古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
鬼との戦い後。
鬼を大和ではなく部外者が仕留めたことから始まる。
その二人の闘いに水を指して、勝手に鬼を仕留めた部外者とは。
草薙武尊。大和の兄であり、草薙家三十一代目当主本人だった。
武尊の姿格好は現代とは少し違った。
現代と同様に和服なことには変わりはない。
黒い着物に白い羽織、そして灰色の袴。
そして何よりも目に映るのは武器だった。
愛刀の長巻きを始めとし。二本の刀、背負っている赤い槍、そして独自で作ったと思われる弓矢と矢筒。
少なくとも五つの武器を持っていた。
まるで武蔵坊弁慶のような武装。
「よう大和、生きていて嬉しいぜ」
「兄貴……?」
ひどく動揺していた。
兄貴は死んだはず。
生きているはずがない。
紅虎さんも言っていた。
助からなかったって。
現代で死んだと聞いていた。
それなのに。
何故、幻想郷に来たのか? 一体どうやってやって来たのか。
考えれば考えるほどに謎は深まる。
そんな大和のことを知らずに、武尊は不思議そうな表情を浮かべていた。
前見たときよりも、明らかに大和の雰囲気や姿格好が変化している。
特に髪や目がかなり違っていた。
「お前……見ない内に髪染めたのか? 目もカラコン付けたようだし。イメチェンってやつ?」
顔立ちは以前と変わらないが、やはり髪や瞳がかなり違和感ある。
まるで自分の兄弟とは思えないほど。
しかし、自分の姿が変わったことを指摘されても大和は反応がなかった。
余程、兄が生きていたことが信じられないと言わんばかりだった。
「なんで……生きてんだよ? 確か死んだ筈じゃ……」
「俺に死んで欲しかったのか? まったく……随分と酷い弟を持ったもんだぜ」
自分が生きていたことがそんなにも嫌なことだったのか。
まぁ、強さで俺のことを目標にして、結局勝てずに現代では離れ離れになったのだからな。
正直、自分がいなくなって目標が居なくなったと同時に、負ける相手が少なくなったのだから。
それが結局、生きてたって話だから、どういう反応しすれば良いのは分からねぇんだよな。
「紅虎さん……嘘ついてたのか?」
「いや、紅虎さんは嘘ついてねぇ、確かに俺は死んだんだ。確か心肺停止してたから、医学的観点からみれば俺は一回死んでるんだよ」
「それじゃあなんで……?」
「蘇生したんだよ。」
「……蘇生?」
《〜回想〜》
大和が瀕死を負い、意識不明になってから三日後のこと。
紅虎は公園から武尊を御巫病院まで連れて行き、回収していた。
武尊はすでに息は無かった。
生体モニターを使ってみたが完全に駄目だった。
心肺も停止していた。
肌も青白くなっており、完全に死人だった。
助かる動向の問題ではない。既に故人、死んでいたのだ。
もはや手の施しようが無い。
死人は生き返らせれない。
紅虎は医術の神、へびつかい座のアスクレピオスではないのだ。
今できることは。意識を取り戻すであろう大和に兄の死を報告すること、そしてあとは手厚く弔ってあげることだけだった。
「さて、火葬を何処に頼みましょうか。」
葬儀などをどうしようか迷っていた。
両親にも伝えなければ、やることは沢山ある。
そんなことを考えている時だった。
突然、生体モニターに反応があった。
武尊の心肺が突然動き出したのだ。
急速、脈拍が平常値になる。自発的に呼吸もしている。
その瞬間、武尊が目を覚ました。
「……はぁっ!?」
武尊が飛び上がって起き上がったのだ。
死んだ筈の武尊が突然起き上がったところを目の当たりにすると、流石の紅虎も驚きを隠さずにはいられなかった。
完全に度肝を抜かれたような表情だった。紅虎は。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸ができなくてあまりにも苦しかったのだろう。
ようやく呼吸ができて、ようやく苦しみから開放される武尊、何度も何度も深く呼吸をする。
そして、自分が何処にいるのか、誰がいるのかを理解する。
「紅虎さんか。」
「……何故? 確かに死んだはず。」
心肺は完全に停止していた。
医学的観点から見て、100%脳死だった。
それなのに、何故、突然心肺が吹き返って蘇ったのか。
理解出来なかった。
もはや超常の世界であり、人知を超えた現象である。
それから紅虎は冷静になると、武尊に戦争が終わったこと、脳死したはずのなのに蘇ったことを説明した。
《〜そして現在〜》
「どうゆう原理かはわからねぇが、心肺が突然動き出して、生き返ったらしい。」
そんなことありえない。
心肺停止すれば、そのまま脳死して完全に死ぬのだから。
それが死から蘇り、生き返るなんて。
神話に登場する半神半人の英雄でなければ不可能だ。
だが、兄貴はただの人間。
どんなに優秀な頭脳や超人的な身体能力を持っても、所詮は人間なのだから。
「それだけじゃあねぇよ。前よりも力が強くなっていたんだ。以前とは比べ物にならねぇくらいにな。」
「今の俺よりもか?」
「やってみるか?」
まさかと思うが、俺よりも強くなっているとでも言うのか。人間の身でありながら。
それはありえないことだ。
今の俺に単純な腕力で勝つことはほぼ不可能と言ってもいいだろう。
もし、俺が負けたら。それはもう人間の領域ではない。人外の世界の話だ。
だからやってみる価値はある。
今の兄貴が自分の力に酔い痴れていることをわからされるために。
大和は両手を前に出す。
つかみ合って攻撃の機をうかがう体勢、手四つの構えだった。
武尊はその行為をすぐに理解した。
単純ではっきりと実力がわかることだったからだ。
「手四つか。良いぜ。」
まるで受けて立とうと言わんばかり、武尊は大和の両手を握り締める。
「先に力入れろよ。」
「良いのか?」
大和の腕力は一トン以上の大岩を持ち上げるほどの桁外れの怪力を持っている。
下手すれば、人間の両腕を意図も簡単に捻り壊す可能性がある。
それをわかった上でやれと言ってるのか。
だったらやってやる。後から両腕がぶっ壊れて泣き寝入りしても知らんからな。
今まで負けた雪辱をここで晴らすとしたよう。
大和は全力の力を両手に込める。
武尊を腕力で押し潰そうとした。
しかし。
武尊の両手はビクともしなかった。
半妖である大和の剛腕を余裕で耐え抜いたのだ。
それには大和も驚きを隠しきれなかった。
自分が本気で兄貴の両腕を捻り壊そうとした。
それなのに。
まさか。兄貴の腕力は半妖である自分よりも上だというのか。
信じられない。
本気を出して、力を込めたはずの大和に対して。武尊は呆れたような表情を浮かべる。
まるでこんなものかよと言わんばかりに。
「終わりか?」
思わず、大和は両手を離した。
もし、兄貴に力を込められたら、間違いなく自分の両手が壊されると思ったからだ。
しかし、大和が両手を離しても、武尊はそれに対して何も批判しなかった。
まるで自分が勝つことが当たり前と言わんばかりに。
「という事だ。まぁ、俺を超えれるように頑張って精進しろよ。」
そう言うと武尊は大和に対して背を向ける。そして。
「また会おうぜ。次は紅い館でな。」
武尊は森の奥深くへと歩き去ってしまう。
大和は追いかけることはしなかった。
何故だろう。連いて行ったら何かマズイと思ったからだ。
それよりも武尊の言ってたことが気になる。
「どう云う意味だ?」
大和には兄の言っていることが理解出来なかった。
紅い館とは何を差しているのか、何故次に会う時がわかるのか。
今の大和には早すぎる情報だった。
「八雲紫、いるんだろ?」
「えぇ、ずっと見守ってたわ。」
声が聞こえると同時に大和の背後に八雲紫が現れる。
姿を見せないと思ったが、どうやらずっと大和のことを見守ってたらしい。
「帰るのかしら?」
「あぁ、それよりも……」
「何かしら?」
「兄貴が生きていたこと……知ってたのか?」
すると、八雲紫は親指と人差指を顎に当てる。考えているような素振りを見せた。
それから数秒後、八雲紫は答える。
「いえ、知らなかったわ。私もてっきり死んだと思ってたから。」
「そうか。なら良い。」
「言っとくけど、これは私も予想してなかったことよ。それに一体どうやって幻想郷にやって来たのか、わからない。」
それもそうだ。武尊の兄貴がどうやって幻想郷に来たのか、俺にもわからない。
生きていたことでさえ驚きなのに、何故世界から隔離されている幻想郷に来ることが出来たのか。
かなり強くなっただけで、兄貴に幻想郷に来れるような能力があるとは思えない。
「まぁ、良いわ。それより帰りましょう。幽々子が待っているわ。」
「そうだな。」
八雲紫がスキマを開く。
大和のスキマの中に入っていく。
中に完全に入り込むと、スキマは閉じた。
森には誰もいなくなった。
鬼とのリベンジに結果的に勝ったが、どうにも後味の悪い終わり方だった。
だが、自分の力で圧倒できたことがわかった。妖怪に勝てることを知ることが出来た。
それだけでも豊作と言ってもいいだろう。
そして、兄の武尊が生きていたこと。
正直、衝撃的だった。
これから、兄と対面し、もしかしたら闘うことになると思うと心配になる。
もっと強くならなければ。
色々な意味で記憶に残るような一日だった。
これからも何が起きるのか、検討も付かない。