古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十八話 『斬』に秘められた能力

 極夜が大和から名刀『斬』を奪い取った時から始まる。

 

 腕の皮膚を溶かされた大和は激痛に苦しんでいた。

 

 それに対して極夜は刀を品定めをするように眺めながら重みなどを確かめていた。

 

「なるほど、普通の刀とは異なる。重みもある。身幅が広い、重ねも厚い。豪壮刀と言ったところか。」

 

 瞬時に普通の刀とは違うことを理解した。

 

 切れ味、重ねの厚み、身幅の広さ、そして重量、どれも普通の刀とは比べ物にならないくらい。

 

 鉄も最上級の質。

 

 かなり頑丈に作られている。

 

 これなら人を何人斬ろうが切れ味の劣化は起きないだろう。些細なことでは決して壊れることはない。

 

 正しく私が欲していた理想の刀だ。

 

「光栄に思えよ半妖。貴様にこの名刀の真の能力を見せてやる。」

 

 極夜は右を向いて建物がある場所を見つめる。

 

「一振りだ。一振りで強大な力を発揮する。」

 

 極夜が刀を振るう。

 

 刀を振り切った瞬間。

 

 周囲に強風が巻き起こる。

 

 風はあまりにも強く、力を抜けばふっとばされなほど、強大な風圧。

 

 まるで台風。

 

 それと同時に刀から衝撃波が放たれる。

 

 斬撃、それとも剣圧と呼ぶべきなのか

 

 しかし、ただ刀を振っただけの斬撃ではないのは確かだった。

 

 衝撃波は持ち手よりも遥かに大きくなる。

 

 衝撃波の規模は実に100メートルにも及ぶ。

 

 桁外れの大きさだった。

 

 そして衝撃波は極夜の眼の前にあった家や小屋などに飛んでいき、容赦なく襲いかかる。

 

 無差別に、ただひたすら建物を破壊していく。

 

 まるで台風が通ったような感じだった。

 

 衝撃波が通った道は跡形も無く、地面に傷跡を残すだけで全てが破壊尽くされた。

 

 衝撃波は極夜がいる場所から数百メートル先で収まる。

 

 その時にはもう。衝撃波が通った場所に建物は一片も残されていなかった。

 

 更地になっていたのだ。

 

「……嘘だろ?」

 

 その光景を前に大和は唖然としていた。

 

 もはや言葉が出ない。そういう次元ではない。

 

 あまりにも規格外でありえない出来事を前にしたのだ。無理もない。

 

 一振りだった。たったの一振りだった。

 

 里の一部が一瞬で更地になったのだ。

 

 一体極夜は何をしたんだ?

 

 こんな能力、俺はあるなんて八雲紫からは聞かされていない。

 

 何故、こんなことができる?

 

 あの衝撃波は一体なんなんだ。

 

 大和は戸惑い。もはや人知を超えた現象が理解出来ず、悩み苦しんでいた。

 

 そんな大和ことは知る由もなく、対して極夜は満足そうな表情で口を開く。

 

「どうだ? これが名刀の本来の能力だ。一振りで百の敵を薙ぎ倒す。」

 

「俺の刀に……そんな能力が……」

 

「ほざけ半妖、もう貴様の刀ではない。」

 

 半妖には勿体ない。半妖が持っていても宝の持ち腐れというものだ。

 

 私がこの刀を最大限の力を発揮させて扱ってやる。そしてあわよくば天下を取ることもできる。

 

 この刀を易易と手放すものか。

 

 この刀はもう私の物だ。

 

「これがあればお前に用は無い。さっさと消えろ。」

 

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ……」

 

 折角あの八雲紫から貰った最上級の刀、そんな簡単に渡してたまるか。

 

 それに、あんな危険な技を私利私欲のために使われては、幻想郷が危ない。

 

 どうやってでも返して貰う。

 

「返してくれよ。……ちっ!!」

 

 溶けた腕がまだ痛む。どんどんと溶ける範囲が広がっていく。

 

 腕の皮膚が再生する気配はない。普通の傷や怪我ならすぐにでも自己修復するはずなのに。

 

 毒で再生能力が阻害させれているのか。

 

 正直、今の状態では不利なことは目に見えている。

 

 しかし、やらなければ刀を取り返すしか無い。

 

 自分の刀を返せと言わんばかりに大和が極夜を睨みつける。

 

 それを見た極夜は、闘争心が未だに燃えている大和を見て呆れたような表情を浮かべる。

 

「私の毒を受けた状態で、半妖風情に何ができる?」

 

「うるせぇな。取り返すから待ってろ。」

 

「なら刀の錆にしてやろう。」

 

 極夜が刀を振る準備をする。

 

 あの強烈な剣圧を放とうとする体勢だった。

 

 大和を消し飛ばそうとしている。

 

「……んっ?」

 

 刀を振ろうとした瞬間だった。

 

 極夜は刀を振ることを止めて、腕が止まった。

 

 まるで何かに気付いて止めたようだった。

 

「止まった?」

 

 大和も極夜の奇妙な動きに気づく。

 

 表情は一切変わってないが、何か奇妙だった。

 

 何故振らない?振れば俺を簡単に消し飛ばせる筈なのに。

 

 それからも刀を振る気配が一切ない。

 

 何か振れない理由があるのか?

 

 大和には極夜が刀を振れない理由がわからなかった。

 

 しかし好都合だ。あの剣圧を放たれなくて、殺すことに躊躇いがあれば勝機はある。

 

 大和は身体を脱力させる。

 

 足に力を込めてその場から消える。

 

 そして次に現れた時には極夜の前にいた。

 

 ガードせず、攻撃体勢に入る。ノーガード戦法だった。

 

 しかし、それが誤りだった。

 

 目の前に現れた大和の攻撃が繰り出させる前に極夜は容赦なく刀で袈裟がけに斬りつけた。

 

「……あがっ!?」

 

 胴体に鋭い痛みが走る。

 

 幸い、両断はされなかったものの傷は深く、大量の鮮血が胴体からほど走る。

 

 この妖魔の衣がなかったら、完全に両断されていた。鎧並の防御力があって良かった。

 

「一振りで薙ぎ倒さなくても、斬り殺せばどうってことはない。」

 

 別にこの半妖を殺すことに躊躇いがあった訳でない。いつでも殺すことができる。

 

 ただ、戦場で目障りで邪魔者がいるだけで。

 

「こいつ?一体なんだんだよ?」

 

 違う。俺を消し飛ばすことに躊躇いがあると一瞬思っていたが勘違いだった。

 

 俺を殺すことに躊躇いがない。

 

 それじゃあ何だ?何故あの剣圧を何故使わない?何か理由があるのか?

 

「ちくしょう……」

 

 大和がその場から消える。

 

 縮地走法を使ったのだ。

 

 次に大和が現れたのは。

 

 極夜の背後を取っていた。

 

「馬鹿が。」

 

 極夜が後ろを振り向く。

 

 その瞬間、大和の感覚が研ぎ澄まされ、心眼が無意識に使用される。

 

 極夜があの剣圧を放つ映像が脳内に送られてきた。

 

 このまま行くと、消し飛ばされる。

 

 大和は爆発的な脚力を駆使して横に大きく飛んだ。

 

 極夜は容赦なく刀を振るった。

 

 刀身から凄まじい威力を誇る剣圧が飛ばされた。

 

 巨大化し、どんどん前へと進む。

 

 剣圧は地面を抉り、爪痕のような傷跡を残して数百メートル先で消える。

 

 大和が冷や汗をかく。

 

「あっぶねぇ……」

 

 あともう少し、心眼を使わずに反応が遅かったら俺が消し飛んでいた。

 

 今度は使っただと?

 

 極夜に取って場所が良かったのか?

 

 使われるとは思っていなかった。

 

 一体何故、無闇に使わない?

 

 何か理由があるのか?

 

 そんなことを考えていると、気付いた時には極夜が目の前に居た。

 

 そして刀を大和の腹に突き刺した。

 

「……がはっ!!」

 

 刀は大和の腹と内臓を安安と通り抜けて、背中まで達する。

 

 腹部に鋭い激痛が走る。

 

 藻掻き苦しむような、地べたに這いつくばって転げ回りたいほどの痛みが。

 

 極夜が刀を引き抜くと。

 

 大和の腹部から鮮血が流れ出てくる。

 

 そして大和は両膝を地面に着いた。

 

 すぐにでも大和は立ち上がろうとするが、立つことができない。足が動かないのだ。

 

 戦意も闘争もまだあったが、身体が思うように動かない。

 

 まさか、毒のせいか。

 

 大和を見下ろすように極夜が高みの見物をするように上から見下ろしていた。

 

「そろそろ死ね。」

 

 剣圧を放とうとする準備をする。

 

 そして刀を振ろうとした瞬間。

 

 剣圧は放たずに、再び極夜の腕が止まった。

 

 それは何故か。

 

 それには理由があった。

 

 極夜と大和の間に幽々子が入り込んで、幽々子が極夜の目の前に立ちはだかっていたからだ。

 

「……幽々子?」

 

 大和も驚いていた。

 

 何故、幽々子が戦いに踏み込んできたのか。

 

 危ないというのに、どうして首を突っ込んできたのか。

 

 理解できなかった。

 

 しかし、わかることはある。

 

 それは極夜の攻撃が止まったのだ。

 

 幽々子が来たことで攻撃が止まった。

 

 理由はわからない。

 

 効果的なことは確かなことだ。

 

「退けろ女。貴様を巻き込む筋合いはない。」

 

「この人を殺したければ、私も斬りなさい。」

 

「目障りだ。退けないと殺すぞ?」

 

 しかし、そうは言うものの極夜は動かない。

 

 刀を振るうことすらしない。

 

 まるで幽々子を攻撃できないようだった。

 

 それが幽々子には分かっていた。

 

 自分を攻撃できないこと、そして自分を巻き込むことを嫌がっていることを。

 

 妙だったのだ。

 

 何故大和は簡単に攻撃できるのに、幽々子がいる場所では剣圧を放たなかったのか。

 

 それがわかったのは。自分がいない場所には剣圧を放ったことだった。

 

 自分がいる場所には剣圧を放たず、居ない場所では剣圧を放つ。

 

 それはつまり極夜は幽々子を攻撃することができないという事だ。

 

 理由はわからないが。

 

 幽々子が退けずに目の前に立ちはだかっている。

 

 すると極夜は刀を降ろした。

 

 そして後ろを振り向く。

 

「興醒めだ。命拾いしたな半妖。」

 

 極夜はその場から立ち去ろうとする。

 

 すたすたと歩いて、大和達から離れようとする。

 

 しかし。

 

「待てよ。」

 

「……んっ?」

 

「理由はわかんねぇけど。お前は幽々子を攻撃が出来ないようだな。」

 

「だからどうした?」

 

「てめぇの弱点を見つけたんだ。それなら、それなりの戦い方をしてやる。」

 

 まだ大和は刀を諦めていない。

 

 闘志も戦意もまだ残っている。まだ戦えるってことだ。

 

 そまだ十分ではないが身体が動くようになった。これで戦闘続行だ。

 

 それに極夜の弱点が見つかった。それを突けばまだ勝機はある。

 

「さぁ、再戦だ。」

 

 名刀『斬』を手にした極夜とそれを奪い返そうとする大和。

 

 果たして大和は刀を取り返すことは出来るのか。

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