古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
「何かしら?頼み事って?」
「その。前に闘った鬼とリベンジしたくて。」
大和の頼み事とは。
それは鬼とのリベンジ。
以前敗北して、殺されかけた相手との再戦。
それに対して、八雲紫は平然としていた。
そして、淡々と口を開く。
「前に負けた相手と闘いたいのね。でもそれのなんの意味があるのかしら?」
「俺……昔から負けず嫌いでさ。負けっぱなしは嫌なんだよ。それに今の俺は前とは違う。」
「半妖になったから再戦したいんでしょ?でも前よりも強くなったからと言って勝てる保証はないのよ?」
「それはその時だ。取り敢えずこの前の屈辱を払い除けたい。」
大和は昔からこういう男だった。
一部を除いて、負けたら、その相手に勝つまでリベンジをして、闘い続ける。
根っからの負けず嫌い。
相手が人間だろうと妖怪だろうと関係ない。
敗北を期して、それから強くなったら、リベンジをする。
それが草薙大和のエゴイズム。
もはや、リベンジをしたい大和を止めることはできないと悟ったのだろう。
八雲紫はため息をつきながらも。それを了承したと言わんばかりに頷いた。
「わかったわ。鬼がいる場所に連れて行ってあげる。」
そう言うと、大和の眼の前にスキマを開いた。
「覚悟があるならどうぞ。」
これを潜れば、鬼が近くにいる。
果たして大和には鬼と対面する覚悟、そして闘う意思があるのか。
無論、あった。
大和はスキマの中に入っていく。
その前に、背を向けながら幽々子に向かって手を振った。
完全に大和がスキマの中に入っていくと、八雲紫とその一家もスキマの中に入る。
四人は冥界から姿を消した。
《〜森にて〜》
魑魅魍魎が住まう森の中。
鬼、知能の低い様々が妖怪がいる。
鬼にも下級、中級、上級などのピンキリだ。
数多いる妖怪、その中でも比較的に上位の分類にいた。
そんな森の中で大和を殺しかけた鬼がいた。
行く宛も無く。ただひたすら、森に迷い込んだ人間を探して歩き回っている。
人間を探すのはもちろん、喰うためである。
前は最上級の妖怪に止められて食えなかった。
今度こそ誰にも邪魔されずに人間を食おうと思っている。
そんな森の中に一つのスキマが開いた。
中から大和が現れた。
眼の前には自分を殺しかけた鬼がいる。
「それじゃあ終わったら呼んでね。」
「すぐに終わらせる。」
そう言うと八雲紫はスキマの中に入って姿を消した。
気迫が尋常では無かった。
自分を殺そうとしていた相手が近くにいるのだ。
怖気づいている場合ではない。
なんなら片付けるまで気がすまない。
人間は二つに分類される。
殺されかけた相手に恐怖を抱くか、もしくは殺されたことに怒り復讐を考えるか。
無論、大和は後者だった。
鬼の前に立ちはだかる。
「オマエ……タシカ?」
「よう。久しぶりだな。」
「ニン……ゲン? チガウ。 シラナイ。」
どうやら鬼は俺のことを覚えていないらしい。
あんなに凄い力を持っているのに、知能や記憶力はかなり低いらしい。
自分を殺そうとした相手が記憶にないのは正直なところ憤慨に値する。
「てめぇのおかげでこんな有り様だよ。ありがとな。」
「エモのガキタ。クウ。」
「それだけだな。スクラップにしてやる。」
大和は構えると、鬼に向かって疾走する。
百メートルを五秒以内に走る勢いで。
明らかに人間の出せるスピードを超えていた。
しかし、鬼は動じなかった。
まるで以前の人間と同じく、自分には攻撃は効かないと思っていたのだろう。
ガードをすることも避けることもしない。
大和の打撃を受け切るつもりだ。
そして案の定、鬼は大和の右ストレートを受ける。
打撃がまともに当たる。
大和は本気ではなかった。
自分の力を見極めるために、軽く、ほんの少し力を込めて殴った感覚だった。
すると、以前との違いを理解した。
肉を殴ったような鈍い感覚を感じる。
肉と肉がぶつかりあった鈍い音が響き渡ると。
鬼の頭が吹っ飛ぶように跳ね上がった。
「……えっ?」
鬼の躯体が揺るぐ。
クラクラと、まるで支えの失った建物のように。
直ぐ様に跪いた。
表情ではわからないが、今の鬼の視界はドロドロにとろけている。
脳震盪を引き起こしていたのだ。
鬼を跪かせた大和が一番驚いていた。
「嘘だろ? たった一発で跪かせることできるのか?」
しかしもまだ半分の力も出していない。
まだ余力を残していたのだ。
全力で殴打したら。一体どうなるのか?
以前とははっきりと違う。大和の力に鬼は驚いていた。
前ならどんなに攻撃を喰らっても平気でいられた。
蚊に刺されたほどにも感じないほどに。
全ての攻撃を受け切るほどの耐久力はあった。
しかし、今は違う。
明らかに力が増している。それも前とは比べ物にならないほど。
人間の力量ではない。
完全に妖怪側の力だった。
「ナンダ? コノチカラ? コノマエトハゼンゼンチガウ」
「そりゃあそうだろ。」
今は半妖になっている。
腕力もスピードも前とは桁が違う。
以前、全力の攻撃を受けてもダメージがほとんど無かった。
正直、倒すことなんて出来ない話だった。
しかし今はどうだ?
まだ軽く打撃を当てたはずなのに。
鬼の躯体は跪き、驚いている。
かなりのダメージが入ってるということだ。
負けじと鬼も立ち上がる。
「よっしゃあ!!」
接近戦に持ち込む。
それに対して鬼は動揺し恐れていた。
逃げ腰になり、後退する。
大和の打撃が怖かったのだ。受け止めることが恐ろしかった。
以前とは明らかに違う。自分を殺しかねない打撃だったのだ。
こんなのをまともに受けていたら間違いなく殺される。鬼はそう思った。
思わず鬼は後ろに下がりながら、両手で顔と身体を守るようにガードを固める。
大和の無数の打拳と蹴りが鬼に襲い掛かる。
ジャブ、右ストレート、ワンツー、蹴り、回し蹴り。
果ては宙を軽く飛んで、そこから何度も蹴りを放つ。
人間業ではないこともしていた。
あらゆる打撃を混ぜ合わせて、多彩な攻撃戦法を繰り出す。
しかも、それだけではない。
ほぼ無呼吸で攻撃を繰り出していた。
無呼吸連打と言ったところか。
息継ぎや呼吸が無い。
故に反撃するタイミングも止まることも無い。
例えるなら、嵐そのもの。
更に、半妖になった大和から繰り出される、桁外れの攻撃力。
防御しているとはいえ、ガード越しでもダメージが蓄積するうえに、下手すればガードを破ってまともに喰らう。
このままではやられるのは時間の問題だった。
「どうした!? 前とは全然違うじゃねぇか!」
この前に闘った時は明らかに力の差はあった。
鬼との力の差は五倍、いや十倍以上、もっとあったはずだ。
しかし今はどうだ。
俺が圧倒している。
このまま順調に事が進めば、物理的に俺に勝ちが転がる。
しかし、世の中そんなに甘くはいかない。
鬼が大和に手を向ける。
まるで、待ってくれ、もう攻撃をしないでくれと言っているようだった。
大和の動きが止まる。
「ユルシテクレ。オレノ……マケ……」
「俺の勝ちで良いんだな。」
「オマエノカチ。モウニンゲン……オソワナイ。」
「……良しッ!!」
ようやく屈辱を晴らすことができた。
俺はリベンジを果たすことができた。
壁を乗り越えることができたんだ。まだまだ小さな壁だが。
勝利を確信する大和。
もう敵意は無いと思って鬼に背を向ける。
完全に油断していた。
すると鬼が立ち上がる。
そして鋭い爪を向ける。
背後から大和の背中を爪で突き刺した。
日本刀のように鋭い爪、人を貫くことはどうってことないほど。
背中を貫いて、腹まで貫通した。
「……ゴフッ!!」
大和が吐血する。
しかし幸い、倒れることはなかった。
「ユダン……シタナ……」
背中を貫いた爪を引き抜く。
腹から大量の鮮血が吹き出す。
大和の身体が揺らぐ。
ふらふらと振り子のように。
しかし、それでも倒れはしなかった。
それから数秒後、大和の動きが止まる。
そして鬼の方向を振り向いて。
「ってぇなてめぇ。死んだらどうする!?」
腹に風穴が空いている。
内蔵も滅茶苦茶になっているだろう。
しかし、痛みは大したことがない。平然と立っていられる。
どうゆうことだ?
改めて、自分の怪我の具合を確かめる大和。
腹に拳大の穴が空いてる。
多分、内臓も大変なことになっている。
出血もしてる。
普通に致命傷だった。
しかし、少し痛いだけでどうってこともない。
「痛いだけで、何ともねぇな。人間だったらこれ致命傷だぞこれ?」
普通に立っていられる。
別に転げ回って激痛に苦しむ訳でも、その場に倒れて瀕死になるわけでもない。
いや、それどころか、腹に空いた穴が少しずつだけど塞がっていく。
一体、どうゆう回復力なのだろうか。
自分でも恐ろしく思う自己再生能力だった。
「どうゆうことだ?」
明らかに人間の回復量ではない。
これが妖怪の力ってやつなのか。
さて。それはともかく。
「騙し討ちなんて、随分と俺を舐めてるな。」
鬼に向かって殺気を放つ。
大和は怒っていた。
自ら負けを認めたくせに。それから騙し討ちをするなんて許せないことだ。
俺を舐めているようにしか見えない。
これ以上の屈辱はない。
大和は縮地走法を使って、鬼の前から消える。
そして次に鬼の前に現れた時には。
鬼の顔面に蹴りを入れていた。
頭が跳ね上がった。
さっきよりも大きく。
鬼の意識が吹っ飛びかけた。
もはや、何が起こっているのかわからず、視界は真っ暗になっている。
次の攻撃をまともに受けることになる。
大きく振りかぶって外側に拳を振り出す。
そしてパンチがこめかみにヒットする。
その瞬間に肩、肘、手首を連動させて内側に捻り込む。
大和の繰り出したパンチはドリルのように180度回転しており、螺旋を描いていた。
更に貫通力もあった。
捻り込まれたパンチは鬼のこめかみを深く強打する。
そして、こめかみから『ピシッ』と何かが割れたような音がする。
頭蓋骨にヒビが入ったのだ。
流石の鬼も命の危険を感じた。
大和に向かって鬼は手を向ける。
その瞬間、大和の動きが止まる。
「モウナニもシナイ。ユルシテクレ。イノチダケは」
鬼は許してくれと、命だけは助けてくれと懇願する。
もはや、戦闘意欲は微塵も感じられなかった。
しかし、さっきの騙し討ちを見てから、大和は疑心になっていた。
本当にもう何もしないのか。またさっきのように油断していたところに騙し討ちをやってくるのではないか。
大和は気を緩めずに、拳を握り締める。
冷徹に徹しよう。もう慈悲も躊躇いもない。
そして、次こそは仕留めるために撲殺しようと再び鬼を拳を振りかざそうとする。
「………」
拳が鬼に当たる前に、大和の動きは再び止まる。
大和は殴れなかった。
拳が動かない。
振りかぶろうとすると、腕がぷるぷると震えて攻撃することを拒絶する。
鬼に止めを刺すことを無意識に拒んでいた。
殺してはいけない。慈悲を忘れてはいけない。
例え自分を殺そうとしたやつでも、騙し討ちをされたとしても。
理性がそう言ってるように感じた。
鬼を殺せないことを悟った大和は拳を収める。
そしてもう一度、鬼に背後を見せる。
「わかったよ。もう二度とするなよ。」
二度、大和は鬼を許す。
止めをさせない以上、こうするしかない。
正直なところ自分でも甘いとは思う。
師匠の紅虎さんが見ていたら、どれだけ説教されるのか。
「アリガトウ……ユルシテクレテ……」
鬼は許してくれたことをありがとうと言う。
しかし、その言葉とは裏腹に。
鬼は立ち上がると、再び大和に爪を向ける。
腹では殺せなかった。
だったら今度は首を狙おう。そうすれば動かなくなる。
鬼はそう思っていた。
この時、大和は完全に油断していた。
背後を取られて、もう戦う気はないと思い。
もう戦いは終わったと思っていた。
そろりそろり、鬼は大和に近づく。
そして射程距離範囲内に入った瞬間。
鬼は大和の首を目掛けて爪を振るう。
鬼から殺気を感じた瞬間。
大和が振り向く
「またかよ!?」
もう遅い。完全に殺した。もう終わりだ。
そう思っていた。
しかし。
鬼の額に矢がぶち当たる。
矢は鬼の額を貫通し、後頭部まで貫いた。
鬼は即死だった。
まるで力尽きたように、鬼は爪を振り下ろすこと無く、その場のうつ伏せに倒れる。
「……今のは?」
何故、矢が飛んできたのか。
そもそも何処から飛んできたのか。
ここには人間はいないはず。
ましてや鬼を一撃で仕留める一撃の矢を繰り出せるなんて。
妖怪を簡単に仕留める人間、もしくは妖怪がいるのか。
「ったく。学習しねぇよな。甘いんだよお前。」
どこからか、声が聞こえた。
しかも聞き覚えのある声だった。
幼い頃から、幻想郷に来る前まで身近にいた存在の声。
その声が誰なのか、はっきりとわかった。
「……兄貴?」
大和がそう言うと、背後から人間が姿を現した。
その人間とは草薙武尊。
大和の実の兄であり、草薙家三十一代目当主。