古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十七話 不良との喧嘩

和生に朝食を届け終えたあと、大和は自室に一旦戻って出掛ける支度をしていた。

 

 服を着替えてから、財布などの必要最低限の持ち物を軽量バックに入れていく。ちなみにその間、幽々子さんも別室で服を着替えていた。

 

「財布に腕時計……あとはこれとこれで、持ち物は良いかな」

 

 持っていくものをカバンに積め込み終えると、大和は近くのハンガーに掛けてあった赤いロングコートを着てからカバンを背負った。

 

 これで俺の準備は完了した。あとは着替えている途中であろう幽々子さんが着替え終えるのを待つだけだ。

 

「取り合えず幽々子さんが来るまで待ってるか」

 

 幽々子が来るまでの時間潰しのために、大和は棚にある一冊の本を適当に手に取ると、そのまま椅子に座って本を読み始めた。

 

 

 それから数十分後、ちょうど本を読み終えた頃に自室のドアを叩く音がすると、そのままドアを開けて服を着替え終えた幽々子が入ってきた。

 

「おまたせ待った?」

 

「おう、ようやく来たか」

 

 幽々子さんは一体どんな服を着てきたのだろうと、心の中で若干期待しながらも大和は幽々子さんがいる方向に視線を向けた。

 

 幽々子が着ていたのは、水色を基本色とした和服で袖口や裾先にフリルが付いており、柄は所々に桃色の桜の花びらが描かれ、腰回りの青い帯は太く腰の横辺りで蝶々結びされている着物だった。

 

「あぁ……やっぱその服なんだね」 

 

「だって大和が買ってくれた服はまだちょっと着慣れなてないし、こっちの方が着心地が良いんだもん」

 

「そうか、幽々子さんがそう言うなら俺は別に構わないけどな」

 

 着慣れていない現代の服を着るよりも、着慣れている服を着るのは当然と言えば当然か。

 

 それに今すぐ現代の服に慣れろとは言うつもりは微塵も無いし、時間を掛けて慣れてくれれば俺はそれでいいと思っている。

 

「ただ今日の外は寒いからよ、これだけは着てくれ」

 

 そう言って大和が幽々子に渡そうとしてきたのは白いダウンコートと白いふわふわなマフラーだった。

 

「使って良いの?」

 

「別に構わねぇよ、ただコートの方はちょっと幽々子さんには大きいけどな、もしそのコートが嫌なら他のに変えるけどどうする?」

 

「いえ、大切に使わせてもらうわ、ありがとう大和」

 

 そう言うと幽々子は目の前に出されたコートを手に取ってすぐに着用したあと、白いもこもこのマフラーは首に巻いた。

 

「これ暖かくて良いわね」

 

「気に入ってくれて何よりだ」

 

 ダウンコートが暖かったのはもちろんのこと、特にマフラーは手触りがもこもこして気持ち良く、思わず気に入ってしまった。

 

「よし、これで準備も出来たことだし、それじゃあ行こうか」

 

「そうね、早く行きましょう」

 

 外出するために大和と幽々子が部屋から出ようとした瞬間。

 

 

 

…………ぷるるるるっ!

 

 

 突然、大和のポケットの中にあったスマートフォンから着信音が鳴り響いた。

 

 こんな朝っぱらから電話を掛けてくるなんて一体誰からなのかと言わんばかりに、大和は呆れた表情を浮かべながらも電話に出た。

 

「はい……もしもし?」

 

(おう大和おはようさん、俺だ、克己だ)

 

「なんだよ克己か、朝っぱらから電話なんか掛けてきてどうした?」

 

(相変わらず可愛げのねぇ友達だな、せっかく心配して電話掛けてやったのにそれはないだろ)

 

「どうゆうことだ?」

 

(それがよ、地元の噂で聞いた話だが、最近草薙に復讐しようとしてる奴等が街やら公園やらにうろついているんだってさ)

 

「ふーん、でっ? それがどうした?」

 

 正直、俺を恨んでいるやつが沢山いることは既に知ってるし、だからと言ってそんな奴等が復讐しに来ようとも負ける気はしない。

 

 だが、それはあくまでも自分だけならの話だ。このとき大和は、克己の本当に言いたいことや真意をわかっていなかった。

 

(だから外出する時は気をつけろって言いてぇんだよ、特に幽々子ちゃんが危険な目に会うかもされないしよ)

 

「それもそうだな、外出する時は気をつけるよ、わざわざ教えてくれてありがとうな」

 

(おう、これからも夫婦共々仲良くしろよ)

 

「……今の言葉を訂正する、次にてめぇに会ったら必ずぶっ潰す」

 

(おーコワイコワイ、それじゃあなー)

 

 好き放題言われた挙げ句、まるで逃げるように克己から電話を切られてしまう。

 

 通話が終わったあと、克己に好き放題言われた大和は不機嫌そうな表情を浮かべながらスマートフォンをズボンのポケットにしまった。

 

「あのやろう、今度会ったらマジで覚えてろよ」

 

「大和ったらそんな怖い顔して、一体誰から電話が来たのかしら?」

 

「克己だよ克己、外出るときは気をつけろよって」

 

 確かにあいつの言ってることには一理ある、俺一人だけなら相手が何十人で襲い掛かってきても何とかなるが、もし幽々子さんがいることになると色々と問題が生じることになる。

 

 だけど、もし仮にそんな状況と鉢合わせになった時には意地と根性で何とかして見せる。

 

「まぁそんなことは良いとして、さっさと街に行こうぜ」

 

「そうね、今度こそ行きましょう」

 

 大和と幽々子の二人は今度こそ部屋から出ていくと、そのまま玄関に向かって歩いて行った。

 

 それから玄関に到着すると二人は履き物を履き終えてから玄関のドアを開き、屋敷から出ていく。

 

 そして大和が戸締まりを確認したあと、二人は目的地である街へと歩いて行った。 

 

 

 

 

       《〜少年少女移動中〜》

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 屋敷を出てから数時間後、二人は街中までやって来ていた。

 

 大和の考えていた通り、やはり今日の気温は普段よりも低かったので、街中を歩く人たちはみんな首にマフラーを巻いたり、防寒着や手袋を着用していた。

 

 人混みを掻き分けて淡々と街中を歩いている中、特に行く場所も教えられていない幽々子は一つの疑問を抱いていた。

 

「ねぇ大和、これからどこに連れて行ってくれるのかしら?」

 

「予定を組まずに街にやって来たからな、そこんところは何も考えてなかったわ」

 

 まず、街で気分転換しようと決めたのが今日の朝のことだったので、事実ノープランで街までやって来たことになる。

 

 何の計画も立てずに街へとやってきた大和に対して不満があったのだろう。本当に大丈夫なのかと言わんばかりに幽々子は不安そうな表情を浮かべる。

 

「もう大和ったら、しっかりしてよ」

 

「まぁまぁ、そんな怒んなって、気長に行きたい場所を決めようぜ」

 

 そんなことを二人が話していると、前から歩いてくる派手な赤いジャケットを着た男と大和がぶつかってしまった。

 

 軽く肩をぶつけ合っただけなので、お互い倒れもしなければ尻餅もつかなかったものの、男は怒った表情を浮かべながら大和に対して牙を向ける。

 

「いってぇな、てめぇ何ぶつかって来てんだよ」

 

「おいこいつ女連れてやがるぜ」

 

 何時も通りと言うのか典型的と言うのか、どちらにしても複数の男達が大和と幽々子が逃げないように周りを囲んでくる。

 

 大和達に突っ掛かってきた奴等の特徴は、まず派手な赤いジャケットを着ている男、そして取り巻きであるあろうスキンヘッドの男と茶髪の男の三人だった。

 

 まったく、俺が不良とかチンピラに絡まれやすいというのもあるが、せっかくの気分転換が台無しじゃねぇかよ。

 

「すいません、大丈夫ですか?」

 

「おいてめぇ、謝るだけで何もねぇのかよ?」

 

 まぁ謝って許して貰えるのなら何の苦労もしないが、こういう柄の悪くて必要以上に絡んでくる奴らは、謝罪以外にも金などと言った物を要求してくることが多い。

 

「と言うと、謝る以外に何か欲しいものが?」

 

「あたりめぇだろ、だからてめぇの財布よこすか、その女置いていけよ」

 

 案の定、チンピラのような男達は予想通りの要求をしてくる。

 

 金を要求してくることは既にわかっていたので別に何とも思っていなかったし、渡す気も微塵足りとも無い。だが幽々子さんを奪おうとする思考だけは気に食わねぇな。

 

「それはちょっと勘弁してくれませんかね?」

 

「……はぁ?」

 

「なに言ってんだこいつ?」

 

 大和の言うことに苛つきと怒りを見せる男達、特に赤いジャケットを着た男に関しては今にも大和の胸ぐらを掴み上げそうなほどに苛立っていた。

 

「俺金持ってないし、あんたらみたいな奴にこの人を任せることできないからですよ」

 

 反抗するどころか相手を煽る始末、度胸が据わっていると言うか無謀で命知らずと言うのか、どちらにしても常人が出来るようなことではない。

 

「というわけで、もう行って良いですか?」

 

「ふざけんじゃあねぇよ!!」

 

 嘗めきった大和の態度が余程気に入らなかったのだろう。赤いジャケットを着た男はイライラとした表情を浮かべながら大和の顔面を思い切りぶん殴った。

 

「……大和!」

 

 大和が殴れた瞬間、傍にいた幽々子は驚きを隠せない表情を浮かべながら思わず声を上げてしまう。

 

 辛うじて身体は地面に倒れなかったものの、赤いジャケットの男に思い切り殴られたことで大和の右頬にはアザが出来てしまう。

 

 しかし思い切り殴られたのにも関わらず、大和は赤いジャケットの男を睨み付けるだけで何もせずに、ただその場に立っているだけだった

 

「……へっ! こいつ俺たちにビビッちまって何の反撃もしてこないぜ」

 

「おもしれぇな、俺にもボコらせろよ」

 

 赤いジャケットの男を初めとして、他にいたスキンヘッドと茶髪の二人も大和を囲んでリンチする。

 

 まるでサンドバッグを相手にするように殴っては蹴り、果ては地面に張り倒して馬乗りになって殴ったり、踵で身体や顔面を踏んだりする始末。

 

 このとき大和は男達を反抗的な目で睨み付けるだけで、反撃をするような気配は一切なく、やられるがままだった。

 

「もうやめて!」

 

 大和が傷付くところを見たくないあまりに、幽々子は今にも泣きそうな表情を浮かべながら言葉で止めさせようとする。

 

 しかし男達が大和をリンチすることを止める気配は一切なく、男達の気が済むまで大和は殴られ蹴られ続けた。

 

 それから暴力を振られ続けて大和の身体がボロボロになって動かなくなった頃、ようやく男達の攻撃が止まった。

 

「何だよこいつ? 全然大したことないじゃねぇか」

 

「雑魚が調子に乗るからこうなるんだよ」

 

「さてと、こんな腰抜け放って置いて、この女連れて行こうぜ」

 

 赤いジャケットの男が涙目になっている幽々子に触れようとした瞬間、倒れていた大和が突然立ち上がった。

 

「おい、てめぇ何しようとしてんだよ?」

 

「………あぁ?」

 

 一方的にボコボコにした大和がまるで何も無かったかのように起き上がってきたことが予想外だったのだろう。三人の男達は驚きのあまりに今の状況を理解できなかった。

 

 しかし相手がどうだろうが関係なく、大和は拳を握り締めると、幽々子に触れようとする男の顔面を思い切りぶん殴る。

 

「……うぼわぁ!」

 

 大和に殴られた瞬間、赤いジャケットを着た男は身体を横に半回転させながら、受け身も取れずにそのまま地面に倒れてしまう。

 

 そして赤いジャケットを着た男が地面に倒れた直後、まるで追い討ちを掛けるかのように、大和は地面に倒れて動かない赤いジャケットの男を容赦無く蹴り飛ばした。

 

 蹴り飛ばされた赤いジャケットの男の身体は数メートル先まで転がり続け、転がり終えた頃には赤いジャケットの男は指一本すら動くことはなかった。

 

「てめぇ、このやろう!!」

 

 次に大和は手首に捻りを加えながらむかってくるスキンヘッドの男の鳩尾を殴ると、スキンヘッドの男は腹部を両手で抑えると同時に、そのまま地面に両膝をつけて踞ってしまう。

 

 ほぼ一撃で、しかも数秒と掛からずに二人の男を仕止めると、大和は最後に残った茶髪の男に向かって歩いていく。

 

 それに対して、ようやく大和の強さを理解したのだろう。茶髪の男は恐怖のあまりに、大和に向かって何度も土下座をする。

 

「ごっ、ごめんなさい! すいません、すいません」

 

 しかし泣いて喚こうが土下座しようが、大和は男達を許す気は微塵足りともなく、何度も土下座をする茶髪の男の顔面を大和は思い切り蹴り飛ばした。

 

 顔面を蹴り飛ばされた茶髪の男はそのまま地面に仰向けになって倒れ、再起不能になってしまった。

 

「てめぇら馬鹿だな、俺をボコって消えればよかったのによ」

 

 俺を気が済むまで殴るだけだったら、まだ何もせずに許してやったが、幽々子さんに手を出そうとするなら話は別だ。

 

 流石に命までは取らねぇけど、痛い思いをしてもらう上に、最悪病院送りになるほどの怪我を負って貰うことになる。

 

 それにしても、公共の場で悪目立ちしたくなかったから一芝居打ってやったのに、完全に台無しになっちまったじゃねぇかよ。

 

 だが今はそんなことを考えることよりも、周囲の騒ぎがより大きくなる前に、この場から逃げることが優先だ。

 

「わりぃな幽々子さん、ちょっと走るぞ」

 

 そう言って大和は幽々子の身体を軽々と両手で持ち上げてお姫様抱っこをすると、走ってその場から立ち去ろうとする。

 

「ちょっと大和っ!?」

 

 突然起き上がった大和が数秒足らずでチンピラ達を倒したと思えば、この場から逃げるために大和がお姫様抱っこしてくるなど、突然な出来事が次々と起こって幽々子は状況を把握しきれないと同時に、驚きを隠すことが出来なかった。

 

 さらに幽々子はお姫様抱っこをされたうえに、周りに人がいたから恥ずかしかったのだろう。さっきまで泣きそうな顔だったのに、今では頬を赤らめて恥ずかしそうな表情を浮かべている。

 

 だが幽々子が顔を赤くして恥ずかしがっていても大和は下ろす気配は一切なく、そのまま幽々子をお姫様抱っこしながら走り出した。

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