負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第90話 ライバル

 予選を終え、本戦前の控室。

 ステイシーは一人で椅子に座りながら考え込んでいた。

 

「ここまでこれるなんて自分でもびっくりです」

 

 元々、ステイシーは魔導士としての適性がない家系の生まれだ。

 先祖にたまたま優秀な魔導士がいたから、ステイシーにも魔力が発現した。

 でも、本当にそれはただの偶然でしかない。

 薄まった魔導士としての血は、ステイシーに僅かな魔力しか与えなかった。

 成績も平凡、魔法の実技では下から数えた方が早い。

 そんな自分が生徒会に所属し、魔導士としての優秀さを競う滅竜魔闘では本戦まで勝ち残った。

 

「何だか恵まれすぎてる気がします……」

 

 王国の第二王子であるスタンフォードと友人になり、そこから学園の中でもトップと言われている実力者達とも仲良くなることができた。

 学園最強と言われているルーファスからは直々に指導を受けることもあり、魔法の名門出身であるジャッチやガーデルとも日々鍛錬に勤しんでいる。

 努力は人一倍している。

 しかし、努力だけではきっとここまでこれなかった。

 そのことはステイシー本人が一番よくわかっていた。

 

「ステイシー・ルドエ」

「あっ、コメリナ様。治癒班のお仕事、お疲れ様です」

「ボコボコ顔、治すくらいわけない」

「あ、あはは……ナンバーズ様のお顔が戻って良かったです」

 

 予選最終ブロックで対峙したマチルダの顔を、歯が折れるほど強く殴りつけたことを思い出したステイシーは乾いた笑いを零した。

 

「ステイシー・ルドエ。治癒魔法かける」

「あ、ありがとうございます」

 

 ステイシーは無表情で治癒魔法をかけるコメリナをどこか気まずい表情で見ていた。

 コメリナは優秀な治癒魔導士だ。実力でも家柄でも自分と比べるのもおかがましい。

 だというのに、彼女はことあるごとに自分をライバル視してくる。

 ステイシーからしたらコメリナは掴みどころのない人物だった。

 わかっていることといえば、スタンフォードとアロエラだけには気を許していることくらいだろう。

 

「すごかった」

「え?」

 

 治癒魔法をかけながら唐突に零したコメリナの言葉に、ステイシーは虚を突かれたような表情を浮かべる。

 そんなステイシーに構わずコメリナは続ける。

 

「予選、見てた。魔力少ないのによく頑張ってた」

「漁夫の利を狙ってただけですよ」

「それ戦術。硬化魔法、使い方うまかった。殿下ほどじゃないけど、魔法運用すごい。さすがライバル」

 

 コメリナは素直に感心していたのだ。

 確かにステイシーは硬化魔法くらいしかまともに使えない三流魔導士だ。

 そんな彼女は実践において悉く戦果を挙げている。

 それでもステイシーは謙虚な姿勢を崩さない。

 

「そんなライバルだなんて……!」

「ライバルはライバル。私、勝つまで負けるの許さない」

「えぇ……」

 

 何を言ってもコメリナはステイシーをライバル視することをやめない。

 どうしたものかとステイシーが困り果てていると、コメリナは少しだけ表情を曇らせて告げる。

 

「それに殿下、願ってる」

「願ってる?」

「殿下、滅竜魔闘どうしても勝ちたい。女子、お前勝ってほしいって思ってる」

「スタンフォード君が私に優勝してほしいって言ってたんですか?」

「違う。殿下、そう思ってるのわかるだけ」

 

 コメリナはここ最近のスタンフォードがどこか焦っているように見えていた。

 他人に興味を示さないコメリナだが、一度興味を持ったことに関しては徹底的に突き詰める性格だ。

 そして、興味の対象となったスタンフォードのこともよく見ていたのだ。

 

「殿下、お前信じてる。だから、負けないで」

「コメリナ様……」

 

 その言葉には、自分への対抗心以上にスタンフォードへの強い信頼が感じられた。

 そこから信頼感だけではない何かを感じ取ったステイシーは恐る恐るといった様子でコメリナへと尋ねる。

 

「こ、コメリナ様はスタンフォード君のことどう思ってるんですか?」

 

 ステイシーの問いに、コメリナはしばらく固まる。

 まるで自分のスタンフォードに対する感情など思い返したこともない、と言わんばかりに考え込むと自分の気持ちを口にした。

 

「ずっと隣にいたい」

「えっ、それって……!」

「殿下、私必要だから」

「ああ、そういう……」

 

 ステイシーはゲスな邪推をしてしまったと反省すると、改めて自分に治癒魔法をかけてくれたコメリナに礼を述べる。

 

「コメリナ様、治療ありがとうございました」

「気にしない。それが仕事」

 

 淡々と告げると、コメリナは去っていく。

 その表情がいつもの無表情ではなく、とても幸せそうな表情に変わっていたことにステイシーが気がつくことはなかった。

 


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