古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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三十二話 想いを伝える時

 幽々子と大和が一緒に色んな場所に行ってから数時間が経ったあとのこと、空はすっかりと日が落ちて辺りは薄暗くなっていた。

 

 朝には沢山いた街の人達も今では少なくなり、ポツポツと人が見えるくらいまで減っていた。

 

 二人は街で精一杯遊び尽くすと、近くにあった公園へとやってきた。 

 

 人気はなく周りは設置されている電灯が灯されており、少々薄暗いがカップルに取ってはムードはあるスポットだった。

 

「今日は楽しかったな」

 

「うん、私大満足」

 

 今日は良く遊んだ、こんなに遊んだのは久しぶりだった。小学生以来かな、今までトレーニングや鍛錬のみに集中していて友達と思い切り遊んだことはなかったし、況してや女の子とデートするなんて初めてのことだったから、俺の心はとてつもない満足感に満ち溢れている。

 

 大和も幽々子も色んなとこに遊び行ったり、色んな食べ物を食べて大満足しており、寧ろ楽しすぎて疲れてしまっていた。まぁ、食べ物に関しては幽々子しか食べていなかったが、それは気にしないでおこう。

 

 公園を歩いていると、大和はあることを思い浮かべる。

 

 それは幽々子さんと初めて出会ったときのこと、今思えば不思議な出来事だったなと未だに思う。

 

 初めて幽々子と出会ったことを思い出しながらも、大和は幽々子に喋りかけた。

 

「そう言えば……俺達が出会ったのは、こういう公園だったよな」

 

 今でも鮮明に覚えている。いや、寧ろ忘れろという方が無理な話だ。幽々子さんを初めて見たあの時のことは衝撃のことだったのでしっかりと記憶に残っている。

 

「そうね、あの時は本当に助かったわ」

 

 偶然とはいえ、私を助けに来てくれた大和は本当の正義の味方やヒーローのように感じた。恐れることもなく複数人の相手に立ち向かうことは並の人ではできないことだから。

 

 そして何よりも大和の闘っている姿はとても格好良かった。自分を助けるために身体を張って立ち向かう姿はとても勇敢で輝いて見えた。

 

「俺は最初に幽々子さんを見た時は、服装を見てマジかって思ったけどな」

 

「もう、なによそれ」

 

 そう言いながらも笑顔を浮かべながら大和のことを軽くどついてくる幽々子。

 

「いてっ。」

 

 幽々子さんが今着ているコスプレのような衣服を初めて見た時は、この近辺のどこかでなんかのイベントでもあったのではないかと疑ってしまった。実際のところ、これが普段着と言うのだから未だに信じることが出来ない。

 

「でも今思えば助けて良かったと思う。俺に足りないものを幽々子さんが与えてくれたからさ」

 

「別に私は何も与えてないけどね」

 

「いや与えてくれたよ幽々子さんは、俺に取って掛け替えのないものをな」

 

 自分が幽々子さんを助けたことを本当に良かったと今でも思っている。まさか偶然にも助けた人から自分に足りないものを与えてくれるとは夢にも思わなかった。そのおかげで前よりも格段に強くなれる気がする。

 

 俺に足りなかったもの、それは護るべき者。

 

 今までは自分のために日々強くなろうとしていたが、それには限界があった。真の強さを求めるには自分に取って本当に大切な者、護るべき者を見つける他ない。

 

 俺にとって大切な者、護るべき者は偶然出会った幽々子さんであったのだ。

 

「まさかな、偶然会った幽々子さんが俺にとって大切な人になるなんて思いもしなかったよ」

 

「この世は偶然の賜物、私達の出会いも不思議なことではないわ」

 

「それもそうだな」

 

 だが、それは同時に奇跡とも言える。出会うはずのない二人が偶然にも出会い紡がれる。そんな幻想のお伽話が起こるなんて現代社会にいた大和は思いもしないかっただろう。

 

 大和は自分だけ掛け替えのないものを与えられたと思っているがそれは違う。同じく幽々子も同等かそれ以上のものを大和から貰っていた。

 

「私もね、嬉しかったの大和。」

 

「なにがだ?」

 

「見ず知らずの私を助けてくれたこと、あの時はこの世界のことを何も知らなくて怖かったの、それを大和が救ってくれたから、本当に正義の味方かと思ったわ」

 

「おいおい、それは言い過ぎだよ。俺は当然のことをしたまでだ」

 

 幽々子からしてみれば決して大袈裟なことではなく、本当に助かったことだった。それに当然とは決して当たり前のことではなく、それは人としてとても素晴らしいこと。

 

 不良から救ってくれた後も、現代のことを何も知らない私に寄り添ってちゃんと話を聞いてくれたこと、そして何よりも行く宛のない私に居場所をくれたこと、とても嬉しかったことだった。

 

「ううん、大和は正義の味方よ。この世界で私を唯一安心させてくれた人だもの」

 

「そう率直に言われると照れるな」

 

 頬を赤くして首を軽く掻く大和、どうやら素直にそう言われたことが恥ずかしかったようだ。

 

 俺が正義の味方か、たまにそう言われるのも悪くないな。それに別に大したことをやったつもりではないが、好きな人にそう言われるのは悪い気はしない。

 

「そう考えると私は大和に助けてもらってばっかりね」

 

 そうだった。大和はいつだって幽々子を助けようとしてくれている。相手はあくまで赤の他人で、そもそもこちらの世界の住民ではなくて。しかも亡霊などいう存在であるのにも関わらず。

 

 彼はそんな事など気にもすることなく、幽々子を支えようとしてくれていた。

 

 一方的に助けられてばかりで、その恩だってほとんど返す事が出来ていない。大和からは色んなものを貰ったのに、自分は受け取ってばかりじゃない。

 

 本当に、大和には迷惑をかけてばかりね。

 

「いや、俺だって助けられてるよ」

 

 そんな中。不意に大和から投げかけられたのは、思いもよらなかった言葉。

 爽やかに笑顔を浮かべながら、和ましげに幽々子を見つめて。彼は続ける。

 

「さっきも言っただろ? 俺は幽々子さんから掛け替えのないものを貰ったんだ。それはもしかしたら一生手に入らないものだったんだよ。」

 

「そんなことは……」

 

「いや、事実さ。今までの俺のままだったら、手に入れるどころか気づくこともなかったはずだ。最近までの俺は本当に馬鹿だったからな」

 

 ただ強くなるために力だけを求めていた日々。だがそれにも限界というものがあった。

 しかし、愛しい人、護るべき者を見つけたことで状況は大きく変化した。限界と思っていた己の力がまだ強くなれることを知った、幾らでも強くなれることを知った。

 

 その強くなるきっかけを作ってくれのは、なんの紛れも無い。西行寺幽々子という少女だった。

 

「それにさ、気付いたんだ。初めて会ったとき俺は幽々子さんに惚れていたんだなって。あれが一目惚れってやつなんだな。」

 

 初めて幽々子さんと出会ったときに感じた頭の中がふわふわとして気持ち良くなり、胸の鼓動がドキドキと徐々に早くなったあの感覚、あれが人に恋したものなんだなとつい最近気付いたんだ。

 

 それを聞いた瞬間。音が消え、時が止まったかのような感覚に襲われた。 

 

 心臓が大きく跳ね上がり、幽々子の瞳が揺れる。

 

 彼が。目の前の少年が口にした言葉。その意味を理解するのに多くの時間を使ってしまって、そのあいだ何も喋れなくなった。

 

 ただ、胸中から湧き上がる激情だけは、しっかりと認識する事が出来ていていた。

 

 幽々子は口をつぐむ。力強く拳を握って、息を詰まらせながらも、それでも何とか口を開き、彼女は声を引っ張り出す。

 

「どうして?」

 

「さぁな、俺にもわかんねぇや、ただ人を好きになるのに理由なんかいらねぇじゃねぇかな」

 

 間髪入れずに、大和はニコっと無邪気な笑顔を浮かべながら返答してくる。

 

「でもさ、これだけは言える。幽々子さんの綺麗な笑顔、人柄に惚れたんだなって。

 あと俺の料理を喜んで食べるところとかな。」

 

 最後の一言を言うときには、イタズラした子どものような笑顔でそう言ってきた。

 

「………っ」

 

「改めて言う、俺は幽々子さんのことが好きなんだ」

 

頭の中はぐちゃぐちゃだった。でも、胸の中は温かかった。

 

 膨れ上がった激情が幽々子を支配する。様々な想いが彼女の中を駆け巡る。そんな高鳴りを誤魔化す為に、幽々子は無理矢理言葉を繋ぐ。

 

「私なんかで、本当に、良いのかしら……?」

 

「ああ、幽々子さんじゃなきゃ駄目なんだ」

 

 大和の想いを聞いている内に、幽々子の想いも固まってきて。

 

「幽々子さんは、俺のことをどう思ってる?」

 

 草薙大和という少年の事を、どう思っているのか。

 

 その答えはとうの昔に決まっている。とうの昔に気づいている。自分が大和のことを好きだということも、そして相思相愛だと言うことに気付いていたから。

 

 だから、もう迷うことも逃げることもしない。

 

 ふわりと優しく、彼女は彼の胸に飛び込んだ。

 

「ゆっ、幽々子さん」

 

「…………」

 

 小柄な一人の少女の身体は、すっぽりと彼の身体に収まっていた。

 少年の熱い体温を肌で感じる。彼の鼓動が伝わってくる。ちょっぴり早いその鼓動が、何だか少し心地いい。少年の温もりを感じると、何だか少し安心する。彼という存在を、しっかりと認識出来ているような気がして、そして大和という少年を、独り占めに出来ているような気がして。

 

 優越感、とでも言うべきだろうか。それに浸っていた。

 

「私も好きよ、大和」

 

 切なさそうな表情を浮かべる。鈴を転がすような声で、抱いた気持ちを素直に伝える。桃色の鮮やかな瞳が、彼を捉えて離さない。

 その言葉に嘘偽りはない、何の混じり気もない純粋な少女の思い。これは面白半分でもなければ冗談でもない、本気で思っている真実の言葉。彼女の恋心は、確かに本物だ。

 

「ずっと俺の傍にいて欲しい。」

 

 そっと、幽々子の身体が引き寄せられる。今度は大和の方から抱き寄せてくれたのだと、理解するのにあまり時間はいらなかった。

 

 幽々子の身体が温もりに包まれる。ずっと鋼のように硬い肉体だと思っていいたけれど、こうして抱き寄せられると、意外とソフトでがっちりとした身体からやっぱり男の人なんだなと実感できる。

 

 幽々子もまた、ぎゅっと彼の上着を握る。

 

「私も同じよ……大和と一緒にいたいわ」

 

「……幽々子」

 

 自然と目を瞑り、まるで愛を確かめ合うかのように、二人は唇を重ねた。

 

 抱きついた時とはまた違う、温かい心地。唇から伝わってくる柔らかい感覚、胸の中に満たされてゆく充実感。それに比例するかのように頬が熱くなり、心臓の鼓動がますます早くなってゆく。

 

 確かにここまで密着していれば、それも致し方ないだろう。けれども、だからと言って、それで不快感を覚える事など絶対に有り得ない。

 

 これからは、幽々子を幻想郷に帰すためではなく、幽々子と一緒に人生を歩もう、どんな障壁が聳え立とうとも、どんな困難が待ち受けていようとも、幽々子を守るために立ち向かってみせる。

 

 誰にも俺達の恋仲を引き裂かせない。

 

 

     《〜同時刻・同じ公園では〜》

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 大和と幽々子の二人が愛を確かめ合っているところを、公園にある木の陰で眺めている男二人がいた。

 

 その人物とはどこかへ出掛けたはずの草薙武尊と、意外にも御巫紅虎だった。どうやら二人の後をずっと追っていたようだった。

 

 木を背に腕を組みながら眺めている武尊、そして隣の木陰から覗くように眺めている紅虎、これでバレてストーカーと呼ばれても何もいえない。

 

「おうおう見せつけてくれるぜ、大和の野郎も隅に置けないな」

 

「えぇ、成就したことでなによりです。」

 

 紅虎の言う通り、大和の大切な人、愛する人は幽々子だった。しかもそれと同時に幽々子も大和が好きだった。つまるところ相思相愛だったようだ。

 

 弟子の恋愛が成就したことがこんなにも嬉しかったこととは思いもしなかったのだろう。表情にはださないものの、紅虎の冷めていた心は高鳴っていた。

 

「あの子は強くなります、今まで以上の力を得るでしょう」

 

「まぁ、あいつが強くなっても俺には勝てねぇけどな」

 

 高らかに笑う武尊、そういうことをしていたらいずれ見つかってしまうことも気にすること無く。

 

 俺とあいつでは身体の作りも強さの次元も大きく違う。残念だが、護る者、愛する者を見つけて今まで以上に強くなろうとも俺には絶対敵わない。いや、俺がそうはさせない。

 

 だから、大和が羨ましいとも良さそうだとも思わない。俺は俺だ。俺は自分自身の生き方を貫く。闘いに生きて闘いに死ぬだけだ。

 

「あなたも大和のようにそろそろ身を収めたらどうですか? もしかしたら今よりももっと強くなれますよ」

 

「はっ、興味ねぇな。俺は一人でも強くなれるつーの」

 

「それは残念ですね」

 

 このとき武尊のことを可哀想な人だと思ってしまった。護るべきも者も大切な人も得ること無く、ただ強大な力をもってしまっていることを。

 

「まぁいいや。これから祝に飲みに行こうぜ紅虎さん。俺が奢ってやるからよ」

 

「それも悪くありませんね。久々に付き合いましょうか」

 

 武尊と紅虎の二人は大和と幽々子にバレないように、そろりと近くにあった飲み屋へと歩いて向かった。

 

 大和の恋愛が成就したことを祝いに、そしてこれからも強くなることを期待して、盛大に飲むのであった。

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