負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第94話 アロエラVSフェリシア その2

 身動きの取れないアロエラは焦ったように破壊魔法を発動させる。

 制御されていない破壊魔法はアロエラを中心に爆発を起こして周囲の氷を吹き飛ばす。

 

「はぁ……はぁ……このくらいで勝ったと思わないでください」

「まあ、何て乱暴な魔法」

 

 制服がボロボロになったアロエラを見て、フェリシアは眉を顰める。

 

「わたくしに氷漬けにされる度にそうやって脱出するおつもり?」

「ええ、体は頑丈なの」

「ですが、消耗は避けられない」

 

 フェリシアは再び魔法を発動させる。

 纏わりつく氷をものともせずにアロエラは自爆を繰り返してフェリシアへと突っ込んでいく。

 

「わたくし、自分の魔法もまともに使いこなせないような方に苦戦している場合ではありませんの」

 

 がむしゃらに突っ込んでくるアロエラにフェリシアは冷たい視線を向ける。

 

「わたくしはポンデローザ様のためにも勝たなければいけませんの! 〝氷結高山(アイシクルマウンテン)!!!〟」

 

 フェリシアは先ほどとは比べ物にならない魔力を放出し、アロエラを巨大な氷山の中へと閉じ込めた。

 

「わたくしとリリアーヌが強くないから、ポンデローザ様は信用してくださらない。ですから、わたくしはここで己の強さを証明しなければなりませんの!」

 

 フェリシアは予選の際、同じブロックだったリリアーヌと共闘して最後には勝ちを譲ってもらった。

 

 それも全てポンデローザのためだった。

 

 幼い頃から分家の令嬢としてポンデローザに付いてきた二人は彼女を心から慕っていた。

 令嬢らしくない自由な性格も、貴族令嬢として窮屈な生活を送っていた二人には新鮮で、その後の公爵令嬢たろうとする姿もまた尊敬していた。

 二人は心からポンデローザの役に立ちたいと思っていた。

 

 しかし、ポンデローザがそれをよしとしなかった。

 

 原作に登場する名無しのキャラとはいえ、下手に本編に関われば命の保証はない。

 ポンデローザは二人を巻き込まないために事あるごとに遠ざけようとしていたのだ。

 それを二人は自分達が弱いから信用されていないと受け取った。

 

「さあ、アロエラ・ボーア! わたくしの氷を吹き飛ばせるなら吹き飛ばしてごらんなさい!」

 

 少なくとも色ボケした魔法の制御もままならない魔導士に躓いている暇はない。

 仁王立ちしたフェリシアは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「ちく、しょう……」

 

 巨大な氷山に閉じ込められたアロエラは朦朧とする意識の中、何とか脱出する方法を考えていた。

 先ほどの最小限の氷結による拘束とはわけが違う。

 全身を巨大な氷山に閉じ込められているのだ。自爆したところで、この拘束を振り払うことはできないだろう。

 

「こんなところで、負けてたまるもんですか……!」

 

 全力で自爆すれば吹き飛ばせるはずだ。

 考えるよりも先に体が動くタイプのアロエラは魔力を解放しようとして思いとどまる。

 

『あーあー、そうやって考えなしに魔法を暴発させて……自分の脳みそでも破壊しちゃったんじゃないかい?』

 

 脳裏に過ぎる厭味ったらしい言葉。

 それはかつて中等部の頃にスタンフォードから告げられた言葉だった。

 

「何で、こんなときにあいつのこと……」

 

 アロエラにとって破壊魔法は自分のアイデンティティのような魔法だった。

 暴発しようが、それがすごいと褒められ続ければ自慢になる。

 それを初対面のときに真っ向から否定してきたのがスタンフォードだった。

 幼い頃、ブレイブは破壊魔法がうまく使えない自分を褒めてくれた。

 

『別にいいじゃん。暴発するなら、それをうまく利用してやればいいんだ』

 

 その言葉がどれだけ救いになったか。

 まだ幼かったアロエラが、その当時自分よりも()()()()()()存在だったブレイブに惹かれるのは無理もないことだった。

 アロエラは昔から姿も強さも変わらないままのブレイブに追いつきたいと思っていた。

 しかし、気がつけばブレイブの隣には自分よりも優秀な魔導士であるセタリアが立っていた。

 

「負けたくないのに……これじゃ、アタシ弱いままだ……」

 

 ブレイブにそのままでもいいと言われ、努力しているつもりでも肝心な弱点を克服してこなかった。

 

 何が努力しないで才能に胡坐をかいてる奴は嫌いよ。スタンフォードの方がよっぽど努力してるじゃない!

 

 校外演習で雷竜ライザルクが暴れていたとき、アロエラは何もできなかった。

 必死に走ってきたステイシーがブレイブを連れていく様子をただ茫然と見ていただけだった。

 結局、ブレイブを手助けしてライザルクを共に倒したのはスタンフォードだった。

 

 アタシだってブレイブの隣に立てるような人間になりたい!

 

「アタシは……負けたくない!」

 

 アロエラの瞳に闘志が戻る。

 そして、ない頭を振り絞ってこの状況を打破する方法を考える。

 そのとき、ふと中等部の頃にスタンフォードから告げられた言葉をまた思い出した。

 

『君さぁ、視野が狭すぎるんじゃないか? もったいないったらありゃしないよ。〝破壊〟っていう概念を一からお勉強しなおしたらどうだい? まったく、文字通り〝豚〟に真珠だね』

 

 あの頃は頭に血が上って、自分をバカにしているだけだと思っていたが、あれはスタンフォードなりのアドバイスだったのではないか。

 そう思ったアロエラは破壊という概念について考えを巡らせる。

 

 ちなみに、上から目線で人を見下した態度ではあるが、当時のスタンフォードはこれでも本気でアドバイスを送っているつもりだった。

 

「破壊……概念……一か八か!」

 

 試したことはないし、初めて発動させる魔法。

 それでも、アロエラには絶対に発動させるという強い意志があった。

 

破魔・粉砕(ディスペル)!!!」

 

 解呪の魔法、ディスペル。

 本来それは光魔法でのみ使える言い伝えに残っているだけの太古の魔法。

 希少な光魔法の使い手であるマーガレットやブレイブですら習得していない魔法である。

 アロエラはディスペルを発動させたことで、自身を拘束する氷山を一瞬にして消し去った。

 

「なっ!?」

「お待たせしました、フェリ先輩。ティータイムはこれで終わりです」

 

 巨大な氷山が一瞬にして霧散する。

 観客全員が何が起きたかを理解できずに狐につままれたような表情を浮かべている。

 

「あなた何をしましたの!?」

「フェリ先輩の魔力を〝破壊〟したんですよ。名付けてディスペルってとこですかね」

「そんなディスペル聞いたことありませんわ!?」

「そりゃそうですよ。だって、今作ったんですから」

 

 さらっととんでもないことを言うと、アロエラは舞台を覆っていた氷すらも消し去ってハンマーを拾う。

 

「そんじゃ、いっちょ派手にいかせてもらおうかしら!」

 

 アロエラは破壊魔法をハンマーに込めて跳躍する。

 そして、破壊魔法が込められたハンマーの先端だけを切り離して舞台へと叩きつけた。

 

「〝破床・地割(アース・ブレイク)!!!〟」

 

 その瞬間、一切の爆発が起きずに舞台が粉々に破壊されていく。

 予想外のことに反応できなかったフェリシアはそのまま、舞台の消失した地面へと足をついた。

 

『フェリシア選手場外! 勝者、アロエラ・ボーア!』

 

 つい魔導士同士の戦いと聞いて忘れがちだが、これは試合。ルール上場外も勝利となる。

 アロエラは舞台そのものを破壊して、全てを場外にしたのだ。

 

「負けましたわ。わたくしもまだまだですわね」

「いや、正直アタシもかなり危なかったでしたよ」

「土壇場で成功させることができるのは〝持っている者〟の証ですわ」

 

 フェリシアは晴れやかな表情を浮かべると、背中を向けて去っていく。

 

「どうやらあなたにはいい師匠がいるようですわね」

「師匠、か……」

 

 アロエラはフェリシアの言葉を反芻すると、感慨深い表情を浮かべた。

 

「今度、いろいろ教えてもらおうかな」

 

 きちんと今までの態度を謝罪して、教えを請おう。

 アロエラは観客席にいるスタンフォードを見て笑みをこぼすのだった。

 


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