古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
午後のこと。
朝の鍛錬を積み
朝食を食べ。
午前の鍛錬を積み。
昼食を食べ。
今は夫婦で暇を持て余していた。
縁側でお茶を飲みながら、和菓子などを摘みながら。
至って平和な時間を過ごしていた。
ここまで何も無いと。退屈過ぎて何か刺激的なことを求めるようになる。
いや、別に幽々子と一緒にいる時間が嫌なわけではない。
「なんか面白いこと起きないかな?」
「そうねぇ〜」
だが、こういう時に起こることがある。
八雲紫だ。
こういう暇な時に八雲紫がやって来る。
そして、何か面白そうなことを提案してきたり、話などを持ってくることがある。
大和は薄っすらだが、それを期待しているようにしていた。
そして案の定。
「随分と暇そうね。」
「あら紫。」
「やっぱり来たか」
この通り、八雲紫がやって来る。
果たして、今日は何をしにこの冥界にやって来たのやら。
また人里に行こうとか。
それとも、また新鮮で新しい情報か。
「今日はどうした?」
「今日は家族を紹介したいと思ってね」
「そもそも家族なんていたのかよ。」
妖怪にも人間と同様に家族がいるのか。
それは初めて知った。
てっきり孤高の存在だと思ってたから。
「紹介するわね。出てきていいわよ藍」
八雲紫が合図をする。
すると、スキマの中から姿を現した。
気配から察知して人間ではなかった。
金髪のショートボブに金色の瞳を持ち、その頭には角のように二本の尖がりを持つZUN帽を被っている。
服装は古代道教の法師が着ているような服で、ゆったりとした長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せている。
それに腰からは金色の狐の尾が九つある。
古代中国の官職などがやる、腕を交互の袖の中に隠した格好をしている。
「初めまして。私は八雲藍、紫様の式神です。」
「俺は草薙大和。」
「紫様から存じております。最近半妖になった幽々子様の婿殿ですね。」
「半妖は余計だよ。為りたくてなった訳じゃあねぇし」
明らかに嫌そうな表情を浮かべながら、大和は八雲藍にそう言った。
確かに俺はもう人間ではない。間違ってはないことだ。
だが半妖って言われると、なんか改めて自分が人外だと言うことを突きつけられてなんか嫌だ。
人知を超えた力は手にはしたが、人間を捨ててると思うとなんか泣けてくる。
それにしても幽々子の婿ってか。
結婚したこと、既に情報が回っている。
まぁ八雲紫の式神らしいから、すぐに耳にはするだろう。
「困ったことがあればいつでも頼ってください。紫様の友人の婿殿なんですから。」
「それは助かることだけど、別に良いよ。どうせあんたの主人様が教えてくれるだろうし。」
「ですが、紫様の手を煩わせることはできません。私が代わって教授させて頂きます。」
今の短い会話でわかったことがある。
この八雲藍とかいう式神、相当頑固で忠誠心が凄まじいところがある。
自分の主に労力を使わせない。手間を取らせないためにそこまでやるのか。
正直、八雲紫への忠誠心と配慮に至ってはかなりのものだ。少なくとも人間では見たことがない。
主人に相当仕込まれたのか、単に独断でそういう判断をしているのかはわからない。
だが、自分には出来ないということは理解している。
「それじゃあ早速質問なんだけど。普通の妖怪って人間じゃあ勝てないものなのか?
俺は手も足も出ずに殺されかけたんだけど。」
意地悪そうに、大和は自分の経験談と今まで知りたかったことを八雲藍に向かって質問として問いかける。
しかし、あまりにも簡単すぎたのか、それとも考える事もなかったのか。
八雲藍は即座に大和の質問に対して答える。
「そうですね。今の外の人間では妖怪には勝てないと思います。大和様は人間の中でもかなりの強さを持っていたと聞いておりますが、それでも下級の妖怪でも正直勝てないかと。」
「それじゃあ俺が負けたのは必然と。」
「そうですね。大和様だけではなく。一部を除いて今の人間達はかなり弱いです。昔の人間と比べればの話ですが。」
「つまり昔の人間は比べもにならないくらい強かったのか?」
「はい。大昔、人間の侍が空飛ぶ龍を斬り落としたという伝説があります。それに妖怪を一人で容易に討伐する人間も昔は沢山いました。」
そんな化け物のような人間が沢山いたのか。一体どの時代の話をしてるんだ。
空飛ぶ龍を斬り落とした侍の人間なんて、それはもう昔話や神話の話になるだろう。
妖怪を一人で討伐できる人間なんか信じられない。
少なくとも俺よりも遥かに強い能力を持った人間なのだろう。
そんな化け物は確かに今の外の世界にはいないはずだ。
俺も妖怪と戦ったことがある。しかしあの妖怪がどのくらいの強さに分類されるのかはわからない。
しかしこれだけはわかる。
人間が妖怪に勝てるはずがない。これは断言できる。
並の人間よりも遥かに強いと言われた俺が殺されかけ、手も足も出なかったのだ。
並の人間ではダメージどころか、蚊に刺されたほどの痛みも与えることは出来ないだろう。
俺は駄目だったことは言っとく。
しかし、希望はあった。
俺よりも強い人間が少なくとも二人はいたからだ。
その二人が妖怪相手にどれだけ奮闘できるか、是非とも見てみたいものだ。
「ですが、今の大和様は半妖です。そこら辺の妖怪では手も足もに出ないでしょう」
「その根拠は?」
「人間が妖怪、もしくは半妖になる時、強くなるには大きく分けて二つほどあります。
より強大な力を持つ大妖怪の力を取り込む、もしくは人間の時の基礎身体能力も大きく関わりがあります。」
「つまり俺は元々身体能力が高いから。」
「妖怪の力を甘く見ないほうが良いですよ。少なくとも人間の時より数十倍は強くなってるはずです。人間では超えられない限界を容易に越えるので。」
確かに。
大岩を持ち上げたり、軽く飛んだだけで5メートル程飛んだりしたりした。
明らかに人間の域を超えた力は手にしてる。
人間の時には考えられない超常的な力だ。
「更に鍛えればその身体能力は青天井に上がります。永く生きて鍛錬すればほぼ永遠に強くなれると言うことですね。」
「それは良いこと聞いた。まだまだ俺は強くなれるんだな。」
その時、大和は不敵な笑みを浮かべる。
何を思ったのか。
鍛えればほぼ無限に強くなれるなんて、夢のような話じゃないか。
これで兄貴や紅虎さんを超えることができる。
目標であった二人に勝てる日が来る可能性があるのだ。
こんな嬉しいこと、喜ばしいことは滅多にない。
絶対に兄貴や師匠よりも強くなってやる。
「おっと?」
強くなることに喜んでいる時だった。
突然、何かが膝に乗ってきた。
最初は何が乗ってきたのかわからなかった。
猫、と言うには、あまりにも大きすぎる。
人間、それも幼子や子供ぐらいの大きさだった。
改めて、膝の上に乗ってきた正体を探る。
それはまだ小さな少女だった。
緑色のZUN帽を被った茶髪のショートヘアー
服装はリボンが付いた赤と白の長袖のワンピース服といういでたち。
ピアスの付いた黒い猫耳に同じ色の猫又が生えている。
「人間……じゃねぇよな」
一目でわかった。人間ではない。
二つの尻尾が生えている。
どこかで聞いたことがある。多分、猫又の類だろう。
突然、大和の膝の上に乗った少女を八雲藍が優しく叱る。
「こら橙、いきなりそんなことしては駄目だよ。」
「うにゅ〜はい……」
「良いよ良いよ。こういうのには慣れてるから。」
「ですが……」
「こいつ元々は猫だろ? なんか昔から動物に懐かれるんだよ。」
昔から動物に好かれることが多かった。
しかし共通点として、懐いてくれるのは基本メスの動物である。
これは昔からで、幼少期の頃に気付いたことである。
「名前なんて言うんだ?」
「橙です。大和しゃま。」
「そうかそうか。猫みたいで可愛いな」
「あの〜一応猫なんですが……」
「そうかそうか」
人妖だが、久々に猫に触れられて和む大和。
最近、結婚式とか鬼に殺されたりして色々と大騒ぎだったから。
こんなにも安心感を得られるなんて。
「それにしても珍しいですね。橙がこんなに懐くなんて。」
「そうなの〜知らんけど。」
大和が癒やされている時のことだった。
隣にいた幽々子が頬を膨らませて怒っていた。
恐らく、猫とはいえ、人妖に触れて癒やされている大和が許せなかったのだろう。
自分にはそんな顔しないのに、初めて会った少女にそんな顔をするなんて。
嫉妬してたのだ。
思わず手を出してしまう。
幽々子が大和の耳を抓ると。
「いでででっ!!」
大和の耳を思いっきり引っ張った。
一瞬、耳が千切れるのではないかと思うほどに、力があまりにも強かった。
「はぁ……千切れるかと思った。いきなり何だよ幽々子?」
「自分で考えたらどうかしら?」
頬を膨らませて知らんような顔をする。幽々子はとてつもなく不機嫌だった。
どうやら幽々子の機嫌を損ねてしまった。
恐らく、自分が橙に甘々だったからだろう。
それ以外に怒らせることなんてしていない。
それを悟った大和。
大和は膝の上に乗っていた橙を降ろして地面に立たせる。
「ごめんな。」
「どうしたんですか?」
「ちょっとな。これ以上奥さんの機嫌を損ねる訳にはいかないから。 ……後が怖いし。」
その時の大和はとてつもなく恐ろしげな表情をしていた。
余程、怒らせた幽々子が怖いのだろう。
それから大和は両手を重ねて幽々子に謝った。
「ごめんな。もうしないから許してくれよ。」
「本当に?」
「大体、俺が浮気。況してや小さな女の子に手だすと思うか?」
「それもそうね。私も悪かったわ。それじゃあ……」
何を思ったのか。
幽々子は目を瞑って大和に顔を近づける。
その幽々子の行動に大和は何の意味が込められてるのか理解出来なかった。
「えぇと? これは?」
「仲直りの印ちょうだい」
顔を出して、目を閉じている。
それから分析して大和がやるべきことは一つ。
幽々子が求めていたもの、それは仲直りのキスだった。
しかし、冷静になってみろ。
周りには八雲家が勢揃いしている。
八雲紫は何を言いふらすのかわからない。
況してや小さな少女もいる。
そんな妖達の前でキスをしろと。しかも口付けで。
「どうしたの?」
「いや……その……」
大和は顔を真赤にしていた。
恥ずかしすぎて死にそうなくらい。
こんな人前でやれと?
俺はそんな大胆にできるような度量もない。
肝も据わってないし。
しかし、このまま逃げたら幽々子の機嫌をまた損ねてしまう。
正直、後が怖い。
これからの夫婦生活にも亀裂が走る。
(こうなったら……もうヤケだッッ!!)
左手で幽々子の後頭部を守り、右手で幽々子の身体を抱き締める。
そして、押し倒しながら口付けを交わす。
濃厚な口付けを交わしている。
数秒ではなく、ずっとだった。
それを見ていた八雲家は。
八雲紫と藍は平然としていた。まるで珍しくもないものを見ているような。
しかし、少女の橙は違った。
初めて見た大人同士のコミュニケーションの取り方を見たのだ。
顔を真赤にしながら、目を塞いでるように見せて、指と指の間から見ている。
「……大和しゃま」
「大胆ですね。」
「幽々子がね。」
まだ口吻は続いている。
一体、どれだけの時間続けるのか。
いずれ呼吸が苦しくなって止めるのは目に見えている。
それから数秒後のこと。
大和がようやく、口付けが終わる。
大和と幽々子、お互い顔を赤くしていた。
「はぁ……はぁ……」
「そんなやらなくても……」
「ごめん。なんか変な気持ちになってた。」
未だに頭がボーっとしている。くらくらする。
自分でもなんでこんなディープなキスをしたのか、良く分かっていない。
なんか、とんでもないことをやった気がする。
「はいはい。仲直りも済んだことだし。幽々子、ちょっと旦那さん借りるわよ。」
「もしかして、寝取り?」
「な理由ないじゃない。ちょっと用があるだけ。」
「そう。」
八雲紫が大和の眼の前に立つ。
一体、何をされるのか。
しかし、想像とは裏腹に全く全然異なることだった。
「プレゼントをあげる。」
「……またかよ? 随分と気前が良いんだな。」
なんか、何でも買い与えてくれる親を持ったような感じがするな。
それともなにか、同族が増えて嬉しいから何でもくれるのか。
「良いから良いから。遠慮せずに受け取りなさい」
スキマの中から何かを取り出す。
一見、見た時は和服のようだった。
「なんだこれ? 服……だよな?」
見た目は袴に着物、至って普通の和服だ。
しかし、この服から変な気配を感じる。少なくともただの服では無さそうだ。
「妖魔の衣よ。」
「なんだそれ?」
「妖怪の毛で編まれた衣類よ。 破けても妖気を吸えば治るから、かなり重宝するわよ。」
「自己再生持ちかよ!?」
なんだその服、破けても再生するなんて。
そんな服、一着あれば十分じゃねぇかよ。
もう服を買う意味ないじゃないか。
「まぁ、着てみなさい。似合うと思うわ。」
「わかったよ。」
大和は立ち上がって、着替えるためにその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと着替えてくる。」
「わかった。覗いても良い?」
「頼むから変なこと言わないでくれ。」
別に女性、況してや妻に裸を見られても何も無い。
しかし、正直言って恥ずかしい。
そんなことを言った後、大和が一人部屋に入って着替える。
それから数十分後のこと
道着とか袴は何度も着たことあった。
しかし本当の和服は着たことがなく、正直かなり苦戦した。
やっとのことで着替え終えて、幽々子や八雲家がいる縁側に歩いて向かう。
襖を開けて、和服姿の大和が現れる。
黒い着物と袴、まるで武士のような服装、腰には愛用の『斬』を差している。
強靭で美しい肉体美は見えないが、182cmの長身は魅せることができる。
それと赤い髪と瞳が一際目立つ。
「どうかな?」
「似合うわよ。」
「純粋な人間には見えないけど。」
「一言余計だよ。」
これだったら、人里言っても変な目では見られないだろう。
人目を気にせず、公の場で平然として歩ける。
髪と瞳の色が人間ではないことは置いといて。
「それじゃあ、家族紹介も済んだし、渡す物も渡したし、私達帰るわ。」
「じゃあねぇ〜」
「ちょっと待ってくれ」
帰ろうとする八雲紫を大和が呼び止める。
「どうしたのかしら?」
それを聞いた八雲紫は返事をする。
その時の大和はとてつもなく真剣な表情だった。
何かあるのか?
「物を貰った直後で悪いんだけど。一つ頼みたいことがあるんだ。」
「何かしら?」
帰ろうとする八雲紫を呼び止めまで、頼みたいことがあった大和。
果たして、その要件は一体なんなのか。