and 7【PERSONA M@STER】   作:ストレンジ.

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Jive Talkin'

 

 口に運んだ天ぷらうどんのイカ天を飲み込んでから素朴な疑問を朋ちゃんに尋ねた。

「さっきの占いの結果は、“行き”なんすか? いちおうカードに問題があったわけっすけど……」

「それ! それなのよね~、それを考えてたのよ。本来なら出るはずのないカードが出たわけだから、あたしのリーディングの腕前以前に、あれは適切な診断結果とは言えないんじゃないかって」

 ナプキンで唇のミートソースを拭いて麦茶を一口飲んでから、待ってましたな感じで朋ちゃんが言った。

「でも、あたしはあれを“正しい”結果だと解釈することにしました」

「……そりゃまたなんで?」

「さっきのあれでいちばんおかしかったのは『塔』が2枚出たってことなわけだけど、他にもおかしいところはあったのよ」

 そこまで言ってから、巻きすぎてそこそこ大きな塊になったパスタを頑張って頬張る朋ちゃんに合わせるようにこっちも食事を進めた。特に口を挟むこともなく淡々と話を聞いていた伊吹は、すでにメインの和風ハンバーグを食べ終えて、少し余ったおろしダレでサラダを和えていた。

「んグッ……。まずね、そもそも『塔』が2枚入ってたことのあり得なさについてなんだけど、これがもうホントにあり得ないわけよ」

「封入ミスだったわけっすからね」

「それもあるけど、あたしね、このタロットをリーディングに使ったのは今日が初めてだけど、中身はとっくの前に見てるわけよ。わかる?」

「……それも、そっすね……」

「今日買ってきたばかりのものじゃないし、占いには使ってなくてもカードを眺めたりはしてるわけ。1枚1枚手に取って、描かれているものの意味を解釈したり、単純に絵そのものを楽しんだりして。もちろんせっかく買ったんだから一度きりしか見ないなんてこともないし……。何度か眺めてるのよ、このデッキ。それなのに1枚余分に入った『塔』を見落とし続けるなんて、まったくあり得ない話ではないけど普通に考えたらないと思うでしょ? ましてやそれがリーディングに使ったとたん判明する。それにリーディングの対象者……沙紀ちゃんが、占い師に言われた言葉に含まれてた『愚者』も出てきてるし、おまけに言ったらその3枚は全部大アルカナなわけでしょ。タロットデッキの大アルカナ22枚と小アルカナ56枚って構成で、2倍以上枚数のある小アルカナがまったく出ないで大アルカナしか出てこないなんて……劇的過ぎるのよねぇ」

「そうは言ってもさ、起きないわけではないじゃん? 確かにさっきのあれはビックリしたけど、スロットでスリーセブンが揃うとか宝くじの1等に当選するとか、滅多に起こることではないけど、現に当たった人はどこかにいるわけじゃない? そういう“とんでもないバカヅキ”ってだけの話じゃない?」

 ひと足早くすべての料理を平らげた伊吹が言った。

「そのバカみたいなツキが……これはあたしの直感なんだけど、なんていうか、意図的に起こされた感じがするのよ」

「は? ……いや、どうやってよ?」

「それがうまくは言えないわけよ……。例えばね? 不思議な力を使えるなにかがいたとして、その力でこのリーディング結果をもたらして……」

 そこで朋ちゃんは急に黙ってしまった。

「なによ? 言ってる途中で妙なこと言ってるって気づいた?」

「妙は承知の上で言ってるわよ……なんなんだろう?」

 話を聞きながらアタシも食事を終えたが、朋ちゃんの言ってることの謎さに満腹感よりも違和感を覚えていた。

「えっとね、なにがしたいんだろうって思っちゃって。意図的にそんなことを沙紀ちゃんにして、なにがやりたいんだろうって」

「そもそもこんなことを意図的に起こせる不思議な力をもった誰かがいるってのがナニよ、って話なんですけど」

 箸で茶碗を軽くカンカン叩き鳴らして異議を申し立てるように伊吹が言った。

「“誰か”じゃなくて“なにか”よ」

「余計なに!? オカルトってこと?」

「オカルト……になっちゃうのかなぁ……。別に呪いとか祟りって言いたいわけじゃないのよ。とりあえず今の時代の科学力では解明して説明することができない“なにかよくわからないもの”としか言いようのない力があったとして、“なにか”はその力を使ってリーディングに介入して、あんな結果を出した。もっと言えば占い師と沙紀ちゃんが出会うきっかけ……『非日常的なこと』が沙紀ちゃんに起こるよう仕向けようとしてるのも、“それ”なんじゃないか……ってこと」

 

「………………」

 まばらにいた他の生徒はいつの間にか食事を終えていたらしく、気づけば席についてるのはアタシたちだけになっていた。

「なにを言いたいかわからないけどなにを言いたいのかはなんとなくわかった」

 少しの沈黙のあと禅問答みたいな返事を伊吹はしたが、なんというか、アタシも朋ちゃんの言ったことが指そうとしてるものはともかく、どういうことが言いたかったのかは感覚で理解できたから、そのよくわからない返答にも納得できる感じがあった。

「とりあえず、『介入者』……漫画かっ! みたいなのがいるってことを言いたいんでしょ。でもそれは朋的には人間の仕業とは言い切れない。むしろ積極的に『介入者』を人間以外の存在だと思ってる……でしょ?」

「……そうよ。信じられないだろうけど」

「別に。アタシの場合、朋の言ってることを信じるとか信じないとかじゃなく、話は面白い方に乗っかっておくってだけのことだし。ここにアヤなんかがいたら質問攻めにされてるかもね。それか話についていけなくて興味失くしてるか」

「アタシも特に……まあ信じるのとは違うけど、朋ちゃんの言ってること、とりあえずは受け入れられるかなぁ」

 そもそもこっちは実際にオカルトな体験をした身だからそういうのも飲み込めるようになったわけだけど。とはいえ、なにかがなにかをアタシに仕組もうとしているとか言われると、とりあえず受け入れるとは言ったものの得体が知れなくて怖い。

「あんたたち……ノリが軽いわねぇ……」

 感心と呆れが渦巻いた微妙そうな顔で言ってから朋ちゃんは残りのパスタをやっつけにかかった。もうミートソースは冷めてきてるだろう。食べ終わってから話した方がよかったかも。

「えーっ、朋だって受け入れてくれた方が話早くていいでしょ?」

 確かにあっさり信用されるのも内容が内容だけに妙な気持ちになるかもしれない。でも話の相手はアタシと伊吹なのだ。理屈よりフィーリング。オカルトめいた話でも、通るときは通ってしまう、そういうものだ。

「話が早いのは助かるんだけど、結局『非日常的なこと』の中身がはっきりしてないからアドバイスもぼんやりした感じでしかできないのよね……」

「もっと具体的に知れんのかね。何月何日何時何分、地球が何回まわったときになにが起こるのか」

「そんな小学生の口喧嘩みたいなとこまで正確にできるならやってるわよ。それにそれってもう占いっていうより“予言”よ、よ・げ・ん」

 言ってから朋ちゃんは麦茶を飲み干しコップを空にした。言われて気づいたけど、詳細まではわからないとはいえ文香さんとヘレンさんはアタシに“予言”をしたような形になってると言えなくもないのか。

「さて、食べ終わったんだし食器はさっさと下げようか。片付けの迷惑になっちゃいけないし」

 話の続きはまた談話室でということになり、3人揃って食堂からふたたび談話室へ向かった。

 

   *

 

 談話室は昼前とはうってかわって盛況で座る場所がなかった。壁掛け時計がなにげなく目に入る。13時35分。予定があるわけではないけどなんとなく連休の最終日が刻一刻と終わりに向かっていることにやきもきするものがある。

「あ、なんか用事あった?」

 よく見てるなぁ。朋ちゃんに言われてそう思った。朋ちゃんがどれくらいまわりの子を占っているかは知らないけど、人を見るわけだし観察眼が鍛えられているのかな。

「なにもないんすけどね、着々と連休が終わってくなぁって」

「悲しいことを言うのはよしてくれたまえ吉岡隊員。諦めたらそこでGW終了だよ」

「気持ちだけじゃ休みの日程は変えられないって」

「強い意志を持ち続けることで連休を持続させる能力に目覚めるのだ」

「その能力の会得は伊吹に任せるっす」

「アタシはすでに使えるが、この能力は能力者本人にしか適用されぬのだ」

「それじゃ単にひとりでサボってる人じゃない!」

「『飲むのど飴』飲んだことあるひと~」

 朋ちゃんのツッコミを完全スルーして、すぐ席に着くわけでもなく先頭を歩く伊吹についていく形で自販機の前まで来ると、ラインナップの中のひとつを指差して言った。

「ない。これたぶんけっこう前からあるよね?」

 紙パック専用の方の自販機で売られてる『飲むのど飴 ピーチ』。飲んだことないしピーチ味以外があるのかも知らない。150円もするし。商品名そのままの効能があるジュースなんだろうけど謎といえば謎な感じの飲み物だ。

「アタシもない。初見時に「なにこれ~!?」ってなるけどなんだかんだ飲んだことないジュースランキングNo.1。けど確かに初めて見たの一年くらい前な気するし、需要あるってことだよね。」

「あたし1回あるわよ。カラオケ行く前になんとなくで」

「どんなよ?」

「特に言うことないわね~。味は普通に人工甘味料系ピーチ味。のどの調子も……普通に良くなったかなぁって感じ。効果だけ求めるなら同じ150円でのど飴買ってきた方がいいと思う」

「それでよく生き残ってるわねぇ~」

「熱心なリピーターがいるのかもね。それかあたしみたいな『なんとなく買い』がけっこう頻繁にあって実は地味にいろんな人が買ってるとか」

「アタシはなんとなくでも特に買おうと思わないなー。高いからか。去年一時期……名前は覚えてないけど、炭酸入りの紅茶あったよね? あれは1回飲んだ」

「うえぇ? そんなのあったっけ?」

「えーっ沙紀知らない? って言ってもほんと2ヶ月もなかったくらいだったかもだから知らない人もいるか」

「あたしは知ってるけど飲みはしなかったわ。どうだった?」

「普通。もう普通に炭酸の入ったストレートティー、以上。って感じで普通においしくなかった。予想を越えるまずさでもなく普通にまずかったから虚無しか残らんかった」

「なぜ買ったし……」

「特価70円で地雷感バリバリで売られてたからね。出来心で1本いってみた。ああいうのが企画会議通って商品化されるいきさつ、めっちゃ気になるわ」

「なるよね~。気づいたらあとに引けないとこまで話進んじゃってたとかなのかな。もしくは最終的なGOサイン出した人的にはイケた、とか」

「いや普通にまずかったけどなぁー? カラダに良いとかでもなかったと思うし。まあ好奇心とか軽い罰ゲーム需要とか炎上マーケティング狙いとか、そういうんだったとか? ここの自販機だけでも20本くらいは売れたんじゃない。ぜんぜん知らないけど」

 そう言うと特になにを買うわけでもなく(きびす)を返して、壁掛けテレビの前に大きな木製テーブルがある、まわりを3つの長ソファーで『コ』の字型に囲った多人数向けのスペースで談笑しているグループに手をひらひら振って適当に挨拶する伊吹のあとを歩いて談話室を出た。

 

 とりあえずの行き場を失ったアタシたちは談話室を出て10mもしない、廊下の適当な地点に落ち着いてまたあてどもなく喋るのだった。

「なんなんすかね、占いの結果。というかアタシの今後の身の上? 的なのは」

「ひとまずのアドバイスとしては、具体的ではないんだけど、リーディングの『対策・注意』で出てきたカード……ダブりの『塔』の逆位置だったやつね。そこからヒントを読むくらいしかないわね」

「ヒント読むって言うけど『塔』にメリット的なものってあんの? そもそも『塔』って正しい向きと逆とでどう違うの? 逆のが余計悪いとか?」

 次々質問を投げかける伊吹に同意で、あれだけ悪い意味しかない『塔』にアドバイスの要素なんてあるものなんだろうか?

「『塔』はね、逆位置の場合は持続的な不安定さを表すの。『漠然とした不安』や『鬱屈した日々』、『先行きの見えない生活』……」

「やっぱダメじゃん。『漠然とした不安』とか、それが原因で自殺した小説家だっているのよ! アタシは詳しいんだから」

 なんだかよくわからない切り口から伊吹が塔を批判する。聞いている限りでは逆位置になると直接的より間接的というか、搦め手で攻めてくるような感じか。正位置が暴力なら逆位置はいじめ、みたいな。どちらにせよたまったもんではない。

「一応解釈によっては前向きな意味合いもなくはないのよ? 『ことは起きても大事件ではない』とか『終わったからもう安心』……みたいな感じの」

「アタシからしてみればそんなのぜんぜん前向きじゃないってーの。なにかよくないことが起きること前提の態度なんて不健全よ」

「あたしに言われてもなぁ……。そうね……解釈は人それぞれだから、あたしたちが『塔』のカードからポジティブなものを見つけて意味づけられれば、それだってひとつの立派な解釈になると思う」

 朋ちゃんはポケットから件の『塔』のカードをしっかり逆向きで見せてきた。

「ポジティブな面ねぇ……うーん……塔くんの~、ちょっといいとこ見てみたい~……あ、それ、あ、それ……」

 ブツブツ口ずさみながら『塔くん』のいいところを探す伊吹につられてアタシもカードを見つめる。

 この『塔』の絵には仮面や紙の束やなんかが崖に向かって落下している描写がある。落下しているものが逆位置なら……

「ブレイクダンス!」

 伊吹がいきなり叫んだ。言葉的には『ブレイクダンス』と言ったのはわかっているが、発音としては「ブレイッダァンス!」と言っていた。

「塔が逆さまになってるのがヘッドスピンをしようとしている姿に見えなくも……ない!」

「つまり……?」

「つまり……えーと、この塔はこれから大技で観客を魅了しようとしてるところ! つまり、『スターの素質あり』……そんな意味!」

「えっ!? 伊吹ちゃん、それもしかしてタロットの順番……『塔』の次のカードが『星』なの知らずに言ってる?」

「へー! そうなんだ? 知らなかった……じゃあけっこういい解釈なんじゃない? スターの素質あり……『明るい未来が待ってるよ』的なね」

 実に気楽に伊吹が言ってみせると、朋ちゃんは思いのほか嬉しそうに目を見開いていた。

「『先には希望が待っている』……うん、いいわね! 『塔』逆位置のポジティブな解釈! 現状の解決策を表してはいないけどっ!」

「うんうん。あと、“沙紀()には希望が待ってる”ってな意味合いもね……?」

 こっちの出方を探るような疑いの混じった笑顔で伊吹がアタシを指差した。

「えぇ~、ダジャレぇ~……?」

 引き半笑いで朋ちゃんがその言葉を迎え撃った。アタシもつられてジト目で伊吹の方を見てみた。

「思いついちゃったものはしょうがないっ!」

 居心地の悪そうな笑みを力強く浮かべて伊吹が釈明した。

「ま、あたしも“『塔』に入っては『塔』に従え”って言おうとしたけどね。伊吹ちゃんのが一枚上手だったかな」

 朋ちゃんもそんなことを言う。問題とアドバイス、どっちの結果にも『塔』が出てきたからか。伊吹のは本人的にも不意に出てきたものだったからそういう意味では上手……なのかもしれない。

「うまいかなぁ……?」

 当の本人はピンときてないみたいだ。もっとも、ダジャレの面白さについてあれこれ考えるのは不毛というものだ。

 当の本人……『塔』の(カードが出た)本人……は、アタシだ。

「……」

「やだ沙紀ちゃんそんな虚無な顔しないでよ。出来心みたいなものだから!」

 朋ちゃんがばつが悪そうに取り繕う。だいぶまずい顔をしてたみたいだ。この虚無顔は他でもないアタシ自身による思いつきダジャレの産物なのに勘違いさせて申し訳ない、そう思った。




書いてみたらまだペルソナが出てこなくて愕然としました。
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