古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
他愛もない話をしてから数時間後のこと、二人は食事を食べ終えて、時間があったから近くの公園にまでやってきた。
いつも通りたくさん食べた幽々子と久々に沢山食べた武尊、二人共味にも量にもとても満足しており、当分何も食べなくても良かったぐらいだった。幽々子を除いて。
「いや〜腹一杯食ったな」
「そうね、今日はご馳走さま」
二人共大食い故に、とんでもない量の食事になったので銭は沢山飛んでいってしまったが、可愛い女の子の笑顔のためだと思い、別に金銭的な面は気にしないでおいた。
それにお互い満足したのだ。それだけでも金を使って良かったと思う。
「それにしても久々に可愛い女の子と飯食ったぜ、いっぱい食べる姿も見れたし色々と満足だわ」
「それはどうも、お世辞でも嬉しいわ」
「へへっ、お世辞じゃあねぇよ。本当のことだよ」
他愛もない話をしながら笑い合う二人、その姿はまるで恋人同士のようだった。もし大和が見ていたらどれだけキレていることやら見当もつかない。
公園の真ん中までやってくると、二人はその場で足を止め、どうしてこの公園来たのか気になっていた幽々子は武尊に向かって話しかけてくる。
「ところでお兄さん、何で公園に来たのかしら?」
「それはちょっと理由があってな」
幽々子を不安にさせないために、にこやかな表情を浮かべている武尊、しかしそれと同時に何か別のことを考えているような感じがしていた。
深呼吸をして、話を止める武尊。そして一言呟く。
「………さてと」
幽々子との話を途中で止めた途端、珍しく武尊は真剣な表情になると、幽々子に背を向けながらも背後を見ながらこう言った。
「朝っぱらからストーカーのように連いて来やがって、隠れてないでとっと出てこいや。」
「えっ?」
武尊は一体誰に向かって話し掛けているのか、幽々子にはそれがわからなかった。
そう言われて姿を現したのは黒い衣を身に纏う男が四人、現代の衣服と言うには大分古く、まるで忍者のような格好をしている四人の男達だった。
(こいつら、まさかな)
黒い衣を身に纏う四人の男を見た途端、武尊の表情は険しくなり、無意識に何時でも戦闘状態になれるように心身共に身構えた。
自分達を追っていた奴らの姿を見た瞬間、武尊は理解した。こいつらはやばい、気配や感じ取れた殺気から察するに俺を殺しに来た奴らだということを。
「なんだてめぇら? 俺達に何のようだよ?」
「草薙武尊とお見受けする」
「だったらどうする?今の時代に忍者とか流行らねぇぞ、まったく。」
まさかな、この現代社会で忍者をお目に掛かれるとは夢にも思わなかった。幸福なことなのかそれとも不幸なことなのか、少なくとも自分の命が狙われている時点で不幸なことには間違いないだろう。
武尊がそう言うと、黒い衣を身に纏った男の一人が懐から短刀を取り出すと同時に切っ先を武尊に向ける。
「貴様の命、貰い受ける!!」
武尊との間合いを一気に詰めて、腹部に向かって短刀を突き刺そうとする男、まともに当たれば致命傷は免れない。
しかし、相手が悪かった。相手が常人であれば勝負は着いていただろう。だが、今の相手は草薙武尊、常人ではなく超人の域に達した身体能力を持つ男。
腹部に向かってくる短刀を難なく回避すると同時に、左手で短刀の柄を握り締めて身動きを封じた。
「なっ!?」
「残念だったな、俺に攻撃は当たらねぇよ。」
反撃の返し、武尊は相手の顔面に向かって右拳を走らせる。
ハードパンチャーと言ったところか、武尊の右ストレートが見事に顔面にクリーンヒットすると相手は為す術もなく意識を絶たれてしまう。
あと残り三人、だが攻撃してくる気配はなく武尊の回避術を警戒している様子だった。
仲間がやられても平然としているところを見ると、余程肝が据わっているとみえる。
「草薙武尊、こいつは強いな。」
「あぁ、並大抵の強さではない。」
「どうする、一旦撤退するか?」
「いや、それでは若に顔向けできない。」
男達が話し合っている最中、何をぶつぶつ言っているのかと思いながらも、取り敢えず何かを考えているような表情を浮かべながら武尊が話しかけてくる。
「てめぇらの目的は何だ? まさか誰かに俺を殺せって言われたのかよ」
「そうだ。 そしてもう一つ、そこにいる女の確保を依頼されている」
(ゆゆちゃんを確保だと?)
俺の殺害を依頼されていたのは薄々気づいてはいたが、一体どうして幽々子を確保するのか、その理由は全くわからない。
もしかして、以前大和が言っていた幻想郷とやらからやって来た奴が幽々子を取り戻すために依頼してきたのか、だが、それならば俺を殺害する理由がわからなければ糸が掴めない。
考えれば考えるほど、謎が深まるばかりだった。
「聞いても無駄だと思うが、あんたの依頼主は誰なんだ?」
「それは言えない。俺たちはただ貴様の殺害とそこの女の確保を命令されただけだからな」
「あっそ、わかったよ。」
問いに答えないというのならもうこいつらには用はない。あとは適当に相手して勝利するのみ、それだけのこと。
三人の男が懐から短刀を取り出すと全員揃って切っ先を武尊に向ける。どうやら殺す気満々のようだ。
「俺から離れんじゃねぇぞ、ゆゆちゃん」
ここで幽々子に何かあったら弟の大和に顔向けできない。いや、どの面下げて会えば良いのかわからないと言った方が正しいのか。
「いざ参る!!」
一人の男が短刀を両手に武尊に突っ込んでいく、その姿はまるでお国のために死ににいく神風のようなあっぱれな勇ましさだった。
しかし、ただ馬や牛のように突っ込んで来るだけでは無意味、何か策略を考えなければ武尊を殺そうにも殺せない。
(馬鹿かよ。ただ突っ込んできても俺は殺せねぇのによ)
男が懐に潜り込んできた途端のことだった。武尊は突き立てられた短刀が腹部に当たる前に片手で短刀の峰を掴んだ。
「なにっ!?」
あまりの馬鹿力に男は思わず驚いてしまった。
武尊に掴まれた短刀は動くことはなく、まるで万力にでも固定したかのような馬鹿力、到底のことながら振り払うこともできなかった。
「ほら、どうしたよ?」
「ちっ!」
男は掴まれた短刀を諦めて手放す。
そして懐から別の新しい短刀を抜いて武尊に向かって斬り掛かった。
狙った先は頸動脈がある首、まともに当たれば出血多量で死に至ることは間違いなし。
武尊は掴んでいる短刀に力を集中させていて気を取られている、恐らくこの一撃は当たるであろう。と男は確信にも似た自信を持っていた。
(よし、殺った)
刃が首に当たる直後、男は武尊の命を取ったと確信した。しかし手は緩めない、慢心もしない。命を完璧に取るまでは油断できないと肝に命じていたからだ。
しかし、その反面、現実は残酷であった。
常人離れした反射神経というのか、それとも単なる天性の直感と言うべきなのか、武尊は持ち前の瞬発力で後ろに下がり、振るわれた短刀を難なく回避する。
(避けられた、だと!?)
「馬鹿だねぇ」
今闘いの最中だと言うのに何故驚いている余裕があるのか、思わず武尊は呆れたような表情を浮かべてしまった。
そんな余裕があるなら、新たな策を練って俺を殺す手段でも考えろ。もっと俺を驚かすような策略で挑んでこい、そう武尊の表情が物語っていた。
武尊は掴んでいた短刀を柄に瞬時に持ち替えて、驚いている男の肩に向かって容赦なく突き刺した。
………………ザクッ!!
「…………っ!?!?!」
肺まで達してしまったのか、深々と短刀が突き刺った男の肩から鮮血が吹き出し、あまりの痛みに肩を抑えながらその場に倒れ込んでしまう。
「さてと」
倒れたのはこれで二人目、あと残りは二人。
今思えば意外と呆気ない奴らだな、忍者とは言っても所詮は紛い物なのか、これならまだ大和の方が強いと思ってしまうよ。
「単体で俺に勝てると思わねぇほうが良いぞ、それとも逃げるか? 俺はどっちでも構わんぞ」
そう言うと、また攻撃を仕掛けてこずに話し合いを始める二人の忍者、まったく話し合いの好きな奴らのことだ。
「強い、本当に強い」
「今の我らでは勝機はないな。 どうする?」
「そうだな、ここは」
一体何を思ったのか、黒い衣を身に纏った男の一人が懐から鎖分銅を取り出すと同時に幽々子に向かって投げ出したのであった。
「えっ?」
「女を捉えて撤退だ。」
狙いは単純、少々野蛮な手口になるが幽々子を捉えてからの撤退をする。
無論、突然の出来事に幽々子は反応するどころか何が起きたのかすらわかっていなかった。
このままでは為す術も無く幽々子が捉えられてしまう。そう思っていた直後のことだった。
「残念だったな」
なんと、幽々子に向って飛来する鎖分銅を武尊が素手で捉えて握り締めたのだった。
「残念だったな、全部
鎖分銅を綱引きのように引っ張り上げて男を近くに寄らせる武尊、その引っ張る力は尋常ではなく、まるでトラックにでも引っ張られているような怪力だった。
その剛腕故に男は必死に抵抗するものの武尊には敵わなかった。
男が近くまで寄ってくると、まるで豚を見るような目つきで睨みつけてくる武尊。慈悲というものは存在せず冷酷無慈悲な表情をしている。
「一度しか言わねぇからしっかりと聞けよ。今日のところは見逃してやる。今度は全勢力を上げて掛かってきやがれ、そして俺を楽しませろ。」
今までにないほどに不気味とも言える、満面な笑みを浮かべながらそう言ってくる武尊。
忠告を終えると握っていた鎖分銅を男に向かって軽く投げた。
情けを掛けられたことがよほど悔しかったのだろう。男は唇を噛み締めて、黒い布越しでもわかるほどの屈辱に満ちた表情を浮かべていた
「良いだろう。次会う時、その時こそが貴様の最後の命だ。覚悟しておけよ草薙武尊。」
「あぁ、楽しみにしてるよ。全力で殺し合えることを心から願うぜ」
「覚えとくが良い、我らは風魔一族、それが貴様を殺す名だ。」
そう言うと気絶している一人を仲間が背負い、怪我を負ったもう一人は肩に突き刺さっている短刀を引き抜いて自力で立ち上がり、風の如くその場から立ち去っていった。
風のように現れ、風のように去っていくその姿はまさに忍、どうやら本物の忍者のようだった。
「風魔一族か………」
自分たちを襲ってきた名を呟く武尊。
そして戦いを終えると、武尊は幽々子の側に寄って心配そうに話し掛けてくる。
「ゆゆちゃん大丈夫かい? 怪我とかしてねぇよな?」
「うん、お兄さんが守ってくれたから何ともないわ」
「それなら良かった。」
怪我とかしてなくて本当に良かった。もし幽々子に何かあったら弟の大和になにを言われることやら見当もつかない。
取り敢えずだ、取り敢えず今日は何処にもいかずにもう家に帰ろう。また風魔一族の連中に襲われたらたまったものではないからな。
「今日は家に帰ろう。 外は危険がいっぱいだからな」
「そうね」
そう言うと二人は特に寄り道もせずにさっさと家に帰っていった。
突如二人を襲ってきた風魔一族、果たして草薙家の一族はどう対処するのか?