古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
《◆◇◆◇高校 一年A組の教室》
翌日のこと、大和と幽々子の二人は学校に通っていた。
大和が通う◆◇◆◇高校、生徒の人数は多くも少なくもないが、この学校の特徴としては運動部が毎年優れており。全国大会に出場することも少なくはない。
大和がいる一年A組の教室は二階にあり、教室の中には30人程の生徒がいる。今日の天気は極めて良好、窓からは明るい日の光が流れ込んできて、教室内の温度は結構暖かい。
「それじゃあ授業始めるぞ」
黒板の前で先生がそう言うと、クラス全体は教科書や筆記用具を机の上に置いて、いつものように授業を始めようとする。
だが何時もの授業とは違い大和は緊張していた。
「……んっ? どうした草薙、そんなに固まって?」
緊張してるような感じで少し様子がおかしい大和に気がついて話しかけてくる先生。それに対して大和はすぐに答えを返してくる。
「いえ、別に何でもないですよ先生、ははは……」
「そうか、ならさっさと準備をしろよ」
「……はい」
心配してくれている先生に気を使わせないように大和は愛想笑いを浮かべる。だが内心は緊張と不安で胸がいっぱいで仕方がなかった。
しかし大和がそうなるのも無理はない。何を隠そう教室の一番後ろで幽々子が授業を参観しているのだから。
(どうしてこうなった!?)
なぜ幽々子が大和の通う学校に来ているのか、その理由は昨日草薙家で起きた他愛もない話し合いまで遡る。
《~時は遡り昨日~》
ショッピングモールでのデートのようなものが終わって家に帰った後、家族で夕食を食べていた時に武尊がこんなことを聞いてきた。
「そういえばよ大和、お前明日学校だろ?」
「だからどうしたんだよ?」
「ゆゆちゃんのことさ、何時間も一人で家に残すわけにはいかないだろ」
「それもそうか」
確かに武尊に言われてみれば、幽々子さんを屋敷で一人にするのは心配なことが沢山ある。 だからと言って学校を休むわけにはいかない。 大和はどうしようかと迷っていた。
だが、大和が迷っていたのも束の間、武尊がすぐさま大胆な提案をしてくる。
「なんならいっそのこと学校に連れて行っちまえば良いだろ? 俺も手伝ってやるからよ」
「でも、それ大丈夫かよ?」
「んなの適当な事情を話せばなんとかなるだろうが、お前はいろんな事を考えすぎなんだよ」
「それもそうか」
確かに武尊の言っていることには一理ある。 俺が上手く誤魔化せば第一の難関である先生も納得するとは思うし、学校にも何の問題もなく行くことができる。
要は幻想郷やら冥界やら変な事は言わずに、現実的な嘘を言えば良いのだ。 そうすれば余程のことがなければ嘘がバレることはない。
「そういうことだ、わかったら飯食った後に俺の部屋に来い。 偽造の手伝いをしてやるからさ」
「響き悪いけど、まぁ良いか。 わかったよ、片付け終わったらすぐに行く」
飯を食い終えて食器などの片付けを終えた後、俺は武尊の部屋に行って幽々子さんを学校に行かせるための嘘を二人で考えたのだ。
《〜そして現在に至る〜》
学校に登校後、職員室にいる先生に俺と武尊が偽造した幽々子の理由や事情を怪しまれないように話して、何とか先生に幽々子の入校許可を貰った。
ちなみに理由や事情の内容は、幽々子は最近自分の家に住むことになった親戚で、俺の通っている学校の授業風景を見たいと言う設定だ。
それから先生に怪しまれないためにも、それ等の設定を学校に登校する前に幽々子に覚えてもらった。
授業が始まってから数十分後、先生が黙々と黒板に授業に関することをチョークで書いているのに対し、一人を除いて生徒達も先生が黒板に書いていることをひたすらノートに書き写している。
「とゆうわけで草薙、これの答えを言ってみろ」
「……えっ?」
突然、先生にこの問題の答えを言ってみろと指名されると、それに対して大和は申し訳なさそうな表情で返答する。
「すいません、わかりません……」
運動などの身体を動かすことは生き甲斐のレベルで好きだが、どうにも勉強に関しては不得意だし何よりも頭を使うことが苦手だ。
その直後、大和を怒らせたいのか、それとも笑い者にしたいのか、どちらにしても近くの席に座っていた白瀬が大和を煽るように突っ掛かってくる。
「あっはははは草薙っ! この程度の問題も解けないのかよ!?」
「じゃあ白瀬、そんなに余裕があるのなら、お前が答えてみろ」
「ははは先生、俺は授業聞いていなかったから、まったくわかりません!」
煽られた大和ではなくてもこの態度は許せなかったのだろう。怒鳴りはしなかったものの先生は静かに怒りを沸々とたぎらせている。
「おい白瀬、このあと何時も通り職員室へ来い」
その先生の一言だけで生徒全員はすぐに悟る、これは確実に説教タイムのパターンだと。まぁ当然の報いと言えば当然の報いなのだから仕方がないが。
ふざけていると言うのか賑やかと言うのか、そんな授業風景を後ろで見ていた幽々子は不思議そうな表情を浮かべている。
(とても賑やかね、これがこの時代の学問なのかしら?)
だが授業の内容はさっぱりわからない。なにせ文字も黒板も、生徒の服装も、全て今まで見たことがないような物ばかりだったからだ。
授業を聞いていくに連れて、初めて聞く事や、わからないことが沢山あるが、幻想郷では学べない現代に関することを学べるので、これはこれで良かったと思う。
あれから数十分が経過した後、校舎内に授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「よーし今日の授業はここまでだ。 次の授業に遅れるなよ」
ようやく授業が終わり、クラス全員が立ち上がって号令をした後、ドアを開けて白瀬と一緒に先生が出て行こうとする。
教室から先生と白瀬が出ていってドアが閉まった途端、一息ついた後に大和が教室の後ろに立っている幽々子の元に行こうとする。
「さてと、それじゃあ幽々子さぁ……っ!」
ちょっと話をしようと思って大和が幽々子に近づこうとすると、その直後にクラスメイト達が大和を思いきり押し退けて幽々子の周りにどんどん集まってくる。
その際、大和はクラスメイトに押されたり踏まれたりした挙げ句、突き飛ばされて壁に激突し、何もしていないのに身体中がボロボロになってる始末だった。
しかし、そんなボロボロになった大和をクラスメイトは誰も見る気もせずに、ただ幽々子の元へと向かっていくだけだった。
「幽々子さんはどこから来たの、出身地は?」
「ねぇ幽々子さん、いつから草薙君の家に住んでいるの?」
「めっちゃ美人ですね、彼氏とかいるんですか?」
「……えっ? えーと、その……」
まるで転校生がやって来たような感じで幽々子に質問攻めしてくるクラスメイト達、それに対して幽々子は四方八方から飛びかかってくる質問に戸惑いを隠しきれなかった。
幽々子が質問攻めにされている最中、群がっているクラスメイトを押し退けて大和が幽々子に向かって少しずつ近づいてくる。
「……ったく、しょうがねぇな。ほらほらちょっと、みんな退けてくれ」
クラスメイトを頑張って掻き分けて幽々子に向かって行くに連れて、何だか朝の満員電車に乗った気分になってくるのは気のせいだろうか。
そしてようやく、幽々子の周りに集まっている集団を抜けると、疲れたような表情を浮かべながらも大和は幽々子の前にやってきた。
「騒がしくてごめんな、とりあえず静かな場所に行こうか」
そう言うと何を考えているのか、本人の許可を取るどころか大和は何も言わずに幽々子をお姫様抱っこすると、膝を深く曲げて思いきり跳躍しようとする。
「……えっ? ちょっと大和!」
突然お姫様抱っこをされた上に、況してやクラスメイトの前だったので幽々子は驚きと恥ずかしさを隠すことができず、顔を真っ赤にしてかなり動揺していた。
そして跳躍した瞬間、大和はクラスメイトの頭上を容易に飛び越えて華麗に着地すると、そのまま扉を開けて教室から走って出ていってしまう。
「……よっと、じゃあなぁー」
「……あっ! ちょっと草薙くん何処に行くの?」
「まだ幽々子さんのこと全然聞いていないのに」
しかし大和はクラスメイトの話に聞く耳も持たずに、風のように速く幽々子を連れて逃げ去って行った。
……スタタタタタッ
走って教室を出てから間もなく、大和は人気のない屋上へ幽々子と一緒にやってくる。
そして誰か追跡してきた奴はいないのかと、大和は後ろを振り向いて人影や人の気配が無いかをしっかりと確かめる。
「ふぅ~よかった、どうやら誰も着いてきていないようだな」
まぁ端からわかっていた。正直クラスメイトが俺の走るスピードに追い付けるはずがない。俺に追い付ける奴がいるとしたら、並外れた運動神経を持っている奴かオリンピック選手ぐらいだろうし。
大和が後ろを振り向いている最中、幽々子は恥ずかしいと言わんばかりに顔を赤くしながら大和に対して話しかけてくる。
「ねぇ大和……そろそろ下ろしてくれないかしら?」
「……あっ、ごめん。すっかり忘れてた」
冷静にさっきのことを振り返ってみれば、俺は本人の許可も取らずに、無断で幽々子をお姫様抱っこして、教室から屋上まで連れて来てしまったな。
そう言われると大和は、幽々子を地面にゆっくりと降ろした。
「俺たちがここにいることは誰も知らないし、人もあまり来ないと思うから、当分静かだと思うよ」
とは言うものの、大和は心配していることが一つだけあった。ごく稀に、学校の授業をサボってこの屋上にやって来る不良達ことを知っていたからだ。
まぁだけど、今日に限って屋上に不良達が来ることはないだろう。
「ここはとても良い場所ね、開放感があって静かで、それに景色の眺めも良いわ」
「ははは、気に入ってくれて良かった」
確かにこの屋上は周りにある建物から遠くにある建物など、色々な物を見渡すことができる。
それに天気が良ければ太陽の日差しを浴びたり涼しげな風が吹いてくるので、昼寝やひなたぼっこには最適な場所だと思う。
そんな事を話している最中に、大和はもうそろそろ休み時間が終わってしまうことに気が付くと、次の授業に遅れる前に教室へ戻ろうと準備をする。
「俺は次の授業のために今から教室に戻るけど、幽々子さんも一緒に戻るかい?」
「ううん、もうちょっとここで景色を楽しんでいるわ」
「そっか、それじゃあ午前の授業が終わったら弁当持ってまた来るからな」
そう言い終えると大和は幽々子を屋上に一人残し、次の授業に遅れる前に走って自分の教室に戻っていった。
《それから数時間後のこと》
全力で教室に戻ったことでギリギリ遅れることなく二時間目の授業を受けることができた。
それからその後も、何もなく次々と授業が終わり、ちょうど昼休みに入った時のことだった。
「おい草薙、体育館でバスケしようぜ」
「急に何だよ? 俺をバスケに誘うなんて珍しいじゃねぇか」
「別に良いだろ誘っても、たまには俺たちの遊びに付き合えよ」
正直なことを言うと遊びの誘いにはあまり乗りたくはない。 それは何故か、それは至極単純なこと、ろくな目に合わないからだ。
今回の場合、こいつらが気さくな笑顔を浮かべながら遊びなどに誘ってくる時は、裏で何かを企んでいたり、俺をからかったりすることが多い。
「……それにさ、幽々子さんも連れて行けば、カッコいいところ見せれるだろ?」
面白半分で大和にそう言った直後、クラスメイトが教室を周りを見渡して幽々子を探すと、それと同時に教室内に違和感を感じた。
「……って、あれ? そう言えば肝心な幽々子さんがいなくね?」
ずっと真面目に授業を受け続けていたせいか、克己の発言により、午前の授業が終わったら屋上にいる幽々子に弁当を届けに行く約束を今思い出した。
「……やべぇ、すっかり忘れてた!」
急いで屋上にいる幽々子の元に行こうと、大和は机の横に掛けてあった大きなカバンを手に取って立ち上がろうとする。
「おい草薙……一応聞くが、そのカバンに何が入っているんだよ?」
「何って、幽々子さんの弁当だけど」
「いやいや、ありえねぇよ! カバン一つ分の弁当なんて」
見えているのはカバンだけだったので、クラスメイトからしてみればカバンの中に一体どんな弁当が入ってるのかわからないと思うが、恐らく豪勢な弁当を想像していることは確かだろう。
ちなみにカバンの中に入れてあるのは、弁当箱は五段積みの重箱、中にはごはんやおにぎり、肉類や野菜類など、俺が早起きして作った様々なおかずが敷き詰められている。
「……うっせぇな、別にどうでも良いだろ」
屋上へ向かうために大和は椅子から立ち上がって弁当の入ったカバンを背負うと、そのまま急いで教室を出て行こうとする。
「それじゃあ幽々子さんのところ行ってくるから、てめぇら俺の後つけてくんじゃねぇぞ」
「ついてなんか行かねぇよバァーカ、さっさと幽々子さんところに行ってこい」
「……うっせぇな、言われなくても行くよ」
そう言うと大和は教室を飛び出して幽々子がいる屋上へと向かって走り出した。
そして屋上に向かっている最中、大和は何か嫌な予感を感じていた。