古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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五十話 草薙武尊の死闘

 数十分前、大和や和生が風魔一族と闘いを繰り広げる前の時間のことだった。

 

 風魔一族は15人で武尊を逃さないように囲んでいる。

 

「優遇されているとはいえ……やっぱ、こう改めて見ると人数多いな。」

 

 長巻で肩を叩きながら、呆れたような表情を浮かべて愚痴のように呟く。

 

 兄弟の中で俺が一番強いとは言え、部隊の半数をこちらに回すかね普通、幾ら何でも待遇が良すぎるってもんだ。少しは遠慮してほしい。

 

 いくら負ける気はしない、体力が馬鹿げてる程あるとは言っても、敵が15人もいると倒すのに時間が掛かる。

 

 以前、風魔一族とは戦ったとこはある。その時は丸腰だったが人数が少なかったので圧倒していた。しかし今回は精鋭部隊、武器も揃えているだろう、戦ったからどうなるかはわからない。

 

「……それで?これから俺を殺すんだろ?だったらてめぇらも殺される覚悟は出来てんだろうな」

 

「草薙武尊……勿論お前を殺すとも、それが我らの任務であり役目だからな。」

 

「所詮我らは捨て駒に過ぎん、この命捨てる覚悟はとうの昔に出来ている。」

 

「俺を逃がす気は?」

 

「無い。」

 

 相手を殺す覚悟があると同時に、どうやら敵は死ぬ覚悟は出来ているようだ。だったら苦しまずに斬り捨てるのがせめてもの情けということだ。

 

 話し合いや命乞いをしても無理のようだ。まぁ、そんなことは端からやる気は無いが、取り敢えず今はこの戦争を楽しむことにしよう。

 

 襲ってくる気配も無い。こちらの動きを観察している様子、こうも何も無いと退屈してしまう。

 

 しかし突然、背後から何か小さなものが飛んでくる未来を見通す。

 

 手で受け止めようとすると。

 

………プスッ

 

 何か細くて小さな、針のようなものを刺されたような痛みが手の平に走った。

 

 手を見てみると、吹き矢の類いなのか、小さな針が手の平に刺さっていた。貫通はしてないものの皮膚を完全に貫いていた。

 

「へぇ……」

 

 すると何が起きたのか、武尊の身体が異様に重くなり動きが鈍くなる。

 

 ただの針ではなかった。何か有毒な物質を針の先に塗っていたのだ。

 

「ちっ! 毒かよ」

 

「貴様を殺すにはこれしかなかったんでな、有毒性も即効性もないが、じわじわと身体の動きが鈍くなる毒だ。」

 

 武尊が今受けた毒は少量なので死にはしないものの、少しずつ時間を掛けて身体の動きを鈍くする毒。最終的には指一本ですら動くことはできなくなる特殊な毒である。

 

 風魔一族はわかっていた。草薙武尊を相手にするには大人数且つ十二分の力で挑むのはもちろんのこと、動きを封じなければ勝てないということを、それほどの規格外の実力と戦闘能力を持っているのだ。

 

「まぁてめぇらの相手をするには丁度良いハンデだ。」

 

 手の平に刺さった針を抜いてへし折り、大胆不敵な笑みを浮かべて風魔一族を睨み付ける武尊。どうやら負ける気も殺される気もないようだ。

 

 手に持っている長巻を鞘から引き抜いて頭上に掲げると、軽々とクルクルと振り回してパフォーマンスを取る。そして思いっきり長巻の頭を地面に叩きつける。

 

「俺は草薙家三十一代目当主、草薙武尊!! 今宵の戦で貴様等を蹂躙する男だ。」

 

 高々に名乗りを上げ、自分で自分を鼓舞する。

 

 そして未来を見通す。これから起きる事、そして相手の言動を無意識に予測する。

 

 先制攻撃、風魔一族は15人一斉に手裏剣を投げる。

 

 四方八方から投げられる手裏剣、逃げ場は勿論、避ける隙も無い当たることが確定された攻撃、常人であれば全て的中することは火を見るよりも簡単であろう。

 

 しかし、相手は草薙家当主、人間の能力を超越した人類の到達点とも呼べる超人、更に未来を見通す力を手に入れている達人の域を超えた達人の中の達人。

 

 四方八方から飛んでくる手裏剣に対して、武尊は長巻の柄を力強く握り締める。

 

 そして、まるで軽い棒を自由自在に扱うように長巻を縦横無尽に振るって飛んできた手裏剣を全て払い落とす。

 

 逃げ場も回避する隙もない手裏剣の嵐を武尊は避けるのではなく、自分に当たる前に全て長巻で叩き落とすという高度な芸当をしたのだ。

 

「まぁ、こんなもんよ」

 

 この程度の攻撃、避けるほどの大した攻撃でもない。それに四方八方から飛んでくると言うのであれば避けるよりも全て払い落としたほうが安全性は高いし効率が良い。

 

 あまりにも神業的芸当を披露された風魔一族、その技に敵ながら感服することはもちろんのこと、回避不可能の自分の攻撃を防がれたことに驚きを隠さずにはいられなかった。

 

「あの攻撃を跳ね除けた!?」

 

「人間の技ではない。」

 

 顔が布で覆われていたとは言え、今の芸当を見て風魔一族が何が言いたいのかは武尊にはわかっていた。

 

 人間ではない。人の形をした化け物。そう言ってるように聞こえた。

 

 冗談を言うな、俺こそが『人間』だ。

 

 人の持てる才能を碌に持たず、訓練により人間に習得可能な技能も修復可能な欠点あると言うのに努力もせず、才能やら天性などと言って諦める。

 

 俺に言わせれば お前らの方が人間じゃない。

 

「来いよ。飛び道具なんて使わないで真っ向から勝負しろ。そっちの方が速い」

 

 飛び道具が通用しない。まるで規格外の化け物の対峙したかのように風魔一族は改めて覚悟を決めてそれぞれ違う武器を取り出して手に持つ。

 

 短刀、日本刀、鎖、槍、鎖鎌、クナイ、手裏剣、15人それぞれ色んな武器を手にしている。

 

「いざ参るっ!!」

 

 もはや生きてこの戦場から帰ることはできないと悟ったのだろう。まるで心中でもするかのように風魔一族は死ぬ覚悟を決めて草薙武尊に向かって雄叫びを上げながら一斉に突っ込んでいく。

 

「行くぜぇ!!」

 

 それに対して武尊も相手の威勢に飲まれないように、長巻の頭を地面に叩きつけて自分を鼓舞して奮い立たせながら接近してくる風魔一族に突撃する。

 

 未来を予測する。これから起こるであろう出来事や言動を読み通す。

 

 射程距離範囲まで近づいてくると、風魔一族と武尊はほぼ同時に攻撃を繰り出してくる。

 

 風魔一族は首を目掛けて刀を振るい、武尊は長巻で袈裟懸けで相手の生命を絶つことを決めようとする。

 

 自分に向かって飛んでくる斬撃に対して武尊は後ろへと下がって回避する。

 

 しかし身体が鈍っているせいか、完全に避けきることができず、切っ先が首を掠って傷口から血が滲み出た。

 

 交代して武尊の番、敵の攻撃を避けると相手に体勢を戻す隙も与えずに、長巻を振るって袈裟懸けに斬りつける。

 

 斬り落としたことで、男の身体は両足と右腕を残して左腕と首と半分の胴が地面に落ちる。無論即死である。

 

 次はクナイを持った相手、自分の腹部を目掛けて突き刺そうとしてくる未来が視える。

 

 そして読み通り、相手は腹部に向かってクナイを突き刺そうとしてくる。

 

 しかし未来を読んだからと言って腕が思うように動かず、相手の攻撃を止めることはできなかった。かなり最悪な状況に立たされてしまった。

 

 あえて受け止めるのを止めると、武尊は腹部に渾身の力を込めて鋼のように堅める。

 

 そして武尊の腹部にクナイが容赦無く突き刺さる。常人であれば内蔵まで達して致命傷になる傷、その場で苦しんで倒れるであろう。

 

 だが、相手が悪かった。相手は超人の草薙武尊、並の人間ではない。幸いにも腹部を堅めたことによってクナイは内蔵まで達しておらず、分厚い筋肉に拒まれて致命傷にはならなかった。

 

 クナイを引き抜こうとするものの、筋肉に引き締められて抜くことが出来ない。

 

「こいつ……化け物か」

 

「今度は俺の番だな」

 

 苦しめずに、楽に死なせようと思ったのか、武尊は長巻を相手の首目掛けて水平に斬る。

 

 風魔一族の首を斬り落とすと、首が転がり落ちて切り口から大量の鮮血が吹き出し、そのまま崩れるようにその場で身体が倒れ込んでしまう。

 

 二人目を倒した。ゴールに到着するまではまだまだ遠いな、あと十三人もいるんだから。

 

 しかし二人目を倒したのも束の間、腹部に刺さっていたクナイを抜こうとした瞬間、背後から忍び寄ってきた風魔一族に気付くことができず、背中を刀で切り裂かれた。

 

「あがっ!!」

 

 クナイを抜くことに気を取られて背後の男に気づかなかってうえに、心眼を使い忘れていた。いや、心眼を使ったところで躱すことができなかっただろう。

 

 後ろを振り向くと、渾身の力を込めて長巻を振るって相手の胴を切り裂いた。

 

 風魔一族の身体は下半身と上半身に見事に分かれて、上半身が地面に落ちると、それに続くように下半身が崩れるように倒れ込んだ。

 

 毒で身体の自由が効かないうえ、腹部と背中のダメージを負ったことで出血している。体力はまだあるが、足腰に思うように力が入らないので、長巻の頭を地面に叩きつけて体重を乗せる。

 

「畜生……」

 

 毒の影響によって身体が自分の思うように動かないので、心眼で未来を視ても思い通りに回避や防御が出来ない。故に間に合わない。相手より先に動けないので一手遅れてしまう。かなり致命的で不利な状況だ。

 

 更に、これから毒が体中に回ることによって少しずつ身動きを取ることが出来なくなるだろう。早くこの闘いにケリを付けなければ自滅してしまう。慢心して時間を長引かせればこちらが終わる。

 

 恐らく、この闘いに勝ったとしても大和を手助けすることはできない。これからダメージを負う前提で闘ううえに、解毒剤を貰わなければ毒が回って身動きが一つも取れなくなってしまう。

 

「序盤だって言うのにこの有様かよ……この先が思いやられるぜ……」

 

 命の危機感を感じているのか、不利な状況を嘆いているのか思わず愚痴を零す武尊。

 

 勝てないとは思っていない。この俺がこんな雑魚共に殺されるなんて毛ほどにも思っていない。しかし状態が状態だ。万全の状態であれば苦でも無いが、今は毒が身体に回って自由に身動きが取れない。

 

 だが、それら全てを跳ね除けて勝利するこそが英雄の矜持、どんな苦難や難行を乗り越えてこその人間だ。かつて十二の難行を乗り越えたと言われれヘラクレスのように。

 

 況してや俺は900年代々血筋を受け継いできた草薙家本家の長男として生まれ、当主の座に就いた男。人類の到達点とも呼べる身体能力と頭脳を持って生まれた超人の中の超人。

 

 あえて力を込めず、脱力で全身の力を抜く、生半可な事ではない。生死を分ける臨戦態勢に入っている中で緊張感や恐怖があるだろう。しかしその中でまるでリラックスをするような感覚で脱力しているのは相当な精神力がなければできないことだ。

 

「よし全員で掛かってこい。そっちの方が手っ取り早くて良い。 いや、やっぱこっちから行かせてもらう」

 

 風を切って一気に駆け抜ける。風魔一族を蹂躙するために走り出す。

 

 数秒後のこと、風魔一族の目の前に来た瞬間、脱力後に渾身の力を込めて長巻を振るう。二人か三人を一気に殺すために全力で振るう。

 

 武尊の攻撃に対して、風魔一族は首をガードするように刀や槍、鎖で防御態勢に入る。

 

 防御しているのだ。一撃で殺されるわけはないだろう。そう高を括ってった。しかし考えが全く甘かった。

 

 まるで防御は無意味だと言わんばかりに武尊が長巻を振るうと、刀は曲がるどころかへし折れ、槍は斬り折られ、鎖は断ち切られる。

 

 そして防御が完全に貫通すると、風魔一族の首が胴から離れることになる。三人の首が物理的に吹き飛ぶと血飛沫が舞い散った。

 

 三人仕留めた。合計六人殺した。ようやく二桁から脱出することができた。

 

 数が減って一安心したのも束の間、風魔一族は遠距離から吹き矢や手裏剣を四方八方から飛ばしてくる。

 

 失明を防ぐために目を防御しようとしたのだろう。目を腕で覆い隠して吹き矢や手裏剣を身体で受け止める。無論、全部まともに喰らってしまった。

 

「……ゔっ!」

 

 急に視界が霞む、身体が更に重くなり動きが鈍くなる。全身に耐え難い激痛が走り、身体中に鉛を付けたようにずっしりと重みが増す。まるで自分の身体ではないみたいだ。

 

 すぐに理解した。これは毒だ。初めに食らった毒なのか、それとも別の毒なのか、それはわからない。しかし、手裏剣や吹き矢に毒が塗られていたのは確かだ。

 

 あまりの激痛に苦しみだす武尊、心臓部分を左手で抑えつけて痛みに耐えようとする。その表情と言ったら苦痛に満ちたものとしか言いようがなかった。

 

 目からは血の涙が零れ出し、口や鼻からは鼻血や吐血がピトピトと零れ出てくる。

 

「悪いが毒を使わせてもらった。解毒剤を飲まなければ死ぬだろう。そもそも我らが使った毒に解毒剤なんて言うものは存在しないがな。」

 

「あらゆる調合をした毒を使った。様々な効果がある毒を複数な、解毒は不可能に近い。」

 

「しばらくすれば息絶える。この数を相手にして勝機はない。」

 

 もはや時間が経過すれば風魔一族の勝利は確定する。何も手を下さずに勝てるということだ。武尊からしてみれば最初の毒を喰らったのが全ての間違いだったのだ。

 

「俺が死ぬ? 俺が負ける? 何を寝惚けたこと言ってんだよ、だったらてめぇら全員ぶっ殺してから死んでやるよ。それまでは身体が動かなくなるまで殲滅してやるよ」

 

「威勢だけは良いな。」

 

「もはや指を動かすことすら辛かろう。」

 

「苦しまずに介錯してやろう。」

 

「もう動かなくていい。殺されて楽になれ」

 

 その瞬間、武尊の雰囲気が変化し、凍てつくような寒気とピリピリと殺気立ってきた。切れたのだ。

 

 プライド、自尊心、誇り、言い方はそれぞれあるだろう。風魔一族は草薙武尊のそれら全てを傷つけたのだ。

 

 怒りを通り越して冷静になっていたが、それでも武尊は思った。こいつらは生かしてはおけない。殺さなければ気が済まないと。

 

「だったら教えてやるよ。どんな綺麗事も理想も見も蓋もなくなるような理不尽や不条理ってやつを。てめぇらの死を持って償って貰う。」

 

 鉛のように重くなって思うように動かない身体を怒りと殺意によって駆動する。この先、息絶えて死ぬことがわかっていたとしても、今はどうでも良かった。

 

 極論、勝てば良いのだ。相打ちだろうと、全員殲滅して数分後に死のうとも、こいつらを一人残さず殺せば良いのだ。

 

 遂に切れた武尊、愛用の長巻を地面に突きたて、弓と矢を手に持って風魔一族に狙いを定める。

 

「てめぇら逃げても構わねぇよ、遠距離からチクチク攻撃しても構わねぇよ、全員串刺しにしてやるからよ」

 

 弓を渾身の力で引いて矢を放つ。

 

 相手が避けようとした瞬間、矢が到達するのがあまりにも早かったのか、喉を貫いて絶命させる。

 

 一人殺したのも束の間、矢を手に取り次に狙いを定める。

 

 風魔一族は感じた。こいつの使う弓矢はやばい。距離を置いて逃げなければ確実に殺されると思った。

 

 避けながら逃げようとするが、武尊が弓を引いて矢を放つと見事の喉に命中する。

 

 それから距離を置こうとするものの、一人、二人、三人、四人と武尊が使う弓矢の犠牲者になる者は確実に段々と増えていく。

 

 気がつけば残った風魔一族は三人になっていた。殺されたほとんどは毒で動けなくなるまで逃げようとして弓矢の犠牲になった者がほとんどと言っても過言ではなかった。

 

 俺の弓矢は弓道で使うような生半可な弓力ではない。狙いを的確するわけではない。即座に打てる射撃性、相手の反応速度を上回るスピード、人を殺傷するために特化させた殺人道具だ。

 

 更に心眼を使うことによって相手の動きを先読みして確実に当てることができる。その場から瞬間移動でもしない限り、ほぼ100%の確率で弓矢を当てることが可能なのだ。

 

「……どうする? このままだと全滅だなぁ……」

 

 まるで敵が死んでいくのが楽しかったのか、それとも自分を殺すと言ってたのに相手が死んでいくが嬉しかったのか、不敵な笑みを浮かべる武尊。

 

 もはや逃げても刺殺されるのがわかっていた。故に風魔一族は接近戦で闘うしか残されていなかった。

 

 武器を構えて特攻態勢に入る風魔一族、もはや殺されるなら草薙武尊の命を少しでも削ってから死んでやろうという思惑だろう。

 

「うおぉぉ!!」

 

 数秒後、武尊に向かって突っ込んでいく風魔一族、もはや死ぬ恐怖も殺されることも関係無しに、敵対象目掛けて特攻していく。

 

 それに対して、武尊は弓矢を投げ捨てて長巻を装備した。

 

 そして笑みを浮かべていた。計画通りに事が進んでいるためか、それとも相手が自分に突っ込んでくることが嬉しかったのか、それは本人以外にはわからないこと。

 

 しかし、ただ弓矢で刺し殺すことがつまらなかったのだろう。武尊はどちらかと言うと剣撃戦闘や肉弾戦などの接近戦が好みだった。だから弓矢で遠距離から殺せることをチラつかせて最後は接近戦に持ち込もうと思ったのだ。

 

 風魔一族が武尊の射程距離範囲内に入ろうとした瞬間、二手に分かれた。一人は正面から、もう一人は背後に潜り込んだのだ。

 

「ちっ!」

 

 両方相手するほど、動けるような気力は残っていない。

 

 まず正面から片付けよう。後ろの相手は後からでも大丈夫だ。後でゆっくり殺してやるから待ってろ。

 

 正面の相手の武器は槍、リーチの長さだと五分五分と言ったところか、長巻を使っていたことが幸いした。

 

 相手が槍を胸を目掛けて突いて来る。確実に仕留めるために、完全に息の根を止めるために心臓を狙ったのだろう。

 

 しかし、武尊は心眼によって未来を見通していた。自分の急所を狙っていることも、どういう攻撃を仕掛けてくるかということも。

 

 武尊は槍を避けようとする。しかし毒がかなり回っているせいで思うように動くことができない。動けたとしても数秒の遅れがある。

 

 幸い、動くことができたのも束の間、避けることができず槍の矛先が右肩を刺し穿つ。

 

「っ!!」

 

 刺し穿った槍は右肩を貫通し、矛先には鮮血が滴る。

 

 痛みのあまりに武尊は苦痛の表情を浮かべる。肉と骨を貫かれたのだ。想像を絶する痛みに襲われているのだろう。

 

 しかし、痛みに耐え、更に怒りを力に変える。

 

 柄を握り締め、渾身の力を込めて長巻を振るう、まるでその一発で胴体を両断してやろうと言わんばかりに、殺意と並ならない気迫で攻撃した。

 

 一方、相手は攻撃が来る前に回避しようとしたが、武器である槍が抜けなかった。武尊の筋肉が槍の矛先を締め付けて抜けないようにしていたのだ。

 

 渾身の一撃が袈裟懸けになって相手を襲う。両断とまではいかなかったが、骨を通し抜け内蔵を斬り裂いた。

 

 無論、即死である。そのまま相手はまるで魂の抜け落ちた人間のように倒れた。

 

 殺したのも束の間、今度はもう一人の敵が背後から袈裟懸けで武尊に斬りつけてきた。

 

「ちっ!」

 

 毒が回り、数多の攻撃を受けてダメージが蓄積されて、もはや振り向く気力も残っていない。

 

 長巻を放り投げ、腰に差している刀を抜刀すると、振り向かずに刀を自分に向けて横腹を通り抜けるように突き刺そうとした。

 

 相手は後ろにいることはわかる。恐らく俺の真後ろにいるのだろう。だったら後ろに向かって突き刺せば当たる。

 

 武尊の案の定、見事に相手の腹部を貫いた。致命傷を与えたのだ。

 

 そのまま藻掻き苦しみながら相手は倒れていく。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 十五人、ようやく全員倒すことができた。これで終わりだ。やっと成し遂げたのだ。

 

「へっ……へへへ……」

 

 力尽きて倒れる前に、最後の力を振り絞って木の下に歩いていく。その間に身体に刺さっている槍や手裏剣などを取り除く。

 

 木の下に到着すると、木に背を預けて腰を下ろす。

 

 座った以上、もう立てない。全ての力を振り絞ったのでもう動くこともできないだろう。

 

「へへへっ、楽しかったぜ。」

 

 このまま何も手当をしなければ死ぬというのに、最後の最後に笑う武尊。余程この殺し合いが楽しかったのだとわかるほどに。

 

 風魔一族十五人VS草薙武尊。その戦いの勝者は草薙武尊。

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