古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十一話 幽々子の危機

《一方その頃》

 

 

 屋上手すりに寄りかかりながら、屋上から見える町並みをずっと眺めていた。

 

 石畳のような地面、馬車馬よりも速く鉄の乗り物、白玉楼とはまったく違う造りの様々な建物、そんな冥界では存在しない物や景色が沢山あった。

 

 正直な話、ここから眺める景色を飽きることなくずっと見続けることができそうだった。

 

………グゥ~

 

 しかし、ただじっとして景色を眺めているだけでもお腹は減ってくる。そう言えば、あれから結構時間も経っていることだし、もうそろそろお昼になる時間帯だろう。

 

「そういえばお腹空いたわね、大和ったら早く来ないかしら?」

 

 大和は午前の授業を終わったら弁当を持って屋上に来ると言っていたし、ここで待っていたらその内にやって来るだろう。

 

 そんな事を考えながらも幽々子は大和がお昼の弁当を持ってきてくれるのを期待と楽しみを抱きながら待ち望んだ。

 

 しかし幽々子の期待と楽しみは容易に裏切られ、その代わりに招かれざる客がやって来た。

 

「……はぁ~ やっと終わったな」

 

「久々に授業受けたけど、やっぱりだりぃな」

 

「大体あんな授業、何の役に立つんだよ?」

 

 授業の愚痴を溢しながら屋上にやって来た三人の不良達、それぞれの手にはパンなどの昼ごはんと思われる食べ物が入った袋をぶら下げている。

 

 学校終わったら帰って何をしよう。いや、逸そこのまま授業サボって帰ろうかな、そんなことを考えながら何気なく屋上に足を踏み入れると、不良達は幽々子の存在に逸速く気づいた。

 

「おい見ろよ、そこに女がいるぜ」

 

「あれうちの制服じゃねぇな、ここの学生じゃねぇのか?」

 

「そんなことはどうでもいいだろ、それよりもやることがあるだろう?」

 

 言葉を交わさずとも、まるで今からやることを理解しているかのように三人の不良は不気味な笑みを浮かべながら、お互いの顔を合わせながら頷くと。

 

 

……ガチャリ

 

 

 ばれないよう静かにドアの鍵を閉めると、三人の不良達は下心がある笑みを浮かべながら幽々子に近づいていく。

 

「どーもお姉さんこんにちは、こんなところで何してんですか?」

 

 突然、後ろから声を掛けられると、一体誰なのだろうと言わんばかりに幽々子は声が聞こえてきた方向を振り向いてみる。

 

「あっ…貴方達は誰なの?」

 

「別に怪しい者じゃないっすよ、ただちょっとお姉さんとお友達になりたいだけで……」

 

 その際、近づいてくる三人の男達の表情を見た瞬間、何かに感付いたと言わんばかりに幽々子は三人の男達を警戒した。

 

 そう、以前に公園と言う場所で絡んできた人達と同じく、欲深くて卑しいことしか考えていない人達だということを認識したからだ。

 

 だが、どんなに男達を遠ざけようとしてもここは屋上、逃げ場が無くなるばかりな上に、今は自分を守ってくれる大和が側にはいない。

 

「……やだっ! 来ないで!」

 

 相手は三人、屋上には逃げ場が何処にもなければ、助けも来ない、もうダメだ。これから自分はこの人達に何をされてしまうのだろう。

 

 そんな抵抗のしようがない最悪な状況とこれから何をされるかわからない恐怖が幽々子の頭を過らせる。

 

 それに、もうこの状況ではどうしようもないと悟ったのだろう、幽々子が抵抗することを諦めようとした、その時。

 

 

……ガチャガチャ

 

 

 男達が幽々子に触れようとした瞬間、誰かが屋上のドアを開けようとする音がしてくる。

 

 それに対して突然の出来事だったのだろう、不良達は思わず驚いて後ろを振り向いてしまう。

 

「……あれ、ドアが開かねぇ? ……あっち側から鍵を閉められているな」

 

「……大和っ!」

 

 ドアの向こうから聞き覚えのある大和の声が聞こえた瞬間、来てくれたことが嬉しいと言わんばかりに幽々子は泣きそうな表情で思わず大和の名前を叫んでしまう。

 

 その際、三人の男達は一時的に焦ったり驚いたりはしたものの、ドアに鍵が掛かっていることを思い出すと、安心すると同時に冷静さをすぐに取り戻した。

 

「あっぶねぇ良かった、ドアの鍵掛けといて」

 

「ったく誰だよ、こんなところに来る奴は?」

 

 しかし不良達がドアに鍵が掛かっていることで誰も入れないことに安心しているのも、ほんの僅かな時間だった。

 

 鍵を閉められて屋上に入れないことがわかった直後に、大和は少し間を空けてから鉄で作られているドアに一発蹴りをいれる。

 

……ゴッシャーン!!

 

 そして蹴られたドアは鍵や丁番が完全に破壊されると同時に、ドアの形状が『く』の字に変形した瞬間、空高く派手に吹き飛んでしまった。

 

 それから、まるで何も無かったかのように、大和はなに食わぬ顔を浮かべながら屋上に歩いて入ってくる。

 

「へぇ~初めて蹴ってみたけど、意外と脆いもんだな、学校のドアってのは」

 

 木製やガラスで作られたドアならともかく、頑丈な金属製のドアが壊れるとは思ってもいなかったのだろう。三人の不良達は度肝を抜かれて驚きを隠せない状態に陥っていた。

 

「うっ…嘘だろ?」

 

「ドアを…ぶち壊しやがったぞ…あいつ」

 

 ここにいる三人の不良だけではなく誰もがわかっていることだ。品質や劣化で強度はそれぞれだが、それでも金属製のドアはそんな簡単に壊れるものではない。

 

「……さ~てと、幽々子さんは……どこにいるのかな?」

 

 屋上を隈無く見渡して大和はすぐに幽々子を見つけて、それと同時に見知らぬ三人の男の存在を確認した直後に。

 

「……あれれ? 誰かと思えば先輩方達、屋上の鍵なんか閉めて何しようとしてたんですか?」

 

 どうやら屋上にいたのは幽々子だけではなく、校内で不良として有名な先輩達も来ていたらしい。

 

 だが不良とは云えども相手が年上だったので一応礼儀を(わき)えたのか、大和は敬語で先輩方に話し掛けくる。

 

 そんな敬語で話し掛けてくる大和に対して三人の男達はまるで威嚇をするように大和を睨み付けてくるだけで、質問に返答しようとする気配は一切なかった。

 

「こいつ見ねぇ顔だな」

 

「一年坊か、こいつ?」

 

「何だてめぇ、どこのクラスだよ…おい?」

 

 先輩方が自分の質問に答えなかったせいか、それとも別の事でなのか、どちらにしてもさっきまで温厚に敬語を使っていた大和の表情や態度は一気に豹変する。

 

「おいおい……てめぇらはバカか、聞いてンのはこっちなんだよ……つべこべ言わずにさっさと答えやがれ!」

 

 威圧感とも言えるほどの殺意と怒りを周りに放って相手を圧倒する大和、怒りのあまりに鬼の形相とも言えるぶちギレた表情を浮かべている。

 

 そんなぶちギレている大和に対して、不良達は反発するどころか、威圧感のせいで一時的に身動きが取れない状態に陥ってしまった。

 

「おっ…おい、なんだよこいつ? 殺気丸出しじゃねぇかよ」

 

「バカ野郎、俺に聞くな! こんなヤバイ奴が学校にいるなんて、誰からも聞いたことねぇんだからよ」

 

「少なくともこの一年坊、俺達を逃がす気も許す気もなさそうだぜ」

 

 どうやら不良達は相手の規格外な戦力を瞬時に見抜いても尚、尻尾を巻いて逃げ出さずに真っ向から挑もうとするらしい。

 

 男達は手に持っていた袋を地面に投げ捨てると、手の関節をポキポキと鳴らしながら大和に近づいていき、喧嘩の構えを取った。

 

「あんたら既にわかってると思うが……無事に帰れると思うなよ!」

 

 売られた喧嘩を買うと言わんばかりに大和も背負っていたバックを地面に下ろす。

 

 そして即座に拳を握り締め、闘争心と殺気を剥き出しにしながら戦闘体勢に入った。

 

 たかが校内で有名な不良、況してや素人相手にこんな殺意などの気迫を放つのは、恐らく大和はぶちギレているのだろう。

 

 それくらい不良達が幽々子に何かをしようとしたことが大和の気に触ったのか。

 

「へっ、一年坊が調子に乗ってんじゃあねぇよ!」

 

「吠え面かかせてやる」

 

 不良として先輩として、この一年坊の大和を叩き潰してやると言わんばかりに不良達は拳を振りかぶりながら大和に向かって近付いてくる。

 

 それに対して大和は向かってくる不良達が自分の攻撃範囲に入って来る前に、何時でも攻撃ができるように静かに拳を握り締める。

 

 そして相手が射程圏内に入って来た瞬間、大和は真ん中にいた男の顔面を目では追えない程のスピードで殴り付けた。

 

「……あっ?」

 

「……えっ?」

 

 しかし気が付いた時には既に遅かった。

 

……ガシャーンッ!

 

 二人の不良が危険や違和感を察知して、ふと隣を横目で見てみると、そこには仲間である男が地面に叩きつけられていた。

 

 言うまでもなく、殴られた男の意識は完全に断たれているが、幸い絶命までには至らなかった。

 

 その間、一体仲間に何が起きたのか、今の一瞬で一年坊の大和は何をしたのか、男達はあまりに速すぎて何が起こったのかまったく理解できなかった。

 

 しかし恐る恐る男の顔面をよく見てみると、半分以上の歯が叩き割られており、頬には殴られたような痣がくっきりと残っている。

 

「……嘘だろ? 一体…こいつに何が起きた?」

 

「何も見えなかったぞ、おい……」

 

 しかし今起きたことが理解できなくて相手が唖然としていても、大和はお構い無しだった。

 

 大和は握り潰す勢いで、近くにいた男の顔面を片手で掴み上げた瞬間、持ち前の剛腕で男の身体を軽々と頭上まで持ち上げて宙に浮かせる。

 

「……ウグッ」

 

 本能的にやばいと思ったのだろう。この最悪な状況から脱出するために男は手足や身体をじたばたさせて暴れたりと、苦し紛れに抵抗する。 

 

 しかし大和は力を緩めることがなければ、掴んでいる男の顔面を手離す気配も一切なかった。

 

 そして男を宙に浮かせた直後、大和は掴み上げていた男の頭を地面に向かって思い切り叩きつけた。

 

 男が地面に叩き付けられた瞬間、『グシャ!』や『ドチャ!』など、地面と人間がぶつかり合った音とは思えないほどの、物凄い音が辺りに響き渡る。

 

 それに余程の威力だったのだろう。男が叩きつけられた衝撃により、コンクリートで作られている地面は広い範囲のヒビが入ってしまう。

 

 無論、こちらの男も完全に意識を失って戦闘不能に陥ってしまう。

 

 とてつもなくそして、なんて恐ろしい戦力だ。喧嘩が始まってからまだ数秒すら経っていないのに、大和は既に三人の内の二人を戦闘不能にしてしまったのだ。

 

「こっ…こいつは一体…?」

 

 仲間がやられて相手がほとんど戦意喪失しても、大和は最後に残った男の首根っこを掴み上げて身体を宙に浮かせる。

 

 敵と思った相手には慈悲と言うものは与えない。相手も自ら挑んで来た上に、況してや幽々子に手を出そうとしたのだから、コレくらいの仕打ちは当然のことだろう。

 

「……グガッ!」

 

 そして大和はそのまま男を付近にあった手すりに押さえつけて屋上から落とそうとする。

 

 その際の大和は怒りと殺意に満ちた真剣な眼差しで、もし一言でも気に触ること言えば本気で男を屋上から落とそうとするような眼力だった。

 

「良いか先輩? 今日はこのくらいで勘弁してやる。だが今度あの人に手を出そうとしたら、こんなもんじゃ済まさねぇぞ」

 

「わかった! もう二度とあの女には手を出さねぇ! だから命だけは助けてくれ!」

 

 本当に屋上から落とされて殺されると思ったのだろう。男は恐怖のあまりに泣きそうな表情を浮かべながら大和に対して許しを請う。

 

 そう判断した大和は男を手すりから離して屋上から落とすことをやめると、屋上の地面に向かって男を軽々と放り投げた。

 

「なら仲間と一緒にさっさと失せろ。目障りなんだよ」

 

 そういわれると男は恐怖に満ちた表情を浮かべると、仲間二人を引き釣って屋上から必死に去って行った。

 

 不良達がいなくなると、怒りや殺意に満ちた大和の表情は霧のように消えて、いつもより暗い表情に変わってしまった。

 

 そして一方的だった喧嘩が終わった直後、大和は申し訳なさそうな表情を浮かべながら幽々子の元にやってきた。

 

「ごめんな幽々子さん、怖い思いさせたうえに見苦しいところ見せて」

 

 そう言い残すとすぐに大和は暗い表情を浮かべながら幽々子に背を向けて、ゆっくりと歩いて屋上から立ち去ろうとする。

 

 しかしそれに対して幽々子は何で大和は暗い表情を浮かべてあんな事を言ったのか、なぜ自分を置いて立ち去ろうとするのか、その理由はさっぱりわからずにいた。

 

 だが、そんなことを深く考える暇はなく、幽々子は屋上から去ろうとする大和を後ろから引き止めようとした。

 

「……えっ大和? 一人で何処に行くの?」

 

 幽々子にそう呼び止められると、大和は足を止めて愛想笑いを浮かべながらこう言った。

 

「ははは……とぼけないでくれよ、俺のことを怖がっているくせに」

 

 俺の怒りと殺意に満ちた形相や不良を一方的に蹴散らすおぞましい光景を見せたのだ。幽々子が俺のことを嫌悪しても無理はないと思う。

 

 それにあの喧嘩も今回は運が良く絶命は免れていたものの、一歩間違えていれば相手の命を奪っていたかもしれない。

 

 そんな苛烈で恐ろしい場面を見せた後に、幽々子に顔向けをするなんてできない。いや、自分の誇りとプライドが許せないと言った方が正しいのか。

 

 そんな自分を責め続ける大和をどうにかしようと、幽々子は大和に本音を打ち明けてどうにか励まそうとする。

 

「何を言ってるの? 大和は怖くなんかないわ」

 

「……見ただろう? あれが俺の本性と力量さ。下手すれば幽々子さんを傷付けるかもしれない。そんなものを間近で見られて顔向けできると思うかよ」

 

 そう言い終えると大和は悲しげな表情を浮かべながら再びゆっくりと歩き始めて、屋上から立ち去ろうとする。

 

「…………」

 

 その際、もう自分のために手を汚して悲しげにしている大和を見てはいられなかったのだろう。

 幽々子は切なそうな表情を浮かべながら大和の背中に寄り添って来た。

 

「……何だよ急に?」

 

「こんなこと言っても信じて貰えないと思うけど、助けてありがとう」

 

 幽々子に背中越しでそう言われると、一瞬だけ大和の顔が驚いたような表情へと変わった。

 

 闘争心や殺意、凶悪な戦力を晒したことを本人は後悔し自分を責め続けていた。

 

 しかし助けれた幽々子の方は大和を恐れるどころか、寧ろ感謝しきれない気持ちでいっぱいだった。

 

「私ね…大和が助けに来てくれたとき、とても嬉しかったわよ。 あのとき本当に駄目だと思ってたから」

 

「………そうか」

 

 あんな姿を見せたら絶対に忌み嫌われると思っていたが、どうやら幽々子は本当に俺のことを恐れても嫌悪もしていないらしい。

 

 そうわかってくると自分を責める理由が無くなり、何だか気持ちが楽になって表情もいつも通りに戻ってきた。

 

「それじゃあ教室戻って昼飯にしようか」

 

「……うん!」

 

 大和が地面に置いていたカバンを手に持つと、二人は教室に向かうために屋上から歩いて立ち去っていった。

 

 この一件があったことで大和と幽々子の二人は、お互いの関係がより深まって親密になれたような気がする。

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