古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
あれから就寝した後、大和は兄弟の死で悪夢に魘されることも、悩んで飛び起きることもせず、何時ものように二人は早朝を迎えた。
空は雲一つ無く、綺麗な朝日が上っていた。しかし季節が冬季だったので寒い。外に出て息を吐くと、白い煙が出てくるほどに寒かった。
最初に大和が起きると、幽々子の寝顔を見てから部屋を出ていき、何時ものように朝食を作るために台所へと向かう。
今日はトレーニングはしない。いつもよりも遅く起きたのもあるが、何よりも大事な日だったからだ。それよりも幽々子が目覚める前に朝食を作るほうが大切だ。
大和が朝食を作り終えた頃、まるでご飯の匂いを嗅ぎつけたかのように幽々子が目覚める。
それから朝食を茶の間に持っていたあと、幽々子が茶の間に来たところで二人で朝ご飯を食べる。
茶の間は二人きりでがらんとしていた。武尊の兄貴もいない。弟の和生もいない。両親もいないのだから、茶の間ががらんとしているのは当然だ。
しかし、その事には誰も一切触れること無く。無言で朝食を食べ続ける。
朝食を食べ終えたあと、大和は食器を片付けて台所で皿洗いをする。
それから、八雲紫が屋敷にやってくるまでに大和は幻想郷へ行くための身支度を部屋でする。
「う〜ん?」
幽々子が隣で見ている中、大和は身支度に戸惑っていた。
身支度とは言っても、全部持って行くのは無理そうだし、服もそんなに持っていない。あと、持っていきたいも物がほとんどないのが現状だ。
幻想郷が一体どんな環境なのかがわからない。季節はあるのか、日本に近い環境なのか、それすらわからない。
確か神や妖怪が住んでいると言うので、妖怪に襲われる可能性はある、もしかしたら人間がいて野盗がいるかもしれない。
だとすれば武器が必要だな。本当なら拳銃とかが良いが、そもそも持っていないうえに、妖怪に通用するのかはわからないし、どうやって弾丸を補給するのかもわからない。
だとすれば木刀を、でも相手が刀とか槍を持っていたら折られる可能性もある。ましてや自分で壊す可能性もある。
幻想郷に行って、俺が持っている武器の中で一番役に立つ物と言えば……そうだあれしか無い。
大和は置いてあった鉄刀を握り締めて手に取った。
「これだな。あとは良い」
大和専用武器『鉄刀』、全長は120センチ、重量10キロ、刃は付いておらず木刀のような形状をしている鋼鉄の鈍器、刀身は光沢のある黒色、金属で作られた長丸形の鍔が付いており、柄には黒いグリップテープが巻かれている。
これさえあれば、相手が人間で刀を持っていたとしても怖くはない。例え妖怪でも撲殺することができるだろう。
更に刃毀れを恐れる必要もない。ほとんど折れるような事もない。耐久性も抜群、鋼鉄なので水とか血で濡れると錆び付いてしまうが、そこは手入れして頑張ろう。
俺が思う最強の武器だ。これ一本で幻想郷を戦い抜いて見せる。
ついに身支度を終えた大和、それをずっと見ていた幽々子は少し不安そうな顔をしていた。
たった一つだけの武器を持ってくだけで、他には何もいらないのか、よく見ればもっと生活や幻想郷で必要そうなものは沢山あるのに。と幽々子はそう思っていた。
「持って行くのその武器だけなの?」
「あぁ、これだけで十分だ。衣類とか生活用品は幻想郷で調達しようと思ってるし」
「そう。なら良いんだけど。」
幽々子には多少不安があったが、大和がそれで良いと言うのならそれを尊重しよう。それに逆に色んな物を沢山持っていかれるよりかはマシだし、シンプルに武器だけ持っていくことも何か男らしくて良い。
こうして、大和の幻想郷に行くための身支度は終わった。あとは八雲紫が屋敷にやってくるのを待つだけだった。
《…数時間後…》
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茶の間で座ってずっと待っていると突然異空間が開き出し、その中から八雲紫が姿を現す。
やっと来た。約束通り奴がこの場所に来た。この時をどれだけ待ち望んでいたのか。
八雲紫がやって来きたことがわかると、座っていた二人は立ち上がって八雲紫の前に立つ。
「さてと……聞きましょうか? 現代に居座るか、それとも幻想郷に行くのかを」
八雲紫の選択肢に対して、まるでもう決心はついたと言わんばかりに、何の迷いもない表情で大和は答える。
「幻想郷に行くよ」
昨日から決めていた。幻想郷に行くことを、幽々子と離れ離れになるくらいなら、現代の世界から忘れ去られることなんて苦悩ではない。いや、もう二度と帰ってこれないなら尚更構わない。
もう揺らぐことも無いであろう大和の答えに対して、八雲紫は平然としながらも少し悩まさせるように釘を刺すような質問をする。
「本当にそれで良いの? 二度と両親にも会えないし、皆から忘れ去られるのよ?」
しかし、そう言われても大和の堅い決意は変わらない。幻想郷に行くと心から決めているのだ。もし幽々子だけを連れて行って、俺だけ置き去りにしたら何をするのかわからない。発狂してひたすら暴れ回る可能性もある。一生八雲紫を恨み続けるであろう。
その大和の何の曇りもない純粋で堅い決意に満ちた態度を見て、八雲紫も諦めさせるのは無理だと思ったのだろう。もう決意を揺らぐ事をさせようとは思わなくなった。
「俺は幽々子と一緒にいる。そう決めたから」
もはや、幽々子と離れ離れにさせるのも、幻想郷に行くことを諦めさせるのは無理だと思ったのだろう。八雲紫は呆れたような表情を浮かべながら、思わず口から溜息が漏れる。
「決意は揺るぐことは無さそうね。」
「当たり前だろ」
もはや決意は揺らぐことはない。現代に残りたいという気持ちは無い。どんな困難や試練が待ち受けていようとも、俺は幻想郷に行く。
もはや、何を言っても幻想郷に行くだろうと、大和の堅い決意を見ると、八雲紫は呆れたような表情をしながら言葉を返す。
「良いわ。幻想郷は全てを受け入れる。貴方の到来を心から受け入れましょう。」
その紫の言葉を聞くと、嬉しそうな顔で幽々子は自分の思うがままに大和に思いきり抱き付いて喜び、大和もやっと緊張から解放されるとホッと一息ついて微かな笑みを浮かべた。
「良かったわね大和っ! これからもずっと一緒にいられるのよ」
「そうだな。」
良かった。これでずっと幽々子と一緒にいられる。寿命が尽きるまで幽々子と傍にいられる。これ以上の幸福は無いと言っても良いだろう。
二人が仲良くしている間、八雲紫は少しほっとしたような表情を浮かべながら、何かを呟く。
「貴方達は本当に仲睦まじいわね……ちょっと嫉妬しちゃうかも……」
紫は微笑みながら呟くように微かな声で言ったので、大和も幽々子も紫が何を言っていたのか、まったく聞き取ることができなかった。
「ねぇ紫、いま何か言ったかしら?」
「ううん……何も言っていないわよ、それよりそろそろ幻想郷に行きましょうか」
覚悟を決めたような真剣な顔で二人がコクり頷いた瞬間、ふと肩の力を抜いて八雲紫が笑みを浮かべると二人が立っていた地面が急に謎の空間に変わった。
「では二名様、足元にご注意して下さいっと」
「……あぁ?」「……えっ?」
ようやく地面が変わったことに気が付くと、そのまま二人は空間に中へと落ちていった。
紫に不意をつかれて驚いているのにも関わらず大和の気持ちは解放感と爽快感に包まれて、とても清々しい気分だった。
さらば、家族達、師匠、知り合った人々、そして生まれ育った現代………これでお別れだ。
そして、ようこそ大和、幽々子や八雲紫、神や妖怪が住まわる幻想の楽園………幻想郷へ。
『現代入り篇』完。
これにて第一部完結です。読者様方、応援頂きありがとうございます。
続きましては第二部に入ります(完結とは言いましたが、終わるとは言っていない。)
第二部は来年から投稿します。それまでお待ち下さい。