古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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五十二話 裏切り

 風間獣蔵との決着を終えて、勝利を獲得したあとのこと。

 

 首領が敗れて失い。残った三人の風魔一族、果たしてこいつらはどうゆう行動をするのか?

 

「今度はお前らか?」

 

 視線を向けた瞬間、風魔一族は武器を構えて戦闘態勢を取る。

 

しかし。

 

 バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!と言う音と共に風魔一族が倒れ込んでしまう。

 

 銃撃音の正体は草薙和生が放った弾丸である。

 

「よう兄貴、無事だったようだな」

 

「和生……お前こそ無事だったのか?」

 

「心配ねぇよ。敵は全員殺したからな」

 

 周囲を見渡すと、溜息を漏らしながら近づいてくる。

 

 恐らく兄貴が誰も殺さずに生かしておいたことが、あまりにも甘くて慈悲深いと思ったのだろう。自分は躊躇いなく殺したのに、それに比べて兄貴はと思ったのだろう。

 

「武尊の兄貴はどうした? まだ戦ってんのか?」

 

「さぁな、今はどんな状況下なのかは知らねぇ。兄貴が首領を殺ったかを見に来ただけだからな」

 

 すると何を血迷ったのか、カチャリと兄に対して銃口を向ける和生。

 

「和生てめぇ……」

 

「悪いな兄貴」

 

 こいつの表情を見てわかった。銃口を向けるのは何かの間違いでも、狂ったわけでも無い。

 

 長い付き合いの兄弟だ。こいつが冗談でもそういうことをしないことはわかってる。遊びでもそういうことをしないこともわかっている。

 

 そう……和生は……

 

「お前……裏切ったのか?」

 

「そうだな……そういう事になる。俺は兄貴達を裏切った。八雲紫側になったんだよ。」

 

「なんでだよ? なんであいつ側に寝返るんだよ?」

 

「力が欲しかった……それだけのことさ」

 

 そんなことのために、それだけのことのために兄弟を裏切ったというのか、何故あんな奴の側に付いたのか。

 

 いや、和生のことだ。もしかしたら、兄弟を裏切ってでも力が欲しかったのかもしれない。誰よりも欲し、誰よりも焦がれた力を……

 

「そんなことはどうでも良いっ!! 俺と殺し合おうぜっ!!俺の新たな力を見てくれよ!!」

 

 まるで、自分が欲しかった新しい玩具を買って貰って、それを楽しく遊ぶかのような感じだった。まるで実の兄で自分が手に入れた力を試す実験のように。

 

 もはや、話し合いでは解決しない。分かり会えないと感じたのか、大和は何処か悲しそうな表情を浮かべながらも戦闘態勢に入る。

 

 あぁ、神様……どうして血肉を分け合った兄弟で殺し合いをしなければいけないのか?何故そのような悲痛な試練をお与えなさったのか。もし運命というものがあるのなら、俺は一生恨んでいたであろう。そう思うほど、この光景は苦しかった。

 

 お互い歩いて、制空圏に入るまで接近する。

 

 そして最初に始めた両の手と両の手を握り合い。手始めに力比べを始めたのだ。

 

「この野郎!?」

 

 腕比べをした瞬間理解した。和生の力が尋常では無く強くなっている。まるでブルドーザーと押し合いをしているような感じだった。

 

 有り得ない、何故だ? 以前なら余裕で勝てるような腕力であったのに、何故和生の力がこんなにも強くなっている?ドーピングでもしたとでも言うのか。

 

 近代オリンピック選手の身体能力を凌駕する。世界でも最高峰とも呼べる肉体を持つ大和に勝つということは、和生の力はもはや人間と呼べるべきものではない。化物の領域に達している。

 

 それに対して和生は、兄にようやく力比べで勝てたことが余程嬉しかったのか、不気味で満面な笑顔を浮かべている。

 

 そして徐々に押していき圧倒する。

 

「どうした兄貴!? その程度の力だったかよ!?」

 

 威勢が増していくと同時に、更に力が強くなっていく、何処まで力が伸びるというのか、こいつに限界というものがないのか?

 

 もはや力で勝てないと本能で察したのだろう。

 

 膝で顎を蹴り上げて、力比べを辞めようとする。

 

 大和の一撃がかなり堪えたのだろう。和生は手を離して痛めた顎を撫でる。

 

 そして笑う。小さく不気味に『へっ、へへへっ』と。

 

「どうした兄貴? 力比べは辞めたのか? 俺の力に負けると悟ったのか?」

 

 そうだ。そうだとも和生。俺はお前の力が怖かったんだ。だから不意打ちを食らわしたんだ。しかしこの行為が間違いとは思ってない。あのままだと俺が確実に負けていたから、あぁするしかなかったのだ。

 

 それにしても何故だ?何故和生がこんなに強くなる?そこが疑問で何か嫌な予感がする。

 

 一時間も経たずに短期間で強くなるなんてできるのか、いや、もしそれが安全で可能なら紅虎さんが知っていて俺に施しているはずだ。武尊の兄貴も然り。

 

 近代スポーツにおける恐らくは最高にして最凶の悪魔ステロイドを使用した時、ありえないくらいの強さを手に入れることができるが、後に待っているのは避けられぬ破滅のみ。

 

 これは嫌な匂いがする。ステロイドよりももっとやばい物を和生は何かしらの手を使って手に入れたはず。

 

「ようやく勝てるんだな……兄貴に……俺の願いは遂に……」

 

 先手必勝、大和は和生の顔を平手で思い切り叩く。

 

 これは攻撃ではない。相手を怯ませるために、相手の視界を奪うために、そして次の攻撃を当てるための幼稚な技。

 

 和生は視界を奪われた。次の攻撃をまともに喰らうのは一目瞭然である。

 

 大和は正拳突きの構えを取る。

 

 そして、打撃を放った瞬間、強烈な破裂音が鳴り響き、打撃が和生の胴体にまともに命中する。

 

(破裂音!? 音速を超えてんのかよ!?)

 

 通称マッハ突き、背骨を含む全身27か所の関節を回転・連結加速させ、瞬間的に音速に達する正拳突き。音速を突破することによって発生する衝撃波により、特徴的な炸裂音が鳴る。

 

 常人にまともに当たれば、驚異的なダメージによって確実に仕留めることができる必殺技。

 

「あっ……あがっ……」

 

 マッハ突きをまともに喰らった和生、想像を絶するあまりの痛みに藻掻き苦しむ。

 

 しかし、それだけでは終わらない。

 

 痛がり苦しむものの和生は決して倒れない。あきらかに耐久力が上がっていたのだ。

 

「なんだ……その程度かよ?」

 

 次に攻撃を仕掛けてきたのは和生、まるでバーサーカーのように力任せに拳を振るう。

 

 しかし、大和には全て視えていた。こういう攻撃になることも、どうゆう行動をしてくるのかも。

 

 大和は大きく振りかぶってくる和生の拳を淡々と避け続ける。まるで流れ作業のようにスムーズに。

 

 あの力だ。もしまともに喰らったら即死であろう。しかしこんな単調でシンプルな攻撃を避けるのはあまりにも簡単、更に心眼を使ってるのだから避けられないはずがない。

 

 攻撃を避け続けていると、相手の隙を見計らって完全に振り切った和生の腕を掴む。

 

 そして手を軽く捻ると、和生の身体が空中で一回転し、そのまま頭から地面へと叩きつけられる。

 

 普通なら脳震盪を引き起こしている。闘うどころか立ってることすらできない状態になっているはずだ。

 

 しかし、和生は立ち上がる。不死身なのか、それとも気力のみで立ち上がってるのか、どちらにしても人間のできることではないのは確かなことだ。

 

「いってなぁ……今のは何だよ? まさか合気道か?」

 

 そう、俺は合気を使った。相手の力が圧倒的だったので通用するのかどうか心配だったが、意外とあっさり技に掛かってくれて安心した。

 

 だが問題なのは技が効かないことだ。常人なら確実に倒すことが可能な、いわゆる必殺技を何度も喰らわせても立ち上がってくる。

 

「畜生がぁっ!!」

 

 冷静さを失って頭に血が上り、焦りを感じているのだろう。和生は血相を変えた表情で大和に向かって走り出し、拳を振りかぶろうとする。

 

 それに対して大和は走る。そして、制空圏に入った途端、深く伸脚をしながら身体を丸めて、和生の脚元を掬う。

 

 すると、減速できなかった和生は脚を拾われて、そのまま前方へと飛んでいき、地面に顔面を殴打する。

 

「くそがっ!!」

 

 ダメージは全くなかったのか、和生は直ぐ様に立ち上がり、大和に向かって殴り掛かる。

 

 和生の拳を避けて空を切り、完全に振りかぶった瞬間を狙う。

 

 顔面を右手で鷲掴みにして、和生の身体を軽く宙に浮かせると、押すように後方へと投げ、背中と頭から落ちるように地面へと叩きつける。

 

 しかし、誤算があった。

 

「離さねぇよ。」

 

 顔面を掴んでいた大和の右腕を、和生は両手で力強く鷲掴みにする。そして雑巾絞りでもするように大和の右腕を絞り上げる。

 

 やばかった。あの怪力で捻られたら、このままでは右腕が千切られて使い物にならなくなる。

 

 咄嗟に大和が取った行動は、左の人差し指で和生の喉仏を貫くように刺すことだった。

 

 鍛えようのない喉仏を刺されたことで、和生は苦しみのあまりに大和の右腕を握り締めていた両手を離す。

 

 開放された瞬間、大和はその場から颯爽と離れる。また掴まれたりしたらもう脱出できないと感じたからだ。

 

「弱点突いてくんじゃねぇよ……」

 

 立ち上がると懲りずに同じ手で殴り掛かる。当たらないことが明白なのに、一体どれだけ自分の力に自信を持っているのか。

 

(こうなったら……)

 

 もはや和生を倒すのに、技を出し惜しみしていてはキリがない。一撃で、確実に仕留める方法を使って倒し切るしか無い。

 

 拳を振りかぶり、完全に腕が伸び切った瞬間を大和は狙う。

 

 飛びつき、両手で腕を絡め取り、跳ね上がった左脚で和生の首に、後方から巻き付けた。同時に跳ね上がってきた大和の右足の膝が固定された和生の顎を蹴り上げた。

 

 鈍い骨の打つ音がした。

 

 空中で絡み合った二人の身体が落ちていく。

 

 落ちながらも、大和は両腕で和生の右腕を抱えたまま、右に身体を捻る。

 

 そして落ちる。

 

 和生は地面にうつ伏せになっている。その頭と右肩を跨ぐ形で、大和は和生の上になっていた。

 

 大和が両腕に抱えた和生の腕は棒のようになって天を向いていた。

 

 奥義、虎王の完成である。

 

 関節を決められ、あと100グラムでも後ろへと体重を掛けるだけで関節が破壊される。無理だ。この技は脱出不可能なもの。

 

 生殺与奪の権を握っている。もはや和生に勝利はないだろう。そう確信していた。

 

「和生……もうやめろ……お前の負けだ。」

 

「はっ……はははっ……甘すぎるんだよ兄貴……だから人一人殺せねぇんだ。」

 

 すると和生は残っている左腕だけのみで、逆立ちをする。無論、大和も持ち上げる。

 

 俺と和生の体重を合わせると100キロ以上は下らない。それをこいつ利き手でもない左腕のみで持ち上げるなんて、どうゆう筋力をしているのか?

 

(……嘘だろ? てめぇ一体何キロあると思って……)

 

 和生は左腕を腕立て伏せをするように曲げて、そのまま伸ばした瞬間ジャンプする。

 

 お互い立ち上がった体勢になる。

 

 その瞬間、大和は両手を離して直ぐ様後方へと下がり、和生との間合いを空ける。

 

「当てが外れたな。俺は兄貴を超越するんだ。どんな技も効かないはずなんだよ。

 それなのに……なんで……」

 

 今まで何度技を喰らったのか、立ち上がりはするものの、何度も倒れたことが余程に精神に影響を与えているのだろう。力を得たはずの和生は浮かない顔をしていた。

 

「何故だ……何故負けるっ!? 俺は力を手に入れたわけじゃねぇのかよ?」

 

「どうゆう形で力を手に入れたのかわからねぇが、確かにお前は強くはなった。以前の俺だったら負けてただろうよ。

 だけど今の俺には護る者がいる。それが俺とお前の決定的な強さの違いだ。」

 

 心眼を手入れ、昔から学んでいた武術が巧を成した。もし一つでも欠けていたらと思うと想像を絶する

 

「もう一度聞く、和生、何で俺達を裏切ったんだ? 何で俺を悲しませるようなことをする?」

 

「優しさだけは一丁前だな。だから人も殺せない甘い奴なんだよ、それなのに何で……」

 

「……和生?」

 

「俺は兄貴を超えたかったっ!!兄貴の強さに憧れたんだっ!! 兄貴を追い駆けて追い駆けて、必死に努力したんだっ!! でも無理だったんだよ!追い付くどころか差が開くだけ……不安と迷いが積もるだけだった……」

 

「和生……」

 

「その時だ……あいつが眼の前に現れて言ったんだ……兄貴に勝てる力を与えてくれると……ある条件を飲めば強くしてやるとな……

 俺はその条件を飲んだ。強くなりたかったからな、兄貴に勝てるためなら何だってしてやる。そこまで追い詰められてたんだよ。わかるか兄貴?俺がどれだけ苦しみ悩んでいたのか、辛かったんだぜ?」

 

 その瞬間、幽々子が口を開いた。何か嫌な予感を感じたのだろう。その時の幽々子の表情はまるで最悪な状況を把握したとても嫌な表情だった。

 

「和生君……まさか貴方?」

 

「あぁ、あいつから血を与えられてな、今までにないほどの力が湧き出てくるんだ。今なら兄貴にだって勝てる、そういう自信も出てくる。」

 

「紫の血を……紫の血を貰ったのね!? そうなのね!?」

 

「あぁ、そうだよ……あいつの血を輸血してもらったよ。コップ一杯分だっけな? 結構貰った気がする。」

 

「それがどうゆう意味かわかってるの!? 貴方はもう人間では無いのよ? 人間を捨ててまでやることなの!?」

 

「俺はなぁ……兄貴を超えることができれば……何でも良かったんだよ……人間では無くなる? それで結構だ。俺は悪魔にだって魂を売る覚悟はできていたからなぁ」

 

 そこまでして自分の兄に勝ちたかったのか?人間を止めてまで、自分の人生を蔑ろにしてまで得たい力だったのか、幽々子にはそれが全然わからなかった。

 

 草薙和生、恐らく大和に対して相当な劣等感とコンプレックスを感じていたのだろう。

 

 そのために自分を鍛えて強くなろうとした。恐らく尋常では無い努力を影でしていたのだろう。

 

 だけど、無理だった。草薙大和という壁が大きすぎて分厚すぎて敵うものではなかった。日々怠らず努力しようとも、どれだけ厳しい鍛錬を積もうとも、大和も同じく才能を磨いて強くなる努力をすることで、二人の差が一向に開くだけだった。

 

 劣等感に押し潰されそうになったその時だ。八雲紫と出会った。兄よりも強くしてくれるという甘い誘惑に乗った。罠だとわかったうえでその条件を飲んだ。

 

「後戻りはできねぇ、さっさとその女を渡せよ。無理だって言うなら兄貴を殺してでも……」

 

 突然何を思ったのか、大和の肩に噛み付いてくる和生。

 

 道着を通り越して肩を噛み千切り、そのままむしゃむしゃと肉片を食べる和生、一体何が起きているというのか。

 

「足りねぇ……腹減った……何だこれ?」

 

「和生お前……どうしたっ! 何が起こってんだよ!?」

 

 肩を噛み千切られた痛みよりも、和生に起きている異変の方が心配でそれどころではなかった。今の和生は正気ではない。まるで空腹に飢える獣のような感じがした。

 

 すると和生は倒れている風魔一族を見ると何かわかったような表情を浮かべると同時に空腹に飢えて自分の腹を両手で抑えた。

 

「そうか……わかった。肉だ……人間の肉が喰いてぇ……」

 

「人間の肉だと?」

 

「あの野郎……聞いてねぇぞ……人間の肉が喰いたくなる副作用があるなんて……俺は食人にはなりたくはねぇよ」

 

 空腹のあまりに両手で腹を抑える。まるで飢餓に苦しんだ人のように蹲る。

 

「もう良いんだ和生、もう」

 

「俺から離れろっ!! 人間を見たり……血の匂いを嗅ぐと正気でいられなくなる……このまま近くいると兄貴を食い殺しちまうんだよっ!!」

 

 空腹と身体が可怪しくなっていることが混ざり合い。悲痛に叫ぶ和生、もはや助ける方法はないのか?

 

「何か方法は無いのか?元に戻す方法は?病院に行けば治らないのか?」

 

「大和……和生くんはもう……」

 

「彼はもう戻らないわ」

 

 声が聞こえてくる。この場には俺と和生、幽々子しかいないはずなのに。他の誰かが来たようだ。

 

 声が聞こえた方向へと、大和は首を向けると、そこには金髪の女性が立っていた。

 

 その正体は八雲紫、風魔一族の黒幕であり、人知を超えた能力を持つ妖怪である。

 

 その姿を見た瞬間、大和の身体は小刻みに震える。恐怖で震えていた。得体の知れない力と何をするかわからない何かを感じて戦慄が走っていたのだ。

 

 しかし、抑える。恐怖を認め、恐怖を制し、冷静になって身体の震えを止める。並の胆力ではできないことだ。

 

「彼には私の血を与えたの、強くなりたいって言ってたからね。私自身が人を食べる妖怪だから、血に耐えられないと人を食べたくなる衝動に襲われたり、下手すれば身体が持たずに死ぬのよね。」

 

「なん……だと……?」

 

 絶望した。もう和生は人間ではないのか?自分の大切な弟が空腹で飢えるところを見るしか無いのか?大和の脳内に最悪な結末が過る。

 

「とても哀れね。ただ強くなりたいという欲求を満たすために兄弟を裏切って、挙げ句一夜限りになるかもしれない儚い力を手に入れるなんて」

 

「紫てめぇ!!」

 

 こいつのせいで、こいつのせいで俺の弟は破滅しようとしてるんだ。許せない、何が何でも許せない。

 

 しかし。

 

「あら?選んだのはその子よ。私はその願いを聞き入れただけのこと、恨まれる筋合いはないわ」

 

 正論を言われて黙り込む大和。

 

 そうだ。確かに和生が選んだことだ。裏切ることも、力を得ることも、全ては本人の意思で決めたことだ。それはもはや俺ではどうしようもすることはできない。

 

 しかし破滅することをわかっていた上で力を与えたのは納得いかない。こいつは俺達を全員抹殺するのが目的だというのか?そのために和生を誘惑したのか。

 

「離れてろよ……兄貴……」

 

「……和生!?」

 

「気分が変わった。こいつは……俺が食い止める……その間に……その女とさっさと逃げろ……」

 

「でもお前……身体が限界じゃ……」

 

「なに……いざとなればこのクソ野郎を食い殺して飢えを凌いでやる。何も心配すること無いんだよ……」

 

 ふらふらとしながらも八雲紫の前に立ちはだかる。

 

 兄を守るために、そして自分を破滅へと導いたこの女に復讐をして倒すために、草薙和生は立ち向かおうとする。

 

「さっさと俺の前から消えろっ!! てめぇらがいると目障りなんだよ!! ……頼むよ兄貴」

 

 荒々しい口調で言葉を放った後の最後の言葉は切なさそうで弱々しかった。まるで自分は兄貴を殺したくはない。こんな無様な姿を見せることはできないと言わんばかりに。

 

「わかった。死ぬなよ和生」

 

「…………」

 

 大和は幽々子の元へと行くと、幽々子の手を握ってその場から立ち去る。

 

 その場に残ったのは和生と八雲紫のみ、逃げた二人を追いかけようとしても和生が目の前に立ちはだかる。

 

「無駄な威勢を張るのね。哀れとしか言いようがないわ」

 

「何とでも言いやがれ、悪いけど俺は死ぬ気は無いんでね。てめぇをぶっ殺して生き残ってやる。」

 

「無理よ、どちらにしても貴方は死ぬ。恐らく朝日が上る前に身体が崩壊するわ。」

 

「知るかよ……てめぇは頭良さそうだし俺の結末を見据えてるらしいが……そんなことわからねぇじゃねぇかよ。もしかしたら生きてるかもしれねぇ……」

 

 しかし威勢を張っていはいるものの、自分の中には不安な要素が沢山ある。

 

 身体が壊れていくような音が聞こえてくるような気がする。ミシミシと音を立てて、破滅へのカウントダウンが始まっている。

 

 しかしそれが分かっているのならやることは一つ。最後にこの妖怪をぶっ殺して気分良く死ぬことだ。

 

「来いよ。決着つけようぜ」

 

 破滅のカウントダウンが鳴り響きならがらも、草薙和生の最後になるだろう闘いが、今火蓋が切られようとしている。

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