古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
白玉楼の一室にて。
「……あれ?」
目を開けてみると、写ったのは見たことがある天井だった。
自分が住んでいる白玉楼の天井だった。
目を覚ますと飛び上がって身体を起き上がらせる。
どうやら俺は布団の上で眠っていたらしい。
「なんで俺は生きてんだ?」
確か俺は鬼にやられて。
心臓も壊されて、もう死ぬ寸前だったはずじゃ。
慌てて着物を解いて、自分の胸部を見る。
しかし、胸部に穴はない。傷跡はあるが、完全に塞がっている。
心臓も動いていた。破壊されたはずの心臓が。
鼓動を感じる。生きている感じがする。
それに切られた左腕も元通りになっている。感覚もあるしちゃんと動く。
自分の傷を見終えると大和が近くに誰かがいることに気がつく。
傍には幽々子、妖夢、八雲紫の三人がいた。
幽々子は心配そうな顔で大和の傍に。
妖夢は気に病んだ表情で正座をしている。
八雲紫はいつもと変わらない。平然としている。
傍に居た幽々子が泣きじゃくりながら大和に抱き着いた。
「良かった。目を覚まして……心配だったんだから……」
「ごめんな幽々子……心配させて。」
取り敢えず謝った。
そして、幽々子の頭を優しく撫でる。
鉄砲弾のように子供を助けるために飛んでいって、次に会った時には瀕死の重体で再開したのだから。
正直、殴られても良いぐらいのことはしている。
「この通り、身体には何の問題も無いからさ。安心してくれよ。」
その言葉を聞いた瞬間。幽々子と妖夢の空気が凍りついた。
まるで言ってはいけないことを口にしてしまったと言わんばかりに。
幽々子は作り笑顔で額に冷や汗をかきながら、内心でちょっと焦っている。
妖夢はとても気まずい表情をしている。顔色も悪くなっている。
二人とも何かあったのかと、大和は内心で心配になる。
「えぇ〜と……大和、身体のことなんだけど。」
「どうした? なんかあったか?」
「大和さん。これを見てください。」
妖夢が手鏡を大和に向けて、自分の姿を見せる。
そこには驚きの光景だった。
最初は自分が写る鏡に夢中で何が変わったのかわからなかった。
しかし、変化に気づくと、思わず鏡を二度見してしまう。
「……へっ? えぇっ!!??」
髪や目が変わっていたのだ。それも誰でもわかるようなほどに。
思わず大和は自分を二度見した。
「なんで、こんな事になってんだ?」
髪は真赤になっている。それに瞳の色も赤くて瞳孔が猫のように開いている。
一体何が起きているのか、大和は理解できなかった。
俺は髪を染めた覚えはないし、カラーコンタクトレンズを入れた覚えもない。
いや、それどころか瞳の形が猫のように瞳孔が開いている。
整形やイメチェンの次元の問題ではない。もはや改造のようなもんだ。
大和ば自分の髪や顔を触ったりする。
「俺……どうなっちまったんだ?」
「大和……それは……その……」
「貴方はもう人間じゃないからよ。」
そう答えたのは八雲紫だった。
今なんて言ったんだ?
人間じゃないと言ったのか。
自分の今の状態を理解できなかった。
突然そんな事を言われても。
大和の頭は混乱していた。
相手の感情を一切考えずに、淡々と大和が今置かれている状態を話す。
「今の貴方は人間じゃない。人間と妖怪のハーフ。つまり半妖ってことね。」
「……半妖?」
半妖とは。主に人間と妖怪の間に生まれた子供のこと言う。しかし例外として、人間が妖怪の力を取り込んだりして半妖になることもある。
某漫画で例えると、先天性の半妖が犬夜叉、後天性の半妖が奈落と言ったところか。
大和は後者の存在だった。
後天性の半妖と言ったところか。
妖怪の臓器移植、しかも血液を身体全体に循環させる大切な役割のある心臓を移植したのだ。ほぼ九割の確率で妖怪になる。
あの時、心臓を破壊され、蘇生を試みる時点で大和は半妖になる運命だったのだ。
「そう。死ぬ直前に私が臓器移植をして蘇生させたの。その代わりに移植した臓器が妖怪の物だったから、副作用で半妖になったの。」
鬼に倒された後、八雲紫が死ぬ寸前で大和を助けたのだ。
しかし、人間のままでは助からなかった。適合する心臓が無かったのだから。
その代わり、妖怪の臓器は拒絶反応が少なく、適合する可能性があったのだ。
すぐに移植をしなければ死んでいたので、仕方なく妖怪の臓器を移植して大和を助けたのだ。
しかし本人からすればとんでもないことだった。
生き延びるためとは言え、その代償として人間を辞めることになったのだから。
にわかには受け入れがたい出来事だが、これが現実だと突きつけられた。
大和は唖然とした表情を浮かべていた。
「おいおい……嘘だろ?」
「移植したものが心臓だったからね。半分妖怪になるのも無理はないわ。」
大和は呆然としていた。
何も言わなかった。文句も反論も何も。
それどころでは無かったからだ。
人間では無い以上どうなるのか、どうすれば良いのか全く理解できなかったからだ。
しかし、そんな大和のことも知らずに八雲紫は淡々と話しを続ける。
「まぁ、助けただけ有り難いと思いなさい。もし臓器移植をしなければ死んでたのだから。」
「…………」
「改めてようこそ大和。同族として歓迎するわ。」
これで大和も半分は自分と同じ妖怪。
これから半分は人間から畏れられる存在。半分は妖怪を畏れる存在となったのだ。
この先、幸せになるのか、不幸になるのかは本人次第。
運命は自ら切り開くもの。
だから、同族としてわからないことはアドバイスはするが、運命を決めることはしない。
「貴方が無事なのわかったから。私は帰って寝るわ。
それじゃあね。幽々子」
「待たね紫」
そう言われると、八雲紫はスキマを開いて自分の住処に帰ろうとする。
大和が無事な以上、もう長居する必要はない。
まぁ、幽々子とお喋りをするのも良いが。どうにも眠たくてそれどころではなかった。
「待ってくれ。」
八雲紫が帰ろうとした直前に、大和が呼び止める。
一旦帰るのを止めて八雲紫は大和の方を向いた。
「どうしたのかしら?」
「あの……その……取り敢えず……ありがとう。助けてくれて。」
お礼を言った瞬間、八雲紫は笑顔になり、こう答えた。
「友人の夫なんだから当然でしょ?」
友人を悲しむわけにはいかせない。
どんな形にしても、生かさないといけないと思ったからだ。
自分の選択肢は間違っているとは思っていない。
大和を半妖にしたのも、最善の対策と思っている。
「あと気をつけてね。半分妖怪でいる以上、今までの普通の生活はできないわよ」
「……あっ? あぁ……」
八雲紫の言っている意味がわからなかった。
何が変わっているのか、見た目以外はわからなかったからだ。
そう言い残すと、八雲紫はスキマの中へと入り込み。この場から立ち去った。
八雲紫がいなくなる。
すると大和は布団の上から立ち上がった。
「取り敢えず外の空気吸ってくるわ。」
「私もついていくわ。」
大和が心配だったのだ。
半妖になって、これからどんなことが起きるのか。
そして、鬼との闘いで重傷を負ったのだ。後遺症が残っているかもしれない。
だから、今は大和の傍に居てあげたい。
もしも、突然身体に異変が起こっても。傷口が開いて苦痛に藻掻いても助けれるように。
「そうか、ありがとな。」
二人は部屋を出ていく。
《〜白玉楼、庭にて〜》
もうすでに夜遅くなので空は薄暗い紺色の空に広がって所々に雲が見える、それにふと空を見上げてみれば薄暗い空を照らす美しい満月が昇っており、現世ではまずお目にかかれない白い人魂が縦横無尽に漂い続けている
白玉楼の美しい枯山水の中庭の真ん中で二人は仲睦まじく歩いていた。
「なんか、良い気分だな。」
「身体大丈夫?」
「別に何ともねぇよ。」
身体はどこも痛くはない。
後遺症も残っているような感じもしない。
それどころか、何か身体が軽くなったような気がする。
前よりも軽やかに動けるような感じがした。
しかし体重も落ちてる様子もない。筋肉も衰えているような感じもしない。
どうして身体が軽く感じるのか。今の大和にはわからなかった。
「軽く動いてみるか。」
「無理しないでよね」
「大丈夫だって。よっと。」
軽くその場から飛んでみる。
本当に軽い気持ちだった。
普段のようにウォーミングアップをするように軽く飛び上がったのだ。
すると、悲劇が起きた。
「……あら?」
軽くジャンプしたつもりが、かなり高く飛んでいた。
それも数センチの問題ではない。軽く五メートル近くは飛んでいる。
下を見ると地面が遠かった。
地面に立っている幽々子からかなり離れている。
高さが最高到達点に達すると、そのまま落下していく。
地面から五メートルも離れているのだ。落下する速度はかなり速かった。
「まてまてまて!!」
何が起こっているのか理解できなかった。
慌てて身体を揺らす大和。着地することを一切考えていなかった。
そのまま大和は地面に叩きつけられる。
地面と肉がぶつかる鈍い音が響き渡る。
五メートルから地面に叩きつけられたのだ。普通の人間なら無事では済まない。
倒れたまま一時的に大和は動かなくなった。
幽々子は慌てて倒れた大和の元に駆けつけて、身体を揺する。
「ちょっと大和!? 大丈夫!?」
「死ぬかと思ったっ!!」
普通に大和は起き上がった。
しかし、流石に驚いた表情をしていた。
「大和……身体は大丈夫なの?」
「……あっ? そういえば何ともねぇな。痛くねぇし。」
身体は無事だった。
ぶつかった箇所はどこも痛くない。
あんな高所から落ちたら、ただでは済まないはずなのに、普通に何とも無い。
「でもなんでこんなことが……?」
それよりも、なんで人間離れした跳躍ができたのか?
軽くジャンプしただけなのに。
普段のような軽い気持ちでやっただけなのに。
なんで垂直跳びで数メートル以上も飛ぶことができるのか。
身体能力が向上していると言う次元ではない。
明らかに人間の領域を超越している。
「とりあえず、試してみるか……今のが何回も起きたら身体が持たねぇよ。」
一体どれだけ自分の能力が上昇しているのか、知る必要がある。
さっきのように力の加減の調整を間違えて、投身自殺のようなことをしていると、絶対に怪我をしたり、下手すれば死ぬ可能性がある。
しかし、身体が前よりも頑丈になっていることは確かだ。
それに自分の身体能力がありえないくらいに向上しているとなると、色々と試したくなる。
どこまでできるのか、どこまでが限界なのか。
知りたい。今の自分がどれだけ強くなっているのかを。
大和の目に写ったのは庭にある巨大な岩だった。
少なくとも一トン以上あるのではないのか。かなり大きな岩だ。
岩は大和よりも圧倒的に大きい。
大和は大岩に歩いて近づく。
「……まさかな?」
この大岩を持てるというのか。
腕力が変化しているとは思えない。
力が増しているという感じもしない。
しかし、試してみる価値はある。
自分の腕力の限界というものを。
人間の時ならこんな物、持ち上げるどころか動かすことはできないだろう。
そんなことができるのは、神話に登場する半神の英雄など幻想の存在だけだ。
大和が岩を抱えて持ち上げようとする。
軽く力を入れただけだった。
ゴゴゴと音を立てて、岩が持ち上がった。
一トンを超える大岩を大和が持ち上げたのだ。
その腕力はもはや人間の域ではない。人外の領域にある。
「嘘だろ!? 持ち上がった。」
持った自分が驚いていた。
まさか持ち上がるとは思っていなかったからだ。
しかも軽々と持ち上がった。
まだ余裕があるくらいだ。
全力を出している訳ではない。恐らくまだ半分の力も出していない状態だった。
ゆっくりと大岩を元の位置に戻す。
自分の腕力が恐ろしかった。
下手すれば人を軽く叩いただけで殺せるのではないかと思わせるほど、桁外れのだった。
跳躍、腕力は大体理解した。
あとは素早さだ。
試しに縮地走法をやってみよう。
今までなら妖夢のように瞬間移動はできなかったが、高速移動は可能だった。
筋力が異常なまでに増しているのだ。
もはや人外の領域。
その筋力で技を使ったらどうなるのか、大和は気になっていた。
身体の力を抜いて脱力させる。
そして足に力を込めた瞬間。
大和がその場から消えた。
そして次に姿を見たときは十メートル先の場所に立っていた。
妖夢と同等のスピードだった。何の遜色もない。
大和はありえないほどのスピードも手に入れていたのだ、
「……どうなってんだよ? 俺の身体は?」
色々と試してはみたが、やはり驚きの連続だった。
大岩を持ち上げる剛腕。ありえない跳躍、人の領域を超えた敏捷性。
大和の身体能力はもはや人外のレベルになっていた。
見た目だけではなく、肉体も変化していたのだ。
八雲紫の言っていることがようやくわかったが気がした。
これで普段の生活をしていれば、物を壊すことはもちろんのこと、下手すれば人を簡単に殺してしまう可能性がある。
とんでもない。身体能力を手に入れてしまったのだ。
「これが半妖の力よ。」
妖怪の力はとても強大で恐ろしく、人知を超えた能力でもある。
半分とはいえ、妖怪になってしまったのだ。これぐらいの身体能力は当然のことである。
更に大和は人間の頃から超人的な身体能力を持っていた。それに更に妖怪の血という拍車が掛かって、とんでもないことになっているのだ。
今の大和は超常的な存在に成り代わったのだ。
「喜んで良いのか。悲しめば良いのか。わかんねぇな」
偶然とはいえ、強さを手に入れた。しかし人間ではなくなった。
強さを得たことに喜ぶべきなのか、それとも人間ではなくなったことを悲しむべきなのか。
あまりにも情報量が多すぎて、大和は理解出来なかった。
人間を捨てて、半妖になった大和。
果たしてこの先、どんな運命が待っているのか。