古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
大和が半妖になってから数日のこと。
あれから後遺症も無ければ、特に不自由することなく生活していた。
心臓もちゃんと機能している。
いつものように妖夢の指導の元で修行している。
走り込み、素振り、筋トレなどなど、内容はほとんど変わらない。
変わったことと言えば、その修行を終える時間がほぼ半分以下の時間になったことぐらいか。
もっと走り込みの距離とか伸ばしたり、素振りの回数やらないといけないな。
あと強いて言えば、修行の一つに剣術や体術が足されたぐらいか。
妖夢の剣術や体術は人間にはほぼできないものが多い。
できたとしても、かなりの劣化版になってしまう。
前の自分であれば出来ないことの山積みになっていただろう。そう思う。
だが、今は違う。
半妖になったことで肉体があまりにも強化されすぎたのか、大体見れば習得してしまうのだ。
異常な飲み込みの速さ、そして瞬時に技術を理解してしまう。二つの天賦の才能。
そこに人間離れした半妖の加わって、今の大和に出来ないことはほとんど無くなった。
それには師匠である妖夢も驚きの連続だった。
突然、自分の弟子が人間を辞めて、自分よりも遥かに上回る身体能力を手に入れたのだ。無理もない。
あらゆる自分が持つ技術を瞬時に取り込まれたのだ。
もはや師匠の自分は必要ないのでは?と思うほど、弟子の大和は急成長を遂げていた。
「凄いですね。私の技をほとんど覚えるなんて。」
「偶然だよ偶然。半妖になったことで出来たことだし。」
「それにしてもです。大和さん、飲み込みが異常に速いんですもの。」
「そうか? みんな大体そんなもんだろ?」
大和の言うみんなと言うのは、兄の武尊や師匠の紅虎そんのことを指している。
あの人等の飲み込みの速さと技術の理解度は次元が違う。
俺なんかまだまだ全然と言う所だ。
「はぁ……」
突然、大和がため息を漏らす。
「どうしたんですか?」
「……いや、ちょっとな。」
どうやら大和にも悩みがあるようだった。
言わなくても顔がそう言っている。目は口ほどにものを言うと言うが、まさにその通りだ。
弟子である大和が悩んでいたのだ。
師匠である自分が何か出来ないものなのかと妖夢は思う。
大和に寄り添うように、妖夢は大和の悩みを聞こうとする。
「なんですか? 私に相談できませんか?」
「その……武器が欲しいと思ったんだよ。」
半妖になったことで人間の時とは桁外れの身体能力を手に入れた。
人間を捨てたことで強さを手に入れたのだ。
それは申し分無い。
そう考えると、あと自分に足りないものは何か。
半妖になったあと、すぐに気付いた。
それは武器だった。
自分の愛用の武器、鉄刀は鬼に壊された。
今の自分に武器と呼べるものは肉体しか無い。
いや、正直なところ肉体だけでも十分だとは思う。
でも、やっぱり丸腰では不安だ。
幻想郷にはまだ知らない強敵が沢山いるであろう。少なくとも俺よりも強いやつは幾らでもいる。
素手だけでは勝てない相手もいるだろう。
なんか、武器が欲しい。
「それなら里で買ったら……」
「それじゃあ駄目なんだよ。使い捨てになっちまう。」
普通の武器では駄目だ。
今の俺なら日本刀でも簡単に壊れてしまうだろう。多分、頑丈さに特化させた鉄刀でも壊れる可能性がある。
前よりも頑丈でなければいけない。
自分が使っても決して壊れないような強靭で強い武器を。無窮とも呼べる武器が。
使い捨てではなく、自分専用の武器が欲しい。
これは難題だろう。これを解消してくれる人物がいるのか不安になってしまう。
「だったら私が与えようかしら?」
背後から聞き覚えのある声が突然聞こえてくる。
後ろを見てみると、スキマの中から身体上半身を出して、姿を現したのだ。
「だから突然現れるなよ……心臓に悪いって……」
「紫様、与えると言いますと?」
「その言葉通りよ。私が大和に武器を与えるの。」
「どうしてまたそんな事を……?」
いつもの気紛れなのか、それとも武器を与えて大和に何かをさせる企みがあるのか。
その真相は八雲紫本人以外はわからない。
大和に武器を与えることが良いことなのか、それとも悪いことなのか。
素手で十分に強すぎる大和に、更に武器を与えることで更に強くさせるのは正直やり過ぎだとは思う。
「まぁ、半妖になった記念? 同族誕生のプレゼントって言ったら良いの?
まぁ、どっちでも良いわ。取り敢えず受け取りなさい」
そう言って八雲紫はスキマの中から一本の刀を取り出した。
この空間は本当に何でも出てくるな。どこかの金ピカの王様みたいな能力だな。と大和は思った。
スキマから取り出した刀を大和に渡す。
「これは?」
「名刀『斬』」
拵えは光沢のある黒鞘に、黒い皮巻柄、刀身は身幅が広くて重ねが分厚く、反りが浅い。
まるで同田貫や豪壮刀のようだった。
それに、刀が色々と大きいせいなのか、一般的な日本刀よりも遥かに重い。
しかし、どこを見ても普通の日本刀のようだった。
「試しに振ってみたり、そこの岩を斬ってみると良いわ。」
「……岩っておい。」
まさか、こんなただの日本刀のようなもので岩が斬れるのか?
その前に刃毀れしたり、下手すれば折れるのではないか。
まぁ、やるだけやってみよう。壊れても知らんが。
大和は構えを取る。
そして全力で刀を振るう。
風を斬るような音がした。
振るい終えた瞬間、強烈な破裂音も聴こえた。
大和の周囲に風圧が発生して、辺り一面に強風を撒き散らした。
大和は音速を超えた速さで刀を振るったのだ。
普通の日本刀なら音速には耐えられない。叩き折られているだろう。
しかし貰った刀を見ると。
「スゲェなこれ」
刀は無傷、折れてもいない。曲がってもいない。
俺は刀を壊す勢いで全力で振ったんだが、こいつの耐久力はピカイチだ。
鉄刀よりも遥かに頑丈な代物だ。
恐らく、かなり鍛え込まれた鉄で出来ている。
「まさかな……?」
近くにあった岩を見つめる。
もしかして斬れるのではないか。
もしも、この大岩を斬れたら。
俺はとんでもない武器を手に入れたことになる。
大和は大岩の前に立った。
刀を構える。
刀を全力で振るい、大岩を斬ろうとした。
刀身が大岩に触れた瞬間、まるで紙を斬ったかのような感覚を感じる。
するりと、まるで通り抜けるように大岩に刀身が食い込み、そのまま斬れていく。
そして刀を最後まで振り下ろした瞬間。
大岩は真っ二つに割れていた。
大和は大岩を見事に斬ることができたのだ。
「すげぇ……なんだこれ?」
驚きを隠さずにはいられなかった。
刀身を見ても、曲がってもいなければ、刃毀れも一切していない。
斬れ味が良いと言う次元ではない。
桁外れの頑丈さと恐ろしいほどの斬れ味だ。
しかもまだ大岩を斬れるような気がする。
何度斬っても刃毀れしなさそうだ。
何せ、大岩を簡単に斬れる。究極とも言って良い切れ味。
そして自分の剛腕に耐えること事ができる驚愕の耐久性。
どれを取っても、天下一品の代物。
至高の武器と言ってもいい。
恐らく、今まで自分の手に持った武器の中では最高で究極の一振りと断言できる。
こんな素晴らしいものを貰っても良いのかと不安になってしまうほど。
「こんな代物をどこで?」
「幻想郷でも知ってる人は知ってる。知らない人は知らない。有名な刀匠が作った逸品よ」
「それってあまり有名じゃねぇんじゃ……」
しかし、このような代物を作れるなんて、腕の良い刀匠と言うには烏滸がましい。正直失礼だ。
神話の武器や幻想物語に登場する武器のような代物を作っているのだ。もはや神の領域に達した国宝級の刀匠と呼ぶべきだ。
世界中どこを探してもいないだろう。
「まぁ仕方ないわね。その刀匠は山奥で一人暮らしてるから、姿を見せないの。」
「てか、その人何歳だよ。」
こんな凄くて恐ろしい名刀を作ってんだ。少なくとも人間ではないだろう。
妖怪もしくは、刀鍛冶に関する神様のような存在だろう。
それに対して、その刀匠に関してあまり情報を与えたくないのか、八雲紫はお茶を濁したような口ぶりで話す。
「いずれわかるわ。近い内に会えると思うから。」
今は教える時ではない。
その刀匠のことを知りたいのなら、自ら対面して色々と聞いたほうが良い。
いずれ、刀のことが知りたくて、刀匠に出会うことは目に見えている。
少なくとも、八雲紫はそう思っていた。
しかし、今の大和はそんな事はどうでも良かったのか、刀をずっと眺めていた。
まるで、初めて親に買って貰った玩具を眺めるように、大和の瞳は輝いていた。
無理も無い。こんな素晴らしい上等な武器を貰ったのだ。
戦う者として嬉しがらないはずがない。
「良いのか? こんな良い物をただで貰って?」
「良いのよ。別に私は使わないし。それに刀匠も使い手が見つかって喜んでると思うし。」
「そうか。ありがとな。」
上等な武器を貰ったことで変わったことがある。
それは大和の中で八雲紫の見方が変化したのだ。
今までは胡散臭くて、況してや俺を殺そうとしたので、こいつ悪いやつ、俺のことが嫌いだと思っていた。
しかし今は違う。
最高の物を与えてくれた。しかも無償で。
大和の中で八雲紫は悪い奴、苦手な奴から良い妖怪に昇格したのだ。
とてつもない単細胞である。
「それじゃあ私は帰るわ。幽々子に宜しくね。」
「あぁ、ありがとな。」
「じゃあねぇ〜」
八雲紫はスキマの中に入っていき、その場から姿を消した。
八雲紫がいなくなると、妖夢が羨ましそうな表情で大和に話しかけてくる。
「凄いですね大和さん、紫様から凄い刀を貰えるなんて。」
「俺もこんな良い刀貰えるとは思ってなかったよ。大事に使おう。」
こんな生涯に一度手に入るがどうかの代物、荒々しく使って壊すのは勿体ない。
戦闘で使うので多少の無理はさせるかもしれないが、出来る限り壊れないように大事に使おう。
新たに手に入れた新武器、名刀『斬』。
これが大和に齎すのは輝かしい勝利の数々なのか、それとも破滅へと導く不幸の物なのか。
それは誰にもわからない。