古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
移動してから数十分後のこと、二人は特に何もなくショッピングモールへと着いた。
ショッピングモールに到着すると幽々子は食べ歩きや初めてのゲームセンターに行くことを楽しみしており、無邪気な子どものように目を輝かせていた。
一方の大和は千切れるような腕の痛みから開放されて、ようやく生きた心地がした。
予想外だった。まさか幽々子さんがかなりの健脚の持ち主だったと言うことに驚きを隠せなかった。 更に大の男を、況してや身体を毎日鍛え込んでいる奴を強引に引っ張り回す馬力を持っているなんて誰が予想したことか。
「腕千切れるかと思ったわ」
「休んでないでほら、早く行きましょうよ」
「この人マジで容赦も躊躇いもねぇよな………わーかったよ、すぐに行くからちょっと待ってろ」
腕を速急に揉んで痛みを解すと、大和と幽々子はショッピングモールへと入っていった。
ショッピングモールに奥まで歩いて入っていくと、食品コーナや服屋に続いて、目的であるゲームセンターや食べ物屋などが見えてきた。
特に食べ物屋は色々とあり、ステーキ屋やラーメン屋、たこ焼き屋やたい焼き屋など、主食からデザートまで幅広いジャンルの食べ物が並んでいた。
ゲームセンターもチラッと見えていたが、やはり花よりも団子、幽々子は色々とある食べ物屋を見て目が釘付けになっていた。
それも無理はない。冥界にいた者に取っては見たことのない食べ物ばかり、寧ろ好奇心旺盛で食いしん坊である幽々子に無視しろと言うにはとても難しいことであろう。
そんな食べ物屋を目の前に目をキラキラと光らせている幽々子を見て、大和は随分と楽しんでいるそうだと思う反面、財布が持つだろうかと心の中で苦しんでいた。
しかし、金が無いから食べれないと言ってがっかりさせるのは嫌だと思ったのだろう、大和は苦渋の決断をして幽々子に話し掛ける。
「好きな物好きなだけ腹一杯食べなよ」
「ホントに!?」
大和のその一言に幽々子は目を輝かせて聞き返すと、その場でクルクルと回りながら過剰ではないのかと思うほどに喜んだ。余程色んな食べ物が食べたかったのだろう。
このとき大和は幽々子の純真無垢な喜びぶりを見て、正直財布の中身がどうなっても良かったと思ってしまった。
「さぁ、早く行きましょ」
「そんな慌てんなよ、ゆっくり行こうぜ」
はしゃぐ幽々子に大和がついて行こうとすると、偶然通りがかった見知らぬ男に肩をわざとぶつけられる。そして。
「あんだてめぇ、いきなりぶつかってくんのは喧嘩売ってんのか?」
ぶつかってきたのは相手だと言うにも関わらず、理不尽にも大和のせいだと男に喧嘩腰で話し掛けられる。そして更に追い打ちを掛けられるかのように。
「なになに、どうしたの?」
「こいつがぶつかってきたんだよ、マジで意味わからんくない?」
「それは見過ごせないね、制裁しなくちゃ」
不運にもぶつかってきた男には二人の連れがいたのだ、合計三人の男が大和を円を描くように取り囲んで来る。
そんな大和を見て幽々子は危機を感じたのだろう、食べ物屋に行くことを一旦止め、恐ろしげな表情を浮かべながら大和の元へと行こうとする。
だが、自分の元へと来ようとした幽々子に対して来るなと言わんばかりに、大和は幽々子がいる方向に向かって手の平を前に出した。
来るなという大和の合図を見ると、幽々子は心配しながらもその場で足を止めて大和の元へ行くことをやめる。
そして幽々子が来ないことがわかると、大和は穏便に男に話し掛けた。
「ぶつかってすいません、許してくれませんかね」
「ふざけんじゃねぇよ!!」
突然男はブチギレだし、大和の腹部に向かって思い切り拳を叩き込んできた。
しかし、不意に打撃を喰らっても大和は倒れるどころか痛そうな素振りもしない。 だが、そんなことは男達に取ってはどうでもいい事だった。
「許す訳ねぇだろカスがよ」
それだけでは終わらず、次に男は蹴りを入れて大和を無理矢理地面に倒れさせた。
そこからとても悲惨な光景だった。三人が一人を寄ってかかって殴る蹴るの殴打の応酬、周りの目なんて気にもせず男達は大和をリンチした。
普段の大和なら簡単に返り討ちにできただろう、しかし今回の大和は殴られ蹴られるがまま、一切手を出さなかった。
そして数分の間ずっと攻撃をして気が済んだのか、息を切らしながら男達の手足は止まり、ようやく殴打が嵐が止んだ。
「はぁ……はぁ……どうだ思い知ったかゴミが」
「早くずらかろうぜ、こいつ動かなくなったし」
「それにしてもこいつ身体硬すぎじゃねぇか、こっちの手足がイカれそうだったわ」
大和をボコり終わると三人の男達は警察が来る前にその場から逃げるように立ち去った。
男達がいなくなると、心配そうな表情を浮かべた幽々子が倒れている大和の元へと駆け寄り話し掛けてくる。
「ねぇ大和、起きてよ。」
しかし、大和は返答をするどころかピクリとも動かない。更にボロボロになった大和を見るに連れて次第に幽々子の表情が曇りだす。
すると突然のことだった。まるで何も無かったかのように大和がヒョイッと立ち上りだした。
そして、服の汚れをポンポンを手で払い綺麗にする。
突然の出来事に幽々子は驚きを隠しきれず、一体何が起こったのかわからないような表情を浮かべていた。
「ったく、服が汚れちまったじゃねぇかよ」
「大和、大丈夫なの?」
「あっ? まぁな、別に何とも無いよ」
ただ服が汚れただけで、ダメージはほとんどと無いと言うか、ほぼ無傷みたいなものだ。 だから痛みもほとんどないし、武尊の攻撃に比べてみれば無痛も良いところだ。
あんなテレフォン攻撃なんて例え二十四時間喰らっても俺には何のダメージも入らない。 本当に俺を仕留めたいと思うなら刃物や拳銃でも持ってこいと言ってやりたい。
「さてと、それじゃあ行くか」
さっきの揉め事が無かったかのように、大和は平然とした表情で食べ物屋に行こうとする。
「……うん」
取り敢えず大和の身体が何とも無いなら大丈夫だと思ったのだろう。幽々子は気を改めて今は食べ物屋で精一杯楽しもうと考えた。
二人は食べ物屋を楽しく歩き回る。
まず二人が来たのはタコ焼き屋、最初に粉物を選ぶのは胃的にキツイと思うが、大食の幽々子さんなら問題無いだろう。
熱々のたこ焼きを初めて見て目を輝かせる幽々子、今にも物理的に食い付きそうな表情だった。
「何個食う?」
「取り敢えず十個頂こうかしら」
「十個!?」
腹に良く溜まるたこ焼きを一気に十個頼む幽々子、それには流石の大和の驚きを隠せなかった。
取り敢えず、取り敢えずだ。 幽々子の言うとおりたこ焼きを十個買おう。もしかした、これでお腹いっぱいになってくれる可能性も無いわけでは無いと思うから。
大和は店にいた店員に向かってたこ焼きを頼む。
「すいません、たこ焼き十個お願いします」
「はい、合計6800円になります。」
(………まじかよ)
たこ焼きでこんなに金を使うのは初めてだった。 これからまだまだ食い物に金を使うと思うと、この先が心配で仕方がない。
たこ焼きがやってくると、近くにあったフードコートのイスに座って幽々子はたこ焼きを食べ始める。 このとき大和は何も食べずに、幽々子の食べている姿をただ眺めているだけだった。
「これおいしい、外はカリカリで中はふわふわ、こんな食べ物の初めてだわ」
物凄くおいしそうにたこ焼きを食べている姿を見て、大和はまるで可愛らしく食べ物の食べる小動物を見ているような感覚だった。
良く考えてみれば、こうして女の子と一緒に遊びに行ったり飯を食いに行くことなんて今までなかったな、まぁ、今までトレーニングが忙しくて彼女作る時間も友達と遊ぶ時間もなかったし。
これが俗に言うデートと言うものなのかと大和が頭の中で考えている最中。
「御馳走様」
「えっ?」
気がつけば十個あったはずのたこ焼きが数十分も経たずに無くなってしまった。 あまりの早さに流石の大和も度肝を抜かれてしまう。
自分も食べるのは他人と比べれば早いほうだが幽々子の食べる早さは次元が違った。 出来立てのたこ焼き十個、況してや熱々のやつを、ほんの数十分程度で食べるなんて常人にはとてもながらできないことだ。
「さてと、次は何を食べさせてくれるのかしら?」
おまけにたこ焼き十個食べてもまだ空腹だと言い切るのか。 普通の人間なら苦しくて身動きも取れないというのに、一体どんな胃袋しているのか検討もつかない。
「そうだな次は……」
それからは食べては別の店に行き、そして食べ終えては次の店に行くことの繰り返しの連続だった。
結局のところ、それから店を数十件回ることになり、その結果と言えば、数時間後には5万近く入ってたはずの財布がスッカラカンになってしまった。
お札どころか小銭すら無くなった財布の中身を見て大和はかなりがっかりとしてしまう。
(新しい武器とか買いたかったんだけどな)
「大和、今日は御馳走様、とても満足したわ」
「そっ……そうか、それは良かったな(まぁ良いか)」
胃が満たされて満足そうにしている幽々子を見て、大和は今日くらいは良いかと思った。
食べ歩いてる間ずっと俺は特に何も食べなかったが、幽々子さんが笑顔で食べ物を食べている姿を見ていると、何かはわからないが不思議なもので腹が満たされるような感じがしていたので空腹にはなっていない。
沢山食べて満足している最中、幽々子はとあることをふと思い出した。
「そういえば、まだげーむせんたーってところに行ってないわね」
「今日は流石に行けねぇな、金も無くなったし」
別に行くだけなら構わないのだが、仮に行ったとしても金が一文もないので何もできず、つまらない時間をただ過ごすだけだ。できるなら今日のところは行かないでまた今度にして欲しい。
「そう、なら良いわ。 今日は沢山御馳走になったことだし、ありがとうね。」
融通が利く子で良かった。 もしこれでゲームセンターに意地でも行きたいと駄々を捏ねられたらどうなっていたことやら、いや、そんなことは幽々子さんに限ってありえないことか。
「さてと、それじゃあ帰るか幽々子さん」
「うん、今日はありがとう」
二人はお互いの身体を親密に身を引き寄せ合ふいながらショッピングモールから出ていくと、屋敷のある方向へ向かって歩いていく、その光景はまるで相思相愛の恋人同士そのものだった。