古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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三十九話 崩れ落ちた日常

「おかえり兄貴と幽々子」

 

 屋敷に戻って見ると、そこには怪我を治療するために身体中に包帯を巻いている大和がいたのだ。

 

 怪我やその様子だと大和も風魔一族に狙われたのか、一体どうゆう理由で襲ってきたのか見当もつかない。

 

「やれやれ、そっちもやられたか」

 

「あぁ中々手強くてな、おかげでこんなになっちまったよ」

 

 生傷だらけになった手や身体、相手に苦戦したことがよく分かる。

 

「ちょっと大和、それ大丈夫なの!?」

 

「最悪は免れた。 ただ痛ぇけどな」

 

 自分の代わりに怪我したところを治療してくれる幽々子、大和の怪我を心配そうに見ており、まるで自分のように優しく傷を癒そうとしてくれる。

 

 こんな綺麗な人に治療されたら嫌でも怪我が治ってしまう、大和の顔は少し赤らめていた。

 

 それにしても、そっちもやられたと言うことは武尊の兄貴も謎の集団に襲われたようだな。

 

 まったく急に何だよって言いたいところだよ。

 

「兄貴もやられたのか?」

 

「そうだな、てめぇみたいにやられはしなかったが、ゆゆちゃんを守ることで神経削ったよ。この借りはいつか返して貰うからな」

 

「わかーったよ。 まったく恩着せがましいんだから」

 

 武尊のことだ。酒や美味いつまみでも与えとけば上機嫌になるから、そうしよう。

 

 それにしても気になるのが、あの謎の集団は一体何だったのか、俺や武尊を襲うことに何の意味があったのか?

 

 俺は特に何も知らないしわからない。なんて言ったって闘うことでやっとだったからな、相手の情報を探る余裕なんて微塵たりともなかった。

 

 俺にはできなかったが、無傷で生還した兄貴なら何かしっているんじゃあねぇのかな、恐らく相手を圧倒して勝利を収めたのだろう、闘いの最中に相手の情報を探るぐらい兄貴にとっては簡単なことだと思うからだ。

 

「ところで兄貴、相手のことなんかわかったか?」

 

「あぁ、やつらの名前は風魔一族、目的は俺や大和の殺害、そしてゆゆちゃんを捉えることだ」

 

「幽々子を捉えるだと?」

 

 つまりターゲットになっているのは俺達だけではなく、幽々子も狙われているというのか、でもどうして?

 

 俺達の殺害は容易に考えられる、だがそれと同時にどうして幽々子の確保を依頼されているのか、それがさっぱりわからない。

 

 ふと考えていると、大和は一つの答えを導き出すと同時に植え付けられたトラウマが垣間見えた。

 

 わかったのだ。風魔一族に俺達の殺害、そして幽々子の確保を依頼してきた人物が、わかってしまったのだ。

 

「あいつだ………八雲紫だ。」

 

「八雲紫だと?」

 

 大和の身体が突然震えだす、そして震えを抑えるために両手で力強く身体を抑える。

 

 今でも思い出す、対面したときの記憶。いや、忘れろと言われたほうが無理なことだ。あんな禍々しい気配は一生忘れられるわけがない。

 

「ちくしょう、震えが………」

 

「大和」

 

 恐怖に怯える大和を優しく抱きしめる幽々子、抱きしめられると自然と震えが小さくなり、少しながら安心感が湧いてくる。

 

「幽々子を連れて帰ろうとした化け物だよ。あいつはやばい、マジでヤバい………」

 

「そいつが風魔一族に俺達の殺害とゆゆちゃんを捉えることを依頼してきたんだな。そうだな大和」

 

「あっ、あぁ………」

 

 恐怖を少しでも無くすために幽々子を力強く抱きしめる大和、そうすると幽々子が本当にいることを実感できるような気がして安心するのだ。

 

「こいつは………」

 

 こんな恐怖に怯える大和を見るのは生まれてはじめてのことだった。こいつは死ぬこと以外は何に対しても怯えないと思っていたがそれは間違いのようだったな。

 

 八雲紫という存在に死の恐怖を感じてると同時に、幽々子がいなくなることに恐怖を感じている。

 

 これが大切な人、護るべき者を持った者の代償、恐らく幽々子がいなくなることが自分の死よりも恐れていることなのだろう。

 

「いなくならないでくれ幽々子、どうか俺を一人にしないで」

 

「相当怖がってるな」

 

「ごめんなさい。八雲紫は私の友人なの」

 

 それを聞いた瞬間、武尊は驚いたような表情を浮かべる。

 

 八雲紫が幽々子の友人であるということ、それはつまり八雲紫に関する情報を得ることができるというとことだ。ならば聞くしか他はない。

 

 間髪入れず、幽々子に質問を問いかける武尊、もちろんこれから闘うための有力な情報を得るためにだ。

 

「なんかわからねぇのかゆゆちゃん? その八雲紫とか言う友人のことを、何でも良いんだよ」

 

「闘うつもりなの?なら止めておきなさい。貴方達がいくら束になっても勝てるような相手ではないわ」

 

 その言葉が信じられないと言わんばかりに、武尊は青ざめた表情を浮かべる。

 

「そんな相手なのかよ、その八雲紫ってやつは」

 

 正直予想外だった。俺は紅虎以外に負けることは絶対に無いと思っていたが、まさかこの世にどうしようもない相手がいるとは思ってもいなかった。

 

 幽々子が嘘をつくような子ではないことはわかっている。だからこそ悔しいと言ったらいいのか、俺達草薙家の力では八雲紫に為す術がないことがどれだけの屈辱か。

 

 怯える大和の頭を優しく撫でる幽々子、その姿は慈愛に満ちているようだった。

 

「でも、知らないよりは良いわね。良いわ、知っている限り紫のことを教えてあげる」

 

「あぁ、頼むぜ」

 

 

 

 

 

 《〜少女説明中〜》

 

 

 

 

 

 

 八雲紫のことを説明されたが、その内容は驚きの連続であり、不可思議なことで満ち溢れているものだった。

 

 まず第一に『境界を操る程度の能力』って言うものが理解し難いものだった。そんな空想やファンタジーに出てきそうな能力がこの世に存在するものなのかと武尊は思っていた。

 

 況してや八雲紫という人物は妖怪という話だ。もう空想と現実の区別が付かなくなってしまうのは時間の問題であった。

 

 しかし大和は信じていた。いや実際に『境界を操る程度の能力』を見ていたうえに、実感していたので信じる他はなかった。

 

「まじかよ、そんな奴が相手だって言うのか?」

 

「闘うなんて考えないほうが良いわ。貴方達ではどうしようもない相手なんだから」

 

 言うならば核兵器VS竹槍の闘い。無論、核兵器は八雲紫のことであり、竹槍は草薙家一同のことである。

 

 勝てるはずがない。身体能力が極めて高い人間の一族

とはいえ、人知では理解できない異能力を持つ八雲紫に立ち向かうというのは無謀としか言いようがない。

 

 

 

……………しかし。

 

 

 

「ゆゆちゃん、悪いがこの戦降りねぇぜ」

 

「えっ?」

 

 武尊は諦めない。いや、諦めるわけにはいかないという方が正しいのか。

 

 どんな奴が相手だろうと逃げはしない。例え相手が未知なる能力を持つ化け物だとしても恐れを成して逃げはしない。それが俺の生き方であり、生き様でもある。

 

 それに相手は化け物だけではない、しっかりとした普通の人間もいる。

 

 その場から立ち上がるや否や、武尊は襖を開けて茶の間から出ていくと大声で叫びだす。

 

「和生っっ!!戦争だっっ!!戦闘準備をしやがれっ!!」

 

 人生始まってから起きた始めての戦争、これを楽しまないでどうするというのか、武尊の心は今までにないほどに高ぶっていた。

 

 風魔一族、伝説の忍一族、そして八雲紫という妖怪との戦争。こんな楽しいことになりそうなことは滅多にないことだ。これまで積み上げてきた長年の鍛錬、ここで発揮せずしてどこで発揮するべきか。

 

 この闘いは楽しくなりそう、闘うことにワクワク感が止まらない。そんな戦闘狂染みた感情が武尊の心を駆り立てていた。

 

 戦の準備を整えに行った武尊、本気で風魔一族と八雲紫を潰しにかかる気だ。勇敢というべきか、それとも無謀と言うべきか、それは闘いが終えてからでないとわからないことだ。

 

「俺も行くよ。」

 

 そう言うと幽々子から離れる大和、どうやら恐怖を大分緩和できたような感じだった。

 

 もう本当に大丈夫なのかと心配そうな表情で大和を見つめる幽々子。

 

 恐らく心底では恐怖がまだ残っているだろう、震えたいだろう叫びたいだろう、考えずともそれはわかっていた。

 

「大和、大丈夫なの?」

 

「もう大丈夫だよ、幽々子が傍にいてくれるからな」

 

 震えていた時よりはまだマシな表情だった。

 

 十分とは言えないが表情に生気はある、死んでいる顔ではなく生きた表情をしている。

 

 すると大和は幽々子を再び抱きしめた。今度は恐れているからではなく、守るために優しく抱きしめたのであった。

 

「俺が守ってやるからな幽々子。」

 

「うん、でも無理はしないでちょうだい」

 

「わかっている」

 

 その場から立ち上がり、歩いて茶の間を出ていく大和。

 

 武尊と同様、いつでも戦えるようにこれから部屋に行って戦闘準備を始めるようだ。

 

 ただし俺の場合、武装とか兵装とかはしない。やるとしたら武器を取り出すだけのこと、それぐらいしか俺の戦闘準備はやることはない。

 

 例えどんな奴が取り戻しに来ても幽々子は渡さない。絶対に譲らない。命に変えても護ると心に誓う。

 

 

 

 

 

 

   《風魔一族アジト》

 

 

 

 風間組が持っていた物件の一角。このあたりには他にも色々とアジトがあり、任務があるときには応急処置や休憩場所として風魔一族が良く使う場所である。

 

 武尊に怪我を負わされた仲間の傷を処置しながら、現状報告をする風魔の部下達。

 

 部下の目の前には頭目である風間獣蔵がおり、やられた仲間の怪我を見つめるように確かめている。

 

「随分とやられたね。精鋭の君達が」

 

「すいません若、手強い奴らで」

 

「言い訳はいらんよ。それを承知の上での任務だろうが」

 

「すいません」

 

 任務に失敗は許されない。故に隠密がバレた挙げ句に返り討ちにあったなんて本来なら処刑されてもおかしくないことだった。

 

 しかし、今回は許してあげよう。隠密による情報収集が失敗したとはいえ、その代わりに戦闘による情報を得られたのだから。

 

 風間獣蔵が気になっていた情報、それは。

 

「それで、どいつが一番強かったんだ?」

 

「恐らくは草薙武尊が一番だと思います。奴は常人離れした身体能力に加えて予測能力は人間業ではない。恐らく若と同じ力(・・・・・)を持っているはずです」

 

「それは凄いやつだね。俺でも勝てるかどうかだ」

 

 草薙兄弟の戦闘能力は直に見たことがないので把握してはないが、話によると長男が一番強いということか。

 

 あくまでも予想の話だが、驚異的な身体能力に加えて俺と同じ力を持っていると考えると、本気の俺でも勝てるかどうかの話になる。恐らく無事ではすまないだろう。

 

 とりあえず長男がとてつもなく強いのはわかった。問題は次男の草薙大和がどういったやつなのかだ

 

「それじゃあ怪童はどうなの?」

 

「草薙大和は今の所は未熟な部分が多いですが、戦いの中で成長するタイプです。恐らくこれからも強くなるでしょう」

 

「へぇ〜それは楽しそうだね。」

 

 今は目立った戦闘力は見せていないが、それはまだ本人の潜在能力が底を見せておらず、まだ発展途上の最中だということ。つまりこれから更に強くなるということだ。

 

 今はまだ自分にとって敵わない相手だしても、いずれ力を付けて強くなり自分の驚異となる。そんな奴を相手にできると思うと喜びが湧き上がってくる。

 

「よし決めた。今回の俺の獲物」

 

「と、申しますと」

 

「うん、やっぱ怪童にするよ。面白そうなやつだし。前からあいつには興味があったんだ。」

 

 依頼されたときから狙っていたが、今の話を聞いてようやく決断ができた。やはり自分の標的になるのは草薙大和だということを。

 

「では私達の相手は?」

 

「うん。武尊と和生はそっちに任せるよ。」

 

「御意」

 

 大和は若である風間獣蔵が一人で、武尊と和生は精鋭部隊が全総力を結成して殺しに掛かることが決定した。

 

 影でひっそりと話が進まっていく風魔一族の密談。はたして草薙一族の運命はどうなることか。

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