古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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三話 新たな生活

 大和と妖夢の決闘が終わり、それから三人で就寝したあと、何も起きることなく朝を迎えた。

 

 いつもよりも早く目が覚めた大和、布団から身体を起き上がらせて周りをキョロキョロと見渡す。

 

 まだ幽々子は隣でスゥスゥと眠っていた。まぁ、朝ご飯が出来たら、それの匂いを嗅ぎつけて目覚めるだろう。

 

 それに比べて妖夢の姿は無かった。あるのはきちんと畳んで置いている布団だけ、温もりは微塵も感じさせず、もう何時間も前に起きて部屋から出ていった形跡がある。

 

「妖夢の奴、もう起きてる。」

 

 剣術の稽古でもしているのか、それとも朝食を作っているのか、どちらかであろう。早起きしてやることなんて大体は限られているから何となくわかる。

 

 特にすることも無いし、二度寝は性に合わなかったので、大和も布団の中から出て、布団を綺麗に畳んで置くと、幽々子を起こさないように静かに部屋から出ていく。

 

 行く宛もなく、ただひたすら廊下を歩いていると、この白玉楼と言う屋敷の広さを認知することになる。

 

「すっげぇ……こんなに立派なのか」

 

 自分の屋敷も確かに広かったが、明らかに草薙家よりも圧倒的に広いし立派。いや、名の知れた武家屋敷や大名の屋敷と比べても断然に広いし貫禄がある。まるで迷路のようの広すぎて迷子になるのではないか、そう思ってしまうほど。

 

 例え何百人が一斉に泊まりに来ても全然余裕があるほど、部屋も数え切れないほどある。茶の間はあるのか?風呂場は?炊事場は何処にあるのか?トイレは?

 

 まだこの屋敷に来てたから間もないので、無知なことが多いが、それでも白玉楼の全てを把握するのは時間がかなり掛かるし、極めて困難だろう。ここの住人が本当に屋敷内の間取りを全て覚えているのか疑問に思ってしまう。それぐらいに広すぎる。

 

 迷いながら屋敷の中を歩き回っていると、偶然にも炊事場に着いてしまったのか、扉の向こうから「トントントン」とリズム良く料理を作っているような音が聞こえてきた。

 

「妖夢がいる場所はここか」

 

 住人は恐らく主の幽々子、そして庭師の妖夢、そして俺しかいない。ましてや炊事場で料理をしているのなんて、冥界に来て間もない俺でもわかる。

 

 大和は静かに扉を開けて炊事場の中に入る。

 

 

 

            《…炊事場…》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 炊事場に入ると、やはり案の定、部屋からいなくなった妖夢が料理を作っており、朝食の準備をしていた。

 

 大和が炊事場に来たことに颯爽と妖夢は気付き、振り向くと礼儀正しく一礼をする。

 

「大和さん起きたんですか。随分とお早い起床で」

 

「なんか手伝うか? 朝食作るぐらい出来るぞ」

 

「良いんですか? じゃあそれをちょっと」

 

「あぁ……了解」

 

 手際良く、言われたことを瞬時に熟す大和。それに言われてないことも自然と手際良く熟して、どんどん朝食が作られていく。

 

 その光景を見た妖夢は思わず関心してしまう。こんなにもテキパキと料理を作る大和を見て、もしかしたら自分よりも上手なのでは?と思ってしまう。

 

「大和さん、料理出来るんですね」

 

「まあ……大体ならな。向こうの世界で嫌なくらいやってたし、あと家事全般なんでもできる。基本俺が全部担当してたから。」

 

 意外と大和は万能だった。家事全般は何でもできる。闘いもできる。出来ないこと言えば機械をイジることと、あとは勉強ぐらいか。

 

 そんな大和のことを聞いて、妖夢は親近感が湧いていた。まるで他人事ではないかのように、とても親しく出来そうな感じがした。

 

 妖夢本人もそれが仕事というのか役割というのか、家事全般はもちろん、幽々子の世話や護衛、屋敷の庭を手入れしたり、剣術の稽古をしたりするなど、現世にいた大和に近い生活を送っていたからだ。

 

 最も、大和の場合は家事をやる時間よりも稽古や修行をしている時間の方が圧倒的に多かった。そこは妖夢との決定的な違いだった。

 

「大和さん。気になったんですが、どうやってあんな強さを身に着けたんですか? 並の人間よりも常軌を逸した力を持っているようですが」

 

「多分それは、俺の師匠とその修行にあると思う。」

 

「……師匠?」

 

「子供の頃に師匠に弟子入りしてな、紅虎さんって言うんだけど。それから数年間ずっと稽古付けて貰ったらこうなった。

 いや……本当に……マジで……今思えばあれは本当にヤバかったよ……」

 

 またトラウマや嫌な思い出でも思い出したのか、大和の目から光が無くなり、下を向いて暗い表情を浮かべる。この人の過去に一体何があったんだ?

 

 そんな大和を見て、一体どんな日々を過ごしてきたのか、それに紅虎って言う人がそんなにもトラウマを植え付けるような怖い人なのか、妖夢は気になっていた。

 

「そんな怖かったんですか? その紅虎さんって言う人は」

 

「うん……素手で熊とかの猛獣相手と戦わせたり、洞察力を鍛えるためだとか言って容赦無く崖から突き落としたり、とにかく死ぬ思いは何度かしてきた。

 一時期あの人には人の心が無いのかって疑問に思うほどには怖かった。」

 

 話を聞いただけでもゾッとするような大和の経験談、その一部だけを耳にしただけでも、大和が並の人間よりも遥かに強い理由が明確にわかってしまう。

 

 そんな想像も絶する地獄のような修行を課してくる紅虎、妖夢の中でのイメージは、強さのためなら死ぬ思いもさせる。誰よりも厳しくて恐ろしい。恐怖を植え付けてくるような冷酷で非情な人物だった。

 

 自分も長年修行を続けてきたが、大和のように死ぬ思いをするような事は一切してこなかった。いや、寧ろ今までの自分が積んできた修行が甘すぎたのではないかと思うほどに、大和の修行が過酷過ぎて何も言えなかった。

 

「そんな事をして良く今まで生きてましたね……」

 

「俺もそう思う……てか、あれは絶対に死人が出る。」

 

 もしも紅虎の弟子になりたいと思う人がいるなら、間違いなく止めといたほうが良い。過酷過ぎて確実に死ぬ。

 もし、紅虎に弟子が何人もいたら、大半の人達は修行に耐え切れなくて死んでる。これは断言できる。弟子の俺が言うんだから間違い無い。

 

 その言葉を聞いて妖夢も納得してしまった。

 

 だから大和は私に弟子入りした時、どんな厳しい修行でも大丈夫と言ってたのか、なんか今の話を聞いてると本当に説得力ある。

 寧ろ、これからの私の稽古が甘過ぎて強くならずに退屈してしまうのではないかと思ってしまう。

 

 そんな他愛のない世間話をしている間に朝食が完成した。意外と早く終わった。

 

 朝食を作り終えると、大和は額の汗を拭って一息つく。

 

 妖夢が大体の準備をしてくれてた上に、ほとんどやっていてくれたので、予定よりも早く作り終わった。少女の身でありながら、流石はこの大きな屋敷の庭師を任せられている人物だ。正直尊敬する。

 

「……良し、あとはこれを茶の間に持っていけば……」

 

「案内するので着いて来て下さい。」

 

「あいよ〜」

 

 大和は両手一杯に朝食を持つと、妖夢に道案内をされながら茶の間へと歩いて向かった。

 

 なんか、料理を作る同僚が出来ただけで、いつもと変わらないような日常とは言わないでおこう。普通に楽しいし、会話も弾むし、良しとしとこう。

 

 

 

           《…一方その頃…》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 大和と妖夢が朝食を作り終えて、ちょうど茶の間に運び終えた時のこと、本当にご飯の匂いを嗅ぎつけたかのように幽々子が目を覚ました。

 

 布団から起き上がり、思い切って身体を伸ばしたあと、まだ眠たそうな顔をしながら少しだけボケェ〜とする。

 

「……んん〜朝ご飯〜」

 

 布団から出ると、部屋を離れて朝ご飯の匂いを辿りながら歩いていく。まるで警察犬のような嗅覚だ。

 

 迷うこと無く、茶の間に辿り着くと、そこにはテーブルの上に乗せられた沢山の朝ご飯が待ち構えていた。そしてその近くには大和と妖夢が幽々子を待っていた。

 

 幽々子が来たことに気が付くと、妖夢は正座をしながら頭を下げて、朝のあいさつをする。

 

「おはよう御座います幽々子様、朝食の準備が整いました。」

 

「わぁ〜久しぶりの妖夢のご飯〜」

 

 冥界に帰って来てから久しぶりに食べる妖夢のご飯、幽々子はルンルン気分でテーブルの前に座る。

 

 妖夢のご飯を食べるのは何時ぶりだろうか、現代に行った切り食べていなかったからとても楽しみだった。実家のような安心感ていうものなのか。

 

 幽々子も来たことだし早速、朝食を食べようと、三人は手を合わせて食に感謝の気持ちを込めながらも。

 

「「「いただきまーす。」」」

 

 三人は各自、ご飯や味噌汁、おかずなどをそれぞれ食べたり味わったりした。本当に別々で、誰一人同じものを一緒には食べようとはしない。

 

 大和が味噌汁に手を出して、味わうように一口啜る。

 

「うめぇ……」

 

 妖夢が作った味噌汁は美味かった。自分の味付けとはまるで違う。出汁もしっかり効いてるし、あっさりとしている。朝食にぴったりの味噌汁だった。

 こんな美味しい味噌汁は紅虎さんが作る味噌汁を飲んだ時以来だ。

 

 もしかしたらと思い。大和は味噌汁を一口飲んだ後に御椀を置いて、次はおかずに手を出してみる。

 

「これもうめぇ……」

 

 おかずも朝食に合わせて味付けを変えているのか、味はしつこくなくあっさりしている。しかししっかりと美味な味がする。まるで朝しっかりと食べれるように、無限に食べれるようにしているみたいだ。

 

 まるで食欲に取り憑かれたかのように大和の食べる手が進む、こんな美味しくて夢中になってしまうような朝ご飯は生まれて初めてだった。

 

 そんな幸せそうにご飯を食べている大和を見て楽しかったのか、隣でその光景を見ていた妖夢は少し嬉しそうな表情で呟いた。

 

「お口に合って何よりです。」

 

 本当に美味い。次から次へとご飯に手が出てしまう。料理が喉を通る度に幸せを感じる。こんな美味しいものがこの世にあったとは。いや、ここは冥界だったか。

 幸せだった。幸せの繰り返し、まるで無限ループ。とにかく美味い。

 

 そんな完全に妖夢の料理の虜になってしまった大和を見て、こんなにも気に入ってもらえたのが嬉しかったのか、幽々子は楽しそうに微笑みながら大和にこう言った。

 

「良かったわね大和。これから毎日食べれるのよ」

 

 こんな美味しいものが毎日食べれるなんて幸せの極み。冥界に引っ越して来て本当の良かったと思えた瞬間だった。意外と大和は単細胞である。

 

 そんな美味しい朝食を食べながら、何の物事にも追われることなく三人は自由気ままに時間を過ごす。

 

 それからゆっくり食べて時間が経過したあと、三人は朝食を食べ終える。

 

 大和と妖夢は食器を片付けて炊事場に全部持っていくと、皿洗いをする。ちなみに皿洗いの時に妖夢に聞いた話だと、幽々子はお嬢様なので特に何もしないことが当たり前らしい。というかやらせたら庭師の意味がないので絶対にやらせないらしい。

 

 なんか冥界に来ても、料理作ったり皿洗いしたりするなど、現代での生活とほぼ変わらないな。と大和は思いながら時間が過ぎる。

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