古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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四十一話 風間獣蔵

 装備、気構えを整えて屋敷を出てから数十分間後のこと、大和と幽々子の二人は目的地である◆◇◆◇公園までやってきた。

 

 幽々子を自分の背後に忍ばせて、恐る恐る公園に足を踏み入れる大和、その姿はまるで真夜中に他人の家に忍び込む泥棒のようだった。

 

 相手がどんなやつかわからず、大和の緊張感はかなり高まっており、心臓の鼓動も早くなっていた。

 

 一体どんな奴が待ち構えているのか、巨漢の鬼のような形相をしたやつなのか、それとも小柄で幼い子どものようなやつなのか、それはわからない。

 

 しかし、一つ確実に言えることがある。それは果たし状を送り込んできたやつが強いということ、自分の強さに自信がなければ決闘を申し込んでくることなんて到底できないはずだから。

 

 しばらく公園を歩いていると、公園のド真ん中で佇んでいる高身長の青年を見つけた。

 

 青年は髪の色は黒く短髪。

 身長はおよそ185㎝と大和よりも背が高く、隠密には決して向いていない恵まれた体格をしており、容姿は端麗な顔立ちが特徴的、服装は白い半袖の上に青い長袖ジャケットを着ており、下は紺色のジーンズを履いている。

 

 大和達がやってくることに気がつくと、青年は満面な笑みを浮かべながら近づいてくる大和に話し掛けてきた。

 

「よう、やっと来たか。怪童」

 

「お前が風間」

 

「そうだ。俺が風魔家次期頭領、風間獣蔵って言うんだ。」

 

「……獣蔵」

 

「まぁ、名前なんてどうでも良いんだよ。怪童、俺はてめぇと殺し合いがしたくて果たし状を送りつけたんだ。わかってると思うが、ここから生きて帰れると思うなよ。」

 

「ふざけんなよ。俺は生きて帰る。そういう約束があるからな。」

 

 まるで奴が生き残って俺が死ぬみたいな言い方じゃねぇか、そんなことは絶対にさせない。幽々子のためにも、俺の今後の人生のためにも、そうはさせてはいけないのだ。

 

 それにしても、風間獣蔵は闘うのではなく殺し合いをしに来たと言っていたな、なるほどこいつは生粋の武士や忍者とも言えよう、殺し合いなど現代のファイターや格闘家ではありえない考えや発想をしている。

 

「さて、御託はここまでだ。さっさとやり合おうぜ」

 

 早く闘いたくて仕方がないと言わんばかりに、獣蔵は闘争心を剥き出しにして大和を睨み付ける。こいつも相当な戦闘狂だと言うことがよく分かる。

 

「幽々子、離れてな」

 

「うん」

 

 大和が言った通りに幽々子はその場から離れる。

 

 護るべき者が傍で見ていてくれるのだ。これで心置きなく闘うことができる。

 

 深呼吸をしながら左手に持っていた鉄刀を引き抜き、剣道で言うところの中段の構えてを取る大和。

 

 心は落ち着いている。精神も統一している。あとできることは獣蔵と闘い勝利を収めるのみ。

 

 大和が真剣に構えているのに対して、一体どうゆうことなのか獣蔵は何の構えも取らず、ただ立っているだけだった。

 

 これから殺し合いが始まるというのに大胆不敵と言うべきか、獣蔵は不気味にも笑みを浮かべている。まるで死を恐れていないと言わんばかりに。

 

 それに大和が武器を使うことに関して、何の不満も感じていないのか、それとも武器を使うことが当たり前だとでも言うのか、獣蔵は大和が持っている武器をただ珍しそうに見ているだけだった。

 

「初めて見る武器だが、それあぶねぇな」

 

 鋼の塊である鉄刀を一目見ただけで危険な武器だと察知した獣蔵、まともに喰らえばひとたまりもないことを理解していることを察することができる。

 

「ならやめるか?」

 

「やめるとんでもねぇ、寧ろ燃えてきたぜ」

 

 逃げることもしなければ闘いを途中で投げ出すなんてするわけがない。寧ろこれから始まる闘いを楽しみたいと言わんばかりに熱意を燃やす獣蔵。

 

 熟と思うが、戦闘に熱意を燃やすところを見ると、こいつはどっかの兄貴のように 無類の戦闘狂なんだなと思ってしまう。

 

 闘いの場は揃った。あとは雌雄を決しぶつかり合うのみ。

 

「それじゃあいくぜ」

 

 拳を構えながら大和との間合いを詰める獣蔵、先に動き出したのは獣蔵だった。

 

「っ来い!!」

 

 こちらに向かって来る獣蔵に対して改めて気を引き締めながら身構える大和、これから殺し合いが開始するのだ。

 

 攻撃範囲内まで距離が近づいてくると、まず獣蔵が大和の顔面に向かって左拳を走らせた。

 

 初手で繰り出された左拳のスピードは凄まじく、並の反射神経では避けることは不可能に近いものがあった。

 

「あっぶねぇっ!」

 

 しかし腐っても怪童、大和の並外れた反射神経は獣蔵の左拳をしっかりと捉えることができ、そのおかげで避ける余裕を与えてくれた。

 

 顔面に向かって放たれた獣蔵の左拳を大和は構えを崩すことなく右に避けて回避をする。

 

 そして獣蔵の左拳が完全に引き切る前に反撃の返しに出る。

 

 鉄刀を大きく振りかぶると、獣蔵の頭上に向かって鉄刀を一気に振り下ろした。

 

 だが大和が鉄刀を振り下ろし切る前に獣蔵は左拳を引き切ると同時に身体全体を後ろに下げると、それによって鉄刀の攻撃を難なく回避する。

 

「あらよっと」

 

 回避したあと獣蔵は再び射程距離範囲内に入り、呼吸の時すら与えないほどのスピードで攻撃を仕掛けてくる。

 

 攻撃をし終えた隙を突いて、次に仕掛けたのは右ストレートを大和の顔面に向かって放った。

 

 だが大和も負けてはいない。放たれた右ストレートをギリギリのところで回避すると、下から掬い上げるかのように十キロはある鉄刀を片手で振るい、攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかしこの大和の攻撃も獣蔵はまた身体を後ろに下げて避けてしまう。

 

 獣蔵は攻撃を避け終えると再び射程距離範囲内に入り攻撃を仕掛けてくる。

 

 次に仕掛けたのは右回し蹴りを横腹に向かって放った。

 

 それに対して大和は自分に向かって放たれた回し蹴りを左腕でガードして防ぎ、なんとかダメージを緩和させる。

 

 獣蔵の放った蹴りの威力は凄まじく、ガード越しでも威力を完全には殺しきれず、大和の身体はくの字を描いた。

 

「………ぐっ!!」

 

 しかしダメージを受けたからと言って立ち止まるわけにはいかない。とは相手が足を元の位置に戻す前に、大和は片手で鉄刀を持ち、相手を突き刺すような勢いで顔面に向かって突きを放った。

 

 だが、放った渾身の突きも獣蔵にギリギリのところで避けられてしまう。これでは埒が明かない

 

 それからあとは激しい攻撃と回避の繰り返し、攻撃しては避け、避けては攻撃を永遠と繰り返す一方だった。

 

(こいつ、強いっ!!)

 

 紅虎や武尊の兄貴を除けば、今まで闘ってきた中で一番強い相手だった。

 

 奴の攻撃はとてつもなく素速く回避するのが至難の技、そのうえ威力も凄まじく当たれば大打撃だが、なによりも自分が攻撃を繰り出しても、いとも簡単に避けられてしまう。まるで武尊や紅虎のように、これから繰り出される攻撃がわかっているかのようだった。

 

 激しい攻防戦を永遠と繰り広げる中、ついに拮抗状態が打ち砕かれることになる。

 

 いつの間にか大和の攻撃は大振りになっており、避けなければ攻撃をまともに喰らってしまうのではないかと思わせるような隙を見せていた。

 

 大和の悪い癖が出ていた。自分の思い通りに事が進まないと痺れを切らして攻撃が単調で大振りになってしまうところ、それは相手に取っては最高のウィークポイントとも言える。

 

 相手も馬鹿ではない。大和の弱点を既に理解しており、いつ反撃に出ようか企んでいた。

 

「うぉらっ!!」

 

 大和が首を目掛けて鉄刀を大きく振るうが、獣蔵が避けられると大きく隙を見せた。

 

 獣蔵はその隙を見逃さない。

 

 相手が元の構えに戻る前に獣蔵は大和の両手を殴りつけて鉄刀を奪い取る。

 

 何かのツボでも押されたのか、両手に走る痛みのあまりに大和は武器である鉄刀を手放してしまい丸腰状態になってしまう。

 

 奪い取った鉄刀を適当な場所に放り投げると再び構えを取る獣蔵、どうやら自分は武器は使わないようだ。

 

 武器を取られて素手での闘いになる大和、はたしてこの先どうなるのか。

 

「取りたきゃ取りに行って良いぜ、そのくらいの時間は待ってやるよ」

 

 武器を拾いに行く余裕を与えてやると言ってくる獣蔵、どうやら完全に大和を舐めているようだ。

 

 果たして大和は侮辱されたうえで武器を取りに行くのか、それとも取りに行かずそのまま素手で闘うのか。

 

 無論言うまでもない。武器を拾わずに素手で闘う。それが最善の策であり、俺が唯一できる戦法である。

 

 拳を握り締めて構えを取り獣蔵を睨み付ける大和、一瞬の隙も見せないのは相手の行動が予測できず、何をしてくるのかわからないからだ。

 

 大和が武器を拾いにいかず、そのまま素手で闘うことを理解すると獣蔵はどこか納得したような表情を浮かべて言葉を放った。

 

「へぇ〜拾わないのか。せっかくの人の気遣いを無駄にするなんて、後悔してもしらねぇぞ」

 

「…………」

 

 大和は何も言わない。反応もしない。

 

 わかっていたのだ。こいつは生半可なことで勝てる相手ではない。況してや鉄刀という強力で不便な武器を使っても勝てないことを理解していたのだ。

 

 素手でなら勝てる?そういうわけでもない。鉄刀を捨てたことによって身軽になったとはいえ、風間獣蔵の回避力は想像以上に化け物染みており、正直素手で対等に渡り合えるのかすら怪しかった。

 

「それじゃあ、また俺から行くぜ」

 

 相手に呼吸する暇すら与えない素早さで一気に間合いを詰める獣蔵、そして攻撃を仕掛けてくる。

 

 先制攻撃だと言わんばかりに獣蔵は大和の顔面に向かって右拳を走らせる。

 

 それに対して大和は両の手を顔面で交差させて攻撃を防ぐ『十字受け』の構えを取った。

 

「………ぐっ!」

 

 顔面に向かって飛んできた右拳を防いだが、その威力は凄まじく、ガード越しでもダメージが伝わってくるほどの強力な打撃だった。

 

 しかし獣蔵の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 右と左の拳を丁寧に且つ交互に放ち、呼吸の間すら与えない無呼吸連打を繰り出してくる。

 

 容赦の無い攻撃が大和に襲い掛かり、数多の打撃が雨のように降り掛かってくる。

 

 それに対して大和は飛んできた無数の打撃を敢えて回避せず、完全防御態勢に入り全ての攻撃を受け止める。

 

 予想以上とでも言えば良いのか、獣蔵の打撃は凄まじい威力と破壊力を持っており、防御態勢なのにも関わらず一発一発の打撃が確実に大和にダメージを与えて蓄積させていく。

 

(この野郎、兄貴並に強い!!)

 

 攻撃を受けている最中に脳裏に浮かんできたもの、それは自分の兄である武尊だった。

 

 こいつは強い、パワー、スピード、あらゆる面で武尊並の強さを持っている化け物だ。いや、スピードだけなら武尊を上回るかもしれない。

 

 降り注ぐ打撃を振り払って大和は反撃を仕掛ける。

 

 攻撃を避けては防御し、その果てに大和は左ジャブと右ストレート、俗にボクシングで言うワンツーを相手の顔面に向かって放った。

 

 攻撃の最中に突然飛んでくるワンツー、流石の獣蔵もこれは回避することはできないだろうと思った。

 

 だが、渾身で放ったワンツーも、敵である風間獣蔵に涼し気な表情でいとも簡単に避けられてしまう。まるでそれがわかっていたかのように。

 

 急襲とも呼べる渾身で放ったワンツーを避けられた大和は驚きを隠しきれず、蛇に睨まれた蛙のように一瞬だけ動きが止まってしまった。

 

「………えっ?」

 

「残念だったな。全部視えてんだ(・・・・・・)

 

 攻撃を避けた直後、大和の時が一瞬だけ止まったことを見計らって獣蔵は容赦なく攻撃を繰り出してくる。

 

 相手の左右の拳を元に戻させる暇も与えず、獣蔵は顔面、正確には顎に向かって右ストレートを放った。

 

 驚きに気を取られていたせいで、大和は相手の右ストレートを避けることができず、そのまま顎にクリーンヒットしてしまった。

 

 顎に攻撃が当たったことによって、シェイクされたプリンのように大和の脳は揺さぶられてしまう。

 

「……嘘……だろ?」

 

 意識が遠のく中で大和は少しでも足掻こうと、獣蔵に向かって手を伸ばそうとする。

 

 しかしそんな足掻きも虚しく終わり、受け身を取るどころか、そのまま何も出来ずに地面に倒れ込んでしまう。

 

 大和の敗北したことによって決着が着いた。

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