古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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八話 大和VS鬼〜人間と妖怪の闘い〜

 幻想郷に存在する森の中。

 

 人の気配は無く。整地されていない。

 

 草木に覆われており、どこを見ても東西南北がわからない。

 

 そんな森の中で、幼い子供が泣き喚いていた。

 

 恐らく迷子なのだろう。森に迷い込んで帰る方法がわからなくなったのだ。

 

「わーん!! おっかちゃーん」

 

 大粒の涙を流して、大声で泣き叫ぶ子供。

 

 その声に引きつられたのか、人間に取って恐ろしい存在が子供に近づいてくる。

 

 鬼だった。

 

 肌は黒く、二本の角を生やし、布の腰巻きを巻いている。

 

 体長はおよそ二メートルを越えており、人間離れした体格をしている。

 

「ニンゲン。」

 

 子供の前に現れる。

 

 子供は泣いていることに夢中で、鬼の存在に気付いていない。

 

 そして、喰うつもりだったのか、ヨダレを垂らしている。

 

 手を出して、子供を掴もうとする。

 

 子供が捕まりそうになった瞬間だった。

 

 鬼の前から子供の姿が消えた。

 

「キエ……タ……?」

 

 自分の眼の前から、食い物である人間の子供が突然消えたのだ。

 

 鬼は理解できなかった。こんなこと今まで経験したことないことだったからだ。

 

 しかし、鬼が周囲を見渡してみると、数メートル先に二人の人間がいた。

 

 一人はさっき食われそうになった子供、もう一人は見たことのない服を着た青年だった。

 

 青年とは草薙大和のこと。

 

 そう子供を鬼から助けたのは大和だったのだ。

 

 子供を母親に預けると、大和は鬼の前に立ちはだかる。

 

「さっさと子ども連れて逃げろ!! ここは俺が食い止める。」

 

「はいっ! ありがとうございます。」

 

 母親と子供は逃げた。鬼に食われないように。

 

 必死にその場から立ち去った。

 

 しかし、鬼は諦めない。久々のご馳走を逃すわけにはいかなかったからだ。

 

 鬼は逃げた母親と子供を追いかけようとする。

 

「ニゲタ……ニンゲン……オイカケル……」

 

「おっと待てよ、ここは俺が相手だ。」

 

 大和が立ちはだかると、鬼の動きが止まる。

 

 そして品定めをするように大和を見つめる。

 

 不気味だった。人間を見るような目ではなかった。まるで牛や豚などの家畜、いや、食い物を見るような目だった。

 

 もしかして、この鬼は俺を喰おうとしているのか、だが子どもを襲っていたから、その可能性は大いにある。

 

「ニクヅキ……イイ……コッチノホウガ……ウマソウ……」

 

 さっきの子どもと比べる。

 

 子どもは贅肉がほとんど無くて柔らかく、美味しそうな肉をしていた。

 

 それに比べて大和は引き締まった筋肉、贅肉が一切無く、それでいて柔らかそう。とても美味そうな肉だった。

 

 鬼には最上級のご馳走に見えた。

 

 鬼の口からヨダレが滴る。今すぐに喰いたいと言わんばかりに。

 

「喰いたきゃ俺を倒しな!」

 

 愛用の鉄刀を引き抜き、構える。戦闘準備は整った。

 

 鬼、しかも本物の妖怪。

 

 始めてみた。御伽話だけの世界だけに存在する空想の存在と思ったが、まさか間近に見るとは。

 

 妖怪と対峙したのは、これで二回目だ。

 

 妖怪と一度闘ったことはある。しかし経験値にもならなければ、この闘いで役に立つのかもわからない。

 

 初めて繰り広げる幻想郷での闘い。況してや相手は鬼だ。勝敗がどう着くのか、どう転ぶのか。

 

 戦いの最中、先手を取ったのは大和だった。

 

 まず手始めに大和は身体の力を抜く。

 

 脱力だった。

 

 そして腰を深く沈め、居合の構えを取る。

 

 力を込めた瞬間、大和がその場から消えた。

 

 大和が今やったのは妖夢から教えて貰った。縮地走法だった。

 

「キエ……?」

 

 鬼の目の前に大和が姿を現した。

 

 それと同時に鉄刀を振りかぶり、頭部を目掛けて武器を振るった。

 

 鬼は避けるどころか、動く気配すらなかった。

 

 鬼の頭部に鉄刀がヒットした。

 

 周囲に痛々しい鈍い音が響き渡る。

 

 鬼の身体が揺らぐ。

 

 頭を抑えて、頭を横に振る。

 

(……良し。食らった。)

 

 まともに喰らったのだ。これで倒れるはず。

 

 一撃で仕留めれればそれで良い。あとは逃げれば良いのだから。

 

 倒れないなら、もう一度、いや、なんども食らわせて叩き潰してやる。

 

 それからの鬼の反応とは。

 

「イテェナ。ソレ。」

 

 鬼は倒れなかった。

 

「おい。嘘だろ?」

 

 タイミングも威力も十分だった。それなのに痛いだけで済むなんて。

 

 人間の頭部を殴れば脳震盪、最悪の場合撲殺可能な一撃。

 

 生半可な武器ではない。

 

 普通なら大ダメージと言ったところか。

 

 まともに喰らえばかなりのダメージは与えられるはず。

 

 しかし、鬼は倒れない。

 

 この程度は死なないと言わんばかりに、まるでダメージは入っていない。

 

 ただ痛いだけで済んでいる。

 

「ちくしょうっ!!」

 

 何度も鉄刀で鬼を殴った。

 

 一秒間に二回程か、数秒間で50以上の攻撃を繰り出す。

 

 頭部、胴体、腕など、色んな部位を殴打した。

 

 必死に、全力で、勝つために攻撃を繰り出した。

 

 しかし、鬼は最初の一撃で痛みに慣れてしまったのか、もう痛がるような素振りを見せない。

 

 それどころか、身体が揺らぐことも、首を振ることもしない。

 

 異常なまでの耐久力だった。

 

 人間の力では妖怪には勝てないのか。

 

 それとも単に強さが無いのか。

 

 大和は自分の力の無さに嘆いてしまう。

 

 そして大和にとっての悲劇が始まる。

 

「ソレハ、モウ、イイ。」

 

 大和が攻撃をしている最中、鬼が鉄刀を掴み、握り締める。

 

 そして鬼が力を込めて、鉄刀を捻ると。

 

 鉄刀が曲がり、そして折れる。

 

 金属が折れた音がした。パキンと綺麗な音を立てて。

 

「……っ!?」

 

 大和は驚いた表情で鉄刀を凝視する。

 

 折れただと? この鉄刀が、高純度の鋼で作られた武器が、簡単に折れた?

 

 決して折れない武器が、壊れたのだ。

 

 大和に取っては、絶望と衝撃が走っていた。

 

 しかし、今は命のやり取りをしている。折れた武器に構ってる暇はない。

 

 咄嗟に大和は壊れた武器を放り投げる。

 

 そして素手で闘う。武器を失った今、こうするしか方法はない。

 

 拳を握り締めて、投擲のように構えを取る?

 

 単調で大振り、フルスイングで殴った。

 

 全力の一撃、敵をブチ倒すための渾身の打撃。

 

 渾身の一撃を顔面にお見舞いする。

 

 大和の拳は見事に鬼の顔面にクリーンヒットした。

 

 肉と拳が打つかり合う鈍い音が響き渡る。

 

「やったか?」

 

 もう立てられない。これで鬼は地面に平伏すだろう。そう思っていた。

 

 これで俺の勝ちだ。

 

 しかし。

 

「ナンダ? イマノハ?」

 

 鬼は倒れない。

 

 それどころか躯体が揺らぐことすらなかった。

 

 平然としている。まるでダメージが入ってないようだった。

 

 常人なら脳震盪を引き起こして、ただでは済まない。

 

「……なっ!?」

 

 嘘だろ?俺の攻撃が全く通じてない。

 

 今の打撃はタイミング、威力、スピード、どれも完璧だった。

 

 普通ならぶっ倒れている。

 

 それなのに効いていないとなると。

 

 いや、それよりも攻撃だ。手数を繰り出してひたすらダメージを与えることに力を入れよう。

 

「これならどうだ!?」

 

 顎を打ち砕くような蹴りが鬼の顔面に入った。

 

 しかし、さっきよりも鬼の躯体が揺らぐ、蹴りの威力が強かったのか。

 

 しかし、それは誤りだった。

 

 恐らく鬼も一瞬の出来事で何が起こったのか理解していないだろう。

 

 種明かしはこう。大和は蹴りの前に右ストレートの一撃を放っており、その後の第二の蹴りを放ったのだ。

 

 そう、大和は二回の攻撃をほぼ同時に放ったのだ。

 

「今度こそ……」

 

 しかし、鬼は躯体が揺らいだだけで、別に何ともないような状態だった。

 

 それどころか、爪でポリポリと頬を掻いてるだけだった。

 

(俺の攻撃が通用しない!? 一体どんな耐久力だよ、妖怪って奴は?)

 

 常人なら一撃でKOできる打撃だ。そんな生易しいものではない。

 

 普通なら立っていられない。脳震盪を起こしてエライことになるはずだ。

 

 しかし、この鬼はそんな打撃を何度も喰らっても平気でいる。

 

 耐久力が桁外れなのか、それとも俺が単に弱すぎるのか。それは今は考えている余裕はない。

 

 焦りを感じている。

 

 このままダメージを与えること無く、スタミナが切れて動けなくなるのはとてつもなくやばい。

 

 それは死を意味する。

 

 大和がずっと攻撃を繰り出している中、鬼が大和を仕留めようと反撃を仕掛けてくる。

 

 右手を掲げて、大和の身体目掛ける。

 

 大振りに振るわれた攻撃だった。

 

 単調でシンプルな攻撃、普段の大和なら避けられるほど。

 

 況してや大和は心眼を持ってる。避けられるはずがなかった。

 

 しかし、今は攻撃を仕掛けることに必死になって、心眼を使う暇も余裕もなかった。

 

 鬼の鋭利な爪が大和を襲う。

 

 胸を引き裂かれ、肉が抉られる。

 

 傷口から鮮血がほどばしり、割けた肉が剥き出しになる。

 

 しかし大和は止まらない。動き続ける。

 

 左右スムーズに打撃を放ち、なんども顔面を殴打する。

 

 全力で殴った。

 

 大振りで、単調な打撃。

 

 必死に殴った。

 

 休む暇もなく。

 

 蹴りも何度も入れた。

 

 常人なら一撃で気絶するほどの蹴りを何度も、何度も。

 

 しかし、鬼は倒れない。

 

 攻撃がまるで効いていない。ダメージはほとんど入ってない様子だった。

 

 反撃の返し、鬼が攻撃を仕掛けてくる。

 

 鋭い爪が大和の左腕を襲う。

 

 対処できなかった。そんな余裕はなかった。攻撃に手一杯でそれどころではなかった。

 

 鋭い爪が大和の左腕の肉に深く食い込み、骨を断たれ、引き裂かれる。

 

 そして気付いた時には。

 

 左腕が切り落とされた。

 

 もう感覚は無い。指も無い。肘も無い。まるで最初から無かったような感覚だった。

 

 痛みもなかった。

 

 いや、大量アドレナリンが分泌されて痛みを感じないのか。

 

「腕の一本ぐらいくれてやるっ!」

 

 腕が斬り落とされたぐらいでどうってことない。それよりもこの化物に勝つこと、それが最優先ですることである。

 

 腕や胸から鮮血を撒き散らしながら、大和は殴り蹴り続ける。

 

 このまま動いていれば出血多量で死ぬのにも関わらず。止血しないと動けなくなるのにも関わらず。

 

 関係なかった。

 

 どちらにしても、こいつを倒さなければ死ぬ。止まったら喰われる。

 

 自分に選ぶ道などなかったのだ。

 

 化け物を倒すことだけに集中していた。

 

「うおぉぉっっ!!!」

 

 殴る蹴るのスピードが加速していく。

 

 全力で殴った。渾身の力を込めて。

 

 力を振り絞って蹴った。体力が限界を迎えようとしても。

 

 勝つために、フルパワーで攻撃を繰り出した。

 

 だが、無防備に喰らっているのにも関わらず、鬼には一切のダメージは入らなかった。

 

 蚊に刺された程にも感じていなかったのか。

 

 大和の攻撃を幾ら受けても動じない。

 

 そして、大和の運命を左右する鬼の反撃が始まった。

 

「ウットウ……シイ……」

 

 鬼は爪を立てて、大和の胸を目掛ける。

 

 鋭い爪が襲い掛かり大和の胸を貫く。

 

 まるで日本刀のように鋭い爪が分厚い胸筋を通り越し、胸骨を砕き、心臓まで到達する。

 

 そして最終的には背中まで簡単に貫通してしまう。

 

 その直後、大和の身体に異変が起こる。

 

 嘔吐のような感覚で、込み上げてきた物が口の中に一杯になる。

 

 口の中に広がったのは生温かい塩気と鉄のような味の流動体だった。

 

 口の中の液体の正体は血だった。

 

 我慢できずに大和は大量の血を吐き出す。

 

「あがっ!!」

 

 吐いた血が口に滴り、顔の下半分が血で染まった。

 

 鬼は腕を引き抜く。

 

 大和の胸から大量の鮮血が吹き出す。

 

 大和は地面に沈んだ。

 

 その場に倒れたのだ。

 

 心臓は完全に潰された。もはや助かることは無いだろう。

 

 もはや息はしていない。心臓も無いので鼓動も聞こえない。

 

 動く気配もない。生気もない。まるで屍のようだった。

 

 瞳に光はない。虚ろな目をしてい

 

 しかし、まだ脈がある。生きていたのだ。

 

 動く気配はない。おそらく力は残ってないだろう。

 

 暫くすれば何れ死ぬ。脈は止まり、脳死もする。

 

 

 

 草薙大和、幻想郷にて鬼に敗北。死を迎える。

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