古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
武尊や和生が戦闘を始めようとした同時刻、大和は風間獣蔵と対立していた。
4日ぶりの再開、大和が心眼を得て大幅に強くなり、風間獣蔵は楽しそうな表情を浮かべていた。
「よう怪童、久しぶりだな」
「あぁ、久々にお前の顔を見れて良かったぜ」
「心配してたんだよ、修行で死んじまったんじゃねぇかってな、生きてて安心したよ。お前をこの手で殺せるからな」
パチンッ!と風間獣蔵は指を鳴らして部下を呼び、命令を下す。
「怪童を殺ったあと、女を捕らえろ。 今手を出したら何をやり出すか検討もつかねぇからな」
「御意」
少しだけ、大和の眼の前に立つ。
しかし、妙だった。自分が武器を持っているのに対して、風間獣蔵は何も持っていない。刃物も銃も、武器と呼べる物を一切持っていない。
紅虎さんから聞いていた情報とは全く異なる。相手は殺すためであれば何でも使ってくる殺人集団と聞いていた。
「素手で良いのか?」
「残念ながら素手では無いんだよ」
懐に手を入れて銃を取り出すと、威嚇なのか、それとも本物ということを示すデモンストレーションなのか、地面に向かって銃を撃ちだした。
それに対して大和は自分が撃たれる未来が見えなかった。相手に殺気を感じなかったので、驚きもしなければ、一切微動だにしなかった。
「銃もある」
拳銃を懐に戻すと、今度はナイフや手榴弾、鎖などを取り出して大和に見せびらかす。まるで自分は素手ではなく、色んな武器を隠し持っていると言わんばかりに。
「こういうことだ。まぁ精々惑わされないことだな」
「丁度良い。丸腰の相手に武器を使うのはどうかと思ったからな、それぐらいして貰わないと困る。」
勘違いだった。相手は色んな武器を持っている。自分よりも圧倒的の物量だ。
「さぁ、お披露目も終わりにして、さっさと始めようぜ」
両者共に一歩ずつ前に歩いて射程距離範囲内に近づいていく、足音がする度に緊張感が高まり、殺し合いが始まる音のように聞こえてくる。
お互い射程距離範囲内に入った瞬間、足を止める。もはや敵は目の前、相手は直前、手を出せば攻撃が当たる範囲内である。
大胆不敵な笑みを浮かべている風間獣蔵に対して、冷血に相手を睨みつけ、殺気を剥き出しにする大和。
まるで戦いの合図だと言わんばかりに、強い風が吹いた瞬間、大和の先制攻撃によって戦いが始まる。
先制攻撃、大和は武器である鉄刀を風間獣蔵の頭を目掛けて横薙ぎに振った。
ジャブのように軽やかで、右ストレートのように重量のある一撃、避けるのは困難であり、当たれば致命的とも呼べる相当なダメージを与える。
しかし、未来を見通していた風間獣蔵には当たらない。屈伸運動を使って膝を曲げて腰を下げ、回避したのだ。
そして反撃の返し、いつの間に手に仕込んでいたのか、風間獣蔵は手に持っていたナイフで大和の首を目掛けて突き刺そうとしてくる。
幸い、この反撃を喰らうことは無かった。事前に心眼を使ったことによって未来視をしており、この攻撃も読み通りであったからだ。
首を目掛けて突き刺そうとしてくるナイフを大和は余裕を持って避け、更に攻撃を仕掛けようとする。
次に攻撃を仕掛けたのは燕返し。刀を相手の真っ向から垂直に地面スレスレまで斬り降ろし、 目の前にいる相手がカラ振りしたと思わせた後、その瞬間に地面スレスレにある刀の刃を上部に返して、相手の股から顎まで斬り上げる技。
つまり地面まで斬り降ろすのはフェイクである。
だが、こんなフェイクは風間獣蔵には無意味、未来視をしていればフェイクもどんな攻撃も簡単に避けることが可能なのだから。
「馬鹿がっ!」
燕返しを使用しようとすると、風間獣蔵は後ろに向かってジャンプして後退する。
そして背後に避けた瞬間、風間獣蔵は手に持っていたナイフを投擲する。
飛んできたナイフに対して、大和は涼しい顔をしながら避ける。そして飛来してきたナイフは遠くまで飛んでいき、木のど真ん中に突き刺さる。
お互い一旦攻撃を止めると、射程距離範囲内から離れるように間を空けてインターバルを取る。
「どうやら、俺と同じ世界が視えるようだな」
「あぁ、前なら同じようにぶっ倒されだろうな。だが今は違う。お前の領域に居る以上は倒されることは無い。」
「そうだな。数手見ただけだが確かに強くなった。戦いでこんなにも高揚感を感じるのは初めてだ。倒し甲斐があるってもんだよ。」
数手だけ刀と拳を混じり合えただけだが、両者の力はほぼ互角に渡り合えることが出来る。前だったら武器を叩き落されて終わっていただろう。
鉄刀を地面に置き、素手で構える大和。武器という名の攻撃手段を手放し、自らの五体を武器に変貌させる。
「素手で良いのかよ?」
「こっちのほうがてめぇを仕留めるには効率が良い。」
鉄刀から繰り出される攻撃力は無類の威力だが、どうにもスピードが欠ける。相手を仕留めることに関しては本領発揮できるが、当てられなければ意味がない。
しかし素手なら相手の反応速度を超えた最速とマシンガンのように繰り出されるジャブやバズーカのような破壊力を誇る右ストレートが存在する。
風間獣蔵を倒すには素手でなければいけない。それに秘策を使うには鉄刀を手放さなければならないからだ。
「こいよ。てめぇを素手で潰してやる」
「あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるからよ。
喋れば喋るほど言葉の体重は減り、やがて空気のようにふわふわと重みのないものになっちまう。」
大和はファイティングポーズを取る。左の腕を下げて右拳は顎の横に構え、膝を少し曲げる。ボクシングで言うところのデトロイトスタイルである。そして左拳は力を抜いて少し開いている。
最初に先手を仕掛けたのは大和の左フリッカー、腕を鞭のように撓らせて打つ変速ジャブである。
変則的かつ不可解な軌道で飛んでくるフリッカー、普通ならまともに喰らってくれるのだが、相手は風間獣蔵、心眼を持っており、この攻撃も予知通り且つ想定の範囲内。
フリッカーは避けられたことで空振りとなり、パンチは空を切る。
何度か打つとフリッカーを辞め、今度は左から右へと左右のコンビネーションを使ってワンツーを連発する。
ジャブを避け、右ストレートを避ける。何度打ってきてもただ未来予知したことを頼りに攻撃を淡々と避け続ける。
(今まで色んな打撃を見てきたけど、悪いけど当たらんよ。先読みしてわかったてんだ、どんな打撃も通用しない)
しかし、心眼を使ってジャブを避けたと思いきや、大和の一撃である右ストレートが顔面を殴打する。そして顔面が飛び跳ねる。
「あがっ!」
腰が入り、体重を乗せた攻撃をまともに喰らってしまったことで、鼻血を垂らしてしまう。
絶対に有り得るはずがない予想外の出来事に風間獣蔵は度肝を抜かれて驚きを隠すことができなかった。まるで鳩に豆鉄砲を喰らったような感じだった。
(読みを間違えたか?)
有り得ない。確かに読みは正確で合っていたはずだ。未来視を間違えるはずがない。それなのに攻撃を喰らうなんてどうかしているとしか思えなかった。
この男は何かしたのか、神通力でも使ったのか? 何か特殊な事をやって、俺の心眼とやらを掻い潜って読みを間違えさせ攻撃を当てたのか?
確かめる必要がある。もう一度攻撃を受けて俺の読みが間違っていないことを証明して見せる。そうでなければ、分からなければ何度も攻撃を喰らい続けて、負けることは目に見えている。少々リスクはあるが、仕方がない。
大和の左拳から繰り出される第二の攻撃が風間獣蔵を襲う。
今度は心眼を使うのを遅めにする。さっきは早く使ったので何が何だかわからなかったが、直感で攻撃する瞬間に何か技の種があると思ったからだ。
結論から言うと、風間獣蔵の直感は正しかった。攻撃する瞬間に何か心眼の読みを間違えさせる技を使っていたのだ。そして遂に理解したのだ。大和の技の秘密を。
(違うっ!!こいつまさかッ!?)
高度な戦闘センスと凄まじい直感力にて大和が何をしているのかを瞬時に理解した。大和が何故自分に攻撃を当てれるかの秘密を。
風間獣蔵が未来予測をして避ける瞬間、左右に攻撃が分岐する未来が視えた。そう、大和は行動を変えていたのだ。まるで後出しジャンケンのように。
仮に直前に未来予知しても、途中までまったく同じ動作でそこから分岐するので予知をしても無意味になる。圧倒的な未来視対策。
更に、癖を読まれてもっと高度になると、動きを見てから行動を変えることによって未来予知ができなくなる、完全なる予知殺しが完成する。幸い習得してから日が浅い大和にはそれはできない。
避けることができず、二度目の攻撃が顔面を殴打する。
これはマズい。それとも相手の技を理解したからもう良いと思ったのか、風間獣蔵は後ろへと下がって射程距離範囲内から離れて態勢を整える。
「初めて見る技だな。その技術、何処で手に入れた?」
「知り合いにその手に詳しい奴が居てな、それを見様見真似で覚えたんだよ。」
「なるほどな。俺の先読みは無意味ってことか……」
「心眼は万能じゃねぇ、対策すればどうってこともねぇんだよ、お前の自慢の力も俺には意味が無い」
この『くずし』がある限り、相手は心眼を使うことは出来ない。一方で自分は心眼を使えるので相手の動きを未来視することができる。言うなれば今の俺は能力殺しの武器と未来視できる能力を身に着けた、俗に言う最強装備を手に入れた状態である。
これなら勝てる。兄貴から教わった技と死物狂いで手に入れた能力で風間獣蔵を圧倒できる。勝利は目前、後は敵を一方的に叩きのめすだけだ。
そんな中、自分が圧倒的に不利、勝てる要素が全く無いのにも関わらず、風間獣蔵は笑みを浮かべていた。まるで自分にはまだ勝機があると言わんばなり笑っていた。
「それならよ……俺がそれを使ったらどうする?」
大和が心眼を使った瞬間、攻撃が左右真ん中に分岐する未来が視えた。
「なっ!?」
避けることができず、拳が顔面を殴打する。
鼻血が吹き出し、口の中も切れて血が滴る。いや、ダメージなんてどうでもいい、今はそれどころではなかった。
(こいつ!? なんて学習能力してやがる。一瞬で『くずし』を覚えやがった!?)
『くずし』は古流武術の一つであり、一長一短で出来るものではない。理解するのにかなりの時間を費やしたのに、それを一瞬で覚えるなんて、とんでもない戦闘センスと学習能力が無いとできないことだ。
風間獣蔵が『くずし』を覚えてしまったせいで、お互いの心眼は無意味となった。俺の方が一枚上手だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。
こうなってしまえば、やることは一つしかない。単純にてシンプルな方法でケリを付けるしか無い。
「どうだ? 自分で喰らった感覚は?」
攻撃を喰らったかよりも、『くずし』を使ってきたことのほうが驚きだ。その才能に嫉妬してしまうほどに武術の天才としか言いようが無い。
しかし、どうしたものか?相手も自分も心眼殺しである『くずし』を使ってくる。これでは避けては攻撃し、避けられては攻撃を繰り返すことを体力の続く限り永遠に続けるだけだ。もはやいたちごっことしか言いようが無い。
「殴り合いだ。」
「良いねぇ。そういうのも悪くない。」
両者一歩も引かずに殴り合いの打ち合いが始まる。
お互いの心眼は無意味。先を読んでも、『くずし』によって覆されて攻撃をまともに喰らう。
それなら心眼など一切使わずに真っ向から殴り合い、どちらかが再起不能になるまで殴り合えば良い。単純にしてシンプル、分かり易い勝敗の決め方だ。
殴る。殴られる。殴る。殴られる。それを幾度繰り返す事数十回以上、殴られた殴り返し、殴り返されたら殴る。
殴る場所は至って単純で、顔面しか狙わない。胴体など、苦しみは与えられるものの決定打にはならない。
血飛沫を上げ、歯を折り、相手がぶっ倒れるまで殴り続ける。
両者共に後退はしない。殴ったら前進、殴られても前進、まるで猪突猛進のような勢いで前へと進んでいく。
両者共に殴り合いは互角、前進する勢いも互角、果たしてどちらが先に息絶えるのか、まるでわからない状態。
しかし、風間獣蔵には誤算があった。それも致命的とも呼べる大誤算だ。
大和の攻撃をまともに喰らっている獣蔵に対して、大和は無意識に自分の急所を外してダメージを軽減している。
五分五分に見える闘いだが、ダメージ量では風間獣蔵が圧倒的に不利、まだ体力などを温存している大和が圧倒的に有利とも言える。
それから二人の差が開くのは数分後のことだった。
「はぁ……はぁ……」
「………」
風間獣蔵が疲労と蓄積していたダメージで顔を歪ませているのに対して、大和は顔がボロボロだが呼吸を乱していなければ、ダメージが限界まで蓄積している様子は無い。
両者のダメージの蓄積は一目瞭然、一手大和の方が上手だったのだ。
言わずともだが、幾ら耐久力に自身がある獣蔵でも、大和の一発一発がマグナムような破壊力を誇る攻撃を何度もまともに受ければ再起不能になってしまう。
もはや自分に次の攻撃を受ける体力は無いと悟ったのか、風間獣蔵は笑みを浮かべる。しかもその笑みは楽しいや喜びのものではなく大胆不敵で不気味に感じるものだった。
「こうなったら……」
「てめぇ!!」
未来を見通した。
その光景とは、自分を無理やり捕まえて、手榴弾で自爆するものだった。
どうやら勝てないのなら、せめて一緒に死のうという魂胆だったのだろう。自分の命なんてどうってことも無いと言わんばかりに。
もはや止まらない、捕まったら終わりだ。
大和は渾身の一撃を獣蔵に叩き込むが、ビクともしない。まだ捕まえる気でいる。
「ちっ!」
今度は真っ向からではなく、技術戦法で行く。
顔面に叩き込むわけでなく、顎を掠めるような一撃、そして指の第二関節を使って人中を穿った。
脳を揺さぶって典型的な脳震盪を引き起こし、急所である人中を叩いたのだ。並の人間なら意識は飛ぶのはもちろん、最悪病院送りになるだろう。
そして獣蔵は大和を掴むことも、自爆特攻をすることもなく、そのままばったりと倒れ込んだ。
「一手……足りなかったか……」
「お前は欲張り過ぎなんだよ。武器に頼らずに、ずっと単身で挑んでいれば勝てたかもしれないのに」
「へっ……へへっ……そうかもな……」
風間獣蔵は苦笑い浮かべながら意識を失い。気絶していった。
勝者、草薙大和。リベンジに成功。