古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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四十話 果たし状

 風魔一族襲撃から翌日のこと、草薙兄弟達は一日掛けて戦闘準備をしていた。

 

 武尊は自分の部屋で何か日本刀や長巻などの武器の手入れや装備の確認などの準備を真剣に一人でやっており、到底のことながら話に行くことはできない様子だった。

 

 弟の和生も武尊に言われた通り、銃のマガジンに弾を込めたり武器の確認をしたり、防弾チョッキなどの装備の安全確認にしたりして武装準備をしていた。

 

 二人共、風魔一族や八雲紫との戦争のために本気で戦闘準備をしており、まるでこれから本物の殺し合いでも始めるような感じだった。

 

 みんなが戦闘準備をしている一方、次男の大和はというと、普段どおり朝早く起きて鍛錬に励み、鍛錬が終わればみんなのために朝食を作って腹ごしらえをする。いつもの日常と変わらないことをやっていた。

 

 朝食を作り終えて茶の間に準備すると、目を覚ました幽々子が茶の間にやってきた。

 

「おはよう幽々子」

 

「おはよー大和」

 

 大きな欠伸をしながらあいさつをする幽々子、それと同時にグゥ~とお腹を鳴らしていた。

 

 食事が用意されていたちゃぶ台の前に座り、朝食を食べる準備をする。

 

 しかし気になったのが茶の間に来ているのが大和と自分以外にいないということ、普段ならみんな集まっても良い時間なのに誰も来ていない。

 

 二人の事情を知らなかった幽々子にとって一体どうゆうことなのかわからなかった。

 

「あら?お兄さんと和生くんは?」

 

「あの二人は戦いの準備をしているよ。だから先に食べていようぜ」

 

 兄貴達、今は戦の準備をしているが、腹が空いて限界がきたら嫌でもやってくるだろう。兄貴のことだから『腹が減っては戦はできぬ』とか言いそうだし。

 

 それに対して二人が戦の準備をしていることが無意味だと思ってしまったのだろうか、珍しく幽々子は目を細めて呆れたような表情を浮かべていた。

 

 こんな表情をしている幽々子を見たのは初めてだった。兄貴達のことを心配しているのか、それとも馬鹿な奴らだと思っているのか、その真相は本人にしかわからないが、とりあえず普通ではない顔をしている。

 

「紫と本当に闘うのね」

 

「あぁ、俺も含めてな。」

 

「どうにかならないかしら?私は無意味に散る命を見たくはないわ」

 

「それは無理だな。ああ見えて兄貴は戦闘狂だし、例え自分が死ぬとわかっていても止めないだろうよ。」

 

 八雲紫との闘いによって確実に命が散る運命だとしても、兄貴は闘うことを決して止めることはないだろう。いや、決めたことを途中で止める自分を許すことはできないと言った方が正しいのか、兄貴はああ見えて自分で決断をしたことは決して変えない男だからな。

 

 この闘いをやめさせることができないだろうと思ったのだろうか、幽々子は諦めたような表情を浮かべ、どこか納得したような素振りを見せる。

 

「わかったわ。もう私は止めない」

 

 そう言うと何を思ったのか、幽々子は大和を抱き締めながら唇を重ねてきた。

 

 突然のことに大和は驚きを隠せずにいたが、それよりもキスしていることに意識を取られ、なんだか安心感に包まれる。ずっとこの時間が続けば良いなと思ってしまった。

 

 数秒という短いようで長い時のあいだ唇を重ねると、幽々子はキスすることと抱き合うことをやめて、一言だけ言葉を放つ。

 

「貴方だけでも生き延びて頂戴、死んだら一生恨むわよ」

 

「あっ、あぁ………」

 

 抱き合い、キスをし合ったことによって大和は顔を真赤にする。どうやら恥ずかしかったようだ。

 

 そうか、今俺達は抱き合って唇を重ねあったのか。今のが愛情表現ってやつなのかな。

 

 兄貴とは違って俺は死ぬつもりは毛頭ない。これから始まる戦争から生き残るために、これから始まるであろう幽々子と共に歩む未来のために闘うのだ。

 

「取り敢えず飯食おうぜ、まずは腹拵えをしないと何も出来ないからよ」

 

「そうね、頂きましょう」

 

 二人は箸を手に持ちながら、いただきますをして朝食を食べ始める。

 

 

 

     《〜少年少女食事中〜》

 

 

 

 数十分後、大和と幽々子が朝食を食べ終えると、いつものように大和が食べ終えた食器を片付けて台所へと向かう。

 

 食器を片付け終えて、茶の間に戻ってみると、一体いつやってきたのか、そこには幽々子と一緒に紅虎がいた。

 

「おつかれさまです大和」

 

「……紅虎さん、いつ来たんですか?」

 

「今さっきよ。大和が来る数分前に」

 

 神出鬼没というかなんというか、やはりこの人の行動パターンはよくわからないものがある。

 

 それにしてもなにしに来たのか、やはりいつものように兄貴と対談するために?それとも俺の様子をみるためにやってきたのか?それは本人にしかわからない。

 

「今日はどんな要件で来たんですか?」

 

「特に何の理由もなく貴方の屋敷に来たら駄目なんですか?」

 

「いや、そうじゃないですけど」

 

「まぁ、いいでしょう。今日来たのは理由があってのことですから」

 

「それはどんなことで」

 

「武尊から聞きましたが、貴方も風魔一族と闘うようですね、しかも殺し合いをしに」

 

 昨日の情報がもう既に紅虎さんの耳に入っていた。いや、あの短時間で一体いつ紅虎さんは武尊の兄貴と対談したのか、それが気になった。

 

 それよりも俺が風魔一族と闘うことを紅虎さんが知っているということは、何かしらのアドバイスや忠告をしにきたということだ。

 

 ありえないことだが、もし紅虎さんが闘うことを止めるというのならばそれはできないことだ。闘うことを拒否するのは兄貴が許してくれないことだからな。

 

 もし闘いを止めるとすれば俺をボコボコにして再起不能にし、闘えないコンディションにするしか方法はない。

 

「はい、俺は風魔一族と闘います。」

 

「気迫良し、面構えも良好。止める手立てはありませんね」

 

「というと」

 

「本来ならばまだ未熟な愛弟子を止めるのが師としての務めとも言えますが、貴方の様子を改めて見て止める気がなくなりました。十二分に闘いなさい。」

 

「わかりました。」

 

「それと、風魔一族には特に注意深くしなさい。彼等は殺しのプロ、どんな手段を使ってくるのか見当もつきませんからね」

 

 以前、遭遇したときは短刀のみを使ってきただけだが、今度は何を使ってくるのかさっぱりわからない。忍者特有の手裏剣や煙玉、毒薬や吹き矢など、恐らくあらゆる手段を使って俺達を殺しに掛かってくるであろう。

 

 それは承知の上だ。俺達がやるのは純粋な闘いではなく、清濁と含めた何でも有りの殺し合いである。

 

 拳と拳の闘いはなくても、汚い手段を使われるであろう、あらゆる卑劣な手段を使われるであろう。だが、それが許されるのが俺達と風魔一族との間で行われる殺し合いである。

 

 紅虎にはそれがわかっていた。過去に何度も経験していたから痛いほどわかっていた。

 

 だが、大和はどうだ?刃物との戦闘経験はあるとはいえ、純粋な闘いしか知らない。そんな存在が殺し合いをするなんて自殺行為にも等しいことだ。

 

 だが、百聞は一見にしかず。百度聞かされるよりも一度経験したほうが本人のためになる。少なくとも紅虎はそう考えていた。

 

 だから武尊達と共に殺し合いを経験させる。だから風魔一族との殺し合いに参加させるのだ。全ては愛弟子である大和を強くするために。

 

「良いですか?今から行うのは今までやってきたお遊びではなく、本物の殺し合いです。お遊びと同じような感覚で挑んだら間違いなく死にますよ」

 

「………はい。」

 

 二人がこれからの風魔一族との決闘について話していると、ついに空腹が耐えきれなかったのか、茶の間に武尊と和生が姿を現したのであった。

 

「いや〜腹減った腹減った。大和〜飯の支度してくれ」

 

「大兄貴ほどではないけど、俺も腹減ったよ」

 

 すでに茶の間にいた幽々子と紅虎、そして大和の存在に気がつくと、武尊は笑顔で話し掛けてくる。

 

「よっ紅虎さん、それにゆゆちゃん、相変わらず可愛いな」

 

「おはようございます。お兄さん」

 

 幽々子にデレデレしている最中、大和と紅虎が何か重要なことを話していたことに気がついたのだろう。武尊は気持ちを切り替えて真剣な表情を浮かべる。

 

「風魔一族のことか? それともこれからの決闘についてでも話していたのか?」

 

「両方だよ兄貴。」

 

「そうか。」

 

「………………」

 

「別にお前はやめても良いんだぜ」

 

「えっ?」

 

「お前には護る者がいる。愛する人がいる。俺達の決闘に参加する理由なんてないんだよ」

 

 もし決闘から離脱することができるというのならば、幽々子との約束を守ることができる。

 

 だが、今更決闘をやめることなんて出来ない。俺のプライドが、俺の意思が許してはくれない。

 

 だから参加する。例え散る命だとしても、それは己の未熟さが引き起こしたことだ。幽々子が悲しんだとしても、それは仕方のないことだと思うしか道はない。

 

「いや、俺も参加するよ。そう決めたからな」

 

「よし、それでこそ俺の弟だ。」

 

 もしも決闘を放棄する。決闘に参加しないとほざくのであれば、間違いなく俺は大和を兄弟の縁を切っていただろう。

 

 だから良かった。やはり俺の弟だ。闘いから逃げること無く、例え死ぬことがわかっていたとしても真っ向から戦いに挑み立ち向かう勇気と勇敢さ。

 

 武尊と大和が話していると、突然縁側の方から畳に向かって一本の短刀が飛んできた。

 

 誰かを狙ったわけではなかったので、誰にも当たることはなかったが、短刀は畳に深々と突き刺さった。

 

 短刀が飛んできた縁側の方向を見てみると、そこには昨日襲撃してきた黒い衣を纏った男がおり、短刀を投げ終えたあとにこちらを見ていた。

 

 短刀を投げ終えると、黒い衣を纏った男は風のようにその場から姿を消し撤退した。

 

「今のは風魔一族か………ん?」

 

 地面に深々と突き刺さった短刀をよく見てみると、短刀には何か白い紙が括り付けられており、恐らく手紙ではないかと推測できる。

 

 短刀に括り付けられていた紙を引き剥がし、書かれていたものを読んだ。

 

『----我が宿敵、怪童へ。

 

 ◆◇◆◇公園にて決闘を申し込む。

                決して逃げるなよ。

 

           風魔家若頭風間獣蔵より』

 

 これはつまり果たし状と言う物なのか。物騒な割には随分と丁寧に書かれている。

 

 最初に手紙に反応したのは大和ではなく、今からでもやってやると言わんばかりに闘争心を剥き出しにしている武尊だった。

 

「へぇ、いい度胸だな。果たし状を送りつけるなんてよ」

 

「まてよ兄貴、果たし状は俺に来たんだ。俺のやり方でやらせてくれよ」

 

 手紙に書かれている『怪童』という異名は俺のものだ。だからこれは俺に対して書かれた果たし状。故に誰にも口出しはさせない。

 

「そうだな、先走り過ぎたぜ」

 

「悪いな兄貴、我慢してくれてありがとう」

 

 兄貴も自制してくれた。さて、この果たし状にどう答えればいいのか?

 

 いや答えなどもう出てるではないか、逃げずに風間獣蔵というやつに立ち向かうこと、それが俺に唯一できることだ。

 

 果たし状に時間指定はないが、恐らくこの手紙を読んだら来いっていう魂胆であろう。ならば今すぐに戦闘の準備をして行くしかない。

 

「それじゃあ行ってくる」

 

「なら私も行くわ。」

 

「駄目だ。幽々子を危険な目に合わせるかもしれない」

 

「危険は承知のうえ。それに覚悟はできているわ」

 

「………しゃーねぇー」

 

 敵陣地に大切な人を連れて行くのは正直なところ嫌だし、武尊の兄貴や紅虎さんに頼んででも屋敷に留めさせたいが、覚悟を決めたと本人が言うのならば仕方がない。それに幽々子が傍にいれば安心できる自分もいる。気は乗らないが連れていくしかない。

 

「ついてきな幽々子。どんなことがあっても俺が守ってやるからよ」

 

「うん」

 

 まず大和は自分の部屋に行き、これから始まる決闘の準備をする。服装は特に変えることはないが、念のために俺専用の武器である鉄刀を持っていくことにした。

 

 武器を片手に大和は自分の部屋を出ていき、屋敷を出ていき、決闘場である◆◇◆◇公園に幽々子と共に行く。

 

 はたして、大和達を待っている風魔一族はどのような手段で闘いに挑んでくるのか、それは目的地の行ってみないとわからないことだった。

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