古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
朝食を食べ終えて食器を片付けてから数十分後のこと、大和は食器を片付け終えると幽々子がいる茶の間へと歩いて戻った。
茶の間に到着すると、そこには暇そうにしている幽々子がおり、退屈そうな表情を浮かべながら大和が来るのを待っていたようだ。
朝食の片付けも終わったし、特にこれから鍛錬する予定もない、だが今日は別件でやるべきことがある。しかしそれは勇気が必要なことだった。
大和は勇気を振り絞り、幽々子に対してこう言った。
「さて、遊びに行こうか。」
「えっ?」
「いや、幽々子さんには色々と迷惑掛けたし、今日は好きなところ遊びに行こうかなって、それとも嫌か?」
若干照れたような態度でそう言ってくる大和、こんな態度で大和から誘いを受けたのは幽々子も初めての出来事だった。
慣れない誘い方をしてきた大和のことを可愛いと思ったのだろう。幽々子は思わずクスっと微笑んでしまう。
それに好きな人の誘いを断る理由なんて何一つ無い。大和の誘いに対して幽々子が答えることはすでに決まっていた。
「ううん、喜んでその誘いを受けるわ」
「そうか、ありがとう」
幽々子さんが誘いを受け入れてくれて嬉しかった。好きな人に喜んでもらえることがこんなにも嬉しいことだなんて今まで思いもしなかった。
早速、大和は服を着替えてこようと幽々子に一言告げてから茶の間を出ていこうとする。
「俺着替えてくるから、幽々子さんも着替えてきなよ」
「うん」
「それじゃあ玄関で待ち合わせな」
大和が茶の間を出ていったあと、幽々子も服を着替えるために自室へと歩いて向かった。
それから二人が合流するのは数十分後の話だった。
《〜少年少女着替え中〜》
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数十分後、二人は服を着替え終えると玄関で合流した。
大和の服装は下はジーパンを履いており、上着は長袖に膝下まである赤いロングコートを着ていた。
一方の幽々子は頭に水色の三角巾帽を被り、服装は水色を基本色として所々に桜の花びらの模様が入っている変わった着物を着ており、それに首には俺があげた白いマフラーを巻いている。まぁ、いつものコスプレのような衣装だ。
確か買ってやった服があっただろうに、どうしてそのコスプレのような服を着るのか、あまり衣服に詳しくない大和にはさっぱりわからなかった。
「相変わらずのそれか、もっと別の服があっただろうに」
「だってこれの方が落ち着くんだもん。 それとも大和はこの服が嫌いなの?」
「いや、別に嫌いじゃねぇよ」
幽々子さんのいつも着ている服は嫌いではない。だが公然の場に出て人の視線が気にならないのかとは思う。
まぁ、本人が別に気にしないのならそれで良いだろう。それに他人の趣味や服装にああだこうだ言うのは、俺は正直好きではない。
「まぁ、良いや。 取り敢えず行こうぜ」
「はーい、しゅっぱーつ」
ドアを開けて外に出る二人、こうして二人のデートのようなものが始まったのであった。
まず大和が悩んだのは一体どこに行くべきか。今まで女性と一緒に遊んだり、どこかに行くことがなかったので、それに関する知識はとても乏しいものだった。
取り敢えず、取り敢えずだ。どこに行きたいかは相方に聞いてみよう。そうすれば自然と行く場所も見つかるだろうし。うん、それが良い。
「さて、幽々子さんはどこに行きたいんだ?」
「そうねぇ〜 食べ物があるところかしら」
「さっき食ったばっかだろう。どんだけ食いしん坊なんだよ」
朝食をさっき食べたばかりだと言うのに、もう食べることを考えている幽々子、もはや食べ物があるところであればどこでも良いのかと思ってしまう。
幽々子の食い意地に対して思わず呆れたような表情を浮かべる大和、そんな大和を見て幽々子も怒りはしなかったものの静かに言葉で反撃をする。
「もう、だったら大和が決めてちょうだい」
「いや、俺も別に行きたい場所ないからな」
行きたい場所はあると言えばあるが、それは俺個人が行きたい場所であって、少なくとも幽々子さんが楽しめるところではない。
幽々子の言葉に悩む大和、こんなに悩んだことがあったのは紅虎さんに難題を押し付けられた時以来だった。
大和と幽々子が仲良く?話している最中、突然、和服を着た大男の草薙武尊がドアを開けて外出てくると、大和達の元にやってきた。本当に間の悪い男である。
「よっ、お二人さん。朝っぱら仲が良いことで。」
「お兄さん」
「兄貴、また邪魔しに来たのか?」
「見てわかんねぇのかよ。 俺も出掛けるんだよ」
兄貴が今日どこに行くのか俺もさっぱりわからない。だが、兄貴の性格から察するに、闘いに関することのために外に出るか、それとも街に行って見知らぬ女の人をナンパしにいくか。
「仲良くしてるのは良いが、あまり騒ぎすぎるなよ。 ご近所さんの迷惑になるからな」
珍しく真っ当なことを言ってその場から立ち去る武尊、いつもまともな状態であれば何も言うことはないが、酒を飲みすぎて暴れる癖があるから何とも言えない。
それに対して二人はそんなに大きな声で騒いでいたのかと言わんばかりに、お互いを見つめ合いながら思わず黙り込んでしまう大和と幽々子。まさか、武尊に聞こえていたとは思ってもいなかったのだろう。
「さてと、どこに行こうか?」
武尊がその場からいなくなると、再びどこに行こうかと会話をする二人。今度は近所の迷惑にならないように比較的に小さな声で喋る。
正直、幽々子は大和と一緒にいるなら行く場所はどこでも良かった。しかし、質問に答えないと大和が悩んでしまう。仕方なく幽々子が出した答えは。
「そうね、楽しければどこでも良いわ」
「それじゃあ取り敢えず街にでも行ってみるか」
「うん」
街に行けば大抵のものは何でもある。幽々子さんも余程のことがなければ飽きさせることはないだろう。
決まれば早速行こうと、二人は身を寄せ合わせながら街のある方向へと歩いていった。
《〜少年少女移動中〜》
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
屋敷を離れてから数十分後のこと、二人は目的地である街中に到着した。
来てみると街中には朝だというのにも関わらず、老若男女の色んな人が賑わっており活気付いていた。
初めて街に来た幽々子は色んな店がある街通りを見てからというものの、目を完全に釘付けにされ、無邪気な子どものように目をキラキラと輝かせていた。
「来て良かったか?」
「うん、色んなお店があるもの、周るのがとても楽しみだわ」
こうして来てみると、やっぱり良かったな。幽々子さんも喜んでいることだし、結果オーライというところか。
俺も久しぶりに街に来たが、やはり人が混雑している。今日は誰にも絡まれないようにしっかりと周りを見ないとな、楽しく遊びに来たのが無駄になっちまう。
どこに行くかは全て幽々子さんに任せよう。なんて言ったって今日楽しむのは俺ではなく彼女なのだから、そう思った大和は目を輝かせている幽々子に対して話し掛ける。
「どこに行きたい? 好きなところに行って良いぞ」
「ほんとう!?」
「うん」
「それじゃあね、あそこに行きたい!」
幽々子は大和の手を握り締めて行きたい場所へと走って向かう。相変わらず楽しいことになると強引になる人だ。だが嫌いではなく、それが良いところだと熟思う。
(なんか、まるでデートみたいだな)
手を引っ張られてどこかに連れて行かれる大和、だがこういうのも悪くはない。初めての経験に大和は頬を赤くした。
幽々子が早速向かった先、そこは言うまでもなくフランス料理店、つまり食べ物屋だった。どれだけ食欲に素直な人なんだろうか。
「やっぱりか」
「ほら、早く中に入りましょう」
「そんな慌てなくても食い物は逃げないって」
だが、これも想定内のこと、幽々子さんがこれから食べ物屋に行って食べることを我慢しないように、俺は銀行に溜め込んでいたお小遣いを全て下ろしてきた。
二人は早速、店の中に入っていく。
中に入ってみると、洋風な作りをしているオシャレな内装、普段なら絶対に入ることはないであろう。
二人は空いている席に座ると、幽々子は早速メニュー表を見て何を食べようか考える。
「俺は腹空いてないから、後は好きなの選んでくれ」
「それじゃあここからここまで全部頼もうかしら」
「……………………………はっ?」
幽々子が頼もうとしたここからここまでとは、ほぼ全部のメニューのことだった。
そんなに頼んで食えるのかと、流石の大和も思わず唖然としてしまう。いや、それ以前に頼み方がとてつもなくおかしいことに気付いて欲しい。
取り敢えず店員を呼んで、料理を頼む二人。
「俺はオレンジジュースで、あとは」
「ここからここまでの料理を頂ける?」
「えっ!? はっ、はい、かしこまりました。」
店員が幽々子の頼み方に驚くのも無理はない。なんて言ったって驚きたいのは俺の方でもあるからだ。
幽々子さんの食欲と異次元の胃袋のことは知ってはいるが、まさか店のほとんどのメニューを頼むなんて思いもしなかった。マジでフードファイターか何かですかね?
約三十分後ぐらいか、店のほぼ全てのメニューを頼んだ割には意外と早く料理がやってきた。
目の前にオレンジジュースのみを置かれた大和に対して、幽々子の前には沢山の料理が並べられており、満漢全席と見間違えるほどの量が置かれていた。
「料理はこれで全てになります、ではごゆっくりと」
勘定を置いて頭を下げた後に店員がいなくなる。
「いただきまーす」
早速、幽々子は目の前に置かれた料理を食べ始める。
幽々子が料理を食べているその間、置かれた勘定を大和は恐る恐る見ると、それは思わず目を疑ってしまうほどの金額だった。
まさか料理で、食べるだけでこんだけの金額になってしまったのか、信じ難いがそれは事実であり変えようの無い現実でもあった。
そんな勘定の金額を見て気に病んでいる大和のことなんて気にもせず、幽々子は嬉しそうに喜んで料理を次々と食べ進めていた。
「おいし〜、こんな料理初めて食べたわぁ〜」
(まぁ……良いか)
幽々子さんも喜んでいることだし、食べている姿を見ているだけで心のケアにもなる。そう思えば安い出費か。
それから自分が料理を食べている姿をずっと見つめてくる大和が気になったのだろう。幽々子は一旦手を止めて食べるのをやめると大和に対して話し掛けてくる。
「どうしたの?」
「いや、可愛いなーって思っただけだよ」
そう大和に言われると幽々子は顔を真っ赤にする。こう真正面から可愛いと言われて恥ずかしかったのか。
大和に可愛いと言われてからというものの幽々子は大和から目を逸し、食べるスピードが格段に遅くなる。ちなみに大和はなぜ幽々子が自分から目を背けるのか、食べるスピードが遅くなったのか、その理由はわかっていない。
なんだか幽々子の様子がおかしいようなと思いながらも、大和はオレンジジュースをちょくちょく飲む。
「どうした、なんか口に合わない料理でもあったか」
「大丈夫、気にしないでちょうだい。」
そうか、と大和は特に気にすること無く幽々子の食事しているところを眺める。
それから幽々子が料理を食べ終えたのは四十分後のこと、普段の食べるスピードを考えてみれば今日はかなり遅い方だった。
料理を食べ終えると二人は席から立ち上がって、大和はレジで会計を済ませる。さぁ、緊張の瞬間である。
「お会計六万五千円になります。」
そう店員に言われると、マジか~と言わんばかりに小さなため息をつきながらも大和は財布から六万と五千円を取り出して払った。
まぁ、こういう日もあって良いか。幽々子さんの笑顔も見れたことだし、結果オーライと言うことで。
「ありがとうございました」
会計を済ませ終えると、二人は店の外に出て、次どこに行くか決めようとする。
「さて、次はどこに行こうか?」
「次は大和が決めてよ、私だけ楽しんでも悪いわ」
「別に俺は幽々子さんと一緒にいるだけで楽しいんだけどな」
「そっ、そうなのね」
さっきほどではないが、また幽々子が顔を赤く染める。それに対してやはり大和は幽々子の様子が変だと言うことには気付いていないようだった。
しかし、相手もこうして気を使っているわけだし無下にはできない。大和はどこに行けば良いのか、お互いが楽しめる場所はどこなのかを少し考えた。
俺が行きたい場所といえば、スポーツ用品が売ってる店や日本刀が売っている店、だがどれも俺が楽しめるだけで幽々子さんは楽しむことはできないだろう。
流石に自分の行きたいところはマニアック過ぎて無しだろうと思い、大和が考えついたこととは。
「いや、やっぱり良いよ。今日は幽々子さんが行きたい場所を選んでくれ」
「本当に私だけ選んでいいの?」
「あぁ、俺は幽々子さんの傍にいるだけで楽しいからさ」
「それじゃあ、あのお店に行きたいわ」
ようやく目的地を決めて、二人は近くにある寿司屋へと歩いて向かった。