古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
遂に始まった草薙家と風魔一族の戦争、戦いの火蓋が切られて開戦の幕開けである。
この場で纏まりながら戦うと、被弾する可能性がある飢えに、兄弟のことが心配になって自分の戦いに身が入らないと思ったのだろう。武尊は和生に対してある提案、もしくは作戦を言い渡した。
「和生、別れるぞ、お前は右に行って敵を引きつけろ、俺は左に行って敵を引きつける」
「おう、死ぬなよ大兄貴」
「お前もな」
別れの挨拶として、和生と武尊は拳と拳を合わせる。
敵を引きつけながらも和生は右へと走って行き、武尊も和生とは真逆の左方向へ行った。三グループに別れたのだ。
その場に残ったのは大和と幽々子、そして風間獣蔵と四人の部下のみになった。
「なるほどな。お互い何の心配もさせないように別れて戦う。いわゆる分担作戦か」
「あぁ、これで心置き無く戦える。」
自分には何も言わず、武尊が独断で思いついた咄嗟の作戦だったがそれで良い。グループに別れてしまえば誰にも邪魔されないし、仲間同士の助け合いも無くなる。
つまり誰の干渉も無ければ心置き無くタイマンでやり合えるということだ。
「構わねぇぜ、どうせ全員始末することには変わりはねぇんだ。まぁ、俺達は俺達で楽しくやり合おうぜ」
「俺は幽々子と一緒に生き抜く、そう決めてんだよ。てめぇの殺し合いに付き合う気は更々ねぇんだよ」
「それは困ったな。ここでお前達を始末しなきゃ、俺達があの方に殺されちまう。別に殺されても構わないが、任務を失敗はできない。」
「どうやらてめぇとは話が合わねぇようだな」
それはそうと、八雲紫も恐ろしい奴だ。自分の味方とはいえ、任務を失敗すれば殺す。理不尽にも程がある。死の恐怖を植え付けて背水の陣をやらせる。
幽々子が八雲紫のことを妖怪と言っていたが、それも納得する。人間をどうとも思っていない。いや、駒程度とは思っているのか、機械のように感情が無く、恐怖で人を操る外道。
「まぁ楽しもうぜ、この命朽ち果てるまで闘おう!!」
草薙大和と風間獣蔵、二人の闘いが始まる。果たしてどうゆう結末を迎えるのか。
《…一方、和生は…》
敵は八人、大兄貴のところよりは少ないとはいえ、数では圧倒されている。
「どうした? 早く来いよ」
こちらの様子を伺っているだけで何もしてこない。況してや武器も構えずこちらを見ているだけ。
正直に言って気に触る。俺を舐めているのか、それとも俺が弱いと思っているのか、風間獣蔵の命令や今の奴らの様子を見ているとイライラしてしまう。
「ちっ、腰抜け共かよ。そんなんで俺を殺そうなんてな、こっちが泣けちまうよ」
拳銃をちらつかせているのにも関わらず、風魔一族はこちらに向って突っ込んでくる。
「馬鹿がっ!」
冷静に狙いを定め、相手の眉間に向って銃口を向ける。
……バンッ!バンッ!
2発ほど弾丸を放った。しかし。
銃口を読んだのか、それとも撃ってくることを先に読んでいたのか、和生の弾丸を容易に回避しながら突っ込んでくる。
(……避けやがった!?)
このままでは懐に潜り込まれる。そうなってしまえば銃撃戦はできない。銃火器の意味がまるで無くなってしまう。
そうかこいつら、最初から接近戦で挑もうとしていたんだ。この俺の銃火器を無力化して、何の抵抗もなく仕留める。それがこいつらのやり方だ。
銃撃戦は主に中遠距離戦でその強さと威力を発揮する。連続射撃と命中率さえあればその脅威は絶大とも言えるだろう。
しかし接近戦や肉弾戦ではほぼ無力、できなきことは無いが非常に困難、銃のトリガーを引く前に先にやられてしまうのだから。
「ちっ!!」
接近戦に引きずり込まれる前に和生は拳銃をしまって、代わりに大型のナイフを手に取り出した。
マーシャルナイフ、刃渡りが60㎝ある黒刃の大型ナイフ、剃刀のような切れ味と鉈の重量感を重ね揃えた特注品。
敵に向けてナイフを突き出し、これ以上接近してくれば斬刺すると殺気を剥き出しにする和生。
これは脅しでも何でも無い。近づいて来れば何の迷いもなく切るか刺す。そうしなければこちらが八つ裂きにされて殺されてしまうのだから。
それに対して、向けたナイフがかなり効果的だったのだろう。風魔一族は近づいてこない。いや、寧ろ後ろへと下がっていく。銃だけを警戒していただけで大型のナイフを持っていたことが予想外のことだったのだろう。
「銃を無力化したからって勝てると思うなよ。接近戦は俺の得意分野だ。こちとら兄貴達に鍛えられてるからな」
大和の兄貴と武尊の大兄貴から鍛え上げられた我流武術、そんじょそこらの並の人間なら簡単に勝てるが、果たしてこいつらに通用するのかはわからねぇ。
だが身体能力は劣ってるとはいえ所詮こいつらもただの人間、勝てないことはない。それに俺には銃もある、その気になれば至近距離で弾をお見舞いしてやる。
そうだ。やれないことはない。無理であるなら死ぬだけだから何てことはない。こいつら全員始末して生き残れば良い話なんだからどうってことはない。
お互い接近もしなければ攻撃することはなく、ほぼ拮抗の状態が続いている。
しかし、その状態も続くことはなかった。
何か策でもあったのか、風魔一族は全員で和生に向かって何かを一斉に投げ出したのだ。
投擲の動作と物体が飛んでくる気配にいち早く気付いた和生はすぐに身体を動かして避ける体勢に入る。
だが、いくら動作や気配を読んだとはいえ。八人一斉に物体を投げられれば全て避けられるわけがない。それができるのはこの世で一番足が速いと言われているアキレウスのような神速の足を持つ英雄、もしくは瞬間移動をしてその場から消えるしか方法はない。
全て避けるのは諦め、腕で敵に投げられたものを防ぐ対策に切り替える。
軌道を読んで避けながらも、腕で投げられた物体を防ぐと、腕に何か突き刺さるような痛みが走る。
腕を見ると十字形の手裏剣が刺さっていた。
(……手裏剣!?)
腕の痛みと手裏剣に気を引かれていると隙が出来たと思ったのだろう、三人の風魔一族が接近してくる。
前と左右から三角形を描くように和生に近づいてくる。
これは非常に厄介な戦法だ。三人いるとすると、一つの攻撃を回避したとしても、二つの攻撃をモロに食らってしまう。況してや三人がそれぞれ違う攻撃を繰り出してくると非常に避けづらい。
眼の前に来る奴はクナイで腹部を狙ってくる。
それを避けようとした瞬間、右にいた奴に鎖のような物でナイフを縛られて引っ張られる。
「……なっ!?」
それから追い打ちを掛けるかのように左にいる奴も鎖で和生の首を縛り、その上で裸締めで押さえつけてくる。
鎖で首を締められたせいか、意識が遠くなっていく。息ができない苦しさの中に謎の気持ちよさを感じる。やばい、これは実にやばい。クナイで刺される前に逝ってしまう。
「クソがッ!!」
首を締められ、武器を封じられ、目の前からクナイを持って突っ込んでくる敵に為す術もなく、和生はそのまま懐に潜り込まれクナイで腹部を突き刺されそうになった。
しかし。
「……貴様っ」
腹部に突き刺される前に和生は手の平でクナイを受け止めた。手の平を貫かれたことで血が滴り、激痛が走る。
その激痛のおかげで気付け薬になった。遠くなっていた意識がはっきりした。
「良くもやってくれたな」
まるで今から全員殺してやると言わんばかりに不気味な笑顔を浮かべる和生。
まず手始めにクナイを刺してきた目の前の敵に対して攻撃を仕掛けてくる。
がら空きだった股間に向かって金玉を潰す勢いで蹴り上げる。何の予備動作も無く、ノーモーションの蹴りだったので予測することも回避することもできない。
見事に股間に蹴りが命中すると、男はあまりの痛みに悶絶してその場に倒れてしまう。
次は首を締めている奴だ。
ナイフを手放して、手の平に刺さっているクナイを痛みを我慢して抜き取ると、男の横腹に向かって容赦なくクナイを突き刺した。
突き刺したクナイは致命傷、それに内蔵まで達しており横腹に激痛が走る。自然に裸締めと鎖は緩み、ほぼ解かれたような状態になる。
「首絞めてくれた礼だ。受け取ってくれよ」
後ろを振り向いて、いつの間にか和生は銃を手に持っており、銃口を男の顎下に向けて撃つ体勢に入っている。
……バンッ!バッバンッ!!
一発は顎下に、二発三発目は腹部に向って弾をお見舞いする。無論、弾は皮膚を貫いて内部に入り込んでいた。
本物の拳銃よりは劣るが皮膚を貫く威力と殺傷力、更にクナイを刺されたことによって男は致命傷と激痛によって動かなくなってしまう。
今度の標的はナイフを奪った奴、俺の武器を取り上げるとどうなるのかを教えてやる。
「返せよ。俺のナイフを」
和生は男に近づくや否や、まず抵抗してくる前に先手必勝、相手に行動させる隙も与えない。
片腕を掴み、容赦なく平手で顎をカチ上げる。それと同時に足を引っ掛けて押し倒した。
その隙を突いて奪われたナイフを取り返す。そして倒れている男の上に馬乗りになりながら、ナイフで男の首を掻っ捌いた。無論、それが致命傷になる。
男の首から鮮血が天高く吹き出し、返り血を浴びる和生、身体や顔が真っ赤な血に染まる。
人を殺すことになんの抵抗も無い。いや、寧ろ快感すら感じていた。今まで半殺し程度にしか人をボコボコにしたことがなかったが、人の命を奪うことがこんなにも楽しいことだったのか。
「三人殺った、あと五人か……」
五人もいる。殺せる相手がまだ五人もいるのだ。こんな楽しいことがまだまだ出来るのは、とてもありがたいことだ。
一人不気味に笑い出す和生、その姿は人を殺すことに快感を得た殺人鬼のように恐ろしく、何か得体の知れない狂気的なものを感じる。
不気味に笑い、血塗れになった和生に恐れを成したのか、風魔一族は近づいてこない。いや、危険極まりなくて近づくことができないと言った方が正しいのか。今の和生はどうも誰も近づきたくはない負のオーラを感じる。
「来ねぇならこっちから行くぜ? どうせ全員生きては帰れないんだからよ。もっと気楽に楽しく殺り合おうぜ?」
もはや死ぬことなんてどうでも良い。殺し合いができれば何でも良いのだ。今は相手を殺すことを楽しもう。
背負っていたアサルトライフルを手に持つと、敵に標準を狙い定めて容赦なく乱射する。
威力を少しばかり改造して人間の皮膚を貫通する殺傷能力を高めたアサルトライフル、骨は砕くことはできないが、まともに当たればBB弾が皮膚を貫いて内臓にまで達する生物を殺すことに特化した威力。
乱射した弾が二人に当たると、二人の風魔一族は何もできずに藻掻き苦しみながら倒れ込んだ。恐らく弾が内蔵まで達してしまったのだろう。
「はっはっはっ!!まず二人仕留めたっ!!」
弾が無くなるとアサルトライフルを背負い直し、今度は二丁拳銃を構えて乱射する。
しかし避けられて当たらない。銃口を悟られているのか、それとも単なる直感なのか、弾が一発も掠ることなく当たることもない。
それどころか、避けながら距離を縮めてくる。短刀、鎖、手裏剣などを片手に持って近づいてくる。
弾が無くなると、風魔一族は一気に至近距離まで近づいてくる。どうやら一気に方をつけて和生を仕留めるつもりのようだ。
それに対して和生は拳銃を仕舞う。アサルトライフルも拳銃も、銃火器という武器の弾丸は全て使い果たした。そしたら使える武器という物はもうナイフしか無い。
マーシャルナイフを二本引き抜いて敵が近づいてくる前に戦闘の体勢に入る。
初手、まず仕掛けてきたのは風魔一族。遠距離武器である手裏剣を投げて微量だが相手にダメージを与えて気を逸らさせることを企む。
一方、手裏剣を投げられた和生は腕で手裏剣を防いで、痛みに耐えながらも臨戦態勢に入る。風魔一族の企みは断たれたのだ。
しかし風魔一族は止まらない。そのまま至近距離まで突っ込んで和生の命を奪おうとする。
続いて第二撃目は風魔一族の鎖による和生を捕縛する計画。腕を封じるために胸辺りに向かって鎖を投げつけて縛り上げようとする。
それに対して和生は器用な手首のスナップと巧みなナイフの扱い方によって投げつけられた鎖を弾いて捕縛を回避する。
「二度も同じ手が通用すると思うかよ」
そして、まるでカウンターを仕掛けるかのように和生は予備動作も無く、鋭く素早く近づいてきた敵の首元を目掛けてマーシャルナイフを放り投げる。
避ける隙も暇もない。敵は何の抵抗も避けることもできずに首にナイフが深く刺さってしまう。
ナイフが刺さると呼吸器官を塞がれて呼吸ができず、藻掻き苦しみながら敵は倒れ込んでしまう。
残りは短刀を構えて近づいてくる風魔一族の二人となった。
攻撃が当たる範囲内まで近づいてくると、容赦なく和生の腹部を狙って短刀を突き立ててきた。
しかし、和生は短刀で腹部に突き刺される前に、持ち前の反射神経によって敵の腕を掴んで短刀の攻撃を封じる。
「図に乗りやがって、てめぇらの攻撃は見切ってんだよ」
身体を巧みに素早く動かし、足を引っ掛けて敵を仰向けに転ばせると同時に、腹部をマーシャルナイフで深く突き刺した。
そしてナイフを引き抜くと追い打ち、オーバーキルとでも言うべきか、和生は無慈悲に容赦も躊躇いもなく、敵の首を掻っ捌いた。
敵の首から鮮血が吹き出し、和生は返り血を浴びる。顔や身体が真っ赤な血に染まったのだ。
腹を刺され、首を切られた敵は苦しむこともなく、すぐに息を引き取った。
「あと……一人」
相手から向かってくる様子はなかった。なので、和生はこちらから歩いて敵に近づいていく
ナイフを片手に満面で不気味な笑みを浮かべながら歩を進めていく、その姿は人間を食い殺す鬼、人を殺すことに快感と血の味を知った殺人鬼のようだ。
その姿に恐怖したのだろう。敵は和生に近づくどころか恐れを成して逃げようとする。しかし腰が抜けて動くことができなかった。
そんな腰の抜けた敵に対して、和生は笑顔を浮かべながらこういった。
「どうした? 怯えてないで俺を殺せよ。もっと俺を楽しませろよ。」
しかし、その言葉は聞こえていなかった。あまりの恐怖と狂気に満ちた姿でそれどころではなかった。
もはや楽しむことはできないと思ったのだろう。和生から笑みは消えて、呆れたような表情を浮かべながら敵の首をナイフで掻っ捌いた。
敵は何もすることなく息絶えて、その場に倒れ込んだ。
「どうだ思い知ったか? 俺を舐めるとこうなるんだよ」
周囲には息の絶えた五人の死体が転がっており。生き残ったのは和生一人となった。
「随分と派手に暴れたそうね。」
戦闘が終わった直後、息を整える暇もなく、背後から女性の声が聞こえ、話しかけられた。
「……てめぇは?」
生き残った和生に話し掛けてくる女性、果たして一体何者なのか。
そして、別々に分かれて闘いを繰り広げている草薙家は一体どうなったのか?それは和生は知らない、