古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十九話 幽々子の能力(ちから)

《◇◆◇◆公園》

 

 それからショッピングモールで色々なことをして数時間が経った後、大和と幽々子はショッピングモールを離れて、近くの公園までやって来た。

 

 空はすっかり日が落ちて紺色に染まり、公園に設置されてた街灯が灯されている。気が付けば夜の時間帯となっていた。

 

 そんな薄暗い公園の中で、満足そうな表情を浮かべている幽々子と平然した表情を浮かべている大和の二人がゆっくりと歩いていた。

 

「色々あったけど、今日はとても楽しい一日だったわ、ありがとう大和」

 

「それはどうも、喜んでくれて何よりだ」

 

 どうやら幽々子さんは機嫌を直してくれたようだな。ゲームセンターのことは完全に忘れているだろうし、行くのはまた今度でも大丈夫だろう。

 

 ただ、その代償は大きかった。

 

 幽々子さんの底無しの食に対する興味、そして異常とも呼べる貪欲な食欲、それを満足させるためには結構な銭が掛かった。

 

 幸いだった事と言えば、念のためと思い、銀行で多額の金を下ろしてきたことぐらいだ。マジで金下ろしてきて良かった。

 

 すると何を思ったのか、急に大和はその場で足を止めて立ち止まり、うんざりとした表情を浮かべながら後ろを振り向いた。

 

 そんな大和の急な行動に対して、幽々子も若干驚いたような表情を浮かべながら大和の傍に立ち止まる。

 

「どうしたの?」

 

「さっきから俺達の後をついてくる奴等、隠れてないでさっさと出てきやがれ」

 

 周りにしっかりと聞こえるような声で大和がそう言った瞬間、一体何時からいたのか、木影からぞろぞろ複数の男達が姿を現してくる。

 

 気が付けば大和と幽々子は男達に周りを囲まれており、到底のことながら無傷でこの場を逃げ出すことは至難の技だった。

 

「隠れていたのによ、気付いていたか草薙」

 

「あんたら何だ? 俺になんか用でもあるのかよ?」

 

「俺達はお前の弟、草薙和生に一度は半殺しにされた輩だよ、その証拠にほら……見ろこのズタボロにされた面をよ」

 

 さっきまで隠れていたし、男達が姿を現しても周りが暗闇に覆われてあまり見えなかったが、街灯で照らされた俺達の顔を見た瞬間、思わず大和と幽々子の二人は驚愕した表情を浮かべてしまった。

 

 どの男達の面を見ても、ほとんど歯がへし折られていたり、生涯消えそうにもない大きな打撃傷を負っていたり、果ては顔面が滅茶苦茶になっている者までいる。

 

 つまり、こいつら全員和生の犠牲者とでも言うのか?ここにいる奴等だけでも二十人以上はいる、いくらなんでも犠牲者多すぎるだろ。

 

 それに和生も和生だ。あのやろうが撒いた種なのに、何故なんの罪もない俺が復讐の標的にされなきゃいけないんだ、可笑しいだろ?

 

「だったら何だよ? 復讐するなら俺じゃなくて、和生本人にやれば良いだろ」

 

「馬鹿か、あいつに立ち向かうのが嫌だから、兄のお前に復讐しに来たんだよ」

 

 男達の言っていることがあまりにも滅茶苦茶過ぎだったのだろう。怒りを通り越して大和は呆れ果てた表情を浮かべていた。

 

 差し詰、こいつらは復讐心はあるものの、その対象である和生が恐ろしくて復讐することができず、その代わりに和生の兄である俺に八つ当たりしに来たのだろう。

 

 取り合えずどんな理由でも、相手が喧嘩を売ってくるのなら、俺はその喧嘩を全部買ってやろう。ただ近くにいる幽々子さんが心配だが。

 

「わかったよ、全員まとめて相手してやるから掛かってこい」

 

 そう言うと大和は着ていた赤いロングコートを脱いで長袖となり、その抜いだコートは近くにいた幽々子に手渡した。

 

「ところでてめぇら……俺が和生(あいつ)より弱いって思ってるなら……一切容赦はしねぇぞ!」

 

 まるで本気で殺すと言わんばかりに、大和は殺気丸出しの眼差しで男達を威圧する。

 

 こいつらは俺が和生より弱いと勘違いしているようだが、それは大きな間違いだ。

 今まで俺は喧嘩で和生に負けたことは一度もないし、身体能力と武術だけなら和生よりも強いと自負している。

 

 それに対して大和の殺気に満ちた眼差しに戦略が走ったのだろう。一瞬だが男達は今までにない恐怖に包まれ、思わず足がすくんでしまう。

 

 その隙を突いて、まず大和は一番近くにいた男の目の前まで瞬時に走ると、着いたと同時に男の顔面に全力で横蹴りを入れる。

 

 そして大和の横蹴りが男の顔面にクリーンヒットした瞬間、恐らく脳震盪が起こったのだろう。顔面を蹴られた男はそのまま地面に倒れ込むと、それから立ち上がる気配は一切なかった。

 

「まずは一人目っと……次は誰が相手だ?」

 

「てめぇ奇襲なんてしやがって、卑怯じゃねぇかよ」

 

「おいおい、奇襲を仕掛けたから何だよ?そっちは大勢で俺を潰そうとしてるだろうが」

 

 確かに大和は奇襲を仕掛けた。普通なら卑怯者と言われても仕方がないのだが今は違う。

 

 相手は大人数で攻めてきているのに、こちらが奇襲を仕掛けただけで卑怯と言われる。それは流石に自分勝手過ぎではないだろうか。

 

「……このやろう」

 

「……ふざけやがって」

 

「攻めて来ねぇなら、またこっちからいくぞ」

 

 そう言うと、何の躊躇もなく大和は敵陣に向かって突っ込んでいく。

 

 そして相手の間合いに入った瞬間、大和はぶん殴ったり蹴りを入れるなど、基本的に力業で他の男達を次々と蹂躙していく。

 

「このやろう!!」

 

 相手も何もせずに突っ立ているだけではない。大和を潰そうと男達も多数で攻撃を仕掛けてくる。

 

 だが、相手が大勢で殴り掛かって来てこようとも、大和は相手の手腕を掴むと同時に手首や肘の関節を瞬時に外して戦闘不能に陥らせる。

 

「……っん?」

 

 そして五人から六人ぐらい仕留めた辺りから、男達は少し距離を空けてくると同時に、大和が横から嫌な気配を感じ取った瞬間だった。

 

「死ねぇぇ草薙ィィ!!」

 

 突然、奇声を上げて男がナイフを振り回してきたのだ。

 

 それに対して大和はギリギリのところでナイフを回避すると、刃が頬を掠めて切り傷が出来てしまう。

 

 しかし大和は凶器に対して一切怯まず、アッパーカットでナイフを持った男の顎を打ち抜いた。

 

「あぶねぇだろうが」

 

 顎を打ち抜かれた男は意識を完全に絶たれ、そのまま地面に倒れ込んでしまう。

 

 それからも、中には武器を持って掛かって来る奴もいたが、大和は致命的なダメージを負わされることはなかった。

 

 相手が弱すぎるのか、それとも大和の強すぎるのか、気が付けば経った数分足らずで敵の数は半分以下となり、大和に太刀打ちできる奴は誰一人としていない。

 

 男達が次々と倒されている最中、これでは大和を倒すことは無理だと悟ったのだろう。闘うことを諦めかけていた一人の男が無防備になっている幽々子に目をつけた。

 

「このやろう、こうなったら!!」

 

 自暴自棄になった男はズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出した瞬間、ナイフの切っ先を向けながら幽々子に向かって走っていく。

 

 その際、男がナイフを手に持ちながら走って来ることに気がつくと、思わず幽々子は恐怖に満ちた表情を浮かべながら叫んでしまう。

 

「……いやぁー!」

 

 幽々子の叫び声を聞いた瞬間、大和は咄嗟に幽々子がいる方向に視線を向けてみると、男がナイフを持って幽々子に向かって走っていくのが見えた。

 

「あぶねぇ幽々子さん!!」

 

 他の奴等を放って置いて大和は、今までには無い程のスピードで幽々子の元へと走り出す。

 

 手にナイフを持っている男が幽々子を刺そうとする一歩手前のところで、大和は自分の身を投げ出して幽々子の前にギリギリ立ち塞がると。

 

……ドス!

 

「………あがっ!!」

 

 咄嗟に幽々子を庇ったことで、不良のナイフが大和の横腹に深く突き刺さると、そのまま大和はまるで崩れるように膝から倒れしまう。

 

「やっ……大和!!」

 

「………ぐっ……あがぁ……ちく……しょう……」

 

 ナイフで刺された横腹にはドクドクと脈打つように激痛が走り、さらには火で焼かれたように熱った。

 

 そして何よりも夥しい出血量、痛みに堪えながらも残り少ない 力を振り絞って横腹を手で押さえつけてみると、手のひらには鮮血が満遍なくベットリとついていた。

 

 幽々子は今にも泣きそうな表情を浮かべると、倒れた大和の体を抱えながら必死に呼び掛ける。

 

「ねぇ大和……お願いだから……しっかりしてちょうだい……」

 

 視界がボヤけだし、意識が少しずつ遠くなっていく最中、耳元で自分の名前を呼んでくる幽々子の声が聞こえてくる。

 

 今の状況から判断して、どうやら俺は幽々子さんに抱き掛かえて貰ってるらしいな。まったくカッコ悪いじゃねぇかよ。

 

「幽々子さんか……大丈夫か? どこか怪我してねぇか?」

 

「私は大丈夫よ、それより大和……血が……お腹からいっぱい血が……」

 

「あはははぁ……この程度の傷なら……大した事はねぇよ……それより幽々子さんが無事でよかった」

 

 今にも目から涙が零れそうになっている幽々子に心配をかけないように、横腹に走る痛みに堪えながらも大和は笑顔を浮かべて幽々子を慰める。

 

 しかし幽々子を慰めていたのも束の間、異様な眠気に襲われると同時に大和はそのまま意識を失ってしまった。

 

「……やま…と?」

 

 意識を失ったことで大和の身体がぐったりしたあと、幽々子の瞳から涙が溢れ出してくる。

 

 それに対し、ナイフで傷を負った大和が倒れたことで周りにいた男たちは歓喜に浸っていた。

 

「……やった!! やったぞ! ようやく草薙のやろうを殺ることができた!!」

 

「よっしゃあぁ!!」

 

 まるで男たちは初めての狩りで獲物を獲られたように心の底から喜ぶ、恐らく大和がこのまま死んでも良かったのだろう。

 

「草薙を仕止めたことだし、それじゃあ行こうか姉ちゃん」

 

 腹から血を流して大和が戦闘不能になったことがわかると、近くにいた一人の男が幽々子に触れようとするが。しかし……

 

「………さない」

 

「………あっ?」

 

「あなたたちだけは、絶対に許さない」

 

 その瞬間、涙を流しながら怒る幽々子の周りから異様な冷気が発生すると同時に、どこからともなく複数の魂が現れ出した。

 

「なんだよこれ?」

 

「一体……何が起きてんだよ?」

 

 頭では到底のことながら理解することができない非科学的で非常識な事が起きたことで、チンピラ達の心身は恐怖と戦慄に蝕まれ、その場から一歩も動けない状態に陥っていた。

 

 そして幽々子を本気で怒らせたことにより、これからチンピラ達に取って生涯最大の恐怖と苦しみが訪れることになる。

 

 まず最初、幽々子に触れようとした男が突然苦しみだし、その数秒後には口から泡を吹きながら白目をむいて地面に倒れてしまった。

 

 何の前触れもなく男が倒れたことに、仲間達は驚きを隠すことができず、果ては恐怖で半数以上が身体を震わせていた。

 

「おい!」

 

「どうしたんだよ!?」

 

 そして、まるで連鎖反応が起こったかのように、周りにいた男達が次々と苦しみ出しては、泡を吹きながら白目をむいて倒れてしまう。

 

 その結果、数秒も掛からずに周りにいたチンピラ達は全滅してしまい、意識があったのは幽々子一人だけになっていた。

 

「ねぇ大和……大和ったら……お願いだから目を開けてちょうだい」

 

 大和の横腹から溢れ出る出欠は止まる気配はなく、辺りを見渡してみれば地面は大量の鮮血で染まっていた。

 

 もう駄目だと幽々子が諦め掛けていた時、突然の如く大和の手が動き出すと同時に、意識が朦朧としながらもポケットの中にあるスマートフォンを取り出した。

 

「でん…わに……でて……くれ……」

 

 最後の力を振り絞って、大和は誰かに電話を掛けようとする。

 

 やっと思いで連絡先を打ち終えたあと、大和は再び意識を失い掛け、手を震えさせながらも幽々子にスマートフォンを手渡した。

 

 そして大和にスマートフォンを手渡されてから数分も掛からずに誰かとの通話が繋がった。

 

(もしもし、こちら御巫医院ですが)

 

「紅虎さんですか! 私です、西行寺幽々子です」

 

 一体誰に電話を掛けたかと思えば、それは大和の師匠である御巫紅虎だった。

 

(おや幽々子さん、どうかなされました?)

 

「大和が……大和が刺されて血がいっぱい出てるんです。お願いします助けてください!!」

 

(取り合えず落ち着きなさい幽々子さん、今からそちらに行くので場所を教えてください)

 

「えっ…はっ…はい……確か看板に◇◆◇公園って書いてました」

 

(わかりました、それでは待っててください)

 

 それから数十分後、車に乗って紅虎がやってくると、瀕死状態になった大和と幽々子を急いで車に乗せて御巫医院に向かった。

 

 

 

 

 

 

《御巫医院》

 

 

 

 紅虎が経営している御巫医院に着いたあと、紅虎はほぼ瀕死状態になっていた大和をそのまま手術室へと運び、急いで手術を開始させた。

 

 それから大和の手術を開始してから数十分以上が経った後、手術室から疲れたような表情を浮かべた紅虎が出てきた。

 

「紅虎さん、大和は……大和は大丈夫なの?」

 

「多量の出血で貧血状態に陥っていますが、幸いナイフが内蔵まで到達していなかったので、命に別状はありませんよ、ただ傷が完治するまで一週間は絶対安静ですがね」

 

 大和が無事だったことがわかって安心したのだろう。ようやく緊張と不安から解き放たれた幽々子は落ち着いた表情を浮かべながら胸を撫でおろす。

 

「……よかった」

 

「彼も日頃から肉体を鍛え込んでいますからね、その程度で死なれたら私も困ります」

 

 呆れたような表情を浮かべて紅虎はそう言うものの、本当は心の何処かで愛弟子である大和が無事で良かったと思っているのだろう。

 

「それにしても知りませんでした、まさか紅虎さんはお医者様をやっていたなんて」

 

「……あら? もしかして大和から聞いてなかったのですか? 私は武の指導以外にも医者をやっているのですよ」

 

 こうみえて紅虎は武術の指導以外にも、自分で開いた御巫医院の開業医をしていたのだ。ちなみに無免許医ではなく、ちゃんと医師免許証は持っている。

 

 後に大和から聞いた話だけど、大和が修行や鍛練で怪我をした時には、この医院で紅虎がよく治療をしていたらしい。

 

「さてと、お話はこれでお仕舞いにしましょう。そろそろ私は仕事に戻るので、大和のことは任せましたよ幽々子さん」

 

 幽々子の肩に軽く手を『ポンッ』て乗せたあと、そのまま紅虎はその場から歩き去ってしまう。

 

 そのあと幽々子は心配した表情を浮かべながら大和がいる手術室へと入っていった。

 

 

 

 

《御巫医院・診察室》

 

 

 

 職場である診察室に戻ったあと、紅虎はカルテや診察書を見ながら、ある考え事をしていた。

 

「あの娘………出会った当初から普通ではないと思っていましたが、やはり謎な事が多いですね」

 

 常住坐臥で肉体を鍛えている大和が瀕死状態で倒れていたのも異常事態だったが、周りで倒れていたチンピラに対して謎の違和感を抱いていた。

 

「特にあのチンピラ達の様、物理的に意識を失ったものではありませんね」

 

 多少の打撃跡があったとはいえ、チンピラ達の不可解な倒れ方、そして死んでいるように青ざめた顔や身体、これから察するに大和がやったとは到底考えられない。

 

 それに、大人でも根を上げて逃げ出すような苦痛の修行や鍛練を叩き込んだとはいえ、あの深傷の傷で大和が戦闘続行できるとは思えない。

 

 だとしたら幽々子が闘ったのか?いや、仮にそうだとしても、どうやってあの数を倒したのか。

 あの女の実力を知らないので何とも言えないが、もしも並みの女性ぐらいの戦力なら、例え大和が半数仕止めても不可能だ。

 

 考えれば考えるほど、あの幽々子に対しての謎が深まり、果ては人間なのかと疑ってしまうほどだ。

 

「これは調査と情報収集が必要ですね、これからのことも考えたうえで」

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