古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
大和の目の前に立ちはだかる妖怪。
妖怪の青年の背丈は2m近くある。文句無しの巨体だった。
腰まで伸ばした艷やかな黒髪、妖しくも美しい整った顔立ち、黄色い瞳をしており、左目の下には泣きぼくろがある。耳はエルフのように尖っていた。
服装は白い和服の上に鎧を纏っている。腰には白い刀を差しており、背には巨大な赤い瓢箪を持ち歩いている。
極めて容姿端麗な妖怪である。
大和を見た瞬間。妖怪は呟く。
「遂に見つけたぞ。」
幽々子が一早く気づく。
「ねぇ大和。あの子」
「なんだあいつ……まさか妖怪?」
二メートル近くはあるであろう長身、腰まで伸ばした黒髪、エルフのように尖った耳。
何よりも目に映るのは、美しく整った顔立ちをしている美青年であること。
刀に見惚れていたのか、大和のことに気づいていない様子だった。
それから刀から目を離して大和を見ると、奇妙そうな表情を浮かべる。
「貴様、まさか半妖か?」
妖怪の中では半妖は半分妖怪を畏れる人間で半分人間に恐れらる妖怪。
つまり中途半端な出来損ない。
侮蔑用語でもある。
この妖怪は大和を侮蔑していたのだ。
しかし、幻想郷に最近やって来た大和はそんなことは知らない。
「何だよお前、なんか俺に用か?」
「抜かせ、貴様如き半妖などに用は無い。用があるのは貴様の腰に差してる刀だ。」
「……刀だと? なんでまた」
「ようやく見つけた。幻想郷を探しても見つからなかった刀が遂に。」
等々、求めていた刀が手に入る。
幻想郷を探し回っても見つからなかった刀がようやく。
これで強き存在になれる。
この妖怪はそう思っていた。
手を袖に入れて腕を組み、上から目線でこういった。
「半妖……お前の腰に差してるその刀を私に差し出せ。そうすれば命は助けてやる。」
「はぁ!? 急に何言ってんだよ。」
理知的で冷静な態度から考えて、俺の強さを分からないわけではなさそうだ。
半妖になった自分がどれだけ強くなったのか知らないであろうが、少なくとも波の妖怪よりは強いはずだ。
しかし、この妖怪は生殺与奪の権を握っている。
どんだけの強者なのか。
「それは私が求めていた刀。強き存在になるために必要な刀。貴様には勿体ない代物だ。」
その刀は半妖が持つにはあまりにも上出来すぎる。
勿体どころではない。宝の持ち腐れとも言えるほど。
それは自分が持つのにふさわしい武器。
妖怪はそう言っていた。
「てめぇ一体なんなんだよ!? まず名前を名乗れ!」
「ほざけ半妖、貴様程度に教える名前など無い。だが、刀を貰う礼として教えてやろう。
我が名は極夜、妖毒の極夜だ。」
「極夜ってあの……」
「知ってるのか幽々子?」
「うん、紫から聞いてるわ。確か千年以上生きている大妖怪だって。」
極夜、幻想郷でも名の知れ渡っている大妖怪。
千年以上生きている長寿の妖怪。
特に特記するべきはその妖気と身体能力。
妖気は八雲紫以上の妖気を持っており、身体能力は並の妖怪とは比較にならないほど高い。
単純な戦闘能力なら最強とも言っていいほど。
しかし、極夜の恐ろしいところは身体能力でも妖気でもない。
それは凶悪で冷酷であること。
極夜と対峙した妖怪や人間のほとんどは殺されている。
噂では邪魔だからと言って殺すらしい。
人間を喰うことも殺すことも制限されているこの幻想郷の地で何の躊躇いも誰にも畏れることもなく殺生する。
それが極夜だ。
「俺は草薙大和、訳あってお前の言う通り半妖になった存在だよ。」
「どうでも良い。貴様のような半妖風情の名前などいちいち覚えてたまるか、無駄なことだ。」
「なんだとこの野郎!?」
大和は切れる。
極夜は自分を完全に格下に見ていた。
さっきから煽るような言動や見下した態度を取られている。
「さっさと刀を渡せ。殺されたくなければな。」
「だったら奪ってみろよ。てめぇにやる武器なんて一つもねぇんだからな」
刀を引き抜いて戦闘態勢に入る。
相手は少なくとも強者で妖怪、手加減する余裕も理由もない。
「そこまで死に急ぐのか。憐れだな。」
先手を打ったのは大和だった。
身体を脱力させ、足に力を込める。
その場から消える。
そして、次に姿を現した時は極夜の目の前だった。
首を目掛けて刀を振るった。
極夜は何もしない。動く気配もなかった。
しかし。
刀は掠りもしなかった。
まるで通り抜けたかのように。
距離を間違えたのか。
「なっ!?」
大和は驚いた。
極夜は紙一重で攻撃を回避していた。
何故、極夜に攻撃が当たらなかったのか、理屈はこうだ。
大和の射程距離範囲と攻撃を見切って、必要最低限の動きて後ろへと下がり、避けたのだ。
動いていないのに攻撃がすり抜けたような感覚はそういう仕組みだった。
属に言うところの見切り。かなりの高等技術だった。
しかし、大和の攻撃は止まらない。
上下左右、縦横無尽に刀を高速で振るった。
その攻撃はまるで高速で回る扇風機のようだった。
しかし、極夜はその攻撃全てを完璧に見切る。
必要最低限の動きで回避する。
それどころか。涼しい顔で極夜は腕を組んだりする。
更にナメプと言わんばかりに避けながらも背負っていた瓢箪を持って水を飲んだりする。
「こいつ神通力でも使ってんのか!?」
大和は焦りを感じていた。
明らかに余裕を見せながら、大和の高速の攻撃を回避する。少なくとも妖怪にはない。寧ろ人間の極めた高等技術を使ってる。
「こいつまさか……」
まさかと思うが。
この極夜、もしかして動体視力ではなく、最初から行動などがわかっているのではないか?
自分が持ってる心眼を持っているのか。
明らかに最初からわかっているような素振りであるのだ。
大和は攻撃を一旦止めて、後ろへと下がる。
そして極夜に話しかける。
「てめぇ、まさか俺の攻撃が最初から見えてねぇか?」
「良くわかったな。その洞察力は褒めてやる。私は生まれ持ちの予知能力がある。」
「やっぱりな。てめぇも心眼持ちかよ。」
しかし、大和とはかなり異なる。
大和は過酷な修行の末に手に入れた。
だが、この極夜は過酷な修行をせず、生まれ持ちの心眼であること。
「それと半妖、貴様はその名刀の本当の価値を知らないらしいな。」
「そんなの知るかよ!? 最近貰った物だからな」
「さて、そろそろ。」
大和は心眼を使う。
しかし。
既に極夜は目の前にはいなかった。
気づいた時には背後を取られていた。
気配を察知して後ろを振り向くと。
「なっ!? 後ろに……」
「何処を見てる?」
後ろにはおらず、右にいた。
腕を組んで涼しい顔で右側に立っていたのだ。
瞬間移動を二回したのだ。
しかし、極夜は攻撃をしてこない。
強者の余裕ってやつなのか?
お前などいつでも殺せると言わんばかりに。
攻撃されていたら間違いなく殺されていた。
「実に遅い。それで良く生きてこられたものだ。」
極夜の目に映る大和の動きはあまりにも鈍く、まるでスローモーションの世界にいるようだった。
百メートル走を5秒以内に走ることが可能な大和の俊敏な動きが遅いのだ。
(速さの次元が違う。)
明らかに動きが速すぎる。
無駄がなく、途轍もなく洗練された動き。
ゆっくりと動いていると思いきや、突然消えるほどのスピードで動いてくる。
もし最初から殺そうと思えば、下手すれば目視することもできることなく殺されていただろう。
縮地走法を使える自分よりも速いなんて有り得るのか。
況してや、素のスピードだと推測される。
もし、加速系の技を使っていたら更に速くなると思うとゾッとする。
極夜が攻撃をする前に大和は攻撃を仕掛ける。
横に一線。
しかし、当たらない。
だが、今回は最低限ではなく、大きく避けた。
後ろへと軽やかに飛んだ。
まるで宙に浮いているようだった。
そして着地する。
そして大和に話しかける。
「半妖、振り回すだけしか能が無いのか?」
「それしかねぇんだよ。」
「名刀が憐れ過ぎる。真の能力を知らずに、ただ振り回しているだけ。それでは名刀も丸太同然、宝の持ち腐れと言うやつだ。」
「さっきから俺を馬鹿にしてるようだけど、図に乗ってんじゃねぇぞ。」
露骨に自分を侮辱してくる極夜。
それが大和には許せなかった。
正直、沸々と怒りが込み上げてくる。
怒りのあまりに大和は攻撃を仕掛けてくる。
完全に頭に血が登っていた。
大和は極夜に向かって刀を振りかぶる。
怒った時の特有の単調で大振りな攻撃である。
「たわけが。」
極夜が呟く。
それを読んでいたのか
極夜は大和が刀を振り下ろすよりも圧倒的に速く動く。
そして、極夜が右手で大和の刀を持ってる腕を掴む。
攻撃を繰り出す前に受け止めたのだ。
すると異変は起きた。
極夜の掴んでる手から何かが生成されている。
緑色の毒々しい液体が手から滲み出てる。
そして腕からジュウッ!と溶けたような音がする。
「……があぁ!?」
それから大和の腕に激痛が走る。
針で刺されたような、皮膚を溶かされたような鋭い痛みを感じる。
その瞬間、大和は理解した。液体の正体を。
間違いない。これは毒だ。強酸の毒だった。
この極夜、まさか毒を生成する能力を持っているのか。
それよりも、腕が痛い。耐え難いほどの激痛が走る。
腕も皮膚から溶け始めている。
それを見た極夜は一言言った。
「早く刀を離せ。さもなければ腕が溶け落ちるぞ?」
「畜生コノヤロウッ!!」
腕が溶け落ちるのはやばい。
それにこの痛みには耐えられない。
大和は苦肉の策で刀を手から離した。
刀は地面に刺さった。
すると極夜が大和の掴んでいた腕を離した。
大和は開放されると後ろへと下がる。
そして左手で右腕を掴んで見つめる。
「はぁ……はぁ……くそっ……!」
ジュウ……!と音を立てて腕が溶けている。
激痛が止まらない。
握られた箇所の腕の皮膚が完全に溶けていて肉が剥き出しになっている。
強い酸性だ。下手したら硫酸並の酸性だ。
あと数秒、刀を離すのが遅かったら骨まで溶かされて腕が溶け落ちていた。
大和が苦しんでる中のことだった。
そんなことは気にせずに極夜が地面に刺さった刀を手に持った。
そして引き抜く。
「ようやく手に入れたぞ。」
名刀『斬』が極夜の手に渡る。
果たして、これからどんな惨劇が待っているのか。