古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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五十五話 怒れる怪童VS妖怪の賢者

 大和と幽々子が逃走している最中のことだった。

 

 無我夢中で走っていると森の奥へとたどり着いた。

 

 人もいない。敵もいない。誰も知らない場所へと来たんだ。このまま時間が経過して八雲紫が諦めることを願おう。

 

 しかし森の中を走っていると、大和は異様な気配を感じ取って、冷や汗をかいた。

 

 大和達の前の前に異空間が開き出し、異空間の中から八雲紫が姿を現した。

 

 そして、八雲紫は大和を見つめる。

 

「どうも大和、また会ったわね」

 

「何でお前が? 和生はどうしたんだ?」

 

 嫌な予感が頭の中に過る。とてつもなく、そして自分が恐れるべきことが……

 

「殺したわ……」

 

「……えっ?」

 

「殺したわよ。貴方の弟さん。私の手でね」

 

 思わず自分の耳を疑った。何かの間違いだと思った。

 

 和生が死んだ? 俺の弟が息絶えた? そんな、嘘だ。ハッタリだ。あいつは死なないと言った。必ず生きて帰ると言ってた。なのに、何故死んだんだ?

 

 まだ生きたいと思ってただろう。何かやり残すことも沢山あっただろう。それなのに、何で和生の命をこいつは奪ったんだ?考えれば考えるほど訳がわからなくなる。

 

「死ん……だ……嘘……だろ……? 和生……和生……和生ィィィ!!!!」

 

 大和の目から涙が零れる。弟の死を慎んで、兄弟を失った悲しみで、滅多に悲しまない大和が大声で泣いた。

 

 しかし、八雲紫からしてみれば悲しみも苦しみも何も無い。たかが人が一人死んだだけとしか思っておらず、何とも思っていもなければ自分に歯向かったから当然のことだと思っていた。

 

 寧ろ、更に大和を絶望の淵に突き落とそうと思ったのか、それとも単なる報告をしたかっただけなのか、八雲紫は何の感情も無くただ呟いた。

 

「確かお兄さんもいたかしら? 敵は全員倒したらしいけど、毒に侵されて虫の息だったわ、死ぬのも時間の問題ね」

 

「兄貴……も?」

 

 あの兄貴が……天下無双の強さを誇り、誰にも負けないようなあの人が、死にかけている?

 

 そんな……一夜に兄弟を二人も失っただと?生き残っているのは俺一人だけになっただと、嘘だ……そんなの嘘だ。ありえない、あってはいけない。なんで俺一人だけにするんだよ……怖いよ……恐ろしいよ……寂しいよ……辛いよ……

 

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい、寂しい。

 

 誰か……助けてくれ。神様……どうか俺の兄弟達を助けてください……俺を孤独にしないでくれ……俺から幽々子を取り上げないでくれ……

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 二人の兄弟を失い、孤独と絶望の淵に立たされて泣き叫ぶ大和、悲痛な叫びは虚しくも公園に響き渡る。

 

「本当に馬鹿ね。素直に幽々子を差し渡してくれれば、誰も死なずに済んだのに、何故そんな愚行を選んだのかしら?」

 

 悪意も無い。善意も無い。ただ虫のように、機械のように無感情のまま言葉を重ねる八雲紫、人間の情など端から持っていないので、他人から見れば冷酷非情のようにも見える。

 

「弟は貴方を裏切った挙げ句、惨めに死んでいき、兄も闘いの中で何も守ることもなく死んでいった。

 どっちも無駄死にと言ったところかしら?本当に愚かな兄弟達ね、草薙家というのは何でそこまで愚かで救いようがない一族なのかしら?」

 

 すると大和の泣き声が止まる、それと同時に悪寒を感じるほどの殺意と圧巻されそうな闘気が大和から感じた。

 

「いない……?」

 

 そして、気がつけば大和の姿はどこにも無かった。まるで突然と姿を消したかのように。

 

「てめぇだけは……絶対に許さない」

 

 背後から声が聞こえた。そして、八雲紫は死を連想させるようなイメージが頭の中に浮かんだ。

 

 八雲紫は驚いたような表情を浮かべながらも、その場から離れて回避する。

 

 すると、風を断ち切るような風圧と『バンッ』という鈍い破裂したような音が響き渡った。

 

 それは大和が振るった鉄刀の音だった。一瞬だが音速を超えていたのだ。

 

 完全に殺す気だった。この妖怪を、確実に仕留めるために全力で武器を振るった。死んだ弟のために、死んだ兄弟の仇を取るために。

 

「私を殺す気ね……」

 

「兄貴……和生……仇は取る……こいつを殺すから……見守っててくれ……俺は勝つ……絶対に……」

 

 独り言のように呟く大和。恐らく誰の声も聞こえていない。まるで兄弟の死で壊れたかのように、まるでただ兄弟の仇である八雲紫を殺すための殺戮マシーンのような状態だった。

 

「良いわ。私直々に相手してあげる。」

 

 異空間の中から二本の剣を取り出して構えを取る八雲紫。更に他の異空間から武器を放出する準備もしていた。

 

 そして、武器を異空間から放出する。大和を目掛けて一線に飛んでいく。

 

 そして大和に直撃した瞬間、土煙を起こして見えなくなる。

 

「大和ッ!!」

 

 まるで容赦のない攻撃をまともに受けた大和を見て幽々子は名前を叫んだ。

 

 しかし。

 

 土煙が収まると、そこで立っていたのは大和だった。そう、大和は全くの無傷の状態だった。

 

 何故、武器が直撃したはずの大和が無傷なのか、あまりにも一瞬の出来事と土煙によって幽々子にはわからなかったが、八雲紫は理解していた。

 

「貴方……本当に人間?」

 

 大和が無傷な理由、それは単純なことだった。弾丸並の速度で飛んでくる武器を肉眼で捉えて、自分に武器が直撃する前に難なくと打ち払っただけだった。

 

 大和の動体視力と反射神経は銃弾を簡単に避けるほど極めて優れたもの、例え銃弾並のスピードで飛んでくる武器を避けることも叩き落とすことも造作もない。

 

「凄いわね。とても優れた人間とでも言っとこうかしら。流石は奴の一族ってところね。

 でも……その小癪な手で、何処まで凌ぎ切れるのかしら?」

 

 容赦無く、八雲紫は武器を異空間から連射する。その光景はまるで機関銃のような連射性能と大砲のような破壊力だった。

 

 しかし、音速を有に超えたスピードで飛んでくる武器の数々を大和は避けたり打ち払ったりする。到底のことながら人間業ではない神業を何度も披露する。

 

 打ち払った武器は破壊される。ガラス細工のように刀身がバラバラになる。

 

 相手を撲殺するために、武器を壊すために作られた大和専用の武器『鉄刀』は武器殺しの武器。相手の武具を壊すことなんて造作もない。

 

 鉄刀で武器を打ち払う度に、金属と金属がぶつかり合う高い音が響き渡り、武器が砕け散る。

 

 一つだけ分かったことがある。八雲紫の放つ武器の数々は至って単純なただの変哲もない普通の武器。神話や伝説の話で登場する宝具ではない。

 

 だから、壊れるのだ。幸いにも昔の人間が持っていた武器や近代の武器を使っているのだろう。もし神話の武器を持っていたら幾ら武器殺しの鉄刀とはいえ何度も打ち払っていたら確実にイカれるのは目に見えている。

 

 しかし、大和が恐れていたことが現実になることは、その数秒後に知ることになる。

 

「普通の武具では何度撃っても無意味なのね。それじゃあ現実ではありえない武具はどうかしら?」

 

 現存の異空間が閉じると、新たな異空間八雲紫の背後に複数開かれる。そして異様な存在感を放った。

 

 異空間の中から武器が放出されると、大和は即座に嫌な予感と危険を感じ取った。

 

 飛んできた武器が異様だったのだ。刀身に炎を纏った武器、雷電を刀身に宿した武器、冷気を纏った武器など、普通の武器ではありえない物の数々だった。

 

 まさかとは思うが、この妖怪は伝説や神話に出てきそうな武器も持っているのか、しかもそれを湯水のように放出するなんて、どれだけ自分の財力と持ち物に自信を持っているのかは検討がつかない。

 

 大和が飛んできた武器を避けると地面に当たる。そして、一方では燃え盛り、一方では地面に電撃が走り、一方では冷気で地面を凍りつかせている。

 

「人間風情にこれを使うのは癪だけど、仕方ないわよね。」

 

 現実の世界ではありえない武器と言ったところか、武器殺しである鉄刀では砕けない、異常な程にも丈夫な武器が放出させる。

 

 幸いにも打ち払うことはできるものの、異空間から放出させるほとんどの武器はあまりにも丈夫過ぎて破壊することはできなかった。いや、寧ろ高純度とはいえ、ただの鋼で人間の手で作られた鉄刀の方が御釈迦になりそうになる。

 

 あまりにも強力な威力で全ての衝撃を吸収することも受け流すことのできずに鉄刀が手から離れる。そして遠くへと鉄刀は飛んでいき地面に落ちる。

 

 八雲紫は終わったと思った。厄介だった武器が大和の元から無くなり、避ける以外の手段は無くなったのだ。武器を放出していれば蹴りが着くと予想していた。

 

 しかし、その考えが全く甘いことを知る。

 

 音速で飛んでくる二つの剣と槍が大和に直撃すると、また爆発音と土煙が舞い散った。

 

「……っ!!」

 

 それを見ていた幽々子は終わったと思い。大和から目を背けた。彼の死を予感していた。

 

 土煙が収まると、そこには剣を片手に持っている無傷の状態の大和が立っていた。

 

「恐ろしい子ね。そんな芸もできるの?」

 

 幽々子は目を逸らしてしまい見えなかった。しかし八雲紫には見えていた。大和がどうゆう行動をしたのかを。

 

 何故大和が無事なのか、それはまず最初に飛んできた剣を難なく掴み取り、続く第二撃の槍を剣で打ち払ったのだ。

 

 弾丸並のスピードで飛んでくる武器を難なく掴み取って自分の武器として扱い。更に同時に飛んできた武器を刹那の瞬間に打ち払ったのだ。

 

 敵とはいえど八雲紫の中で大和の評価はかなり爆上がりしていた。現代の人間技ではありえない。神話や伝説に登場する英雄並の技と実力を披露しているのだ。

 

 しかし、それと同時に自分の放出した宝物に触れて、挙句の果てには自分の物のように扱っていることに怒りを感じていた。

 

「その汚れた手で私の宝物に触れるなんて……そこまで死に急ぐのかしら、人間風情がっ!!」

 

 怒りを顕にしながらも、八雲紫は異空間で大和を取り囲んで宝物級の武器を何度も大和に向かって放出する。

 

 それに対して、大和は飛んできた武器の数々を打ち払いながら掴み取り、自分の物のように武器を手に入れる。

 

 何度か武器を薙ぎ払うと、左手に持っていた武器を地面に突き刺す。

 

 そして再び、飛んできた武器を打ち払う。

 

 金属音と爆発音が何度も響き渡り。大和の周囲の地面が滅茶苦茶になるほどに地形が変わってしまう。

 

 掴み取っては左手に持っている武器を地面に突き刺すことを何度も繰り返し、三本集まった瞬間だった。

 

 大和に向かって一発の雷撃の槍が飛んできた瞬間、大和は右手に持っている武器を振り下ろして地面に叩きつけるように振るった。

 

 武器と武器がぶつかり合う金属音が鳴ると同時に強烈な爆発音が響き渡り、衝撃波と土煙が舞った。

 

 土煙が舞って大和の姿が見えない。生きていのか仕留めたのかもわからない。しかし、それが大和に取って好都合のチャンスだった。

 

 土煙が舞い踊っている爆心地から、三本の武器が八雲紫に向かって飛んできた。奇襲である。

 

「……くっ!!」

 

 幸いにも八雲紫は手に持っていた刀剣で武器を振り払うが、手元で受けてしまい二本の刀剣を手放してしまう。

 

 更に進撃はとまらない 。再び異空間から武器を放出される前に、八雲紫の手元の武器を失った瞬間、土煙の中から大和が飛び出してきて、全速力で八雲紫に向かって走ってくる。

 

 数秒足らずで、八雲紫の懐に潜り込む。

 

 大和は左手で八雲紫の首を掴み上げて、押し倒す。そして武器の鋒を心臓を向ける。

 

 八雲紫に直ぐ様トドメを刺すと思いきや、大和の動きは止まった。

 

 再び大和の目からは涙を零れ、ひどく悲しそうな表情で懇願するように八雲紫に向かって話しかける。

 

「頼む……返してくれよ……俺の兄弟を返してくれよ……」

 

「諦めなさい。貴方は兄弟を奪われて、幽々子も奪われるのよ。もう楽になっても良いんじゃないかしら?」

 

 兄弟を失った挙げ句、幽々子も奪われるというのか?それは出来ない。許されないことだ。兄弟が命を掛けて戦ってくれたというのに、幽々子まで失ってしまえば俺はどうしたら良いんだよ?本当に生気の無い廃人になってしまうんではないのか。

 

 絶対に守り抜く、例えこの身体が朽ち果てようと、命を賭してでも幽々子を守り抜く。命を落とした兄弟達のためにも、俺のためにも。

 

 もはや、八雲紫は何も出来ない。このまま心臓を穿てば決着する。大和はそう思っていた。

 

 しかし、それに対して八雲紫はあまりにも冷静だった。自分が不利な状況であるにも関わらず、殺されそうになっているのにも関わらず、まるで自分が死ぬとは考えていないのではないかと思うほど冷徹だった。

 

 だが、今はどうでも良い。兄弟の仇を取ることが優先だ。しかもこのままこいつを野放しにしていたら幽々子を奪われるし、俺も殺される。

 

「悪く思うなよっ!!」

 

 手に持っていた武器で八雲紫の心臓を貫こうとした瞬間だった。

 

 武器で胸を突き刺す直前で大和の動きが止まった。

 

 それと同時に、大和は吐血する。口から血が滴る。

 

「うぐぅ……あがっ……」

 

 大和の胸や腹部、肩に鋭い痛みが走ってた、何か鋭利な刃物で貫かれたような耐え難い痛みだった。

 

 それもそう、大和の身体には武器が刺さっており、更に大和の眼の前には異空間が開かれていた。

 

 八雲紫を打ち取る前に、大和は手に持っていた武器を手放してその場に倒れて朽ち果ててしまう。

 

「残念だったわね。」

 

 八雲紫は立ち上がり、服に付いた埃をポンポンと手で払った。

 

 草薙大和、八雲紫に敗北。

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