古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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七話 人里にて

《〜人里〜》

 

 風景は明治等編と言ったところか。

 

 地面はアスファルトではなく、整地された地面。

 

 電灯もなければ、車も走っていない。

 

 建物はコンクリートではない。現代の建物でもない。

 

 どこを見ても、材木と瓦で構成された家の数々。

 

 所々に、雑貨屋、食べ物屋、衣類店などなど、色んな店が並んでいる。

 

 しかし現代と比べれば、時代は圧倒的に古い。

 

 人もそうだ。

 

 現代の衣類ではない。

 

 袴や着物などと言った。昔の人が着ていた衣類を着ている。

 

 そんな古き良き人里で人間の大和と亡霊の幽々子が二人仲良く歩いていた。

 

 しかし、大和はどんよりとしていた。いや、ちょっと後悔していると言ったほうが良いのか。

 

「まじかよ……着物着てこれば良かった。」

 

 明らかに異様な風景だった。

 

 人里の中で現代の服を着ているのは自分だけ、これでは自分が変わった身なりをしているような感じがした。

 

 その証拠に、自分を物珍しそうに人里のみんなが見ている。

 

 そんな大和を慰めるように、まぁまぁと大和の肩を優しく叩く幽々子。

 

「次来た時に着れば良いじゃない」

 

「そうだな。」

 

 今度からそうしよう。次もまた現代の服を着て人里にやってきたら本当に変わり者だと思われてしまう。

 

 みんなから変な目で見られることが、こんなにも恥ずかしいなんて思わなかった。

 

 二人は目的も無く、人里で歩いていた。

 

 なんで冥界に住んでいる二人が幻想郷に存在する人里にいるか。

 

 どうしてこうなったかと言うと。

 

 

 

 

《〜数時間前のこと〜》

 

 

 

 白玉楼にて。

 

 大和と妖夢が鍛錬を終えて、茶の間で三人で寛いでいる時のことだった。

 

 頬杖を立てて幽々子がため息をつく。

 

 何も無く暇を持て余していた。

 

 白玉楼には何も娯楽が無い。強いて言えば幽霊が漂っているだけ。

 

「退屈ねぇ〜」

 

「何もねぇからな。」

 

 あまりにも暇すぎて、ふと、大きな欠伸をする大和。

 

 妖夢から色々聞いたが、確か冥界は現世と隔離されている世界。特殊な手段ではない限り、冥界から出ることはできない。

 

 しかも、本当に何もない。娯楽施設も食べ物屋も何もかも。

 

 鍛錬、幽々子や妖夢などの住人とのお喋り、庭を眺める、料理を作るなど、それ以外することがない。

 

 おまけに漂っている幽霊は雑用はできるが喋れない。喋る相手は限られている。

 

「良くもまぁ……幽々子はこんな生活してたな」

 

「あら、慣れれば楽しいものよ。ゆったりとできる時間が沢山あるんだもの」

 

 こんな何も無い世界で幽々子は千年以上も生活していたと思うと、この先が心配になる。

 

 あまりにも退屈過ぎて、気が狂うんではないかと思ってしまう。

 

 少なくとも、暇な時間があれば、俺は鍛錬して、一刻も早く妖夢よりも強くなりたい。

 

 幽々子と違って、俺には人間の寿命というものがある。

 

 あと何十年生きれるのか、それによって幽々子と一緒に居られる時間も制限させる。

 

「はぁ……なんかねぇかな?」

 

「それなら良い考えがあるわよ」

 

 それは突然のことだった。

 

 二人の間にスキマを開けて八雲紫が現れた。

 

 八雲紫は最初からこの場にいたような態度で居座っている。

 

 そして胡散臭い笑顔を浮かべている八雲紫、まるで何かを企んでいるような雰囲気を感じる。

 

 一体、どのあたりから俺達の話を聞いていたのかも謎に満ちている。

 

 突然現れた八雲紫を見て、大和は驚いた顔をする。

 

 心臓が飛び上がったような、ねこだましをされて身体が反応したような、そんな感じだった。

 

「あら紫」

 

「だから突然現れないでくれよ。」

 

 この妖怪、驚かせるつもりでやってるのか、それとも素でやっているのか。

 

 どちらにしても、心臓に悪いのは確かだ。

 

 恐らく慣れるまでかなりの時間が掛かるだろう。

 

 頼むから、来るなら突然じゃなくて、事前に来ると言ってくれ。だが、どうやって事前に連絡するのかはわからないが。

 

 それに対して、驚いた大和を見て面白く感じたのか、八雲紫はクスクスと笑っている。

 

「人里に行ってみない?」

 

「人里?」

 

 妙な提案だった。

 

 そもそも幻想郷にも人が住んでいる場所があったのか。

 

 てっきり妖怪や神々とか幻想の生き物しか思っていたが、単なる勘違いだったか。

 

「そう。人間が住んでる小さな里、とても楽しいところよ」

 

 そろそろ、同居人だけのお喋りや家事などで不安だったろうし、飽き飽きしていると思ったからだ。

 

 それに人里に行けば、娯楽施設もある。食べ物屋や色んなお店がある。

 

 退屈凌ぎにはなると思っての八雲紫の提案だった。

 

「行きましょうよ大和。私滅多に行ったこと無いから」

 

 幽々子は嬉しそうに目を光らせていた。 

 

 それもそうだ。滅多に行く機会がない人里に行けるのだから、それは嬉しいことに決まっている。

 

 滅多に無い機会を幽々子が逃すわけがない。

 

 しかし、大和の中で一つ心残りがあった。

 

 それは妖夢も一緒なのか。

 

 幽々子と一緒なら夫婦という事でなんとかなるが、妖夢がいると多分誤解を招く可能性がある。

 

「でもなぁ、妖夢はどうする?」

 

「私は良いので、夫婦水入らずで行ってください」

 

 そう言われると。大和も人里の行けることに対して心が揺らいでいた。

 

 冥界で家事、鍛錬、食事の毎日に少し飽きていたからだ。

 

 人里に行けば退屈凌ぎにはなる。もしかしたら自分の知らない、新しい経験ができるのかもしれない。

 

 それに幽々子も行きたいと言っている。これで、もし自分が行かないと言ったら、今後の夫婦生活に支障をきたす可能性もある。

 

 だとしたら、大和が言うことは一つ。

 

「わかったよ。行こう」

 

「やった〜」

 

 嬉しそうに幽々子は両手を合わせて頬の横に添える。

 

 久々に人里で遊ぶことができるのだ。喜ばない筈がない。

 

 ただし閻魔様にこればバレたら説教案件なのはわかっていたので、程よく羽を伸ばそう。

 

「決まりね」

 

 すると、八雲紫は自分の隣に人一人が余裕で入れるようなスキマを作り出す。

 

「これに入れば、人里に行けるわよ。」

 

「はぁ、はぁ……? 便利だなそれ」

 

 改めて考えてみると、この異空間のようなもの、とてつもなく汎用性があって便利なのでは?

 

 俺と戦ったときも、その異空間から武器を沢山飛ばしてきたり、某漫画のどこでも行けるドアのように簡単に移動できるし。

 

 もしかして、この八雲紫の能力、とんでもなく凄い能力なのでは?

 

 そんなことを一人で考えている大和を見て、八雲紫は少し気になったような顔で話しかけてくる。

 

「どうしたの? 入らないの?」

 

「いや、入るさ。行こうか幽々子」

 

「うん。」

 

 二人は立ち上がって手を繋ぎ合い。スキマの中へと入っていた。

 

 そんな仲睦まじい二人の姿を見て、思わず笑みを浮かべる八雲紫。

 

「本当に仲が良い夫婦ね」

 

 幻想郷の中でもかなりのオシドリ夫婦ではないのか、そんな気がした。

 

 二人がスキマの中に消えていくと、八雲紫も自分のスキマの中に入り、妖夢だけを冥界に残した。

 

 

 

 

 

《〜そして現在〜》

 

 スキマを通ったら八雲紫の言う通り、人里の入口に到着していた。

 

 そして今に至る。

 

 今は取り敢えず、人里を回って、それから店でも入ろうかなと思っていた。

 

 人里を歩き回っていると、ちょっとした事が起きた。しかも悪い出来事立った。

 

 里の人達、主に青年達がこちらを見て、自分達に聞こえるような大きな声で話している。

 

 大和を見て笑っているようにも見えた。

 

 大和が異端に見えたのだろう。

 

「なんだよ、あいつの異様な服は」

 

「里の者じゃねぇよな」

 

「恥ずかしくねぇのかな?」

 

 しかし、どんなに自分のことを何とも言われようとも、大和は一切反応しなかった。

 

 自分の格好が人里の者から見れば異様だし、かなり浮世離れしているからだ。

 

 だから、別に気にしない。次から人里に合った服を着れば良いからだ。

 

 だが、青年達の悪態の矛先は大和だけでは収まらなかった。

 

「それに隣の、あいつ亡霊だぜ。」

 

「なんで、あんな奴と一緒にいるんだよ?」

 

「祟られる祟られる。」

 

「所詮化物なんだろ? 人里に来るんじゃねぇよ」

 

 明らかに幽々子の悪口、しかも本人にはっきりと聞こえるほどの大きな声で。

 

 完全に悪意があった。人外の恐れや人里の者ではない異物から来ているものであろう。

 

 自分の悪口を聞いた幽々子は少し落ち込んでいた。

 

 せっかく楽しみにしてた人里でまさかこんな酷いことを言われるなんて思いもしなかったからだ。

 

 自分は確かに亡霊だが、別に人に害を及ぼすようなことをする気はない。

 

 それなのに、里人は亡霊の自分を悪者扱いして、好機があれば石でもなんでも投げつけて迫害しそうだった。

 

 ここには自分の居場所なんてなかったのか。そう幽々子は思ってしまう。

 

 この場に居ても自分の悪口を聞くだけだ。多分他の場所に行っても同じことだろうが。

 

「行きましょう。 やま……と?」

 

 大和の腕を掴んで、どこか行こうとする。

 

 しかし。自分の隣には掴もうとしていた大和の腕が無かった。

 

 ふと気付いた時には大和の姿は無かった。

 

 周りを見渡してみると、大和はさっき自分の悪口を言っていた男たちの所へ行っていた。

 

 喧嘩でも吹っ掛けようとしていたのか、大和は男の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。

 

「なんか言ったか? ……あぁ?」

 

 怒っていた。目付きは鋭く、歯を噛み締めていた。

 

 余程、幽々子の悪口が気に食わなかったのだろう。

 

 表情が物語っている。憤慨に満ちた表情だ。

 

 鬼の形相と言ったら良いのか。大和の怒りはハイボルテージに達していた。

 

 青年の胸ぐらを握り締め、身体を宙に浮かせる。

 

 青年の体重はおよそ60キロから70キロか

 

 まるで子どもを持ち上げるかのように、大の大人を片手で軽々と締め上げる。

 

 文句無しの剛腕だった。

 

「なんだこいつ!? いきなりなんだよ!?」

 

「てめぇ……さっき俺の嫁の悪口言ってたよな?」

 

「そっ、そうだっけ? 俺そんな覚えは無いなぁ……」

 

「……言った。確かにこの耳で聞いた。だからこうして締めてる。」

 

 このまま地面に叩きつけて怪我をさせるか、それとも自慢の右拳で顔面を叩くか。

 

 どちらでも俺は良い。こいつらはそれに値する程の罪を犯したのだ。

 

「良いか? 俺の事を悪く言うのは良い。別に気にしないし、何とでも言えって思ってる。

 だけど、嫁の悪口は聞き捨てならねぇ。謝らねぇとこの場で痛みつけても良いんだぞ?」

 

 大和は男に向かって握り締めた右拳を見せつける。

 

 握った右拳は大きく、岩のように硬そうだった。殴られたら一溜まりもないと思わせるほど。

 

「悪かった! もう言わないから許してくれっ!」

 

「……本当だな?」

 

「はい! もうしません!」

 

「……わかった。」

 

「じゃあ、まず本人に謝りな。」

 

 そう言うと青年はさっさと幽々子の前に立つ。

 

 そして何度も幽々子に対して頭を下げた。

 

 何度も何度も謝りながら頭を下げた。

 

 青年の表情はとても恐れていたような顔だった。

 

 余程大和のことが怖かったのか、必死に謝らないと、この後痛い目に遭うことを恐れたのか。

 

 青年が幽々子に謝り終えると、恐る恐る大和に近づいてくる。

 

「……謝りました」

 

「さっさと行きな、もう二度と嫁の悪口言うんじゃねぇぞ。」

 

 大和はずっと謝っていた青年を見ていた。

 

 鬼の形相は消えて平然としてた、大和は怒っていなかった。

 

 幽々子本人に面と向かって謝ったのだ。

 

 もう、怒ることはない。もう一度同じ過ちをしたら別だが。

 

 そう言うと、青年はさっさとその場から走って去っていた。

 

「……さて」

 

 物事が済むと、大和は幽々子の傍に近づく。

 

 どこか温かみのある。穏やかな表情を浮かべながら大和は幽々子の前に立って話しかける。

 

「行こうか。」

 

「うん。」

 

 すると、幽々子は大和の腕を両手で掴む。

 

 二人は腕を組みながら、歩き出した。

 

 幽々子は頬を赤らめて、どこか嬉しそうな顔をしていた。

 

 それは大和が自分のために怒ってくれたことだった。

 

 他人に心に無いことを言われ、少し傷付いていた。

 

 自分は何もできなかった。もしやってしまったら死人が出てしまう。余計に恐れられる。

 

 だから何もできなかった。言い返すことも、制裁することも。

 

 何もできず静かに怒ってる時、大和が自分のために単身で怒ってくれた。

 

 まるで、自分では対処できなかった不安や怒りを代弁してくれたかのように。

 

 結婚してるとは言え、あそこまで他人のために怒ってくれる人はそうはいない。

 

 この人は大事にすべき、自分に取って失ってはいけない存在だと実感した。

 

「大和……ありがとう。」

 

「気にすんなって、俺達夫婦だろ?」

 

「ふふっ、そうね。」

 

 仲睦まじく歩いていると、妙な事に気付いた。

 

 女性が泣いている声が聞こえた。

 

 何だと思って大和は近寄ってみる。

 

「どうした?なんかあったか?」

 

「子どもが……子どもがいないんです。もしかしたら人里を離れて遊びに行ったのかもしれません」

 

 泣き崩れる奥さんの周りには、その話を聞いていた村人達はざわつく。まるでいなくなった子どもがかなり大変な場所に迷い込んでしまったようだった。

 

「子どもが人里を離れたらしい」

 

「それはマズいな」

 

「森や山には妖怪が沢山おる。」

 

「鬼に喰われるかもしれん」

 

 村人達の話を聞いた大和、それは大変だ。子どもが危ないと危機を察知した。その時の大和はとても焦りと驚きが混ざったような表情を浮かべる。

 

 こうしてはいられない。一刻も早く子どもを見つけて助けるために人里から出て探しに行こう。

 

 人一人の命、況してや子供だ。見殺しにするわけにはいかない。

 

 そのためには、道案内する人、そして子どもの行き先を知っている人が必要だ。人里を離れれば妖怪が蔓延っていて少々危険に晒されるが、それは仕方ない。

 

「奥さん! 俺の背中に乗れ! 急いで子どもを探そう!」

 

「……えっ!? 良いんですか?」

 

「早くしろ! 間に合わなかったらどうする!?」

 

 大和は道案内役のために奥さんを背に乗せる。そして落ちないようにしっかりと両手で支える。

 

「幽々子はここで待ってろ。危ないから」

 

「うん。わかったわ。気を付けてね。」

 

「あぁ……無事に帰る。」

 

 そう言い残すと、大和は子どもを助けるために奥さんと一緒に人里を離れていく。

 

 全力で走った。

 

 子どもの命が掛かっているのだ。モタモタしている場合ではない。

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