古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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二十話 大和の入院

《御巫医院・病室》

 

……コンコン、ガチャ……

 

 扉をノックしたあと、病室に入ってきたのは心配そうな表情を浮かべている幽々子だった。

 

「失礼するわね」

 

 そこにいたのは、ベッドの上に仰向けになって横たわり、点滴注射で腕から血液を投与されている大和がいた。

 

 大和の身体、特に腹部の方には厳重に包帯が巻かれており、大きな怪我をしたということが一目見ただけでわかる。

 

 病室に幽々子が入ってきたことに気がつくと、身体を動かせない大和は首だけを動かして幽々子の方向を見た。

 

「なんだ……幽々子さんか……」

 

「怪我の具合は大丈夫かしら?」

 

「別に大したことはねぇよ、紅虎さんが一週間ぐらいあれば完治するって」

 

 ただ出血が酷かったせいか、未だに意識ボーっとしたり、頭がクラクラするなど、貧血の症状が収まらない。

 

 それに傷口も深かったのだろう。包帯などで処置されているとはいえ、ちょっとでも身体を動かせば恐らく傷口がパックリと開いてしまう。これでは運動することすら儘ならないだろう。

 

 そんなことを話ながらも幽々子は大和に近づいていくと、ベッドの側にあった椅子に座る。

 

「ねぇ大和、何で私のために身体を張ってくれるの? もしかしたら死ぬかもしれないのよ」

 

 心配そうな表情で幽々子がそう言うのに対して、大和は冴えない表情を浮かべると同時に一瞬だけ黙り込んだ。

 

「俺はただ……幽々子さんを守りたいだけだ。別に大した理由なんて有りはしねぇよ」

 

 中学の頃は未熟なこともあって怪我や生傷を毎日のように負っていたが、高校になってから滅多に傷を負うようなことはなかった。

 

 高校生になって初めてのことだろう。腹部にナイフが深く刺さって致命的な傷を負ったのは。幸い師匠の紅虎が医者をやってて助かったが。

 

 それに、初めてのことだった。 人を守るために闘うことなんて、今までなかったことだったから。 だから必死に闘い、必死で守ろうとした。 たとえそれが自分の生命が危機になる行為だとしても。

 

「初めてかもな、こんな無茶な怪我をして人を守ったことなんて。

 ただ悔いは一切ねぇ、生まれて初めて惚れた女を守れたからな」

 

 俺の意思なのか、それとも本能的になのか、どちらなのかは分からない。ただ、あの時は幽々子さんを守りたい気持ちでいっぱいだった。

 

 もしも、あの時に幽々子さんを守ることができなかったら恐らく、いや……絶対に死ぬまで後悔していただろう。

 

 それを聞いた幽々子は信じることができないと言わんばかりに、目を見開いて驚いたような表情を浮かべながら大和を見つめた。

 

「ねぇ大和……今なんて?」

 

 今大和が何を言ったのかを、幽々子がもう一度聞こうとした瞬間、ドアを開けて誰かが入ってきた。

 

 

…………ガチャ

 

 

「どうも二人とも、再びお邪魔をしますよ」

 

「紅虎さん」

 

「どうしたのかしら?」

 

「いえ、特に理由はありません。 ただ大和調子がどうか見に来ただけです。」

 

 幽々子の隣に歩いてやって来ると、紅虎は大和の調子や傷口の具合がどんな風になっているのか観察する。

 

 自分の身体だから良くわかるが、ナイフで刺された箇所の傷はほぼ塞がりつつある。 我ながら恐ろしい回復力だとは思っている。

 

「やっぱり治り早いですね、これなら一週間もせずに退院もできるでしょう。」

 

「本当ですか」

 

「ただし絶対安静です、それに早く治りたいなら私の指示に従ってもらいますよ」

 

「…………………はい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、大和はこれから何が起こるかわかったかのように絶望したような表情を浮かべた。

 

 紅虎さんの指示は間違っておらず、寧ろその効果は絶大とも言える。 しかし長年紅虎さんの稽古や教えに着いてきたらこそわかることだが、非常に過酷で厳しい、それが例え怪我人が相手だろうとも。

 

「さてと、それでは幽々子さんは私についてきなさい。」

 

「えっ…私ですか?」

 

「そうですよ、もしかしてこの部屋にずっといるつもりだったのですか?」

 

 紅虎にそう言われると、まるで図星だと言わんばかりに幽々子は惚けたような表情を浮かべながら目を逸らした。

 

 それに対して紅虎は余程呆れ果ててしまったのだろう。困ったような表情を浮かべると同時に思わず溜め息を漏らしてしまう。

 

「まったく、あなたは何を考えているのかさっぱりですよ。」

 

「えへへ……ごめんなさい」

 

 そんなやり取りをしながらも、紅虎と幽々子の二人は大和を置いて部屋を出ていった。

 

 

 

 

《翌日》

 

 

 

 紅虎の言う通り、怪我の考慮をしたうえで今日は夜更かしせず、だいたい十一時前ぐらいに眠った。 なんだか数年ぶりに早寝した気がする。

 

 しかし、早く寝たのは良いものの、短時間の睡眠に身体が慣れきったせいか、夜中の三時ぐらいに目が覚めてしまった。

 

 怪我のせいで身体を自由に動かせないうえに、もう一度寝ようとしても、目が完全に覚めて寝ることができない。

 

 身体を動かせれば電気を付けることができるが、絶対安静なので動けないし、そのうえ気晴らしに読書をしたいが、この病室には本はない。

 

 何もすることなく、大和はただ時間が経過するのを待つことしかできなかった。それに、こんな退屈で無駄な時間を過ごすのは生まれて初めての経験だ。

 

 それから寝ることも動くことも許されずに四時間が経過すると、ドアをノックしたあとに部屋に紅虎が入ってきた。

 

「おはようございます大和。 早速ですが朝食にしますよ」

 

「おはようございます、こう…が……さん……えっ?」

 

 紅虎の背後にあった物を見た瞬間、大和は驚きを隠すとができず、思わず唖然とした表情を浮かべてしまった。

 

 大和が見たもの、それはワゴンいっぱいに乗せられた大量のごはんや肉料理、ツナやジョッキ一杯の卵だった。料理を見た限りだと少なくとも十人前以上はある。

 

「あの……これはいったい?」

 

「何を仰るのですか大和、見ての通り朝食ですよ」

 

 だが大和の目に写っている料理は、到底の事ながら朝食には見えず、バイキングとか満漢全席の量と見間違える程だった。

 

「いや……この量は……」

 

「あのですね大和、あなたの身体は怪我で衰弱しているのですよ、ですからしっかりと栄養を取らないといけません。

 本当ならこの倍は食べて貰わないといけないのですが、流石に無理だと思うので、今回はこのくらいで勘弁してあげます」

 

 これでもかなりキツイ量なのに、紅虎さんはこの倍を食わせようとしてたのかよ? いくらなんでも、色々な意味で身体をぶっ壊しかねないぞ。

 

 だが確かに紅虎さんの言うことは間違っていない。早く怪我を完治させるには飯をしっかりと食べ、十分な睡眠を取って安静にしなければならない。

 

 そんなことを考えている間に、紅虎はテーブルを用意してから淡々と大和の前に朝食と箸を置く。どうやら無理矢理にでも食べないといけないらしい。

 

 気は向かないが仕方ないと、大和は全ての朝食を食べる覚悟を決めると、箸を手に持つと同時に手を合わせていただきますをした。

 

 それから大和は焦らずゆっくりと紅虎が作った料理を食べ続ける。

 

 500グラムはあるステーキに噛みついて、そのあとに白いご飯を頬張ったり、ツナを食べたあとに、ジョッキに入った卵を一気に飲み込んだりする。

 

 だがツナや卵の量は少なく、基本的に置かれているのはほとんど肉料理と白米、今の食事で大和は基本的に肉と米を順々に食している。

 

 そして食事をしている際、大和は今食べた食事の栄養が身体の隅々まで確実に行き渡るように自然と意識をする。

 

 食事をしている最中、大和はあることに気が付くと、一旦食べるのをやめて紅虎に話しかける。

 

「そういえば紅虎さん、幽々子さんはどうしたんですか? 俺の家に戻ったんですか?」

 

「いえ、幽々子さんは別室で寝ていますよ、何しろ大和を置いて帰るわけにはいかないと、聞きませんでしたからね」

 

「……そうですか」

 

 それを聞き終えると大和は再び料理を口に運び、そのまま無言になって食事を続けた。

 

 何となくはわかっていたが取り敢えず安心した。紅虎さんがいる御巫医院にいなかったらどうしてたことか。

 

 もし屋敷に帰っていたら、食に太い幽々子さんがどうやって食事を取るのかわからないうえ、何よりも一人にすることが心配で仕方がない。だから逆に帰って貰った困ることが多い。

 

「それで大和どうしますか? 彼女を帰すのか? それとも身近に置いていくのですか?」

 

「申し訳ないですが、ここに居させて貰っても良いですか? 屋敷に帰すのはちょっと心配で」

 

「別に構いませんよ、居られて困ることはありませんから」

 

「ありがとうございます」

 

 清々しい程に安心した表情を浮かべてる大和、そんな姿を見た紅虎は何かを見透かしたような目で大和を見つめると同時に話し掛けた。

 

「大和、貴方この数日間で大分変わりましたね」

 

「そうですか?」

 

「はい、以前よりも表情や性格が穏やかになっているように見えますよ」

 

 弟子入りした直後は天真爛漫で優しい少年だったが、中学になってからは強さだけを求めて、厳しい鍛練と実戦を長年続けたせいか、表情と感情が乏しい人間になってしまった。

 

 しかし西行寺幽々子と言う女性と出会い暮らすことになってから、大和は表情などの雰囲気が徐々に明るくなった気がする。

 

 それに試練のための演技とはいえ、幽々子を人質に取った時のことだ。あそこまで怒りと殺意に満ちた大和は見たことがない。

 

「はははぁ……どうしてでしょうね? 俺にはさっぱりわかりませんよ」

 

 確かに紅虎さんの言う通りだ。以前よりも笑う回数が多くなったのはもちろんのこと、何より心に余裕が出来た感じがする。

 

 それにどうゆう事なのかわからないが、幽々子さんの事になるとすぐに感情的になって頭に血が上ったり、爆発的な力を発揮できるようになったりすることがある。

 

「表情や感情が豊かになることは否定しませんが、闘いの最中であまり感情的になってはいけませんよ、それが命取りになるのですから」

 

「はい、わかっています」

 

 そう言い終えると大和はそれから話をすることなく、料理をすべて食べ終えるまで食事を続けた。

 

 十人前近くある料理を食べるのは結構キツいと思っていたが、案外胃が受け入れてくれるものだ。まぁ、元々常人よりもかなり食べる方だったから当たり前のことかな。

 

(そうですか……ようやく大和も見つけたようですね)

 

 そして無言で食事を続ける大和が料理を食べ終えるまで何も話すことはないと察したのだろう。紅虎は何も言わずに部屋から出ていった。

 

 

 

 

《それから数時間後》

 

 

 

 十人前はあった料理を大和が見事に完食し、紅虎に食器類を片付けて貰ったあとのこと。

 

 絶対安静なので運動を禁止されているのはもちろんのこと、歩くことすら許されていないので、大和はかなり怠惰な時間を過ごしていた。

 

 だが幸いなことに、朝食を食べ終えてから幽々子さんが部屋に来てくれたので、一人退屈は時間を過ごすことはなかった。

 

 後に紅虎さんから聞いた話によると、別室で幽々子さんも朝食を取っていたらしいが、どうやら俺が食べていた量の二倍近く食べていたらしい。

 

 その時いた紅虎さん曰く、「流石の私も驚きました」とか「思わず苦笑いを浮かべてしまいました」と言っていた。あの人がそんなこと言うなんて、面白半分でない限りは滅多にないことだ。

 

 あまりに退屈だった大和が暇そうな表情で欠伸をしたり何も考えずにボ~ッとしていると、幽々子が退屈しのぎに話しかけてくる。

 

「ねぇ大和、何かやりたいことある?」

 

「運動」

 

 幽々子の質問に対して大和は即答だった。

 

 だけど無理もない。元々大和は運動が好きな上に、ほぼ毎日鍛練やトレーニングで身体を動かしているのだから、一日でも大和に運動をするなと言うのは、ある意味拷問に近いものだ。

 

 ただ今の大和に運動はさせれない、させては絶対にいけないので、幽々子もどうにかして大和の運動したい気持ちを紛らわそうとする。

 

「ほっ、ほら大和、なんかお腹空かない? 紅虎さんから何か食べ物貰ってくる?」

 

「さっき食ったばかりだし、限界まで食い過ぎて死にそうなんだけど」

 

 まさかとは思うが、俺の倍近く食っている筈なのに幽々子さんはもう腹が減ったのかよ? そうだとしたら燃費悪過ぎれば、どんな胃袋してるんだよ、って色々と突っ込みたくなるわ。

 

 それに今の俺にサンドイッチとか食い物を食わせてみろ、胃の限界を通り越して間違いなく胃の中にあるものを全て吐き出す。

 

「それじゃあ私が早食いを披露してみようかしら?」

 

「食ってる本人はともかく、見せられる身にもなってみろ。俺が楽しいと思うか?」

 

「だったら大食いを………」

 

「全部幽々子さんが何か食いてぇだけじゃねぇかよ!? てか、どんだけ腹減ってんだよ」

 

 これは俺が退院するまでに、料理を作るであろう紅虎さんにかなりの負担が掛かると予測する。経済的にも心身的にも。

 

 二人で漫才的なことをしていると、ノックもせずに誰かが無断で病室に入ってきた。

 

「よう兄貴、騒がしいぞ」

 

 病室に入ってきたのは弟の和生だった。しかし、どうして俺が入院してることを和生が知っているのかは謎だが。

 

「なんだ和生か、見舞にでも来てくれたのか?」

 

「まぁそんなところだ。あと漫画の最新刊見つけたから買ってきてやったぞ」

 

「頼んでもいないのに悪いな」

 

 そう言うと和生は目の前に来て手に抱えていた単行本を大和に渡してくる。

 

「それにしても紅虎から聞いた時は驚いたぜ。まさか兄貴が喧嘩で大怪我をしたなんてよ」

 

 その情報はその場にいた本人と幽々子さん、あとは紅虎さんとかしか知らないはずなのに、和生は一体どこからその情報を耳にしてきたのか?

 思いつく限りだと、紅虎さんが電話で話したとしか考えようがない。

 

「正直がっかりしたよ。まさか兄貴が雑魚に不覚を取るなんて、もしかして以前よりも弱くなったんじゃねぇか?」

 

「そうかもな」

 

 和生からしてみれば大和の反応は予想外だった。前の兄貴だったら『そんなことはねぇよ』とか言って反発してくるはずなのに、今回は穏やかに認めてしまってる。

 

 そんな珍しい大和の反応に対して、和生は呆れたような表情を浮かべながらこう言った。

 

「あぁ~あ、兄貴は変わっちまったな、以前に比べて優しくなっちまってる」

 

「それ紅虎さんからも言われたよ、別に俺は困らねぇからどうでも良いが」

 

 以前は強くなることだけを目標にしてきたが今は違う気がする。言葉でははっきり言い表せないが、何か大切なものが出来たような、そんな感覚だ。

 

 大和の発言を聞くと、和生は気に食わなそうな表情を浮かべると同時に舌打ちをした。

 

 その瞬間。

 

「ふざけんじゃねぇ!俺はそんな腰抜けを目標に強くなろうと思ったんじゃねぇんだぞ!」

 

 兄の大和を見損なったと言わんばかりに、和生はぶちギレた表情を浮かべながら、病室を出ていこうとする。

 

「おい和生……」

 

「気分が悪くなった、家に帰らせてもらう」

 

 和生は病室から出ていくと、医院全体に響き渡る程の力でドアを思い切り閉める。

 

「まったくあのバカ騒ぎやがって、ここは病院だぞ」

 

「ねぇ大和、昔の和生君ってどんな子だったの?」

 

「今は面影がないけど人懐っこくて優しい子だったよ、それに泣き虫で臆病だった。」

 

 昔の和生は優しくて弱虫で、誰かにいじめられたらすぐ俺に助けを求めてくる可愛い奴だった。

 

 ただ、あいつの良いところは、弱い人を助けるために勇気を振り絞っていじめっ子から守ってたことかな。正直、初めて目撃したときは驚いたものだ。

 

 だけど、あいつが他人を何の躊躇いも無く傷つける性格になったのは。

 

「あいつがあんな風に変わったのは中学に上がる前だったかな? 苦手で出来ない筋トレとか鍛練を血相変えてやっていたことは鮮明に覚えている。」

 

「優しい和生君なんて想像もできないわね」

 

「今のあいつを見たら仕方がないさ。逆に信じる方が珍しいくらいだからな」

 

 それを信じることができる奴と言えば、兄弟である俺や武尊ぐらいだろうな。

 

 正直なところ、あいつがどうしてあんな風になったのかは全然わからない。理由があるのは確かなことだが。

 

「でも、どうして和生君は大和を目標にしてたのかしら? 紅虎さんも強者のはずなのに」

 

「……さぁな? その理由は俺にはさっぱりわからん」

 

 俺を目標に強くなるのなら、不可能に近いけど紅虎さんに弟子入りするのが手っ取り早いだろう。しかし、和生の奴はそんなことはせずに我流で恐ろしい程の成長を遂げている。

 

 あいつの無情で躊躇無い性格から考えて、もしも和生が紅虎さんに弟子入りしていたら、間違いなく俺よりも強くなっていただろうな。

 

「悪いけど幽々子さん、眠くなったからちょっと寝かせてもらうわ」

 

 そう言うと大和は布団を身体に掛けて目を瞑ると、すぐにぐっすりと眠りについてしまう。

 

 あまりも早い大和の就寝に驚きを隠せなかったのだろう。傍にいた幽々子は思わず唖然とした表情を浮かべてしまう。

 

「……えっ? ちょっと大和」

 

 起きてるかどうかを確かめるために幽々子は恐る恐る大和の頬を指で突っついたりするが、完全に熟睡している状態なので起きる気配はまったくない。

 

「……嘘でしょ? もう寝ちゃったの?」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 それにしても安心しきった大和の寝顔、近くで見るとまるで幼子のように可愛い顔だった。

 

 初めて目にする大和の寝顔に幽々子は心を奪われると、無意識に大和の顔を手で触れたり、顔を少しずつ近づけたりした。

 

「こうして見ると可愛いわね」

 

 無愛想な顔や怒ったような顔は度々見たことあるが、こうして安心して眠っている大和の寝顔は初めて。正直なところ、こういう大和の一面を見ることができて嬉しかった。

 

 それから大和が目を覚ますことになるのは数時間後の話となる。

 

 

 

 

 

 

 

《とある病室にて》

 

 

 大和と不良達の抗争が終わってからのこと。

 

 道端で無造作に倒れていた不良達は偶然通り掛かった人に見つけられ、警察や救急車を呼ばれた後、意識が無いまま病院の搬送されることになった。

 

 幸いにも不良全員意識を取り戻し、怪我は打撲程度の傷、みんな同じ病室で仲良く入院している。

 

「草薙のやろう……今度会ったときは絶対にズタズタにしてやる」

 

「でもよ、草薙よりもあの連れの女の方がやばくなかったか?」

 

「そうだな、あいつは普通じゃない」

 

 今度どうやって草薙達をぶっ潰そうか仲間内で話していると、病室に一人の女が無断で入ってくる。

 

 女性は腰まで伸ばした金髪、頭には赤いリボンが巻かれた白いドアノブカバーのようなナイトキャップを被っている。

 衣服は紫と白色を基準とした八卦の萃と太極図を描いたような中華風の服を着ている。

 

「どうもこんにちは」

 

「なんだてめぇ?」

 

「俺たちになんか用かよ?」

 

 女の眼は鋭い眼光へと豹変すると同時に不良達を睨み付けた。

 

 すると五人いた内の四人は突如白目を向いて意識を失い、残された一人は得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 一体何が今起こったのか、常人である不良にはまったく理解出来ないことだった。まるで電気の電源を消すかのように仲間達の意識が失った。

 

「私が用があるのは一人だけ、あとは眠って貰おうかしら」

 

「なっ……何なんだよお前はっ!?」

 

 恐れているのにも関わらず不良に近づいてくる怪しげな女、その恐怖のあまりに不良は身を震わせ今にも泣きそうな表情を浮かべる。

 

 そして至近距離まで近づいた瞬間、不良の頭に不気味な空間を開かれると同時に、女はそのままその空間に手を突っ込んだ。

 

「別に恐れなくても良いわ、私はあなたが見た記憶の一部を知りたいだけ、すぐに終わるわ」

 

 それから女は異空間の中を数分程度いじくり回すと、ようやく知りたい情報が手に入った。

 

「そう……この草薙大和って子が幽々子と一緒にいるのね」

 

 知りたい情報を手に入った瞬間、女は異空間に突っ込んでいた手を引き抜く。

 

 そして解放された不良はまるで脱け殻になったかのように、目を開いたまま意識を失ってしまった。

 

「もうあなたに用はないわ」

 

 そう言うと女は自分の背後に謎の異空間を開くと、そのまま後ろを振り向いて異空間の中へと入って行った。

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