二次元街道迷走中   作:A。

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第十八話

勢い良く引かれた教室のドア。それだけならば誰も注意を払う事は無かった。が、クラスの一部が過剰反応したならばつられて見るのもしかたがないだろう。

 

「な、なんでっ!」

 

「…………」

 

「ちょっと、何とかいいなさいよ!」

 

「…………」

 

「どうしてアンタが普通に教室にいんの?!」

 

「…………」

 

周囲を普段己を虐げるばかりの人間で彩られた風花は依然、沈黙を貫くばかりだった。それも今までは俯いていた影は失せ、真っ直ぐに目を合わせて。

  他のクラスメイトは行き成り始まった出来ごとに面喰うが、積極的に関わろうとする者は皆無であり静観の構えだ。最も、内心は好奇心に染まっているのだろうが。

 

 物音一つしないこの空間は異世界のようだった。遥か彼方ではしゃぎ合う声が聞こえるものの、無関係な世界。支配しているのは―――山岸風花だ。無言のままヒタリ、と見据えられた女子生徒は固まったまま微動だにしていない。せめて距離を置こうと力を込めるも、両の足は微動だにしなかった。

 意思薄弱。優等生の典型。虐められっ子。それらの称号を冠していた物だった筈だ。が、目の前の少女には何も当てはまらない。否、別人と形容した方が正しかった。

 

「ひっ」

 

 ある種の威圧感すら纏っている相手を前に怯えが走る。虐げていた者達は一様に恐怖した。彼女は―――本当に山岸風花なのだろうか?

 

「煩い。邪魔です」

 

 命令にも似た、無感情で平坦な声が響く。逃げたいという願いを体が聞き届けたのか、それとも漸く呪縛から解放されたのか、縺れながらも左右に避ける事が出来た。風花は一瞥たりともせず、己の席を目指した。

 刹那、静まり返った教室が騒音に包まれる。今のは本当に風花の発言なのか?幻聴ではないのなら一体何があったのか?疑念が尽きず、好奇心は膨らむばかりで話題に底は無い。取り残されたのは、出入口でへたり込んでいる者のみ。

 

 

 

 

「こんばんは、伊織順平アワーのお時間です……」

 

 世の中には……どーも不思議なことってあるようなんですよ。ご存知ですか?メジャーな怪談ですが、幽霊に取り憑かれると人格が変わるって話……

 私の知り合いで無駄に顔が広い奴がいるんですよ。そいつはTというのですが、言うんです。

 

「伊織さぁ、オレ聞いちゃったんだ」って余りに切羽詰まった顔なもんだから私、相談に乗ってやるぜって言いました。最初は挙動不審で目線をさ迷わせるし、何度も言葉を言いかけてはやめるという状況だったんですがね。私が宥めて漸く落ちついた頃、徐に口を開いたんです。「実はE組にいる子なんだけどね……ある日を境に人格が豹変したんだ」って。

 

だから私、告げてやったんですよ。

「豹変したって言ったって、そんな大した事ないんだろ~?ただ単純に機嫌が悪かったとかなんじゃないかい?女の子には良くある話だろ」

「絶対に違う。そんな性格の子じゃない。凄く大人しい……ってか、大人過ぎる子だったんだ」

 

 否定している割には表情と行動が伴っていない。頭を抱えて冷や汗を流して引きつっての発言でした。気になったので全部強引に白状させ……げふんげふん……聞き出してみると詳細が分かったんですよ。

 

 大人しくて真面目ですが虐められっ子だったのにある朝突然、反撃し始めた。堂々と真っ向から言い返すし、相手の脅迫や挑発には一切我関せずな態度を貫き通すし、挙句に貴女達が今までした事を全て暴露して差し上げても構わないのですよって平然と薄ら笑みすら浮かべて言い放つ始末。

 一歩卓越したかの様な独特な雰囲気を持って、逆に虐めっ子を負かした彼女は今まで体が弱くて出来なかった体育や勉強にもより一層打ち込む様になり、友人も出来た。―――対して彼女を虐げていた女子生徒達は、反対に虐めていた子に日々怯える事になり、すっかり今までの騒がしさは失せ、夜遊びから遅刻まで悪い事を一切出来なくなってしまったとか。

 

 私、分かってしまいましたよ。えぇ、幾ら普段頭が悪いなどと不本意な事を言われている私ですがピシャーーーンと脳内に稲妻が走りました。

 

 虐められていた子ぉ……取り憑かれたんですよ!幽霊に!!

  激変した性格も、恐怖に慄く虐めっ子達にも説明が付く!!

 

 ギャーーーって叫びました。ぞぞぞぞぞぅーーーっと背筋にも寒気が……

 

 世の中には、どーしても科学では立証出来ない事があるようなんですよ。まぁ、全ては私の経験則に基づく結論なんですがね……

 

「科学では立証出来ない事ってペルソナに影時間もそのカテゴリに含まれるんだから案外、本当だったりしてね」

 

「いやあああああ!公子までやめてよっ」

 

 順平のわざわざ照明まで落とし、懐中電灯片手の演説を最後まで聞いてあげた公子が感想を漏らすと、ゆかりが過剰反応をする。それを見て、順平はニヤリと密かに嫌な笑みを作ると追い打ちをかけるため、ワザと真剣な顔をした。

 

「いんや、それがマジなんだって。この話はかなり有名で、最近の出来事なんだけど、メチャすんげー勢いで広がってんの。だってガチでそのE組の子が今や英雄扱いよ?何せ虐めっ子からの被害者の範囲は広かったらしくて助けられた子から感謝されて、神聖視までしてる奴まで居るって話だし……勉強以外にもスポーツまで出来る様になったもんだからフツーにクラスでも人気者になったらしいぜ。真面目な性格はまんまだけど、前よか笑顔が増えて穏やかになったから話しかけ易いってな。これが本当に幽霊の仕業じゃないとしたら、流石の俺でも――お手上げ侍……」

 

「冗談じゃないわよッッ!そんなの絶対絶対何かカラクリがあるんだから!?調べたら分かるに決まっているじゃない。そうと決まったらテッテーテキに調べるわよ!」

 

 こうして机を叩き割る勢いで持って宣言したゆかりの発案で、山岸風花を調査する事となった。言葉通りクラスの者や、虐めっ子にも直接話を聞いてみる。危機迫る勢いからか、ゆかり自身の人望からか様々な情報が集まって来た。集まり過ぎて選別に苦労すらする量だ。

 熱中し過ぎてタルタロスの探索は愚か学業に影響が出たらどうするんだという、予想外に長期に渡る調査の現状を見かねた美鶴の注意と、既にやる気がなく強引に付き合わされてクタクタな公子がひっそり心中で賛同を送っていると――ちなみに順平は公に声援を送ってゆかりに殴られていた――明彦が寮へと飛び込んで来た。

 

 性格の変化後、体が強くなった筈の彼女が病院に行ったらしいと聞いて向かってみたのだが、そこで何と彼女が新しい"適性者"だという事実が判明したらしいのだ。微かなお情け程度に皆が口をつぐんだかと思えば、続いて絶叫が飛び出したのだった。

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