古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
予定通り、第二部、幻想郷篇の開幕です。
一話 白玉楼へと
《冥界・白玉楼付近》
ついに大和は現代を離れて幽々子と一緒に幻想郷にやっては来たが、八雲紫の操る空間の中に入って幻想郷に向かう行き方は最悪なものだった。
まずやっと空間を抜けるとその先に待っていたのは少し離れた地面で、大和はすぐに対応も判断することもできずにそのまま身体が地面に叩きつけられると、最後に止めの一撃として決してわざとではないが幽々子が大和の背中に勢い良くお尻からダイブして来ると、苦痛の色を見せながら大和はうつ伏せで倒れた。
幸い最後に空間から降りてきた幽々子は無傷のままだったが、最初に降りてきた大和の身体はすでにボロボロの状態
そしてやっと幽々子は自分が大和の背中に乗っていることに気が付くと、心配した顔で慌てながら話しかけた。
「どうしたの大和!? なんでそんなに傷だらけなの!?」
「頼むから……早く降りてくれ……」
そう言うと幽々子は急いで大和の背中から降りて立ち上がり、そのあとも大和も周りを見渡しながらゆっくりと立ち上がった。
もう夜なので薄暗い紺色の空で広がり雲が所々に見える、ふと見上げてみれば綺麗な満月が空に昇っている、辺り一面見渡す限りほとんど森林で自分達以外の人の気配どころか建築物すら見つからない、それに太陽が昇っていないのもあるが、空から雪が降っているわけでも、周りを見渡す限り季節が冬ではないはずなのに妙に気温が低くて肌寒い
「……ここが幻想郷か……」
「ようこそ大和、歓迎するわ」
いつものように大和の背後から八雲紫が大和達が出てきた空間とは別に、違う空間の中から突然姿を現すと大和は驚きを隠せなかった。
たぶん本人は当然の事だと思って笑みを浮かべているのだが、大和にとっては突然過ぎて普通ではなく何よりも心臓に悪い
「突然現れんなよ」
「それはごめんなさい、次から気をつけるわ」
しかし八雲紫からは反省の色はまったく見えず、謝るのにも心が全然こもっていなかったので、怒りのあまりに思わず大和は拳を握り締めていた
しかし良く考えてみれば八雲紫のおかげで幻想郷に来れたのだからと思うと、なんか些細なことで怒っている自分がバカに思えてきたので、取り敢えず大和は落ち着いた。
「さっそくだけど大和、この世界のことを色々説明しても良いかしら?」
「別に構わねぇよ」
幽々子に聞かれたらまずいことなのか、紫は大和を連れて幽々子から少し距離を置くと、誰にも聞かれないようにコソコソと話すように紫は幻想郷のことを大和に説明してくれた。
もう現代には二度と戻れないことはもちろん、この幻想郷がどういう世界なのか、これから自分はどうすれば良いのかなど前半の話は真面目に聞いていたが、だんだんと真面目に聞くのが面倒になってきて後半の話はほとんど聞いていないようなものだった。
しかし、うろ覚えではなく話の中で大和がはっきりと覚えていることは自分達が今いる場所は冥界、つまり死んだ者達が訪れるあの世だと言うこと、最初は信じがたい話だったが空を半信半疑でじっくりと見上げて見ると、今までまったく気付かなかったが普通に白い人魂のような物体が空にゆらゆらと飛んでいる
そして紫の説明がようやく終わると、話を聞くことに疲れて大和は深く深呼吸して一息ついた。
「分かったかしら?」
「まぁ大体のことはな(ほとんど聞いてなかったけど)」
「じゃあ最後に二つだけ、まずは頭の中に用意しておきなさいよ、さっき説明した庭師用にね」
大事だと思って大和はその庭師に関係する話を一応うっすらとだが覚えている、八雲紫から聞いた説明だと確かその庭師の名前は
大和は最初あんまり関係ない事だと思っていたが、その妖夢が幽々子の警護役だと考えてみれば、三人で一つ屋根の下で暮らすことなど目に見えている
「これで私からの言う事は終わり、他に何か聞きたいことはあるかしら?」
そんなことを言われても大和は聞きたいことは全部すでに聞かされている、知りたい事はほとんど解決しているので紫に聞きたいことは何もなかった。
「別に何もねぇよ」
「じぁあ私はこれで」
幻想郷に来たときと同じように紫はいつものように謎の空間を開いて中に入ると、紫が姿を消したと同時に空間はすぐに閉ざされた。
そのあと考えているような顔で大和は自分の後頭部を手で撫でながらスタスタと歩いて幽々子の元に戻ってくると、大和と紫が二人で一体なにを話していたのかなと言わんばかりに幽々子は浮かない顔をしていた。
「ねぇ大和、紫となに話してたの?」
「庭師の言い訳を考えろだってさ」
ロングコートを着ていたのにも関わらず寒さで体が冷え込んでいるせいなのか大和は無意識に大きなくしゃみをして体をぶるぶると震えさせると、自分の体を心配して幽々子が傍に寄って来た。
「大和、大丈夫?」
「……取りあえず歩きながら話そう」
少しでも暖まるために二人は体を寄せ合わせながらスタスタと歩いている中、大和の言っていた庭師の言い訳を二人は黙々と考えていた。
すると真面目なのか面白半分なのかはともかく、何か良い考えでも思いついたのか、イタズラな笑みを浮かべて幽々子が急に話しかけて来た。
「ねぇ大和、こうゆうのはどうかしら?」
ここには二人以外誰もいないのにやる意味があるのか?幽々子は囁くように大和の耳元で自分が考えた案を言うと、幽々子のあまりにも大胆な考えに大和は思わず頬を赤くしながら唖然としてしまい、動揺を隠すことができなかった。
「それマジでやるのかよ?」
「うふふ、そうよ、妖夢の反応も気になるし」
目を泳がせたり指で頬をポリポリと掻くなど落ち着きがない態度をとる大和だが、別に幽々子の考えた案が嫌でもやりたくないわけでもなく、それを人前で行動に移すのが恥ずかしいだけだった。
「しょうがねぇなぁ、やってやるよ」
「じゃあ私の家に早く行きましょう」
離さないように大和の手を強く握りしめると、少しでも早く妖夢がどんな反応をするのか見たくて幽々子は大和の手を引きながら急ぎ足で白玉楼に向かった。
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《白玉楼》
そのあと二人は目的地であり幽々子の家でもある白玉楼の門前に到着した。
壁は木造で造られ屋根は瓦で覆われており見るからに立派な門、そして屋敷を取り囲むように周りには塀が掛けられている
聳え立つ門に圧倒されながらも大和は幽々子と一緒に門を潜り抜けて二人を待っていたのは、広大に広がる立派な和風の屋敷と良く手入れされた美しい枯山水の中庭
見慣れている幽々子はともかく、今まで見たことがない絶景とも呼べる枯山水の庭と写真や絵でありそうな和風の屋敷を生まれて初めて目にする大和は唖然としながら見とれてるだけだった。
「すっげぇ屋敷だなぁ」
俺が現代で住んでいた草薙家の屋敷よりも圧倒的に大きい。いや、名の知れた武家や大名の屋敷よりも遥かにデカい。こんな屋敷がこの世にあるのか。いや、ここはあの世だったか。
もう二度と現代の生活には戻ることができない今、大和は幽々子と庭師の妖夢と一緒にこの白玉楼と言う立派な屋敷に住むと思うと、今まで通りに生活していいのかと考え込んでしまう。
一方、そんな大和の悩みも知らずに幽々子は大和の手を強引に引きながら屋敷に向かう
「ほら大和、見とれてないで早く中に入りましょう」
「ちょっとまて幽々子、まだ心の準備が」
しかし大和の言うことに幽々子は一才聞く耳も持たずに、そのまま広い玄関に辿り着くと履き物を脱いで二人は屋敷の中に入って行った。
思っていた通り外観と同じく屋敷の内装も和風で、そして何よりも屋敷の中が予想以上に広くて一人で歩いていたら迷子になってしまいそうなほどだった。
二人で長い廊下をゆったりと歩いている中、じっくりと周りを見渡しながら大和は一体どれだけの部屋があるのかと思いながら幽々子に付いて行ってみると、辿り着いたのはまだ咲いていない桜の木や小さな池などが縁側から見ることができる見渡しの良い綺麗な和室だった。
「妖夢ただいま~」
しかし二人が入って行った和室には誰もいないのだが、それでも空気を読んで照れながらも大和は一応あいさつを言った。
「すいません、おじゃましまーす……って、いでででで!」
一体あいさつの何が駄目だったのか、怒ったような顔で幽々子は大和の耳たぶを強く引っ張ってくる
意外にも幽々子の指の力が強くて、大和はつねられた耳たぶが取れるのではないかと思った。
「違うわよ大和、ただいまでしょ?」
「いってぇな……だからって耳を引っ張ることはないだろ?」
幽々子に引っ張られた耳たぶが本当に痛かったらしく、涙目になりながらも大和はつねられた耳を優しく手で撫でる
そして二人の騒がしい声が屋敷中に広がったのか、廊下から二人のいる和室に向かって走って来る足音が聞こえてきた。
こちらに向かって来る足音は二人がいる和室の前でピタリと止まると同時に、静かに襖を開けて一人の少女が入ってきた。
鈍く光る銀髪のボブカットで頭には黒いリボンを付けている、服装は白いシャツに青緑色のベストを着ており、胸元には黒い蝶ネクタイを付けている、下半身は短めの動きやすいスカートを履いており、スカートの中からドロワーズが覗いている、少女の周りを見てみると白くて大きな人魂が漂っている
そして何よりも少女は二振りの刀を持っており、一振りは柄に桜の花びらが描かれ、鞘の先端に花を一輪挿して、柄頭に白い房がついた長刀を背中に背負い、もう一振りは脇差のような黒い短刀を腰に差している
「心配しましたよ幽々子様、いったい今までどこにいたのですか?」
この和室に幽々子がいることはすでにわかっていたようだがその隣にいる大和と何気無く目が合うと、唖然とした表情で少女は目を見開いた。
一目見て大和はこの少女が八雲紫が言っていた庭師の魂魄妖夢だとすぐにわかったが、それ対して妖夢はここ見知らぬ男が誰なのかと言わんばかりに驚きと戸惑いの色を見せる
「ただいま妖夢」
「えっ? 幽々子様……その隣の方は誰ですか?」
自分の主が帰ってきた事よりも、その主の隣にいる男が一体誰なのか気になって仕方がなかった。
そわそわと戸惑いを隠しきれない妖夢の顔を見ると、すぐに物事をはっきりとさせたい大和はいても立ってもいられず、幽々子が自分を紹介する前に自ら名乗り上げた。
「俺の名前は大和、草薙 大和、よろしくな」
「こちらこそ、私は庭師の魂魄 妖夢と申します」
まだ相手の事を何も知らなくて初対面だったせいなのか、堅苦しくかしこまった態度で妖夢は大和に対して頭を下げながらあいさつをする
そのあと一体どこが可笑しかったのか、堂々と名前を名乗る大和とそわそわと落ち着きがない妖夢のあいさつのやり取りを見て幽々子はクスクスと静かに笑う
「うふふ、そんなにかしこまらなくても良いのよ妖夢、大和は私の愛しい恋人なんだから」
「……えっ!?」「……はぁっ!?」
考えていたことが同じだったのか、大和と妖夢の驚いた声は見事にも綺麗に合わさった。
何も聞かされていない妖夢が驚くのは当然のことだが、さっき幽々子と話し合って聞いていたはずの大和が驚いた理由、それは単純に幽々子から今言った事に関して一切聞かされていなかったからである
「それは本当なんですか大和さん!?」
「いやぁ…その…それはだなぁ~」
どう答えれば良いのかと目を泳がせて戸惑いの色を隠しきれない大和を見ると、大和一人では頼り甲斐がないと思って幽々子は袖で涙を拭うなどの嘘泣きを演じて一芝居をする
「ひどいわ大和、あの時の告白は嘘だったのね」
告白したことは本当のことだけど、まだ正式に付き合っているとは思っていなければ自覚していない、しかし幽々子にそんな事を言われると男として引き下がることは絶対にできなかったので、大和は思わず自棄クソになって言ってしまった。
「あぁそうだよ妖夢! 俺と幽々子は愛し合った恋人同士なんだよ」
するとさっきまでは驚きと戸惑いに満ちていた妖夢の顔が心を落ち着かせたかのように冷静な表情になると同時に大和を見る目が変わった。
「では大和さん、ここで試させてくれませんか?」
いきなり何を言うと思ったら。試す?何をだ?料理の腕前で勝負でもしようと思ってるのか?
「試すって何をだよ?」
「簡単なこと、貴方に私の主である幽々子様を任せるのに相応しい力を持っているのかどうかを見極めるために、真剣の勝負を挑むだけです」
殺し合いが目的ではないのでお互い命までは取ることはないが、それでも少し気を緩めれば決して無事では済まない本物の刀を用いて闘う真剣での勝負、しかし妖夢に勝負を挑まれても大和には拒否する理由も逃げる理由もなかった。
それに真剣、刃物の相手を経験をしたのは一度や二度だけではない。一応大和は真剣での勝負をなんども経験しているので、刀で斬られる恐れはほとんどなかった。
それに、俺には鉄刀がある。どんな刀剣だろうが全て叩き折ってやる。という勢いだった。
「わかった、その勝負受けてやるよ」
「では庭まで来てください」
そう言って妖夢は後ろを振り向いて静かに襖を開けて部屋を出ていくと、闘いの邪魔になると思って大和は着ていたロングコートを脱いで幽々子に手渡し、もう闘う覚悟は決めていると思わせる真剣な眼差しで妖夢に続いて部屋を出て行き、決戦の場である中庭に向かった。
幻想入りしてまだ間もない草薙大和と白玉楼の庭師である魂魄妖夢、二人の闘いが白玉楼の中庭で黙々と始まろうとしている。