こういう俗っぽいお祭り感は王立魔法学園でも変わらないものだね」

「スタン兄様、私ワクワクが止まりません!」

 

 スタンフォードの横ではフォルニアが他の生徒同様に目を輝かせている。

 本来、来賓の者と生徒達は観客席が分けられているのだが、スタンフォードから護衛の者達に事情を話して特別に生徒用の観戦席にフォルニアを連れてきたのだ。無論、ミモザも一緒である。

 

「スタンフォードは誰が優勝すると思うんだ?」

「普通に考えればセタリアだろうね」

 

 ブレイブの問いにスタンフォードは即答する。

 

「コメリナがいれば結果はわからなかっただろうけど、セタリアの実力は他の参加者の中でも抜きんでている」

「アロエラやステイシーも良い線行ってると思うんだけどな」

「アロエラは破壊魔法こそ脅威だが、攻撃が単調すぎる。攻撃も大振りだし、鈍重でデカい魔物相手ならともかく対人戦ではそこまで脅威じゃない。ステイシーは魔法運用も硬化魔法の精度もかなりのものだが、いかんせん魔力の質も量も低い。工夫だけで勝てるほどセタリアは甘くない」

 

 スタンフォードは冷静に出場者の戦闘力を分析する。

 個人的にはステイシーに大番狂わせを起こして欲しいとは思っているが、現実は非情である。

 

「おっ、いたいた! よお、スタンフォード!」

「ジャッチ、遅かったじゃないか」

「悪ぃ、店が繁盛してて」

 

 ジャッチはクラスの出し物で喫茶店のキッチンを担当していた。

 貴族が集まる王立魔法学園で料理ができる人間は限られるため、なかなか交代ができずにスタンフォード達に合流するのに時間がかかってしまったのだ。

 

「やれやれ、貴族が料理なんてしたところで味は三流もいいところだろうに」

「ガーデル、お前ってお祭りとか絶対楽しめないタイプだよな」

 

 相変わらず斜に構えた態度のガーデルを見て、ジャッチは呆れたような表情を浮かべる。

 

「というか、その子は誰だ? うちの学園の生徒じゃねぇよな」

「僕の妹のフォルニアだよ」

「はじめましてジャッチ様! レベリオン王国第一王女フォルニア・シンバ・レベリオンと申します! お気軽にニアとお呼びください」

「スタンフォードの妹って、王族じゃねぇか! えっ、あっ、ジャッチ・ボーギャックといいます。よろしくお願いします……」

 

 ジャッチは相手が王族ということもあり、畏まった様子で自己紹介をした。

 

「そう畏まるなよ。僕に対してはフランクに接してるだろ。友人の妹くらいに思っておけばいいさ」

「スタンフォードが気にしなすぎるだけだろ……そっちの子は?」

 

 ジャッチはミモザに目を向ける。

 

「俺の妹のミモザだ」

「はじめましてボーギャック様。ミモザ・ドラゴニルと申します」

「おう、よろしくな。てか、みんな妹いるのな」

「貴族社会じゃ兄弟姉妹がいない方が珍しいけどね」

 

 上流階級になればなるほど、優秀な跡継ぎを生み出すために側室を取って子供を増やすのは当然のことだった。

 スタンフォードの兄弟姉妹達は王族にしては少ない方だろう。

 

「それより、誰が勝つと思う?」

「そのくだりはもうやった」

 

 ため息をつくとスタンフォードは配布された出場者一覧のパンフレットを広げた。

 

「予選Aブロックはセタリアがいるところだっけか」

「たぶん瞬殺だろうね」

「セルペンテのお嬢様ってそんなにすごいのか?」

「普段は貴族令嬢としての立ち回りばかりが取りざたされているけど、彼女の真価はそこじゃない」

 

 スタンフォードは真剣な眼差しで舞台の上に上がる出場者達を眺める。

 

「見ていればわかるよ」

 

 舞台上に出場者達が上がると、実況席から声が聞こえてくる。

 

『いやぁ、滅竜魔闘が今年も始まりましたね』

『うむ、毎年優秀な魔導士が多く、この戦いを見るとこの国も安泰だということがよくわかる。いやはや末恐ろしいくらいだ』

 

 実況席にいる魔導士はそこで言葉を句切ると、冷や汗を流しながら告げる。

 

『ただ今年は魔導士の質が桁違いだ。このブロックの戦いは一瞬で片が付くだろう』

『へ?』

 

『滅竜魔闘女子の部、予選Aブロック試合開始!』

 

 試合開始の合図と共に、周囲の空気が変わる。

 

「全員、目を離すなよ」

 

 スタンフォードがその場にいる全員にそう告げた瞬間、

 

「〝嵐気流(テンペスト・ブレイズ)!!!〟」

 

 舞台の中心から嵐が吹き荒れた。

 その魔法は発動速度、規模、そのどれもが普通の魔導士なら対応できないものだった。

 嵐が晴れると、舞台上にはセタリアただ一人が立っていた。

 

『勝者、セタリア・ヘラ・セルペンテ!』

 

 その一方的な試合に生徒達も来賓達も言葉を失っていた。

 

「いやいやいや……」

 

 そんな中、ジャッチは信じられないものを見たようにスタンフォードに説明を求める。

 

「何が起こったんだよ!?」

「セタリアが試合開始と同時に風魔法で嵐を起こして参加者全員を吹き飛ばした。場外も負けになるからね」

 

 舞台の外に体が付くか、戦闘不能になるか、降参を宣言したら負け。

 そのルールをよく理解している者は真っ先に場外を狙うだろう。

 

「さすがセタリアだなぁ」

「いや、さすがで済ませていいやつじゃないだろ!」

 

 誰もが絶句している中、ブレイブは特に驚いた様子もなく、感心したように頷いていた。

 

「あれほどの風魔法を一瞬で発動させるとは、セルペンテ様の実力はバケモノ級ですな」

 

 あまりにも一方的な戦いに、同じ風魔法の使い手であるガーデルも戦慄していた。

 

「おそらくだけど、次の試合も一瞬で片が付くよ」

「ああ、次はアロエラのいるBブロックだったか」

「ガーデル、僕が合図したらこの外套と制服の上着をアロエラのところに飛ばしてもらえるか?」

「構いませぬが、いいのですかな?」

「決着が付いたあとだ。妨害にはならないだろう」

 

 要領を得ないスタンフォードの指示に怪訝な表情を浮かべつつも、主の命のためガーデルはそれを了承した。

 

『滅竜魔闘女子の部、予選Bブロック試合開始!』

 

「ニア、ミモザ。今回は目を瞑っておくんだ」

 

「「どうしてですか?」」

 

「これから教育に悪い光景が広がるからね」

 

 スタンフォードの意味深な言葉にフォルニアとミモザは首を傾げた。

 その瞬間、爆音と共に舞台で大爆発が起きる。

 

「〝破城大噴火(ヴォルカニック・インパクト)!!!〟」

 

「ガーデル、頼んだよ」

「承知」

 

 スタンフォードが外套を脱ぐと、ガーデルがそれを煙が立ち上る舞台の上に飛ばす。

 煙が晴れると、そこには先程と同じようにアロエラが一人大槌を振り下ろした状態で立っていた。

 

『しょ、勝者、アロエラ・ボーア!』

 

「あっ、やば!? 制服が……!」

 

 あまりの破壊力にアロエラの制服は衝撃に耐えきれずに吹き飛んでいた。

 完全に煙が晴れると大勢に自分の裸を見られてしまう。 大勢の来賓と生徒の前で裸を晒すなど、恥さらしもいいところである。

 アロエラが顔を真っ赤にして焦っていると、どこからともなく男子の制服の上着と外套が飛んできた。

 反射的にそれを着込み、外套を腰に巻くとアロエラは慌てて舞台を降りた。

 

「よし、予選敗退者はラクーナ先輩とコメリナがすぐに回収してくれたみたいだな」

「ちくしょう! 女子の裸を拝めるチャンスだったのに!」

「お前、そういうとこだぞ」

 

 アロエラに吹き飛ばされた女子生徒達ももれなく制服が吹き飛んでいた。

 男子にとって憧れのシチュエーションを見逃したことで、ジャッチを含め大勢の男子生徒が項垂れていた。

 

「よし、ニア、ミモザ。目を開けていいよ」

 

 教育に悪い光景は終わった。

 そう判断したスタンフォードはフォルニアとミモザに目を開けるように言った。

 それからしばらくして、換えの制服に身を包んだアロエラが観客席に現れた。

 

「その……ありがとうございます」

「妹や未来の後輩達の教育に悪いと思っただけだよ。あのままご開帳なんてことになったらセルド様の胃がストレスでマッハだっただろうし」

 

 アロエラは丁寧に制服の上着と外套を畳んでスタンフォードに返しにきたのだ。

 

「よく見るのですぞジャッチ。これがモテる男の振る舞いというものですぞ」

「絶対にモテなそうなお前に言われたかねぇよ!」

 

 紳士的な振る舞いをするスタンフォードを見ながら告げたガーデルの言葉にジャッチが噛みつく。

 

「やっぱ、スタンフォードはすごいなぁ」

 

 そんな中、ブレイブは呑気に出店で買ったホットドッグを頬張っているのであった。

 


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