古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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三十四話 動き出した賢者

風間組、とある京都の街中に事務所を構えている比較的に小規模の暴力団体。

 

 構成員は約三百人と人数は少ないが、数百年以上 前から存在している古い組。

 

 周りには自分達よりも大きな規模の組が沢山あるにも関わらず、どこの組の傘下にも加入をすることはなく、ほとんど独立している状態。

 

 しかし他の組が風間組を潰そうとしたり、喧嘩を吹っ掛けることは数百年に渡って行われておらず、それどころか妙な噂が昔から根付いていた。

 

 その噂は複数あるが、その中でも特に有名なものを二つ上げてみよう。

 

 まず風間組に喧嘩を売ったり脅しを掛けたりした組は、翌日には組長や構成員が突然姿を消したり、何かしらの事故に巻き込まれたりして亡くなっている。

 

 その他にも、風間組の情報や秘密を探ろうと潜入捜査を試みた組は、侵入した者も含め、翌日には組長も含めて構成員達が一人残さず亡き者となっていた。

 

 また暴力団以外にも、警察なども手を出すことができず、誰も風間組の秘密を探ることはできない。

 

 上記で説明した通り、風間組を敵対するような行為をする者には不幸なことしか起こらない。だから、この辺にいる組のほとんどは、風間組には絶対に手を出すなと、名のある幹部達が口を酸っぱくして傘下や部下達に伝えている。

 

 そんな風間組に今宵、単身でやってきた女性が一人現れたのであった。

 

 風間組のビルの入っていく一人の女性、ヤクザのビルとわかった上で入っていっているのか、まるで自分の家に帰るような立ち振舞で歩いている。

 

 ビルの中に入ると、あたりまえだが複数の組員と顔合わせする。

 

 無論、組員達が自分のビルに無断で入ってきた見知らぬ女性を放って置くわけにはいかない。

 

「なんだ嬢ちゃん、ここに入ってきたら駄目だろ?」

 

「退きなさい、貴方達には用はないわ」

 

 そういうと何が起きたのか、組員達の意識が突然無くなり、その場に倒れ込んでしまう。

 

 ビルの奥まで入っていくと、そこには組長と複数の組員が首を揃えていた。

 

 血気盛んなのか、見知らぬ女が無断で入ってくると懐から武器を取り出して叫びだした。

 

「カチコミかゴラァ!!」

 

「女でも構わねぇ!! 野郎をぶっ殺せ!!」

 

 男達は懐から拳銃(チャカ)短刀(ドス)などの得物を取り出すと、すぐさま戦闘体勢に入って八雲紫を迎え撃とうとした。

 

 しかし。

 

「騒ぐんじゃねぇてめぇら!! さっさと得物をしまいやがれ!!」

 

 恐らくこの組織の長なのだろう。威厳のある男が大声で部下を怒鳴ると、それに対して部下達は若干ビクリとしたあと、男の言う通りすぐさま得物を懐にしまった。

 

「すんません組長」

 

 そして周りにいた部下達が大人しくなると、組長と思われる男は組に乗り込んできた八雲紫を睨み付けながら口を開いた。

 

「それで誰なんだ、お前は? 俺の組に一人で、況してや女が堂々と入ってくるなんて良い度胸だな」

 

「無礼は承知の上です風魔一族頭領」

 

「ほう、我ら一族の事を知ってる奴がこの時代にいるとはな、何者だお前は?」

 

「私の名前は八雲紫、五百年代々続く忍、風魔一族のあなた達に頼み事があって来ました。」

 

「その頼み事は差し詰め殺しの類いだろ? 俺達に依頼することなんて限られているからな」

 

 自分達に任される仕事は何なのか理解していると言わんばかりに、風間組の頭領は堂々と発言する。

 

「えぇ、お察しの通りよ。それと……さっきから私の首を狙うこの子をどうにかして欲しいわ。」

 

 八雲紫の背後を見てみると、片手に持った短刀を八雲紫の首に突き立てている青年が気配と息を殺して背後に立っていた。

 

 青年は一体いつから背後を取っていたのか、それは一刻も早く青年の存在に気付いていた八雲紫しかわからないだろう。

 

「やめろ獣蔵、こいつは久々の依頼人だ。」

 

 八雲紫の背後を取っていた青年は髪の色は黒く短髪。

 身長はおよそ185㎝と、隠密には決して向いていない恵まれた体格をしており、容姿は端麗な顔立ちが特徴的、服装は白い半袖の上に青い長袖ジャケットを着ており、下は紺色のジーンズを履いている。

 

 組長にそう言われると、獣蔵と呼ばれている青年は八雲紫に突き付けていた短刀を自分の懐に収めた。

 

「すまねぇな八雲さんとやら。そいつの名前は風間 獣蔵(かざま じゅうぞう)、俺の倅であり次期風魔家の頭領だ」

 

 背後を取るのを止めて、八雲紫の目の前に素早く立つと、風間獣蔵は地面に片膝をつけながら深く頭を下げる。

 

「客人とは知らず、牙を向けて申し訳ない。如何なる罰でもお受けいたしましょう。」

 

「いえ、寧ろ素晴らしい隠密で関心したわ。 まさかこの現代に、ここまで腕の立つ忍がいるとは思ってもいなかったから」

 

 自分の命を狙っていたのにも関わらず、八雲紫は獣蔵に対して称賛の言葉を与える。

 

「あんた本当に何者なんだ? さっきから我ら一族の事を昔から知っているような素振りだが、まさか妖怪の類いとかじゃねぇよな」

 

「それに答えて私に何の得があるのかしら? 少くとも貴方の洞察力は間違ってないわよ」

 

 冷酷に淡々とそう言い続ける八雲紫、しかし真実を言おうとすることは決してなかった。

 

 周りを見渡し、特に風間獣蔵に視線を向ける。だがその視線に慈悲や好意というものは決して無く、ただ威圧的に非情に見つめているだけであった。

 

 しかし妖怪であろう八雲紫に視線を向けられている獣蔵は怖じけることも恐れることもせず、ただ無表情を貫き通しており、威圧感に晒されても尚その表情が崩れることは決して無かった。

 

「ところで風魔家頭領、貴方の倅と部下を私に貸して頂けないかしら? もちろん報酬は払うわ。」

 

 すると、八雲紫の側に不気味な空間が開きだし、空間の中から大量の金銀財宝がまるで滝のように地面へと落とされていく。

 

「偽物だと思うなら確かめても構わないわ、それはもうあなた方の物よ」

 

「それは妖術か? やっぱりあんた人間じゃねぇな。」

 

「だったらどうするのかしら? 私の依頼を拒否でもするの?」

 

「いや、例え依頼してきたやつが鬼だろうが仏だろうが引き受ける主義でな、喜んであんたの力にならせて貰うぜ」

 

 終始、八雲紫は物腰柔らかな態度を振る舞っていたが、どこか人間を見下しているような気配を周囲の人間達は感じていた。

 

 そして、依頼を引き受けることが成立すると、八雲紫は獣蔵に目を付ける。恐らく隠密の腕を見込んだのだろう、そういう素振りを見せていた。

 

「そう……なら遠慮無く倅を連れて行くわね。」

 

「あぁ、好きに使ってくれ」

 

「それじゃあ連いて来なさい」

 

「……御意」

 

 ただ言われるがままに獣蔵は淡々と八雲紫の背後を追うように歩くだけだった。

 

 そして、歩いてから間もなくして二人は事務所から姿を消し去ってしまう。

 

 

 

 

《〜風間組前の道路〜》

 

 

 

 

 

「八雲様、これから何処に向かうつもりですか?」

 

 控えめな態度で獣蔵が尋ねてくると、何を思ったのか、八雲紫は突然その場に立ち止まり、後ろを振り向いて獣蔵を見ながらこう言った。

 

「あなた獣蔵と言ったかしら? いつまでそうやって演技するつもりなの?」

 

「はて? 何の事だか……私にはさっぱり」

 

「惚けても無駄、あなたの口調とか態度にさっきから違和感があるのよ。」

 

 嘘を完全に見抜いていると言わんばかりに、八雲紫は威圧感のある目付きで獣蔵を睨み付けながらそう言ってくる。

 

「……………………」

 

 それに対して、もう誤魔化せない事に気付いた獣蔵は残念そうな表情を浮かべながら深く溜め息をついた。

 

「あぁ~あ、せっかく忍者っぽくしてたのに、全部お見通しかよ」

 

「何故そんな態度を取ったのかしら?」

 

「特に理由はないけど、だって俺って忍じゃん? やっぱり、それっぽく喋った方が良いと思ったし、何よりもカッコいいじゃん」

 

 無邪気な子供のように満面な笑みを浮かべながら獣蔵はそう言った。

 

 それに対して、人外である自分を恐れていない獣蔵の態度が気に食わなかったのだろう。

 八雲紫は何か気にくわなさそうな表情を浮かべながら、にっこりと笑っている獣蔵を殺気に満ちた眼で睨み付ける。

 

「貴方……私と二人っきりで怖くないのかしら?」

 

「全然、例え今この場で殺されても悔いはないよ。 人間や動物が死ぬのなんて早いか遅いかだし、それよりも今を楽しまないと損じゃない?」

 

 殺意を向けられても、獣蔵は呼吸を乱さなければ、にっこりとした笑みを崩すこともなかった。

 

 発言や思考から察するに、いつ死んでも構わないとでも言うのか、獣蔵からは死への恐怖がまったく感じられない。

 

 人間にしては面白い奴だと思ったのだろう。このとき八雲紫は獣蔵に対して初めて笑みを見せた。

 

「おもしろい事を言う子ね、ますます気に入ったわ。」

 

 人間と人間を殺し合わせるための駒として使うところだったが、どうやら面白い人材に巡り会えたのかもしれない。少なくとも八雲紫はそう思っていた。

 

 自分という人外を目の前にしても恐怖を感じない人間は今まで沢山見てきたが、自分を見て楽しんでいる人物はそう滅多には見ることができない。

 

「ところで俺が始末する標的は誰なんだ?それを教えて貰わんと、動けないんすけど」

 

「それもそうね、貴方の任務は草薙武尊、草薙大和、草薙和生の始末よ」

 

「へぇ~あの草薙兄弟か、不運なことだな」

 

「あら、知ってるかしら?」

 

「そりゃあ知ってますよ、長男と次男の方は置いておいて、三男の方は地元ではかなり有名ですから、主に悪い意味で」

 

 それなら物事が円滑に進むと思ったのであろう。それ以上の命令は出さなかった。その代わりに別の要求を獣蔵に突き付ける。

 

「それともう一つ、草薙兄弟の傍にいる桃色髪の少女を保護すること、私の大切な友人だから、もし掠り傷でも付けたら」

 

「はいはい、承知しましたよ。 承知しましたから恐い目付きで睨まないでよ」

 

 指をパチンッと鳴らす。

 

 すると何処からともなく黒い衣を纏った大勢の人間達が姿を現し、獣蔵の周りで片膝を付いて頭を下げる。

 

「標的は今聞いた通り、まずは相手の居場所の特定と情報収集を頼むよ。精々バレないようにね」

 

「………御意」

 

「あぁ、もしバレたらやっちまっても良いよ」

 

 その返事を最後に黒い衣を纏った男達はその場から消えるように姿を消した。

 

「八雲様に言い忘れましたが、俺には30人の仲間がいます。 もし邪魔にならなければ連れて行きたいのですが」

 

「依頼が達成できれば何をしても構わないわ。 あとは貴方達の好きにしてちょうだい」

 

「有り難き御言葉」

 

 そう言うと八雲紫は謎の異空間を虚空に開いて、そのまま中に入っていき、その場から姿を消した。

 

 そして八雲紫がその場からいなくなると、まるで何かを企んでいるかのようにニヤリと笑みを浮かべる獣蔵。その笑みは無邪気な子供のようにもみえるが、その中に狂気とも呼べるものも垣間見える。

 

「草薙大和………久々の強い標的、会うのが楽しみだなぁ」

 

 何時ぶりだろうか、久しぶりにやってきた強敵と闘う任務、想像するだけでも笑みが零れてしまう。

 

 草薙大和とその兄弟達は一体どれほど強いのか、俺を楽しませてくれるほどの力は持っているのか、闘わずに考えるだけでも嬉しさと喜びを感じる。

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