古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
念のために、チンピラがいた場所から少し遠く離れた場所に移動すると、ようやく大和の足が止まり幽々子を地面に下ろした。
やはり日頃から身体を鍛えているだけあって、幽々子を担ぎながら全速疾走しても大和は息一つ乱していない。
「ここまで来れば流石に大丈夫だろ」
「もう大和ったら、私を物みたいに持ち上げて走らないでよ」
況してや今回で二度目のお姫様抱っこ、流石の幽々子も頬を赤らめ恥ずかしそうな表情を浮かべながら大和に対して怒ってくる。
しかし、実のところ言うと大和にお姫様抱っこされたことに関してはちょっと嬉しかったりする。
「……あっ、ごめん。逃げることに必死で幽々子さんのこと何も考えてなかった」
一方的に俺がボコボコにされていただけでも周りの目を引いていたのに、そのあと割りとマジになって男達を一撃で仕留めてしまったので、あのまま逃げずに突っ立ていたら色々なことが起こって気分転換どころではなかっただろう。
だが今になって考えれば、周りの目を一切気にせずに、幽々子さんをお姫様抱っこしてその場から逃走する、俺の無神経さにも程があったな。
「もう大和なんて知らない」
「いや、本当にごめん。無神経な俺が悪かった」
不貞腐れている幽々子に対して、大和は申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
緊急事態とはいえ俺もデリカシーが無さすぎた。公共の場でお姫様抱っこしながら走るなんて、やられた方はどれだけ恥ずかしいことやら。
「本当にそう思ってる?」
「あぁ……幽々子さんのことを何も考えずに、お姫様抱っこした俺が悪かった。」
大和が申し訳なさそうな表情で謝るのをこれ以上見たくなかったのか、仕方ないと言わんばかりに幽々子は落ち着き払った表情を浮かべながら口を開いた。
「わかったわ、許してあげる。その代わり楽しいところに連れて行ってね」
「許してくれるなら、それくらいお安い御用だ」
条件付きで幽々子に許してもらうと、大和は下げていた頭を上げると同時に、幽々子に対して楽しい場所に連れていくと約束をする。
そうと決まれば迅速果断、この場に立ち止まって考えているよりも、歩きながら行き場所を決めた方が良いと大和はそう思った。
「それじゃあ早速行こうか」
「うん」
そう言うと二人は再び街中を歩き出した。今度はチンピラみたいな奴等に絡まれないように。
(まぁ……別にお姫様抱っこされたことに関しては怒ってないんだけどね)
大和にいきなりお姫様抱っこされたことには驚いたし、周りに人がいて恥ずかしい思いはしたけれど、別に嫌ではなかったし、本気で怒ってもいない。
ただ、私が怒ったふりをしたら大和はどんな反応するのか気になったので、ちょっと大和をからかってみたかっただけなのだ。
それから数十分後、二人が歩きながら決めた行き先は街中で一番大きいショッピングモールだった。
《とあるショッピングモールにて》
目的地であるショッピングモールに着いたあと、大和と幽々子の二人が最初にやって来た場所はゲームセンターだった。
以前、ショッピングモールには来たことはあったが、その時は日用品や衣類を買うために来ていたので、幽々子がゲームセンターの存在を知ったのは今日が初めてだった。
UFOキャッチャー、太鼓の○○などの音ゲー、スト○ートファ○ターやマ○オカートと言ったアーケードゲーム、そしてメダルゲームなど、色々なゲームが並んでいる。
生まれて初めて目にする数々のゲームを目の前に言葉を失った幽々子は思わず唖然とした表情を浮かべてしまった。
「ここはいったい?」
「前に言ってたゲームセンターだよ、行きたいって言ってただろ。」
「ここが前に大和が言ってたゲームセンターなのね、来れて嬉しいわ」
その反応から察するに、どうやら幽々子さんはゲームセンターという場所を初めて見ると同時に知ったらしいな。
そして、ゲームセンターに来て幽々子が即座に目をつけたものは、複数のガタイの良い男達が競い合っているパンチングマシーンだった。
「ねぇ大和、あの機械はいったい何かしら?」
「パンチングマシーンって言ってな、パンチ力を図るゲームだよ、今でもあるんだな」
俺は滅多なことがなければゲームセンターに足を運ぶことはないし、そもそもパンチングマシーン自体に興味がない。
だが改めて見てみると、今の時代でもゲームセンターにパンチングマシーンが置いてあることに思わず関心してしまう。
まぁ俺の場合、金払ってパンチングマシーン数回殴るなら、ジムとかに行ってサンドバッグを好き放題殴った方が良いと思っているけどな。
「大和はやらないの?」
「あんなの当てにならねぇよ、やってるだけ馬鹿らしいわ」
それに、そんなことに金を使うんだったら、俺はお菓子売り場に行ってお菓子を買うわ。
すると大和の憎まれ口が聞こえたのだろう。パンチングマシーンをやっていた複数の男達が怒ったような表情を浮かべながら大和と幽々子に近づいてくる。
「おい、何が馬鹿らしいって?」
「俺達に聞こえるように言うなんて、なかなか良い度胸してるなガキ」
(なんか今日はやけに絡まれるな)
さっきチンピラ達に絡まれたと思ったら、今度はは体格の良い俺達に絡まれる始末、今日外出したことがいけなかったのかな?
それに当たり前のことだが、この男達は俺をただで許そうとは思っていないだろう。最悪の場合だと、この場で喧嘩を始めることも有り得るし。
「別にあんたらのことを馬鹿にした訳じゃねぇよ、ただ俺はこんな当てにならない機械でパンチの威力を測っても無駄だって思っただけさ」
「ほぉ~そこまで言うならお前、かなり自信があるってことだよな、おもしれぇ」
「そんな大口叩くなら、俺達の記録を余裕で塗り替えすことなんて簡単だよな?」
そう言うと男達は逃げないように周りを囲むと、大和の肩を掴んでパンチングマシーンの前まで連れて行った。
俺の技量を測るためなのか、それとも俺が男達よりよ強いことを示せと言うことなのか、その真意は知らないが、少なくとも男達はどうやっても俺にパンチングマシーンをやらせたいらしいな。
「でも金が……」
「大丈夫だ。金はすでに入れてある。やってた途中だったからな」
「ただし記録更新できなかったら、どうなるかわかっているよな?」
まぁ言わなくてもわかっている、人目の無い場所に連れていかれて半殺しにされるだろうよ。
正直こんな遊びに力を使いたくはないが、こいつらを黙らすためなら仕方がない。
「はいはい、わかりましたよ」
やりたくなさそうな表情を浮かべながらも、大和はパンチングマシーンの目の前で戦闘の構えを取って拳を軽く握りしめた。
そして、構えてから間も空けずに大和が右ストレートを放った瞬間、驚くことにパンチングミットの部分だけが壊れてしまった。
「………あっ」
恐らく桁外れのスピードとパワーを重ね揃えた大和の右ストレートにミットが耐えきれず、壊れてしまったのだろう。
その結果、大和のパンチ力は前代未聞の計測不可能になってしまった。
「やっべぇ……やっちまった」
こいつらが記録更新しろって言うもんだから、力の加減を間違えちまったじゃねぇかよ。
側で見ていた男達が驚いて声を出せずにいたのはもちろんのこと、果ては周りにいた人達にまで注目を浴びてしまう始末だった。
「あの~これってやっぱ駄目っすか?」
「あっ……いやっ、そんなことはねぇ、仕方がねぇから今回は許してやる」
とんでもない奴に喧嘩を売ってしまったと思っていたのだろう。男達は誰一人として大和と戦おうという考えはしなかった。
「それじゃあ俺達もう消えて良いですか?」
「おっ…おう、さっさと何処かに行きやがれ」
「それじゃあ邪魔してすいません、あはははぁ…」
そう言い終えると、大和は焦ったような表情を浮かべながら、幽々子を連れて逃げるようにゲームセンターから去っていった。
《~…少年少女移動中…~》
ゲームセンターから逃げるように移動したあと、二人はショッピングモールの中にあるフードコートの前にやって来た。
足を止めると、急に大和が焦ったような表情を浮かべてゲームセンターから逃げたことが可笑しいと思ったのだろう。幽々子は怒ったような表情を浮かべながら大和に対して問い詰めてくる。
「もう大和ったら、何で逃げるのよ」
「いや、マジでごめん。まさかぶっ壊れるとは思ってなかったから」
あのままゲームセンターに残ってたら、周りから変な目で注目を浴びるだろうし、何よりも店員が異変に気付いてやって来たら、最悪弁償代払わせられる思ったから急いで逃げた。
当分ここのゲームセンターには行けないだろうな、まったく悪気はなかったとはいえ、俺はとんでもないことをやっちまったよ。
「私いろいろな『げぇむ』って言うもの見て回りたかったのに」
「ごめんごめん、詫びとして何か食べようぜ、ちょうどそこにフードコートあるし」
フードコートを見てみると、そこにはハンバーガーやフライドチキン、そばやうどん、天丼やカツ丼、ステーキやラーメン、アイスクリームやクレープなどと言った様々な飲食店があった。
この時、ゲームセンターの事なんて既に忘れてしまったのだろう。沢山ある飲食店を前にして幽々子は目を輝かせていた。
「食べたいものあるなら、何でも好きに選んで良いぞ」
「ほんとに!?」
思ってた通り、これ幽々子さんゲームセンターの事なんて忘れてますわ。幾らなんでも食べ物に対して貪欲過ぎるだろ。
「あぁ、約束する」
そう言われると幽々子は満面な笑みを浮かべながら、大和を置いて気になる飲食店へと一足先に行ってしまった。
(取り合えずこの場は何とかなった、あとはゲームセンター以外で幽々子さんが興味を示しそうな物をあらかじめ探さねぇと)
そんなことを考えながらも大和は、気になる飲食店に走って向かった幽々子の元へと歩いていく。
このとき大和は、幽々子が楽しめそうな場所を探すことしか考えてなく、自分の財布に危険が迫っているとは知るよしもなかった。