古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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六話 幽々子と買い物

 食器を片付け終えると、武尊はどこかへ行き、和生は自室へ、草薙夫婦は海外へ行く身支度をしに行った。

 

 茶の間に残ったのは大和と幽々子の二人だけである。

 

「さて、腹拵えも終わったことだし」

 

 幽々子を置いて、大和はゆっくり立ち上がると自分の部屋に行く、そして服をマイペースに着替えると、ついでに自分が着るものとは別に新しい長袖シャツとジーンズを持ってリビングに戻って来た。

 

 そして大和は隣の部屋から持ってきた衣類を幽々子の前にスッと差し出す。

 

「ほらよ幽々子さん、出かけるからこれに着替えな、それとも男物の服は嫌か?」

 

「いえ着るわ……ありがとう」

 

 大和から差し出されてた服を幽々子は物珍しそうな表情で受け取った。

 

 それから大和がテーブルの前に座ると同時に幽々子は立ち上がって別の部屋に向かって歩く、そして部屋に入る前に笑顔を浮かべて大和を見た。

 

「大和、覗いたらだめよ」

 

「……ぶっ! 覗かねぇよ!!」

 

 顔を真っ赤にして大和がツッコミをいれると幽々子は部屋に入って静かにドアを閉めた。

 

 数分後、幽々子は大和に手渡された服に着替えると、恥ずかしそうに少し顔を赤くしながらリビングに戻って来た。

 

 今まで水色の和服を着ていたせいなのか、幽々子がシャツやジーンズなどの現代の服を着ると何か新鮮味が出ているような気がした。

 

「どうかしら大和?」

 

「男物だけど、普通に似合ってるぞ」

 

 しかし幽々子は胸やお尻のサイズが服に合わないのか、少しキツそうに服を着ている

 

 女性の体に興味なさそうに振る舞っているとはいえ大和も健全な男子高校生、男物の長袖とジーンズがパツパツになるほどの幽々子の大きな胸と尻をチラチラと頬を赤らめて何度も見る。

 

「ねぇ大和、胸とお尻が少しきついんだけど」

 

「服を買うまで我慢してくれ」

 

 そのとき、偶然にも部屋を通り掛かった武尊が笑顔を浮かべながら二人に近寄って来た。

 

「おぉゆゆちゃん、胸と尻がパツパツで中々エロイじゃん、男でも誘いに行くのか?」

 

 その発言を聞いた幽々子が恥じらいの表情を浮かべると武尊は益々笑顔になる。 まるで可愛い女の子が恥ずかしがる顔を見ることが好きなんだと言わんばかりだ。

 

「見んじゃねぇよ!!」

 

 武尊がからかいながら部屋に入ってくると、今の発言にぶちギレたのか、大和は武尊の顔面に向かって右ストレートを放った。 しかし

 

 不意討ちにも類似した右ストレートを、武尊は紙一重で難なく避ける。まるで端からわかっていたかのように。

 

「バーカ、てめぇのパンチなんて当たらねぇよ」

 

 パンチを避けた後、武尊は歯向かってきた大和のボディー、厳密には鳩尾に向かって容赦なく抉るようなパンチを叩き込んだ。

 

「がはっ!!」

 

 的確に叩き込まれた武尊の打撃は言うまでもなく大和を呼吸困難に陥らせ、大和は苦しみのあまりに鳩尾を抑えながら踞ってしまう。

 

 そんな踞って苦しむ弟を目の前にしても武尊は一切同情はせず、寧ろ冷徹な視線を向けながら大和に対してこう言った。

 

「恐れ知らずも大したものだか、死にたくなかったら相手の力量を理解してから闘いな」

 

 そう言うと反撃をしたうえに、幽々子を見て満足したのか、武尊は笑顔を浮かべながら逃げるように部屋から立ち去ろうとする。 まるで気紛れな猫みたいな奴だ。

 

「じゃあな、せいぜい気を付けろよ」

 

 武尊が立ち去った直後、大和はふらふらとしながらも立ち上がり、未だに残ってる鳩尾の痛みに耐えながら何とか呼吸をする。

 

 だが、そんな苦痛よりも拳が当たらなかったことがよほど情けなかったのだろう。大和は悔しそうな表情を浮かべながら握り絞めた拳を見つめる。

 

「ちくしょう、なんで当たらねぇんだよ」

 

 いつもそうだ、何故か武尊には俺の攻撃が不意討ちを含めて絶対に当たらない。それは今始まったことではなく昔からそうだった。

 

 苦しんでいた大和を見て心配の色を隠せなかったのだろう、心配したような表情を浮かべながら幽々子は大和に話しかける。

 

「大和大丈夫?」

 

 あれでも武尊は手加減してくれたうえに、持ち前の回復力があったおかげか、苦痛の表情は消え去り、大和のダメージはすぐに回復した。

 

「あぁ、問題ない。 それよりも出かけようか」

 

「はーい、しゅっぱーつ」

 

 非常に切り替えが早く、無邪気な子どものような笑顔で幽々子が元気良く返事をすると、二人は玄関に向かい履き物を履いて家を出た。

 

 もちろん出かける前に大和は忘れずに家の鍵を閉めると歩いて屋敷を離れていった。

 

 昨日二人が初めて出会った公園を横通るが、大和は昨日不良と喧嘩した公園の方向には行かずに別の場所に向かう。

 

 幽々子にはまだどこに行くかは教えていないが、大和が向かっていたのはこの辺の近くにあるショッピングモールだった。

 

「ねぇ大和、どこに向かってるの?」

 

「さぁな?」

 

「もういじわる、教えてくれてもいいじゃない」

 

「まぁ着いてからのお楽しみだ」

 

 

 

       《少年少女移動中》

__________________________________________________

 

 

 数十分後、何もなく二人はショッピングモールの目の前まで到着した。

 

 休日なので駐車場には車、ショッピングには多くの人達が混んでいる、生まれて初めて見る大きな建物を幽々子は見ると驚きを隠せず無邪気な子どものようにはしゃいだ。

 

「着いたぜ」

 

「すっごーい、大きい建物ね」

 

「じゃあ中に入ろうか」

 

 まるで恋人同士のように体を近くに寄せ合わせながら大和と幽々子の二人らショッピングモールの中に入って歩いている。

 

 そんな二人を見て、通りすがる知らない男達は余程気に食わなかったのだろう。大和を睨んでこそこそと何か言いながら舌打ちをする。

 

「ちっ! なんだよ……」

 

「あいつだけ……」

 

 通りすがる男達はおそらく大和が美人の幽々子と引っ付いていることが気に入らなくて、嫉妬しているのだろう。

 

 しかし大和はそんなこと気にしても疲れるだけだとわかっており、ただ男達を哀れだと思い微塵も相手にはしていなかった。

 

 大和はまず幽々子が着るための服を買うために、二人は女性の服がある場所へと向かった。

 

 すぐ近くにあったので時間はそんなに掛からずに女性の服があるコーナーの目の前まで二人はやって来た。

 

 着物以外目にしたことがない幽々子にとっては新鮮な光景だった、生まれて初めて見る洋服が綺麗に並べられていたのだから驚きもする。

 

「すっごーい、いっぱいあるのね」

 

「ほら、さっさと早く選ぼうぜ。恥ずかしくて死にそうだわ」

 

 女性の衣類コーナにいて恥ずかしがる大和、一刻も早くこの場から去りたいと言わんばかりだ。

 

 早速、幽々子は自分に似合いそうな服を選び初めると、そのあいだに傍にいた大和は暇そうに幽々子が服を選ぶところを眺めていた。

 

(まったく、楽しそうにしてるな)

 

 その後、どれだけ待っただろうか、何分? 何十分? いやもう何時間も経ったのかと思える程、幽々子は飽きずにまだ楽しそうに服を選び続けている。

 

 大和もそろそろ待っているだけではいられず、イライラしながら幽々子にこう言った。

 

「どんだけ服選ぶのに時間掛けてるんだよ!?」

 

「ごめんね大和、私に似合いそうな服はいっぱいあるけど、ほとんどサイズが合わないの……主に胸がパツパツで」

 

 服の上からでもはっきりと大きさがわかる幽々子の豊満な胸をチラッと一瞬だけ見ると頬を赤らめながらすぐに眼を逸らす。

 

「そっ……そうかよ、ちなみに聞くけど後どのくらい掛かる?」

 

「ん~……半(三十分)くらいかな?」

 

「そんなに待てるか!」

 

 当然のことのように言ったの答えに対して大和は思わず速攻で突っ込んでしまった。

 

「ウソウソ冗談よ、もう少しで終わるから」

 

「……はぁ~ 頼むから早くしてくれよ」

 

 さらに数十分後、やっとのことで幽々子の服選びが終わり、疲れた顔で大和が支払いをしようとした瞬間、掛かった金額を見て思わず顔をしかめてしまう。

 

 ちなみに服に掛かった金額は……もう思い出したくないので言わないでおこう

 

「……はぁ~ やっと終わった」

 

「そう言えば大和、服は買ったから良いけど下着とかはどうするのかしら?」

 

 そんなことは今まで微塵も考えたことはなく、幽々子が言ってくれたことでようやく気がついた。

 

 しかしだからと言って、まだ人生を終わらせたくない大和は幽々子と二人きりで女性用の下着コーナーへは絶対に行きたくなかった。

 

「いっけねぇ、それは考えてなかった」

 

「じゃあ今すぐ下着コーナーに……」 

 

「言っとくけど俺は行かねぇぞ幽々子さん、金渡すから一人で行ってきてくれ」

 

「ダーメ、ほらいきましょう」

 

 逃がさないようすぐに幽々子は大和の右手をがっしりと掴む、もうすでに大和は逃げることは出来ない。

 

「やめろ! 離してくれ! 俺はまだ死にたくはねぇんだよ!」

 

 幽々子は楽しみながらノリノリで子供のように嫌がる大和の手を引っ張ると下着コーナーまで無理矢理連れて行く、そして下着コーナーの目の前まで二人は来ると、もはや大和は抵抗する気も失せて、幽々子に連れていかれるがままに行った。

 

「はぁ~、マジで来ちまったよ」

 

 絶望している最中、下着コーナーの店員さんがこちらにやって来た。

 

「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件で?」

 

「えぇと、この子の下着の買いに」

 

「わかりました。それじゃあお客様、サイズを合わせますのでこちらにいらしてください」

 

「はい、でも大和は?」

 

「そこまで行けるかぁ!」

 

 その後、幽々子に一緒に行こうと何度も誘われたが、まだ社会的に死にたくなければ色んな意味で人生を終わらせたくない大和は全力でその誘いを断固拒否し続けた。

 

(ここまで俺を連れてきた意味あったのか?)

 

 幽々子と店員の二人は大和を置いて下着コーナーに行き、大和はさっき買った服を手に持ちながら一秒でも早くこの場から離れたいと思いながらずっと待った。

 

 その数十分後、下着選びよりは早く終わり、二人は選んだ物を手に持って戻ってきた。

 

 顔を赤らめながら大和は会計を済ませると、大和は幽々子の手を掴んで逃げるようにその場から離れた。

 

 このとき、大和に強引に引っ張られた幽々子は満更でもなかった模様。

 

「さてと……この後どうするか?」

 

「ねぇ大和、おなか空いたわ」

 

 幽々子がおなかを空かせるのも無理はなかった、近くにあった時計を見てみればもうお昼は過ぎている。

 

「そうだな、じゃあ近くのバイキングで飯にするか」

 

そう言うと二人は近くにあるバイキング店に行き、運が良くも席は空いてあり二人はすぐに昼御飯にありつけられる。

 

 ここなら食べ放題なので、幽々子も満足できるし何よりも軽い出費で済むから大和はバイキングを選んだ。

 

 ちなみに店が潰れるような惨劇が起ころうとも、大和はそのことに関してのことは一切考えてはない。

 

「ほら、食べ放題だから腹一杯になるまで食っていいぞ」

 

「うわぁ~、美味しそうな食べ物がいっぱいあるのね」

 

 朝と同様、おなかが空いていた幽々子は尋常ではない量の料理を持ってくると、ペロリと一人で平らげる。

 

 こんな細い体のどこに入っていくのかと、料理を食べながらも大和は唖然としながら見ていた。

 

(相変わらず良く食うよな)

 

 呆れながら大和は皿に乗っていた食べ物を全部平らげると、朝飯を食べ過ぎたせいかあまり食べていないがすぐ腹一杯にはなった。

 

 ちなみに食べ物コーナーを見てみると、ほとんどの料理が綺麗サッパリ壊滅的になくなっていた。

 

「ごちそうさん」

 

「とてもおいしかったわ」

 

 みんな満足したところで大和は会計を済ませる、店員が涙目になっていたがそこは触れないでおこう。

 

 大和も幽々子の着る服を買うなど目的のことはすべてやり、そのうえ腹ごなしもしたので、ショッピングモールに長居は無用だった。

 

「さてと幽々子さん、帰るか」

 

「うん、今日はとても楽しい日だったわ、ありがとう大和」

 

「そうか……それは良かったな」

 

 よく考えてみれば、女の子と一緒に買い物をしたり飯を食ったのは生まれて初めてだったことに大和は気がつく。

 

 このとき表情にも口にも出さなかったが、幽々子とデートのようなことができて大和はとても嬉しかったようだ。

 

 まだ照り返す夕陽が顔を出しているが、二人もショッピングモールを出ると夕焼けに照らされながら自分の家に向かって仲良く帰って行った。

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