古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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十⑨話 退却

「悪いけど幽々子、助けてくれ。」

 

「良いわよ。夫婦なんだから」

 

 二人はお互いに背中を任せ合い。ファイティングポーズを取る。

 

 初めての夫婦の共闘になる。

 

「いけるか幽々子?」

 

「言わなくてもわかるわ。」

 

 二人は一斉に極夜に向かって走り出す。

 

 極夜に接近した直後。

 

 まず、大和が右拳を極夜の顔面に向けて放った。

 

 しかし、それを読んでいたのか。

 

 極夜は目を瞑りながら優雅に避ける。

 

 そして、反撃。

 

 大和に向かって刀を振るおうとする。

 

「……っ!?」

 

 刀を振るおうとした極夜の腕がピタリと止まる。

 

 幽々子が大和の背後にいたのだ。

 

 極夜が止まると、大和が蹴りを入れようとする。

 

 しかし、これも避けられてしまう。

 

 攻撃はできないが、避けることなんて造作もないことなのだろう。

 

 大和単体なら殺すことは容易だが、幽々子がいたことで極夜は攻撃ができなかった。

 

 極夜にとってそれは非常に厄介で、闘い辛い戦法だった。

 

 しかし、成す術がないわけではない。

 

 幽々子がいることで極夜が攻撃できない時だった。

 

「貰ったっ!!」

 

 大和が極夜の刀を持っている腕を掴んだ瞬間。

 

 大和と諸共に極夜が姿を消した。

 

 それから数秒後、幽々子から数メートル離れた場所に現れた。

 

「鬱陶しいぞ。」

 

 刀を振るうと同時に腕を強引に振るった。

 

 そして、大和を無理やり力のみで振り落とした。

 

 大和の身体が地面に叩きつけられる。

 

 肉と硬い地面が当る、痛々しく鈍い音が響き渡る。

 

 大和の身体が一度バスケットボールのようにバウンドする。

 

 そして地面に沈む。

 

 妖怪である極夜の腕力で地面に叩きつけられたのだ。

 

 時速80キロ以上の速度で地面に落下したようなもの。

 

 それは大体、7階以上の窓から落下することに相当する。

 

 普通の人間なら内臓が潰れて、肉塊が飛び散る。即死であるだろう。

 

 しかし大和は。

 

「畜生、あともうちょっだったのに。」

 

 普通に立ち上がろうとする。

 

 平気だったのだ。

 

 半妖になったことで、肉体の耐久力が格段に上がっている。

 

 普通の人間なら即死の攻撃でも、平然と耐えることができるほどには頑丈なのだ。

 

 だから大和は死なない。

 

 しかし、極夜にはそれが既にわかっていた。

 

 この半妖はあまりにも頑丈過ぎる。首を刎ねなければ死なないことを理解していたのだ。

 

「しぶといな半妖。」

 

 倒れている大和を前にして、これで仕留めようと思ったのだろう。

 

 極夜は大和の首を目掛けて刀を振るおうとする。

 

 刀を振るおうとした瞬間。

 

「……ちっ」

 

 極夜が大和の眼の前から消えた。

 

 そして、大和から離れた数メートル先の地面に軽やかに舞い降りた。

 

 極夜が突然、攻撃を止めた理由、それは明白で単純なことだった。

 

 付近に幽々子がいたのだ。

 

 そして極夜に幽々子が接近していた。それも密着するようにかなり近い距離で。

 

 幽々子がいることで、極夜は攻撃ができない。

 

 それを最大限に利用して、極夜の攻撃を封じ込めようとしていたのだ。

 

 もし極夜を幽々子が取り押さえていたら、間違いなく極夜は手も足も出なくなるだろう。

 

 しかし、それが難しい。

 

 極夜は心眼を使えるからだ。

 

 取り押さえる前に、先読みされて避けられてしまうのだ。

 

 捕まえるのは至難の業。

 

「あの女が目障りだ。」

 

 瞬間移動のような速度で立ち上がった大和の目の前に極夜が現れる。

 

 そして大和の髪を握って引っ張る。

 

 幽々子がいない場所へと強引に放り投げた。

 

 あまりにも強すぎる腕力に大和は手も足も出せなかった。

 

 何の抵抗もできずに吹き飛ばされた。

 

「………っ!?」

 

 地面から数百センチ離れた状態で、並行に飛んでいく。

 

 そして数秒後、失速すると地面に落ちていく。

 

 数メートル地面に転がる。

 

「無茶苦茶しやがる。」

 

 そう言った瞬間。

 

 右肩に鋭い痛みが走る。

 

 その痛みは刀や刃物で刺されたような痛みだった。

 

「あがっ!?」

 

 上を見てみると気付いた時には極夜がいた。

 

 大和の腹部を足で踏み付けて動けないようにしている。

 

 そして、手に持っている刀で大和の右肩を突き刺していたのだ。

 

 その痛みの正体は極夜だった。

 

 幽々子が近くにいないことで、水を得た魚のように生き生きとしていたのだ。

 

「あの女がいなければ貴様など殺せる。」

 

 刀を肩から引き抜く。

 

 そして次は喉を目掛けて刀を突き刺そうとする。

 

 確実に殺すつもりだった。

 

 刀を突き刺そうした、その瞬間だった。

 

 極夜がその場から消えた。

 

 そして大和から数メートル離れた場所で姿を現し、軽やかに地面に降り立った。

 

「私の邪魔をするな。」

 

 大和の近くを見てみると、再び幽々子の姿があった。

 

 場所を考えると極夜の背後に位置する場所にいたのだ。

 

 つまり、幽々子は極夜を止めようと走って背後に近づいて取り押さえようとしていたのだ。

 

「悪いけど、自分の旦那様を見殺しにはできないの。」

 

「それじゃあ、愛しい旦那の死を目の前にすることだな。」

 

 再び、極夜の姿が消える。

 

 心眼を使おうとする。

 

 が、遅かった。

 

 そして大和の頭が何かに引っ張られた。

 

 極夜が目にも止まらぬ速さで左手で大和の髪を引っ張り、放り投げたのだ。

 

 そして宙を舞う大和に刀を振り下ろしながら襲い掛かる。

 

 幸いにも大和は宙に身体が浮かんだ状態でも何かは出来る状態だった。

 

 左腕で防ごうとする。

 

 しかし鎧並の強度を誇る妖魔の衣を貫通する。

 

「………うぐっ!?」

 

 肉と骨を断たれて。

 

 そのまま左腕が地面に転げ落ちる。

 

 左上腕二頭から大量の鮮血が吹き出した。

 

 左腕が斬り落とされたのだ。

 

 しかし、痛みに耐える余裕も暇も無かった。

 

 地面に身体が着いて、立ち上がろうとすると。

 

「これで終わりだ。」

 

 心眼を使った瞬間だった。

 

 極夜があの剣圧を放つ未来が視えた。

 

 振るうのが速い。

 

 避けられない。

 

 このままでは消し飛ばされる。

 

 その瞬間、大和の脳内で走馬灯が見えてしまった。

 

 自分の人生を振り返ってしまう。

 

 生まれたこと、兄貴との喧嘩、紅虎さんへの弟子入り。そして修行、幽々子と出会ったこと。

 

 大体の記憶が脳内に送り込まれた。

 

 一瞬が一時間に感じるほど、長く感じた。

 

 そして、奇跡が起こる。

 

 極夜の動きがスローモーションに見えた。

 

 それだけじゃない。

 

 周りの景色、全ての光景がゆっくりに見えたのだ。

 

 まるでスローモーションの世界に入り込んだような感じだった。

 

 しかし、ゆっくりに見えるとは言え、避ける余裕も時間も無い。

 

 大和は一瞬が一時間に感じる。時間感覚が狂った長い世界で考える。

 

 そして、一つの結論に辿り着いた。

 

「逃げろ幽々子っ!!」

 

 そう言った瞬間だった。

 

 大和は極夜の振るった刀の鎬を思いっきり左足で蹴ったのだ。

 

 それが幸いだった。

 

 的だった大和から大きく外れる。

 

 刀の軌道が大きくズレたのだ。

 

「……ちっ!」

 

 もはや剣圧を止めることはできず。

 

 剣圧は放たれ、巨大な斬撃として刀身から発生し、建物を大量に破壊していく。

 

 それから破壊の限りを尽くすと風のように剣圧は消え去った。

 

 幸いにも、幽々子には当たらなかった。

 

 しかし、大和は。

 

 放たれた剣圧が足に掠ってしまった。

 

 左足はボロボロになっていた。

 

 皮膚は抉られて、所々に肉が剥き出しになって血がドロドロと流れている。

 

 これではもはや歩くことすらできない。

 

 大和は左膝を地面に付かせる。

 

「あぶねぇ……ちっ……」

 

 左足はボロボロで今は動くことはできない。

 

 しかし、あの剣圧をまともに受けるよりはマシだった。

 

 もし、まともに当たっていたら、俺は確実に消し飛んでいて即死だった。

 

 寧ろ、軽傷で済んだことを喜ぶべきだとは思う。

 

 もはや、戦闘続行ができない大和、これで終わりなのか。

 

 しかし大和だけではなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 極夜の息が荒かった。まるで全力疾走した後のように呼吸が乱れていた。

 

 何故かはわからないが、体力を異常なほどに消耗していたのだ。

 

 そして遂に、ようやく手に入れた念願であるはずの手に持っていた刀を手放して地面に落とした。

 

「なんだ……これは……? 妖気が……吸い尽くされる。」

 

 三度、強力な剣圧を放っただけで自分の妖気をほとんど吸い尽くされてしまった。

 

 外見だけではよくわからないが、極夜は妖気がほとんどなかった。

 

 八雲紫以上の妖気を持っていたはずなのに、今の極夜は大和以下の妖気である。

 

 消耗が激しすぎる。

 

 まさかこれは、持ち手の妖気を刀が喰らって、増大して放出する技なのか。

 

 あの規格外の剣圧を放ったのだ。妖気が吸い付くされる訳だ。

 

 このままではマズイ。妖気が無くなれば最悪の場合は命を落とす可能性がある。

 

 この刀は危険過ぎる。下手すれば自分の命を脅かすかもしれない。

 

 それから極夜が下した決断は。

 

「この刀はいらん。命拾いしたな半妖……」

 

 刀を置いて、その場を立ち去ろうとする。

 

 軽やかにジャンプすると、身体が空に浮く。

 

 飛行して人里から姿を消した。

 

 極夜がいなくなる。

 

 それから間もなく、幽々子が大和に寄り添った。

 

「大和大丈夫!?」

 

 左腕を斬り落とされ、更に左足がボロボロになっていた。

 

 身体中に深い傷があり、かなりの重傷を負っていた。

 

「大丈夫大丈夫。平気だから。」

 

 幽々子に笑顔を向けてそう言う大和。

 

 しかし、大和は意外にもピンピンと元気だった。

 

「それより、これくっつくかな?」

 

「左腕斬られちゃったもんね。紫に頼んで繋いでもらう?」

 

「そうだな。帰るついでにやってもらうか。」

 

 どうせ、近いうちに来るだろう。この話もどこかで聞いているだろうし。

 

 それよりも、身動きが取れないから速く来て欲しい。

 

「随分と派手に暴れたそうね。」

 

 案の定、八雲紫がやってきた。

 

 スキマを大和と幽々子の前に開いて、上半身のみをスキマから出している様子だった。

 

 しかし、今回はいつもの胡散臭い口調ではなく、怒っているような口調だった。どうやら憤慨の様子だった。

 

「言ってなかったけど、人里で暴れるのはご法度よ。いくら友人の旦那でも許すのには限度があるわ。」

 

 かなり、怒っている。

 

 余程、人里で暴れたことが許せない様子だった。

 

 こんな八雲紫を見たのは初めてだった。

 

 しかし、大和も黙っては居られない。

 

 何せ、人里を壊したのは自分ではないからだ。

 

「人里滅茶苦茶にしたのは俺じゃねぇよ。全部極夜ってやつが剣圧で吹き飛ばしたんだ。」

 

「刀を奪われたから起こったことよ。貴方にも非があるの。」

 

「そもそも、くれた刀にあんな能力があるなんて知らなかったんだよ。何でそれを伝えなかった?」

 

「確かにそうね。私にも非があったわ。」

 

「取り敢えず、このことに関しては俺の管理が悪かったから謝るし、何なりと罰も受ける。

 それはそれとして、早く屋敷に帰って腕をくっつけてけれよ。」

 

「わかったわ。早く中に入りなさい。」

 

 そういうと、八雲紫は二人の横にスキマを開いた。

 

 八雲紫の怒りはまだ収まっていないが、取り敢えず自分にも非があることも理解してくれた

 

 それに和解しようとする姿勢は見せたので、これからの関係に亀裂が入ることは無いだろう。

 

「掴まって大和。」

 

 幽々子が大和を背に乗せておんぶしようとする。

 

 この状態では動けないのだ。これは言葉に甘えて足になってもらおう。

 

 大和は幽々子の背に乗る。

 

 意外と幽々子は力持ちで、体重85キロある大和を軽々をおぶった。

 

 そして、スキマの中に入っていく。

 

 二人がスキマの中に消える。

 

「妖毒の極夜……やっぱり要チェックしないといけないようね。」

 

 極夜は幻想郷の中でも八雲紫の中でもかなりの問題の種であった。

 

 極夜は妖怪の中でも最上級に入るほどの妖気と強さがあった。

 

 だから、人間や妖怪をいくら殺しても、好き放題していても見て見ぬ振りをして目を瞑っていた。

 

 しかし、今回はあまりもやり過ぎである。

 

 こちらの我慢にも限度というものがある。

 

 次に同じようなことをすれば、どんな手を使ってでも裁きを下す。最悪の場合は退治する。

 

 博麗の巫女の動員も止む得ない。

 

 これからはもっと厳しく極夜を見張るとしよう。




 ご朗読ありがとうございます。
 勝手ですが、病気と体調の不良によってまた連載を中止させて頂きます。次に投稿できる時は決まってません。
 もはや、執筆どころの話ではないからです。
 病気と体調が治り次第、投稿します。
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