古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
三人で朝食を食べ終えて、妖夢と大和が食器を片付けてから炊事場で皿洗いをしたあとのこと。
皿洗いを終えた二人が食後のお茶を持っていながら茶の間に帰ってきて、大和が幽々子と一緒にお茶を飲みながら食休みをしようとした時のことだった。
大和と幽々子の二人がテーブルの前で座って寛いでいると、妖夢は二人の前で正座をする。何故いきなり、そんなにも畏まっているのか、何か重要な事があるのか。
「さて、食事も済ませましたことですし。」
休憩している大和がお茶を飲んでいる最中のことだった。それを気にすること無く、真剣な表情をしながらも妖夢は大和に対して突然質問してくる。
「大和さん、幽々子様とご交際はどこまで?」
「ブッ! ゲホッ! ゲホッ!」
あまりにも突然で大胆過ぎる妖夢の質問に対して余程驚いたのだろう。大和は食後に飲んでいたお茶を吹き出して噎せてしまう。
「いきなり変なこと聞くなよ。」
「どうなんですか?」
真剣過ぎる表情で妖夢に問い詰められる。もはや言い逃れも、誤魔化すこともできない状況だった。これからどう説明して良いのか、はっきりと言うべきなのか、答えを出す事ができずに大和は困惑していた。
それにどこまで交際したかなんて聞かれても、俺が初めて出来た恋人が幽々子だったこともあるし、恋愛というものを殆ど知らない。だからどこまで幽々子との関係が発展しているのか聞かれても正直わからない。
「まぁ……ある程度には……ほどほどに……」
「そんな曖昧な事は良いです。できれば具体的に、どこまで交際してるのかはっきりと言ってください。」
あまりにも曖昧な表現に痺れを切らしたのだろう。大和に対して妖夢は真剣な表情を通り越して、威圧的な態度で質問してくる。もはやこれは質問ではなく問い詰めである。もしかしたら、この先脅迫させる可能性もある。
取り敢えず、取り敢えずだ。何でこんなことを聞くのか妖夢に聞いてみよう。少しはお茶を濁すことができるし、何よりもそれの意味がどれだけ重要なのかを改めて理解しよう。
「なんでそんなことを聞くんだ? 」
「私は幽々子様の従者です。況してやこれからは三人で一つ屋根の下で暮らすのですから。
従者である以上は主の事を、そしてその殿方との関係を知る必要があります。」
あまりにも正当で反論の余地も無い妖夢の答えに、大和は納得してしまった。そんなことを言われたら本当に言い逃れも誤魔化すことも出来ないではないか。
もはや、完全に逃げ場が無くなったことを察したのだろう。まるで観念したかのように大和は溜息を漏らしながらも、自分が幽々子とどれだけ交際していること、そして今自分の今の状況を全て吐き出した。
「今言えることは、幽々子とは恋人以上婚約者未満ってところだな。まだ俺もそんな年食ってないし、結婚はまだ無理かなっては思ってる。」
今年で俺の年は16歳、世間一般的に見るとまだまだ子どもである。向こうの世界の基準だと、まだこの年で結婚することは出来ない。つまり、結婚できるまであと2年は足りないのだ。
「ちなみに大和さん、歳はおいくつで?」
「16歳」
それを聞いた妖夢は困ったような顔を浮かべた。まるで大和の歳がマズいと言わんばかりに、とても気不味そうな状況を作り出してしまった。
さっきまでの妖夢は顔は幼いが大和の体格や鍛え込まれた肉体から推定して18歳から20歳の間だろうと思っていた。しかし本人から本当の年齢を聞くと若すぎた。大和の歳があまりにも若すぎた。
妖夢は思ってしまった。この大和は自分よりも年下の子どもではないか、想像を絶する程の厳しい修行を乗り越えてるのに、かなりシビアで過酷な人生を送ってるのに、まだ20代にもなってない16歳なんて。
隣で大和の年齢を聞いていた幽々子も驚いていた。まさか付き合っている人が未成年だなんて、夢にも思わなかった。
そういえば今まで現代で一緒に過ごしてきたが、大和の年齢を聞くことが全然なかった。
「大和ったら、そんなに若かったの?」
「そうみたいだな。ちなみに幽々子は歳幾つ?」
「かれこれ千年以上は生きてるわ」
「……えっ!?」
幽々子の歳を聞いて、大和は思わず驚きを隠しきれず唖然としていた。
こうして出会ってから初めて、大和と幽々子の二人はお互いの年齢を知ることになる。
千年以上生きてるって、俺の60倍以上生きてるってことかよ、幽々子は御神木とか大木の類なのか、亡霊だから寿命というものが無いのはわかるけど、そんなの知らねぇよ、千年生きた人物なんて今まで見たことがないんだもの。
そんな二人の話を聞いている間、妖夢は深刻そうな顔をしていた。まるで未成年の大和がマズいと言わんばかりに、とてつもなく困っていた。
「それは困りましたね。幽々子様の交際相手がまさか未成年の殿方なんて」
幽々子様は何故成人もしていない子どもと交際しているのか、未成年に手を出すなんて夢にも思わなかった。それと同様に大和さんもそうだ。年上どころではない年齢が掛け離れた幽々子様と付き合うなんてどうかしている。もしかして同い年と思ってたのか?
「結婚は幽々子の同意を得て、それから俺が成人になってから挙げようと思ってる。」
「でも未婚の男女が同じ屋根で暮らすことは少し危ないですし、どうしたら良いのか?」
「なら、結婚してしまえば良いじゃない?」
一体いつからいたのか、幽々子の隣にスキマを開いて、その中から身体を出していた。
「あら紫、来てたのね。」
八雲紫がやって来て、大和が驚いているのに対して、幽々子は平然としている。まるで、八雲紫が突然現れるのが日常茶飯事のように、それがほぼ当たり前のようなことのように。
「突然現れるなよ。」
この八雲紫の神出鬼没な行動は心臓に悪い上に慣れることができない。頼むから来る時には何か言って欲しい。まぁ、でもこの世界に携帯がある可能性が限りなくゼロに近いし、それは無理なのか。
結婚してしまえって簡単に言うけど色々と準備があると思うし、況してや俺の歳は現代での結婚基準を満たしていない。結婚なんて何年後の話になるのか。
「二人が結婚してしまえば同じ屋根の下で暮らしてもおかしくないわ、寧ろその方が自然で良さそうだし。」
「でも俺の歳は16で……」
「ここは幻想郷よ。現代のルールは通用しない。未成年の結婚なんてどうってことも無いわ。」
確かに現代のルールだけで考えれば、年齢基準を満たしていない未成年の大和が結婚することは出来ない。
しかし、ここは現代のルールがほとんど存在しない幻想郷、例え未成年でも結婚することはできる。その例に幻想郷では未成年でも飲酒が普通に許されているのだ。故に未成年が結婚することなんてどうってこともない。
取り敢えず、取り敢えずだ。未成年でも結婚して良いことがわかった。あとやるべきことと言えば……
「それじゃあ、あとは幽々子の同意を……」
「私は良いわよ。結婚するの」
「……はっ?」
そんな服でも買うような感覚の軽いノリで良いのか?結婚だぞ、人生の中でも特に重要で慎重に考えないといけないものだぞ。
まずは付き合ってから数年経って、それから結婚しようか決めるのはわかる。でも、幽々子にはそれが無い。まるで今からでも結婚しようと言わんばかりだ。
「だって、これからずっと暮らすわけだし。私も早く大和と結婚したいと思ってたから」
大和が自分をどれだけ愛しているのかも理解している。大和がどんな人なのかも現代で一緒に暮らしていて大体分かっている。
もう既に付き合っている身だし、今更、お互いのことを知り合ってから結婚しようとは思わない。それなら、もういっそのこと結婚してしまえば良いと思ってる。
結婚も許可されてる。恋人の幽々子からも同意を得ている。もはや大和に結婚以外の選択肢は無かった。
しかし、いきなり結婚するなんて色々と準備や覚悟が決まっていない。どうすれば良いのかもわかっていない。
右手で顔を抑えながら大和は困惑していた。どうゆう答えを出せば良いのか、このままあっさりと結婚を受け入れて良いのか。
そんな迷っている大和を見て、正直選択肢は決まっているのに受け入れないことがいじらしいと思ったのだろう。八雲紫はまるで悪魔の誘いのような言葉を入れ知恵する。
「もう覚悟決めちゃったら? どうせ早いか遅いかの問題だし、貴方も幽々子と夫婦になるのは満更でも無いでしょ?」
「大和さん、男見せてください。」
意図的に煽っているのか、それとも真剣に言っているのか、どさくさに紛れて妖夢も大和を挑発する。もはや誰も止めるものはいない。
それに幽々子も何も言わないものの、愛らしい表情で上目遣いをしながら大和を見てくる。「まるで自分との結婚が嫌?」っと言わんばかりに言葉を発し無くても目で訴えてくる。それほど結婚がしたいのか。
目は口ほどにものを言うと聞くが正にその通りだったことを今理解する。
もはや覚悟を決めるしか無い。八雲紫の言う通り、俺は幽々子と結婚したかった。それに幽々子から同意を得た以上、あとは早いか遅いかの話になる。
もう何の迷いもない。逃げも隠れもしない。しっかりと覚悟を決めると、大和は真剣な表情をしながら幽々子に対してこう答える。
「わかったよ。結婚しよう幽々子」
「はい。喜んで。」
その言葉を待ち望んでいたと言わんばかりに、幽々子は満面な笑顔で喜んだ。
良かった。ようやく本当の意味で結ばれたのだ。これからも、この先もずっと寿命が尽きるまで一緒にいられる。私達の恋仲も夫婦仲も誰にも引き裂かれることはない。
お互いに結婚も決まったことだし、八雲紫は本題に入る。これからやるべきことを実行しようとする。
「さて、告白も終えたことですし、さっさと結婚式やりましょうか」
「……えっ……今から!?」
「今からやらないで何時やるの? 男なんだから覚悟決めなさい。」
「なんか、物事が進み過ぎて現実味無いな。」
そりゃあそうだ。ここは現代の世界ではなく、幻想郷なんだもの。常識が存在しない、ありえないことがが起きてこその当たり前なんだから。
すると、本当に今から結婚式をやると言わんばかりに、八雲紫はスキマから和装の袴と着物を取り出すと、それを妖夢に渡した。
「私は幽々子を担当するから、妖夢は大和を頼んだわ」
「承知しました。」
「行きましょう幽々子、私達で準備をするから」
「うん。」
そう言うと、着替えの準備をするために幽々子と八雲紫は茶の間を出ていった。
残された大和と妖夢はなんか気不味そうな雰囲気を醸しながらも、取り敢えず結婚式に向けて準備をしようとする。
「準備をしましょう大和さん。ところで和装を着るのは初めてですか?」
「道着とか袴を履くのは昔からやってたけど、和装は初めてだな。」
こんな時に現代で常に和服を着ていた兄貴がいれば、こんな女の子に俺の着替える準備をさせなくても良かったのにな、と大和は若干恥ずかしがる。
和装の着方を妖夢に教えられながら、大和はこれから始まる結婚式の準備をする。
人生最大のイベントだ。失敗は許されない。これはしっかりと決めようと、大和の心臓の鼓動は高まって速くなり緊張感が走る。
《…それから数時間後…》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからはあっという間のことだった。夫婦になる二人の準備が終わると早速結婚式が始まる。
提灯を持った八雲紫を筆頭に、その後に続いて白い着物に水色の色打掛を身を包んだ幽々子が歩いていた。
水色の色打掛の下に白い着物を身に纏い。頭にはいつもの裾がフリル状になった水色のナイトキャップを被っている。これは外さないらしい。
二人はゆっくりと廊下を歩いて、大和がいる部屋へと向かう。
長い廊下を抜けると幽々子達は大和がいる部屋に到着する。
八雲紫が正座しながら襖を開けて部屋に入ると、そこには黒い着物に白い袴の和装を身に纏った大和が座布団の上で正座をして待っていた。そして近くに妖夢も正座して待ち構えていた。
まず先に幽々子が部屋に入ってくる。ゆっくりと優雅でお淑やかに大和に向かって歩いてくる。
幽々子の晴れ姿をこの目で見た瞬間、大和は息を飲むような美しいものを目の当たりにして心を奪われてしまった。
改めて思った。こんな美しく綺麗な人が自分の妻になるなんて夢にも思わなかった。それはまさに幻想的で夢幻のような運命だった。
いても立っても居られなかったのだろう。正座をしていた大和は直ぐ様立ち上がって部屋に入ってきた幽々子に寄り添い。共に一緒に歩く。
「綺麗だよ幽々子」
「ありがとう。」
二人が寄り添って並んで歩き、二人の席に正座をすると、夫婦の契りを交わすための儀式を早速始める。
幽々子が盃を両手で持つと八雲紫が盃に注いでくれる。
注がれた盃を幽々子は半分残して飲む、そして夫婦の契りを交わすためもう半分残した盃を大和に渡す。
しかし、夫婦の契りを交わす盃を渡しても、大和はすぐには飲まず。この盃に入っている液体はなんなのかを疑問視しながら聞いた。
「これは……酒?」
「そうよ。」
盃に入った液体を見て大和は凄く気不味そうで困惑した顔をしていた。まるでお酒が駄目だと言わんばかりに。
大和は飲むのを躊躇っていた。盃を交わすのが駄目なんではなく、問題はお酒の方だった。
「どうしたの? 飲まないのかしら?」
盃に注いだお酒を飲まない大和に対して、今更後戻りしようだなんて遅いと言わんばかりに八雲紫は促すように大和にお酒を飲まそうとする。
これを飲まなければ、幽々子と婚約の契りを交わすことはできない。もはや後戻りも出来ない。このお酒を飲まないわけにはいかない。
こうなったらどうにでもなれと言わんばかりに、大和は盃に入った酒を一気に飲み干した。男気を見せたのだ。
その瞬間だった。
………バタッ!!
何の前触れもなく突然大和は顔を真っ赤にしてぶっ倒れる。酔い潰れたのか、くるくると目を回しながら完全に意識が飛んでいた。
そう、大和はお酒に極度に弱く、駄目だった。飲むどころか匂いを嗅いだだけでも酔い潰れてしまうほどには弱い。弱すぎて話にならないほど。
大和がお酒を飲むことを躊躇っていたのは、自分がお酒に極度に弱いことを知っていたからである。
お酒に酔い潰れて突然倒れた大和を見てみんなが驚いた。
特に幽々子があまりにも不自然な大和の倒れ方を見ると、驚きと心配した表情を浮かべながら倒れた大和を手で揺すって起こそうとする。
「ちょっと大和、しっかり!? 目を覚まして!」
しかし、大和は起きない。意識も戻らない。完全に酔い潰れている状態だった。
まさか、大和がお酒に極度に弱いとは知らずに、勧めてお酒を飲ませてしまった八雲紫は自分がとんでもないことをやってしまったことに薄々気付いてしまう。
「これ……どうしよう?」
大和が目覚めないので結婚式が続行することができず、三人は途中で結婚式を止めて大和を布団へと運ぶ。
こうして、人生最大のイベントである結婚式は大和がお酒でぶっ倒れたことで幕が閉じた。結婚式としては異例の終わり方である。