古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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第一部 『現代入り篇』
開幕① 組み手


時は夕暮れ、とある武道場で二人の少年による実戦稽古が行われていた。

 

 周囲には空手の門下生が数十人以上おり、みんな真剣な目で二人の姿を凝視していた。

 

 片や黒帯の少年に対して、もう片方は白帯を腰に巻いた少年、帯の色だけ見れば空手の達人と初心者の実戦稽古となる。はっきりと言って無謀としか言いようがない。

 

 しかし帯の色など気にもしていないのだろう。門下生はもちろん師範代だと思われる中年の男性も当たり前のような態度を振る舞っている。

 

 胴着を着た中年の男性の右手を上げると、即座に下へと振り下ろすと同時に言葉を叫んだ。

 

「始め!!」

 

 胴着を着た中年の男性の合図と同時に実戦稽古が始まった。

 

 そして相手に身構える時間すらも与えないと言わんばかりに、黒帯の少年は一気に間合いを詰めた。

 

「うぉらぁ!」

 

 接近した瞬間、黒帯の少年は両手を地面に着きながら身体を縦回転させると、そのまま相手の顔面に向かって踵蹴りを繰り出した。 空手の蹴り技の一つ『胴廻し回転蹴り』である。

 

「いきなり大技だと!?」

 

「一撃で沈めるつもりか?」

 

 『胴廻し回転蹴り』は必殺の一撃とも言える空手の大技の一つ、恐らく一気に決着をつけようという魂胆なのだろう。

 

 黒帯の少年が大技を繰り出したことに周囲の門下生達は驚きを隠せず、唖然としていた。

 

「よし貰った!!」

 

 相手には避ける時間も余裕もなければ、この大技は例え防御をしても相当なダメージを与えるほどの威力を持っている。

 

 このとき勝負は決まったと黒帯の少年は確信していたのであろう。が、しかし。

 

 顔面に向かって飛んできた踵蹴りを白帯の少年は冷静に難なく左腕で受け止めると、周囲に強烈な打撃音が響き渡る。

 

 並みの人間であれば勝利していただろう。だが不運にも相手は常人ではなく、並外れた力を持つ化物だったのだ。

 

「そんなもんじゃ通用しねぇよ」

 

「おいおいマジか?」

 

 大技を片手で簡単に防がれたことが予想外だったのだろう、黒帯の少年は驚いた表情を浮かべる。

 

 しかし驚いている余裕はない。 黒帯の少年はその場から立ち上がって体勢をすぐに整えると、冷静になるために一旦お互いの間合いを空ける。

 

 それに対して白帯の少年は、相手が距離を空けて、インターバル取っても、ただ構えているだけで攻め込んでくる気配はまったく無い。

 

 白帯の少年は至って冷静であり、心身共に随分と余裕のある立ち振る舞いをしている。

 

「ほら、早く来いよ」

 

(ちくしょう、舐めやがって)

 

 白帯の少年の余裕な態度が気に食わなかったのだろう。黒帯の少年は拳を強く握り締め、怒りの形相を露にしている。

 

 集中力を研ぎ澄まし呼吸を整えた瞬間、溜め込んでいた怒りが爆発したかのように黒帯の少年は走って相手との間合いを詰めると、怒濤の連打攻撃を繰り出してきた。

 

 前蹴り、横蹴り、回し蹴り、膝蹴り、肘打ち、上段突き、中段突き、下段突き、手刀など、今まで自分が会得してきたあらゆる技を出し惜しみせずに全力で放った。

 

 だが、この世は非常に残酷だった。 

 

 黒帯の少年が全力で繰り出す攻撃の全てを白帯の少年は難なく回避してしまい、例え当たったとしてもいとも簡単に受け流してしまう。

 

 必死に何度も攻撃を仕掛けてくる黒帯の少年に対して、白帯の少年は避けたり受け流しているだけで、攻撃や反撃をする気配も様子はまったく無い。

 

「いい加減攻撃したらどうだよ!?」

 

「……………」

 

 防御や回避しているだけで、攻撃をまったく仕掛けてこない白帯の少年が許せないのだろう。黒帯の少年の怒りのボルテージが更に高まる。

 

「……喰らえ!!」

 

「………!?」

 

 強引に繰り出してきた変則的アッパーカットを受け流せず、ガードを抉じ開けられてしまい。遂に白帯の少年の顔面が無防備になってしまう。

 

 偶然にも巡ってきたチャンスを黒帯の少年は見逃さず、がら空きになった少年の顔面に向かって正拳突きを放ってきた。

 

(よし、これなら避けられねぇ)

 

 避けられる状態でもなければ、ガードする余裕すらない。 これなら命中するだろうと黒帯の少年は思っていた。 が……しかし。

 

「甘いんだよ」

 

 それに対して白帯の少年は上体を仰向けに後ろへと大きく曲げて打撃を回避する。

 

「これでも喰らいな」

 

 そして反撃の返し、白帯の少年はそのまま地面に両手を着いて、その場でバック転を二回すると同時に、相手に向かって二度の回転蹴りを放った。 俗に言う『サマーソルトキック』である。

 

「嘘だろ」

 

 突然の反撃に相手は驚きながらも、黒帯の少年は後ろをへと下がって回転蹴りをギリギリ回避する。

 

「あぶねぇ!!」

 

 しかし避けたのも束の間、相手の攻撃が完全に止まり、後ろに下がったことで白帯の少年は更なる追い討ちを仕掛ける。

 

 怯んだ隙を突き、次に白帯の少年は軽くジャンプすると、今度は空中で体を捻って横回転し、その勢いを利用して強烈な空中蹴りを三度入れる。

 

 それに対して黒帯の相手は咄嗟に腕を胸元で交差させて攻撃を防ぐ『十字受け』の構えを取り、放たれた少年の回転蹴りを何とか防ぐ。

 

「……ちっ、防ぎやがって」

 

「……ぐっ!!」

 

 あまりにも強烈な蹴りを受けた相手は威力を受け止め切れず、ガードしたまま後方に吹き飛ばされてしまう。

 

 ガード越しにでも身体の芯にまで伝わってくる蹴りの威力、まともに喰らっていたら間違いなく決着がついていただろう。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「どうやら持ちこたえたようだな」

 

 間合いを空けてインターバルを取る黒帯の少年、今の回避で集中力を大分削られ、かなりのプレッシャーを掛けられてしまった。

 

 一方、白帯の少年はプレッシャーを感じておらず平然としており、また呼吸を一切乱していなければ汗の一滴も出していない。

 

 アクロバッティックだが白帯の少年の動きに無駄はなく、超人的な技を何度も繰り出しているが、どれも空手とはまったく異なる技術であり、空手と呼ぶには程遠いものだった。

 

 このまま睨み合いをしていても埒が明かないと思ったのだろう。一気に決着をつけてやると言わんばかりに、両者ほぼ同時に地面を蹴り上げ、標的に向かって走り出した。

 

「今度はこっちからいくぜ」

 

 そして、手足を出せば確実当たる間合いまで詰めると、すぐさま激しい接近戦に持ち込んだ。

 

 黒帯の少年はオーソドックスな空手の技を使うのに対して、白帯の少年は変幻自在で変則的な攻撃や避け方で対抗する。

 

 両者一歩も引かず、避けたら攻撃を仕掛け、攻撃をしては避ける事を何度も繰り返す。高度で激しい攻防戦を繰り広げる。

 

 実戦稽古を見ていた門下生達は緊張しながら手に汗を握り締め、見惚れるように二人の攻防戦を眺めているだけだった。

 

 

……しかし

 

 

 一見互角のようにも見えるが、黒帯の少年は呼吸を乱しながらも必死になって闘っているのに対し、もう白帯の少年は焦りや緊張と言ったものは感じさせず、平然と落ち着いた表情で闘っている。

 

「ほら、どうしたよ」

 

「……ぐっ!」

 

 時間が経つに連れて、予測しようがない変幻自在な攻防をする白帯の少年の身動きに追い付けなくなったのか、黒帯の少年が徐々に押されていく。

 

 そして遂に黒帯の少年のガードを抉じ開けると、無防備になった顔面に向かって白帯の少年は右ストレートを放った。

 

……が、しかし。

 

「両者それまでだ。」

 

 トドメの一撃であっただろう、黒帯の少年の顔面にむかって放った右ストレートを紙一重で止める白帯の少年。

 

 もし止まっていなければ間違いなく黒帯の少年がKOされていただろう。

 

 お互い元の場所へ戻り、顔を向かい合わせる。長いようで短い攻防戦が終わったのだ

 

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

 

 両者共に頭を下げ、実戦稽古が終わる。

 

 そして実戦稽古が終わった直後、この道場の師範であろう、胴着を着た中年の男性に向かって白帯の少年は話しかける。

 

「それじゃあ俺はこれで失礼します」

 

「あぁ、門下生の実戦稽古の相手になってくれて今日は助かった。 また機会があれば頼むよ」

 

「はい」

 

 そう言って中年の男性に対して頭を下げると、少年は稽古での疲労をまったく見せずに、そのまま道場から去っていく。

 

 一方、もう片方の少年は呼吸を乱し、全身から大量の冷や汗を流しながらも、仲間がいる所へと足を運んでいた。

 

 そしてその直後、見学していた一人が実戦稽古を終えた黒帯の少年に向かって気安く話しかけてくる。

 

「見学させて貰ったけど中々良い勝負だったぜ、県大会優勝経験者さんよ」

 

「冗談じゃねぇ、動きがわからない上に、プレッシャーと威圧感だけで押し潰されそうだったぜ。

 それに、あの一撃喰らってたら間違いなく俺が終わっていた。」

 

 仲間からタオルを貰って汗を拭う。

 

 しかし実戦稽古が終わっても、どんなに拭っても汗は止まることはなく、滝のように汗が流れ続ける。それだけ相手のプレッシャーが大きかったということだ。

 

「しかし勿体無いよな、あんなに強いのに何処の武道にも属さないなんて」

 

「あいつにはあいつだけの流派がある。 だから何処にも属さなくても強いんだよ」

 

「つまり我流ってことか」

 

「あぁ、俺達と差ほど変わらない歳の野郎がな、実戦で扱えるほどの我流武術を作り出すなんて、化物としか言いようがねぇな。」

 

「それは同感だよ。あいつは全国どころか、世界すら取れる器と力を持っているからな」

 

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