古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十ニ話 バスケットボール

不良達との揉め事があった後のこと、二人は教室に戻ってくると昼休みが終わる前に急いで弁当を食べ終えた。

 

 その後のこと、午後の授業である五時間目と六時間目を受け終わり、教室でホームルームを終えた後、大和と幽々子の二人は下校中、特に寄り道もせずにそのまま家に帰宅した。

 

 草薙家に帰宅後は、晩ご飯を食べ終えてから、順々に風呂に入り、寝間着を来て就寝準備をした後、特に夜更かしもせずに二人は別々の部屋で眠りに着いた。

 

 その翌日、学生である大和と見学者(仮)の幽々子は昨日と同様に学校に登校して授業を受けた。

 

 それから四時間目が終わり昼休みに入った時の話になる。

 

 大和と幽々子がちょうど昼ご飯を食べ終えた直後、教室内にいたクラスメイトの克己が二人のいる席に近付いてくると大和に対して話し掛けてくる

 

「よし草薙、メシ食い終わったな? それじゃあ体育館でバスケしに行くぞ」

 

「……白瀬お前、どんだけ俺をバスケに誘いたいんだよ?」

 

 昨日といい今日といい、白瀬がこれだけ諦めずにしつこく遊びに誘って来るということはつまり、よほど俺にバスケをしてもらいたいのだろう。

 

「友人の遊びに付き合ってくれても別に良いだろう、それに運動好きだろお前?」

 

「確かに運動は好きだけど」

 

 白瀬の言う通り、俺はスポーツなどの身体を動かすことが大好きだし、もっと言えば運動することに生き甲斐を感じていると言っても良いだろう。

 

 まぁ友人が遊びに誘ってくれることは悪い気はしないし寧ろ嬉しいことだが、大和には白瀬に対してひとつだけ疑問に思うことがあった。

 

 それは白瀬が何故こうやって何度も俺をバスケに誘ってくるのかだ。確かに俺はスポーツは何でも好きだが、基本的に上手さは人並み程度かそれより少し出来る程度だろう。

 

 正直な話、みんなで楽しくやるだけなら別に俺じゃなくても、他のクラスメイトでも良いと思うのだが、こうやって俺を集中的に誘い出すのは、やはり白瀬は何かイタズラのようなことを企んでいるのか?

 

「それによ、昨日はお前が教室に帰ってくるのが遅くて出来なかったが、今日は絶対に体育館でバスケしてもらうからな」

 

 そういえば昨日、幽々子さんを教室に連れ戻したあと、ほとんど休み時間がなかったから二人で弁当を急いで食べてたっけな。

 

 それに結局、時間がなくてバスケをするどころか体育館にすら行くこともなかったし。

 

「はいはいわかったよ、行けば良いんだろ行けば」

 

 口や表情では嫌そうにしているが、内心では昨日の詫びも含め友人の遊びに付き合ってやろうかなと、大和は体育館でバスケがしたくて気持ちが少し急ぎ気味になっていた。

 

「それじゃあさっさと体育館に行こうぜ、もちろん幽々子さんも連れてな」

 

 何のため一緒に連れて行くのかは知らないが、とりあえず克己が幽々子さんも誘うことは端から察してはいた。

 

 その際、大和と克己の話を側でずっと聞いていた幽々子は初めて聞いた『体育館』や『バスケ』と言う物が何なのか気になっていた。

 

「ねぇ大和、その『ばすけ』や体育館て言うものは何なのかしら?」

 

「バスケってのはスポーツ、簡単に言えばボールを使った運動だよ。 それと体育館て言うのは運動するための建物てとこかな?」

 

 分かりやすく、そして手短にするためにバスケと体育館の説明をかなり簡略化してしまったが、細かく説明して分からなくなるよりはまだマシだろう。

 

 それに細かく説明しなくても、体育館は今から行くし、バスケは体育館で俺達が遊んでいることを見ていれば、どうゆう競技なのかある程度わかってくれるだろう。

 

「まぁ百聞は一見にしかずだ、今から体育館でバスケするから幽々子さんもついて来なよ」

 

「そうさせて貰うわ」

 

 大和と幽々子の二人は食べ終えた弁当の箱をすぐに片付けて、座っていた椅子から立ち上がると、そのまま克己と共に教室から出ていった。

 

 こうして大和、幽々子、克己の三人はバスケをするために体育館へ行くのであった。

 

 まぁ、体育館でバスケをやるのは俺と克己なわけで、幽々子さんには近くで見物をしてもらうことになるだろう。

 

 

 《体育館に移動後》

 

 

 

 体育館で大和と克己が別にいたクラスメイト達とバスケットボールをしている最中、幽々子は邪魔にならないように体育館の端で大和達を見物していた。

 

「これがさっき大和が言っていた『ばすけっとぼーる』なのね」

 

 大和の説明を聞いたり実際に見た感じだと、バスケットボールとは、一つのボールを手で扱い、三メートル程の高さに設置されている籠のような物にボールを上から入れる遊びらしい。

 

 一見シンプルそうに見えるが、手のひらを使ってボールを地面に叩きつけ跳ねさせ、これを連続的に行ってボールとともに人が移動する『ドリブル』と言う技術、籠の上からボールを通す『シュート』という行為はある程度の技術が必要らしい。

 

 今はクラスメイトの人達と楽しんでいるうえに、人数もいるので参加することはできないが、もし機会と時間があれば大和と二人でバスケットボールをやりたいと思っている。

 

 ゲーム中、クラスメイトが多彩なドリブルで相手を翻弄し、相手プレイヤーを次々と自分のところに引き寄せていくと。

 

「よっしゃあ! チャンスだ草薙、ダンクぶちかましてやれ!」

 

 大和のマークがいなくなった瞬間、クラスメイトが手に持っていたボールを大和に向かってパスをした。

 

「おう、任せておけ!」

 

 そしてクラスメイトに投げられたボールを両手で受け止めた直後、大和はフリースローラインからバスケットゴールに向かって跳躍した。

 

「……よっと」

 

 大和の飛んだ高さは約三メートルの位置にあるバスケットリングを胴体まで容易に飛び越え、しっかりと手を伸ばせば余裕で四メートルに達するのではないかと思わせる程の高さだ。

 

 それ故、相手は大和のシュートをブロックすることも防ぐことも出来ず、ただ舞うように飛んでいる大和を見上げることしかできなかった。

 

「……すっげぇ」

 

「……まるで鳥だな」

 

 これは確実にダンクが決まってしまうだろう。克己を除くみんながそう思っていたが、しかし。

 

 常軌を逸したジャンプ力と滞空時間と言うべきか、バスケットゴールの間近まで飛んできても、大和の目線は未だにリングを見下ろしていた。

 

「………おいおい大和のやつ」

 

「いくらなんでも飛びすぎじゃねぇか?」

 

 フリースローラインから跳躍してから大和が地面に落ちていく気配はまったくなく、まるで空中に浮いていると錯覚してしまうほどの異常な滞空時間だった。

 

 どうやら飛ぶ加減を完全に間違えたようだ。これではボールをゴールに叩き込んでダンクする前に、バスケットリング、若しくはその後ろにあるボードにぶつかってしまうことは目に見えている。

 

 だからと言って今は両手は塞がっているうえに、滞空している状態では方向転換は出来るものの、今すぐ地面に着地することなんて出来ない。

 

「……やっべ」

 

 結局、大和はこの最悪な状況から免れることが出来なければ、何の足掻きもすることなく、そのままゴールに突っ込んで。

 

 

………ドカンッ!

 

 

 バスケットリングの後ろにあったボードに顔面や身体を思い切りぶつかってしまう。結局のところダンクシュートができずに終わってしまった。

 

 そしてボードにぶつかった直後、衝撃で意識や判断力が薄れていたのか、受け身も何も取れずに大和はそのまま仰向けになって地面に落ちていった。

 

……ドガッ、バタンッ!!

 

 地面に身体が叩きつけられた瞬間、大和の身体はまるでボールのように一度跳ね上がり、再び地面にぶつかってしまう。

 

 そして地面にぶつかった後、大和の身体が仰向けに横たわると、大和は虚ろな目を浮かべるだけで、身体は微動だに動かなくなってしまった。

 

「……ちょっと大和!? 大丈夫なの!?」

 

 受け身も取らずに大和が不自然な落ち方をしたせいか、近くで見ていた幽々子は何か嫌な感じがしたので、急いで大和の傍に寄って無事かどうかを確かめようとした。

 

 その際、一緒にバスケをやっていた大和と克己のクラスメイト達は、あまりにも予想外の出来事に驚きを隠しきれず、ただその場で突っ立っているだけだった。

 

「おいおいおい、草薙のやつ動かなくなったけど大丈夫なのか?」

 

「てかさ、前から思ったんだけどよ、普通に考えてボードにぶつかるかよ?」

 

 今まで一緒にバスケをして何度も見てきたが、やはり大和が額にリングをぶつけたり、ボードに激突するのは流石に驚かずにはいられなかった。

 

 その間に幽々子は仰向けに倒れている大和の傍に近寄ってくると、意識の有無を確かめるために大和の身体を少し揺すりながら声を掛ける。

 

「しっかり大和、目を覚まして!」

 

 心配そうな表情で幽々子にそう声を掛けられた直後、そこまでのダメージではなかったのか、平然とした表情で大和は上半身を起き上がってきた。

 

「……えっ?」

 

 何事もなく急に大和が起き上がってくると、傍にいた幽々子はあまりにも予想外のことに思わず唖然としてしまった。

 

 いくら大和の身体が他の人達よりも頑丈とはいえ、今回は落ち方も不自然だったし、さっきまで虚ろな目を浮かべていたので、危険な状態ではないかと思っていた。

 

 しかし、それは幽々子の単なる勘違いだったようだ。こうして大和も何もなく平気でいるのだから。

 

 そして起き上がった直後、そこまで痛がりはしなかったものの、大和は少しを顔を引きつらせながら自分の背中や頭を優しく手のひらで撫でた。

 

「………ってぇな、やっぱ慣れないことは無理してやらない方が良いな」

 

 いくらダメージはなかったとはいえ、ボードにぶつかったり地面に叩きつけられたのは痛かったのだろう。

 

 それに今になって考えてみれば、ドリブルはある程度はできるものの、今までバスケをしている中でダンクシュートが成功したことは滅多になく、逆に失敗するほうが断然に多かったような気がする。

 

 そして大和は身の周りを見渡してみると、自分の傍に幽々子がいることにようやく気付いた。

 

「……って、あれ? 幽々子さん、何で傍にいるんだ?」

 

「もう能天気ね、大和が微動だに動かなくなったから心配で傍に来たのよ」

 

 バスケットゴールのボードに激突したところまではしっかりと覚えているが、それからの記憶が一切ない。

 

 だが今の幽々子の発言から察するに、俺は少しの間だけ気を失っていたのだろう。

 

「それよりも大和、身体の方は大丈夫なの?」

 

「ちょっと身体中が痛いけど、別に大したことはない」

 

 ボードにぶつかった際、少しの間だけ意識が飛んでしまったが、肉体にダメージはほとんどなく、ちょっと背中や頭が痛いだけだった。

 

 幽々子と話している最中、聞いたことのある誰かの笑い声が体育館中に響き渡っていることに大和は気がついた。

 

「この笑い声は……まさかな」

 

 恐る恐る、大和は笑い声が聞こえてくる方向を見てみると、そこには両手で腹を抱えながら地面に転げ回って大爆笑しているクラスメイトの克己が目に映った。

 

 なぜ転げ回るくらいまで克己は笑っているのか、本人に聞かなくても大体想像はできる。差し詰め俺がダンクを見事に失敗させたからだろう。

 

「ぶぁっははははは!! 草薙お前、いつも高確率でダンク失敗することは端から知ってたけどよ、ここまで期待通りになるなんて、笑いが止まらねぇよ!」

 

 何が面白くてあんなに笑っているのかは知らないが、何にしろ、転げ回って爆笑している克己の姿は流石に度が過ぎており、傍から見れば可笑しい人にしか見えない。

 

 一方その頃、沸々と込み上がって今にも爆発しそうな憤怒を大和は出来る限り抑えているが、既に我慢の限界を通り越えており、大和の表情は静かな怒りに満ちていた。

 

「……えっ? ちょっと大和?」

 

 そして遂には、何も言わずに無言のまま幽々子をその場に置いていくと、大和は不興な表情を浮かべながら歩いて大笑いしている克己に近づいていく。

 

 そして、体重が90キロ近くある克己をそのまま軽々と持ち上げた。

 

 その際、さっきまで笑っていた克己が突然驚いた表情へと変わるのは言うまでもない。

 

「はははぁ……って、あれ? おい草薙、何で俺を持ち上げてんだ?」 

 

 だが克己の質問に対して大和は一切の返答もせず、無言のまま持ち上げた克己を頭上に掲げると、バスケットゴールに向かって走り出した。

 

 そしてある程度の距離までバスケットゴールに近づいた瞬間、大和はさっきと変わらない高さで跳躍した。

 

「……ちょっと待ってくれ!? まさかと思うが、俺でダンクする訳じゃあねぇよな!? 俺ボールじゃねぇし、悪かったから許してくれ!!」

 

 しかし大和は克己の言葉に聞く耳を一切持たない。そして大和はそのまま克己を頭からリングに叩き込んだ。

 

 その際、不幸なのか幸いなのか、どちらにしても克己はバスケットリングに身体が引っ掛かったことで宙吊り状態となり、地面に落ちることはなかった。

 

 そして、克己をダンクし終えると、大和は不機嫌そうな表情を浮かべて体育館の出口に向かって歩いて行こうとした。

 

 たまには友人の誘いに乗ってやろうと思って、せっかく遊びに付き合ってやったが、克己の馬鹿にした態度で完全にやる気がなくなった。

 

「……ったく、興醒めだ。教室に戻ろうぜ幽々子さん」

 

「……えっ、えぇ…わかったわ、でも克己君はどうするの?」

 

「あんなやつ放っておけ」

 

 当分の間は宙吊り状態にさせといて克己に反省でもさせた方が良いだろう。ただあいつが反省をしたことは今まで一度だってなかったが。

 

 そう言い終えると大和は扉を開けて体育館から出ていき、それに続いて幽々子も大和を追い掛けるように体育館を出て行った。

 

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