古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十三話 体力テスト

 《昼休み終了後》

 

 

 教室に戻ってから気が付いたが、次の授業が体育であり、しかも体力測定だということを思い出した。

 

 体育の授業を受けるために大和はそのまま教室でジャージに着替えると、幽々子を連れてグラウンドへ足を運んだ。

 

 ちなみに、うちの学校は他校と比べて運動や体力測定にかなり力を入れており、特に体力測定がある日は午後の授業が全て体育になるのが伝統だ。

 

 日頃、身体を鍛え続けているとはいえ、今日体力テストがあるとは思ってなかった。まぁ、だからと言って記録に影響は一切ないと思う。

 

「……ったく、面倒くせぇな……まさか今日体力テストがあるなんて思ってなかった」

 

「大和ったらしっかりとしなさいよ、そんな気持ちでは良い記録は出ないわよ」

 

 さっき幽々子さんに体力テストのことを簡単に説明してやったが、それからというもの俺が体力テストで良い記録を出すことに期待をしているような感じだった。

 

 そんなことを話していると、大和と幽々子がいる場所に一人の少年が歩いて近づいて来た。

 

「やはり余裕だね草薙君、何時も思うがその呑気なところを是非とも学びたいものだよ」 

 

 目の前に近づいて来て最初に何を言い出すと思えば、少年は大和に対して皮肉な事を言ってくる。

 

 普通なら怒ってもおかしくはないのだが、それに対して大和は呆れ果てたような表情を浮かべながら深くため息をついた。まるで怒ることすら馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに。

 

「……はぁ」

 

 本当のことを言うと俺は別に体力テストに対して面倒だとは思ってはなく、寧ろ楽しいと思っている。指し当たって、俺が面倒くさいと思っているのは目の前にいるこの少年だ。

 

 紹介するまでもない奴だが、一応名前とかぐらいは紹介しておこう。

 

 目の前にいる少年の名前はカイト、中学の頃からのクラスメイトだがあまり話したことがない。 いや話したくないと言った方が正しいか。

 

 勉学の成績が優秀で顔も良く、女子生徒にモテるクラスの人気者。 運動神経も良いらしいが俺はそう思っていない。

 

 ちなみに、自分で言うのもあれだが、俺は日々欠かさず鍛練しているので身体能力は極めて高く、体力テストでは誰にも劣ったことがなければ、優秀な記録を出して常に一位の座に就いている。

 

 そのせいか、このカイトって奴は俺に負けたことや劣等感を根に持っており、体育の授業がある度に俺のことを目の敵にしたり皮肉なことを言ってくる。

 

「ふっふっふ……だがね草薙君、今年こそ君に体力テストで勝って、今までの雪辱を晴らしてやるからな!」

 

 体力テストで大和に勝つと言わんばかりに、カイトはやる気に満ち溢れていた。

 

「はいはい……頑張ってねぇ~……」

 

 それに対して、まるで端から相手にしていないと言わんばかりに、やる気のなさそうな態度で大和は棒読みでそう言った。

 

 正直、このカイトって奴の相手をしていると精神的に疲れるから、こいつの話は出来る限りスルーすることにしている。

 

「そして……僕が勝った暁には、そこに幽々子さんとお付き合いさせてもらうよ」

 

「………えっ!?」

 

 これはある意味プロポーズと言うのか告白と言うのか、カイトの発言に対して最初に驚いたのは大和ではなく近くにいた幽々子だった。

 

 無理もなかった。初対面の相手にまさかそんなを言われるなんて微塵足りとも思っていなかったのだから。

 

 しかし幽々子が動揺していた最中、大和も何も感じず平然としていた訳ではなかった。

 

 さっきまでやる気が無かった大和も、今のカイトの発言を聞いた瞬間、大和の目の色は一気に豹変し、競争心が静かに沸々と沸き上がってくるような感覚を覚えていた。

 

 こんな奴の勝負は挑む価値がなければ、受ける価値も毛頭ない。だけど、幽々子さんに関わることなら話は別だ。こいつに今の発言がどれだけ愚かで無謀なことかを教えなければならない。

 

 それに対してカイトは大和の心情も知らずに、尽かさず大和に向かって挑発するような態度や発言をしてくる。

 

「さぁ草薙君、この勝負をどうする? 受けるのかい? それとも尻尾を巻いて逃げるかな?」

 

「別に構わねぇよ、負ける気は毛頭無いから」

 

 大和が堂々と挑戦を受けるのに対して、それを嘲笑うかのようにカイトは思い上がったような態度で大いに笑った。

 

「はっはっは、今のその言葉を決して忘れるなよ」

 

 そう言い残すとカイトは嬉しそうな笑みを浮かべながら大和達の側から離れていき、他のクラスメイトがいる別の場所へと移動した。

 

「ねぇ大和、本当に大丈夫なの?」

 

「心配すんなよ幽々子さん、あんなやつに負けるほど俺は柔じゃないから」

 

 負けるとわかった上で勝負を受けるほど俺はそこまで馬鹿じゃない。 本音を言えば絶対に勝つ自信があれば、俺とアイツの差がどれだけあるのかを見せ付けるためにこの勝負を受けた。

 

 こうして大和とカイト、二人の間で体力テストによる壮絶な勝負が始まった。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 まず最初にやる体力テストは百メートル走、走る順番はまず最初に張り切ってヤル気満々のカイト、それから俺が走るのは最後辺りだ。

 

 スタートの合図であるピストルの音が鳴り響いた瞬間、カイトは序盤から他の競争者を追い抜いて、どんどん距離を離していく。

 

……タッタッタッタ

 

 そして、そのまま誰にも追い付かれることもなく、カイトは百メートルを走り抜ける。

 

「カイトの記録、12秒49」

 

「はっはっは……また記録を更新してしまった」

 

 百メートル走を走り終えると、カイトは勝ち誇ったような態度で大和の走る番を待っている。

 

 それから何組走り終わると、ようやく大和にも走る順番が来た。

 

「やっと来たか、さっさと終わらせよ」

 

 走る準備をした直後、ピストルの音が鳴り響いた瞬間、大和は大地を思いきり蹴って、グラウンドを駆け抜けていく。

 

 その時の大和の走るスピードは並みの高校生とは思えない程の速さで、当然ながらカイトとは比べ物にならなかった。

 

 無論、追い抜かせるどころか誰一人として追い付かせることもなく、大和は他の競争者との距離を大いに離して走り抜けた。

 

「……ふぅ~」

 

「凄いぞ草薙、記録は10秒フラットだ」

 

「……何だよ、大したことねぇな」

 

 先生が大和の記録を言った瞬間、周りにいた男子生徒達は唖然とした表情を浮かべ、女子生徒達からは黄色い声援が送られてくる。

 

「10秒フラットて……」

 

「……マジかよ? いくら何でも速すぎだろ?」

 

 クラスの男子生徒達は大和に対して、こんなところで体力テストしないで今から陸上競技に出た方が良いのではないかと思っていた。

 

 そんな中、大和の出した記録の凄さを実感出来ず、平然とした表情を浮かべていた幽々子は、どれだけ凄いのかを知るために近くにいた女子生徒に聞いてみた。

 

「ねぇ、大和が出した記録はすごいのかしら?」

 

「凄いに決まっているじゃない幽々子さん? 草薙君ならオリンピックも夢じゃないわ」

 

 この時、女子生徒が言っていた『おりんぴっく』というものがどうゆうものなのかはまったくわからなかったが、とにかく大和が凄い記録を出したということは良くわかった。

 

 無論、百メートル走を走り終えた大和はその場でみんなの注目の的となり、先生からも生徒からも期待の眼差しが向けられていた。

 

 しかしそんな中、大和が百メートル走を10秒台で走ったことに対して、心良く思ってない男子生徒が一人いた。

 

 そう、心良く思っていない男子生徒とは、さっき大和に体力テストで勝負を挑んできたカイトだった。

 

「ふっ、ふん! 今のは偶然に決まっている、今度の競技ではそうはいかないからな」

 

 今のところカイトは今の項目は偶然負けたと自分に言い聞かせて威勢を張っている。

 

 しかしこの時、今の項目で大和に負けたのは決して偶然ではないことも、この後の体力テストでクラスメイト達に惨めな敗北を見せることになることも知る由はなかった。

 

 

 それから百メートル走をみんなが走り終えた後、次にやる体力テストの項目はソフトボール投げ。

 

 さっきの百メートル走での俺の順番は最後辺りだったが、次の項目であるソフトボール投げでは一番最初に俺が投げることになった。

 

 別に自らの意思で先に投げると言った訳ではない。クラスメイト達が記録を叩き出すところ早く見たいあまりに、俺を一番最初にやらせるように先生に推薦したらしい。

 

「何でこんな事になるんだよ?」

 

 不満そうな表情を浮かべて文句を言いながらも、大和は腕を振り被ってソフトボールを思い切り投げた。

 

 大和の放り投げたボールは小さくなって見えなくなるほどに天高く飛び、そして物凄い勢いで遠くへと飛んでいった。

 

 ソフトボールが地面に落ちた後、他のクラスメイト達が巻尺を持って測定すると、驚いた表情を浮かべながら大和の記録を大声で叫んだ。

 

「記録は150メートルです!」

 

 それから大和の記録が出た瞬間、近くで見ていたクラスメイト達は嵐のような歓声を大和に対して送ってくる。

 

 その後にカイトもソフトボール投げをしたが、結局のところ大和には遠く及ばず、記録は40メートル弱で終わることになる。

 

 

 ソフトボール投げが終わった後、今度の項目は走り幅飛びだった。

 

 やはり大和はこの項目でも規格外の記録を叩き出したことにより、カイトに負けることはなく、寧ろ勝って当然のような感じだった。

 

 それから走り幅飛びもクラスメイト全員終わると、先生が全生徒に聞こえるように大きな声で次の体力テストの連絡をした。

 

「よし、今度は体育館でテストを行うから、みんな移動しろよ」

 

 結局、野外での体力テストの記録は大和が全勝し、カイトは大いに差をつけられて全敗に終わった。

 

 

 《体育館に移動後》

 

 

 クラス全員が体育館に移動した後、次に行う体力テストの準備をしてから少しの時間休憩に入った。

 

 しかし休憩時間とは言ったものの、今日に限ってクラスメイト達が俺のところに大勢集まり、幽々子さんと話すどころか、顔を会わせることもできなかった。

 

「……はぁ、結局幽々子さんと話せなかったな」

 

 休憩終了後、大和はクラスメイトにずっと質問攻めされて休憩する暇も与えられず、室内で行う体力テストが始まった。

 

 ちなみに室内で行う項目の内容は、握力、長座体前屈、立ち幅飛び、反復横飛び、シャトルラン、上体起こしの六項目で、順番の決め方はシャトルラン以外は生徒達が自由に決められる。

 

「これ以上クラスメイトに注目されるのヤダから、とりあえずさっさと終わらせるか」

 

 どうせやる順番は決まってないので、とりあえず適当に項目を回っていこうと、大和は最初に握力測定をする場所に淡々と向かった。

 

 やはり室内の項目でも結果は変わらず、大和は次々と並外れた記録を叩き出していく。

 

 その頃、カイトも大和に負けじと一生懸命になって記録出すが、どれもこれも大和の記録には遠く及ばなかった。

 

 カイト自ら勝負を挑んできたが、ここまで圧倒的な記録を出して勝ち続けると、カイトが可哀想に見えてくる。

 

 最後にクラスメイト全員でシャトルランを走ったが、結果は言うまでもなく大和が圧倒的差をつけてトップに立った。

 

 

 

 《全項目終了後》

 

 

 

 結局、カイトは体力テストで大和の記録に勝つどころか、どの項目も到底の事ながら足元には及ばず、大和の思惑通り圧倒的な差を見せ付けられた。

 

 ちょうど全項目が終わった頃、体力テストで大和に完膚無きまで打ち負かされたカイトは今までにない敗北感を味わい、目の前が真っ暗になっていた。

 

 全ての項目を全力で挑んだのだろう、カイトは絶望に満ちた表情を浮かべながら床に手を付けて跪いていた。

 

「……うっ、嘘だろ? この僕が全敗?」

 

(……まぁ、最初からこうなることは知ってたよ)

 

 まぁ負けても無理はない。体力テストで大和に挑むということは日本記録、下手すれば世界記録に挑戦するようなものなのだから。

 

 こうして大和の圧倒的勝利と言う形で、特にアクシデントも何も無く、全九項目あった体力テストが終わった。

 

 

 ちなみに草薙大和が今回叩き出した体力テストでの記録は。

 野外での項目

100メートル走 10秒フラット

走り幅飛び 10メートル

ソフトボール投げ 150メートル

 

 室内での項目

握力 両手平均 120キロ

長座体前屈 80センチ

立ち幅飛び 5メートル

反復横飛び 87回

シャトルラン 247回

上体起こし(三十秒間) 55回

 

 の上記通り。

 

 無論、この大和の記録を超える者はクラスメイトはもちろんのこと、全校生徒の中でも誰一人としていなかった。

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